彼方より 045

ガラス容器のための素材集めと噂話

 回復薬を作って怒られた後、瓶を大量に購入してきてもらったのでその分で高位の回復薬を作った。
 慣れてきたら複製できるようになって、百本あった瓶はあっという間に埋まってしまった。
 材料は創造魔法で複製していっているので取りに行かなくてもいくらでも制作可能になったんだ。
 材料の複製もできるから、俺の創造魔法は結構ヤバイ。
 一個だけ素材があれば無限に複製できてそれで色々作れてしまうからだ。
 けれど、レギオン曰く。
「合って困るものはない、保存できるだけしておけばもしもの時に役に立つ」
 というわけでもしもがない方がいいんだけど、俺は今鉱山に潜っている。
「迷宮じゃないのに鉱山ってこうも入り組んでいるわけ……?」
 鉱山には石灰石を掘りに来ている。
 俺が拘ったせいなんだけど、回復薬の色が綺麗だからガラスに入れた方がいいんじゃないかって思ったのが原因。今まで陶器のものに入れていたんだけどね。
 で、いざ発注しようとしたら石灰石が今ないってことで依頼が発生って流れ。
 本当は俺の創造魔法でも作れるんだろうけど、肝心のイメージが俺が下手でいい感じのものが作れないから最初は職人にお願いしてレシピは上げることになっている。
 それで百本作ってくれるって言うんで、それで依頼料は相殺ってわけ。
 百個作って貰えれば、そのまま俺が収納で創造魔法を使いそのまま百個を複製していけば、もうガラス容器に悩まなくて済むっていう算段だよ。
 今までガラス容器に入れるっていう発想がなかったみたいで全部陶器に入っててどれがどれだか分からなくなることも多かったとか。書いてある文字が消えたりするしね。
 そこでガラスだと見事に効能的に色が違うので見た目でそれが何の水薬なのかが分かるって言う単純な話だったんだけど、革命的だと言われてちょっと戸惑ったなあ。
 ガラスだと割れるじゃんって思うでしょ?
 でも作る段階で割れ防止の魔法を掛けるんだって、そうしたらちょっとしたことでは割れないものができあがる。家のガラスとかも全部そうやって作られていて、簡単には割れないようになっているんだってさ。
 なのでコップとかみたいに高いところから落としてもそうそう割れないものが多いので、ガラスは芸術品に使われることが多くて、水薬の入れ物なんて簡易なものは誰も想像しなかったって言うんだよね……不思議だよね。
 そういうわけで石灰石を取りに来て、やっとそれが掘れるところまでやってきた。
 そこまでの間に魔物が湧いてて危ないのでイヴァンとアッザームにレギオンも今回は付いてきた。
 こんなところに白金級の組織が勢揃いでいること自体が異例のことらしいんだけど、そのお陰で掘るためについて来てくれた鍛冶屋の矮人族のおじさん、ヤード・テラホシさん以下十人はやっと仕事に入ることができて喜んでいた。
「よーしガンガン掘れ! この兄ちゃんが全部運んでくれるぞ!」
「おお! 稼ぎ時だ!!」
 今回の依頼で俺の収納も活躍する予定。
 石灰石を全部収納に入れて運んでもいいよっていったら、俺の事を積載量全然関係ない底なしの収納を持っていると知っていたから、ついでに他の鉱石も掘らせろってなわけで緊急依頼発生です。
 更に俺には炎炎組織の金級の二人と銀級の一人が付いてくるとも知っていたから、わざわざ普段潜らない深いところにある鉱石まで強請られてしまったんだよね。
 断ったら鍛冶屋たちが全員俺の依頼を受けないって言うんだから酷いよね。
「はいはい、どんどん入れてくよ~」
 俺は収納に鉱石を詰め込みながら、石と鉱石を綺麗に解体していく。
 もちろんこの能力は魔物を解体する能力の応用。石と鉱石でもやってみたらできたのでやってる。そして要らない石は捨ててしまう。自動鉱石発見器みたいなことになっているけど、矮人族の鍛冶屋の人たちは俺の能力を面白がってくれて秘密にしてくれると言うので使っている。
 さすがに他の人にバレたらとんでもないかもしれないけど、矮人族ってのは約束をとにかく守る人達で口は硬いんだって。なのでどうせならと変わったことができますってアピールしておいた。
 そうしたらまた鉱石を採る時に雇ってくれるかもしれないしね。
 鍛冶の職人は自分で鉱石を掘る人が多くて、冒険者はよく護衛に雇われるらしいんだよね。
 これなら俺と皆が一緒でもおかしくないから組織として雇ってくれるからね。
「しかし、白金組織がこんな依頼でいいもんかね?」
 ヤードさんがそう言うんだけど、それにレギオンが言う。
「いやなら受けてないから構わない。むしろ深いところにいる魔物を間引きできるから鉱山に潜る者たちにもよい結果になるだろう?」
 そうレギオンが言う。
 浅いところでも最近は深いところにいる魔物が出てきちゃって大変だってヤードさんが言っていた。
「そりゃな、パパッと倒してくれるやつがいねえかなとは思ってきたが、金級くらいでいいと思ってたんだよ。でも組織で白金級を安い値段で雇ったらギルドに怒られる」
「気にするな、俺たちはいつも怒られてるから大丈夫だ」
 イヴァンがそう言って俺はふっと遠い目をした。
 するとヤードさんたちは察してくれた。
「だよな。こんな能力をひけらかしもせず隠しているやつらが普通のわけない」
「寧ろ冒険者組合のブラン組長が可哀想な感じだな」
「でも白金級の組織って大概迷宮ばっかに潜っててそもそも普通に依頼しねえしな」
「そうだよな。この間、白金級の組織が戻ってきただろ、なんだっけ?」
「終焉の業火だよ。あいつらさっそく迷宮に潜る準備してんじゃん。うちにさっそく武器の購入にきたよ」
 そう言われて俺はイヴァンを見た。
 イヴァンは平然としていたけど、レギオンがちょっと驚いた顔をしていた。
 帰ってきていることは知らなかったらしい。
「この間、迷宮で薬草を採ってるときに会ったよ」
 俺がそうニコリと笑ってレギオンに言うと、レギオンは俺を見てそれからイヴァンを見た。
