彼方より 044

冒険者たちと創造魔法で作る回復薬

 イヴァンがジャイアントベアーを倒してしまうと、その場にいた剣士と盾、そして魔法使いの三人はやっと気が抜けたのかホッとしたようにその場に座り込んでしまった。
「おい、座るな。まだ森の中だ。危険はまだあちらこちらにある」
 イヴァンがそう言うと冒険者達はハッとして疲れた体を起こして立ち上がった。
「すみません、誰か知りませんが……助かりました」
「ありがとうございます」
 そう言われてもイヴァンは嬉しそうでもない。
 その代わり、イヴァンは別のことを聞いた。
「回復を持っていないのか?」
 そう厳しめな声でイヴァンが聞くと全員が頷いてしまった。
「途中で使い果たしてしまって……」
「なら、どうしてそこで引き返さなかった? 回復も持たずに奥へ行くなど自殺行為だぞ」
 イヴァンの言うことはもっともなことで、俺はそうだよなそれは無茶だろと思った。
 でも彼らは身に染みて分かったのか、うつむいてて元気がない。
 そりゃさっきまで死闘をしていたわけで、命辛々助かったところだしね。
「イヴァン、彼らも分かってると思うよ。いいから早く戻ろう。君たちも一緒に森を出よう。それでいいね」
 俺がそう提案をすると三人の冒険者は頷いた。
「回復がないんだよね? じゃ、これは貸しにしておくから飲んでくれる?」
 俺がそう言って回復薬を取り出して渡そうとしたらさすがに三人は戸惑ってしまったようだ。
「いや、それは……」
 まあ普通に断ってくるよね。
「でも体力はないんだよね? 帰り道大丈夫?」
 俺がそう言うと三人は顔を見合わせて渋々だったが回復薬を受け取った。
「すみません、頂きます。必ず後で返します」
 そう言われたけど、俺はうんうんと頷いておいた。
 さすがに反省しているんだろうな、悪い子たちじゃないんだよね。
 ただちょっと若さがありすぎて力を過信しただけだろう。
 イヴァンが倒したジャイアントベアーはそのままイヴァンが収納に仕舞ってしまう。
 三人は一気に回復薬を飲んでくれて、体力は戻ったようだった。
「さあ、戻ろう」
 俺のかけ声で側から全員が歩き始めた。
 そして三人を連れて二時間ほど歩いて街の近くまで戻った。
 ホッとして街の門を潜って一緒に冒険者組合まで戻った。
 三人はそこで俺たちに更に謝罪をした。
「本当に助かりました」
「ありがとうございました!」
 三人がそう頭を下げてきたのでイヴァンが言った。
「次からは気を付けること。それと……」
 イヴァンは収納からジャイアントベアーを取り出してその場に置いた。
 もちろん街中なので周りがびっくりしているけど、お構いなしだ。
「これはお前達に渡す」
 イヴァンがそう告げるんだけどそりゃもちろん素直に受け取るはずもなかった。
「駄目です、それは貴方たちの獲物です」
「いや、そうでもない。俺がやったのは止めだけだ。ほとんどお前達の力で倒せる寸前だった。ただ止めを刺すのにはもう一人剣士が必要だっただけだ」
 イヴァンはそう言うんだけど、それでも受け取れないと言う三人に無理矢理押しつけていた。
 その取り出したジャイアントベアーを結局三人が受け取ることになったのはジャイアントベアーの依頼を受けていることが分かったからだ。
「依頼失敗の違約金はでかいぞ」
 そう言われてしまったら彼らは言い返せなかったのだ。
 普通に違約金は依頼によって違うけれど、報酬金額の倍が違約金になっている。
 ジャイアントベアーの依頼だと金貨三枚が報酬なので金貨六枚が違約金になる。
 これはさすがに辛いな。
 同情するわけじゃないけど、助けた手前、どうにかしてやりたいよな。
 そう思っていたんだけど、結局イヴァンが三人を説得というか脅して受け取らせて、そのまま冒険者組合に報告した。そのまま荷が組合員たちに運ばれていった。
 そうして手続きも終わったところで俺たちの方も手続きをして貰った。
 ちょうどロックバード二体の依頼があったのでその場で受けて提出。即達成させたらさすがにあの三人も驚いていたけど、そういうことかとやっと納得ができたらしい。
 俺たちは他に倒した魔物があるので譲っても困らないわけだ。
 そのまま裏にある解体所に解体しないままのものを出しておいた。
 これで依頼達成なので金貨十枚である。
 調味料とか野菜を買うだけなら四人でこれでも一ヶ月は余裕で暮らせる。
 まあ、炎炎組織は家賃も要らないし、維持費がそこまで掛からないし、肉は自前で賄えるし、野菜も食べる分は迷宮の浅いところで採れるのもあるからな。
 寄付するようになってから迷宮に潜るようになったのでその辺は揃っている。
 なので調味料とかがあれば足りるんだよね。
「おいこら、お前ら。リザードンの皮があるなら出していけ」
 急にブラン組長がやってきて俺たちに絡んでくる。
 それをイヴァンとアッザームが立ちはだかってくれて庇ってくれるけど、周りからまたやってるみたいに笑われている。
「ありますけど、一枚ですか?」
 俺がそう聞き返すと、ブラン組長が笑って言った。
「全部出せ。買い取る」
 そう言われたので十枚出した。
 本当はあと十枚も残っているんだけど、それはちょっと加工してアッザームの籠手にするので上げられないけどね。
「はは、やっぱり持ってやがった」
「なんです、その悪い事してるみたいな言い方は……」
 酷いなと俺が言うとブラン組長が言った。
「お前らが角兎の毛皮を直接卸して売っているのを見逃してやってんだ、いいじゃねえか」
「よく言うよ、持って来たら買い取ってくれないくせに」
 俺がそう文句を言うとブラン組長は笑いながら俺たちから受け取ったリザードンの皮の依頼を達成にしてくれて依頼達成書を渡してくれた。
「いやー助かった。急に領主がいるっていうもんでな。急いで誰かに依頼しなきゃと思ってたんだが、依頼出す前に解決してるから助かる」
 そう言いながら二階へと上がって行っている。
 もういいやと俺たちはその依頼達成書を提出してその代金も受け取った。
「臨時報酬だね」
「だな、肉も手に入ったし、調味料だけ仕入れて帰るか」
 イヴァンがそう