 イヴァンは頷いてから後でと言っている。
「なんでえ、兄ちゃんたちも会ったのかい。どうだった、俺はあのカルロってやつは大したもんだとは思ったが、矮人族のマッテオも強くて有名で、俺らとしては同じ矮人族としてちょっと鼻が高くなるけどな」
 矮人族の冒険者っていうのは結構珍しいんだって。
 矮人族は大体が錬金術か鍛冶職に就くのが当然の流れで、よくて力のない人は宿屋兼居酒屋を開くんだって。わざわざ不利な体を使って冒険者になるのは結構な力の持ち主か、大きな加護が付いているかのどちらかなんだってさ。
「カルロさんもマッテオさんも親切だったよ。勧誘されたけどお断りした」
 俺が笑ってそう言うと、ヤードさんたちは驚いていたけど、まあそうなるなと納得した。
「兄ちゃんは迷宮の魅力に取り憑かれたりしてないってことか」
「そう、素材のためには潜るけど、深いところを攻略してやろうとか踏破を目指すとかはしないよ」
 俺がそう言うとこればかりは皆が納得した。
「こればっかりはな。取り憑かれた者でないと続かないもんだよな。迷宮だなんて」
「そうそう、平和が一番。自分から危険に飛び込むことはないもんな。俺でも迷宮に潜ろうなんて思わねえもんな」
 そう言っているけど俺は突っ込む。
「珍しい鉱石が出るって言ったら潜りそうだけど」
「はははは、それはちょっと興味が湧くねえ」
「ほんとにな、そうなったら後ろを付いていって採らせてもらうけどよ」
「がははは」
 鉱石に目が無い鍛冶屋なのでそこには興味があるらしい。
 でも迷宮では配置されている地形から鉱石が出たことは一度もないんだとか。そもそも鉱石も宝石とかも全部宝箱に入っているもんだからね。
「そんなの見つかったらヤードがとっくに聞きつけて潜ってるよ」
「そうそう、無茶するのはいつもヤードだしな」
「うるせぇ」
 盛り上がりながら鉱石を掘る作業は続く。
 それから昼食を皆でした。
「そういや最近、裏の孤児院が綺麗になって潤っているらしいな」
「ああ、俺もそれは見た」
 鍛冶屋たちがその噂をし始めて俺はギクリとする。
「なんでも修道女たちが続けざまに力に目覚めたらしいんだ。それで浄化の魔法を覚えたとかで」
「じゃあ中央の教会どもが黙ってねえだろうが」
「黙ってなかったらしいよ、でもあの孤児院のある教会でねえと力がでねえんだと」
「その二人は直ぐさま孤児院のある教会に戻ってここを離れたくないし、女神から貰ったこの力はここで使うために預かっているんだって言ってさ」
「それで中央の奴らも諦めるしかねえってわけよ。実際に回復はそこの教会でないと使えないことは証明されちまったしな」
「そうそう、それにその修道女達は格安で回復の魔法もかけてくれるっていうんで、金のないやつらがやっと回復を受けられるようになったらしい」
「それがまた、よく聞いて治るってんで中央のやつらが面白くないらしいってよ」
「また嫌がらせしそうだな。あそこはただでさえ寄付金を回して貰えないってところなのに」
 矮人族の鍛冶屋にすら噂にされるくらいに中央の教会ってのは腐っているらしい。
 せっかく修道女達は頑張っているのにな。
 俺が与える形になった力も自分たちのためじゃなく人のために使っててとても凄い人達なのに、教会のつまらない見栄のために嫌がらせを受けるのか……理不尽過ぎるな。
 どうにかしたいけど、関わるなって言われたからな。
「そんなに中央の教会は駄目なんですか? 俺、教会に行ったことなくて」
 俺がそう問い掛けると、ヤードが言った。
「いかないでいいぞ。あんなとこ。あいつら能力者をすぐに教会の利益のために囲いやがるからな」
 そう言われて俺は尋ねる。
「でもそんなことをしたら、領主に何か言われないんですか?」
「それがそうもいかねえんだよな。教会ってのは元々シリンガ帝国の前身だったスヴェント帝国の教義だった聖女伝説が元で、そこから聖女を祀ってるんだけど、時代に応じて国に応じて他の旧神や旧支配者も祀り始めた。そんなもんだから、教義自体があやふやなんだよ。でもそのあやふやさで力を付けてきたもんだから、今でもシリンガ帝国の教会とも繋がっていて、迫害したり諫めたりすると人権侵害だとか言い出して面倒なんだよ」
「まあ、それもシリンガ帝国がこの大陸の覇者になるために利用しているだけなんだけどさ。だから国としては教会に権力を渡したくないんだけど、邪険にできないって感じでさ」
「そうそう、でかい顔してるって感じだけど、その下で働く修道女はいい人が多くてな」
「上にいくほど胡散臭いって感じだ」
 そう一気に言われて俺はやっとシリンガ帝国と聖女がここまで深い繋がりがあることを知った。
 しかも宗教というのは自由が与えられているから、国としても迫害がしにくいのかもしれない。
 王政府だと王に権力を集めすぎるせいで、人々が王だけを敬愛して宗教のように信仰していくのはちょっと無理だ。
 そこで教会を使い、権力を与えることで神を使った崇拝するものの存在を国民に植え付ける。
 この世界における教会で中央聖教会と呼ばれるのは聖女を崇拝している教会。他にも旧神のアト・ヨゥナーを信仰する教会とに分かれている。
 旧神の教会は本体はラーナヤンク皇国と呼ばれるところから伝わった教会でもう八千年以上続いている。それに匹敵するのが聖女を信仰する聖教会なんだとか。
 教会が二つも三つもあるのは知らなかったけど、どうやら金儲けをしている方が孤児院を経営しており、おいそれと解体されないように国に食い込んでいる厄介な存在らしい。
 気付いた時には人々の生活に入り込んでいる小骨になっちゃったんだな。
 俺はその辺はちょっと詳しくなかったし、俺が正にそいつらの望む聖女である以上、どうにかしなきゃな問題でもあるんだよね。
 できればこの国から解体されていなくなってほしい教会だけど、シリンガ帝国が裏にいるとなるとそうもできないんだろうな。
 ああ、本当にやだねえ。


 それからまた鉱石を掘る作業に戻り、散々掘って四日間も拘束されてしまった。
「兄ちゃん、本当にその収納、収納されてるのか? 何処か亜空間に捨ててないか?」
 あんまりに俺の収納が鉱石を沢山収納できるせいで、そんな疑いをヤードさんたちにされたけど、俺は一応入っているものはリスト化されてるので大丈夫だと言った。
「あ、大丈夫だよ。鉱石は沢山採れたけど、俺の収納の二割くらいしか使ってないから」
 俺がそうニコリとして言ったら、びっくりされたけど。
「次は二週間くらい潜れるところに行くのもありだな」
「それは俺も参加するぞ!」
「いいな、それ半年後にやろうぜ!」
 となってしまって半年後に俺はまた行動に潜って荷物運びをしなきゃいけないみたい。
「絶対だぞ、予約したからな!」
 ヤードさんに念を押されてしまい、受けるしかなくてレギオンとイヴァンは呆れ顔。
 アッザームはちょっと面白かったのか、また行くかもしれないと聞いて興味津々だった。
 まあ砂漠と街を行き来しかしなかったアッザームには坑道は珍しかったし、魔物も多くて面白かったのかもね。
 街に戻ってから順番に坑道から採れた鉱石を平等に渡してやったらかなりあったらしく、本当に半年くらいは鉱石を堀りにいかなくてもよいくらいいいものが揃ったらしい。
 それに俺が解体を使って分けたせいか。
「いやに綺麗な宝石になってやがるぜ」
 って言われてしまった。
「この世界の鉱石には魔力が入っていて、それを取り除かないと綺麗な輝きにはならないんだ」
 そう言われたけど、俺が解体したやつはどうやら魔力を抜いた状態になっていたようで、そのままで高く売れるって。
 そして報酬としてその宝石を結構貰ってしまった。
「売れば金になるから、兄ちゃんなら収納に放り込んでおけば必要な時に換金できるだろう」
 って言われちゃった。
 もちろん俺以外の三人もちゃんと特別報酬で貰ってしまった。
 今回はガラスを作るための石灰岩彫りだったのに全員で白金貨が十枚くらいありそうな収入になってしまった。
「貰いすぎだよね?」
「まあ、貰いすぎだが、まあいいじゃないか?」
 レギオンはニヤニヤしながらそう言っている。そりゃ活動資金が増えたから嬉しいんだろうね。
 イヴァンとアッザームはあまり宝石にもお金にも興味がないのかあっさりしていたのが面白かった。


感想



選択式


メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで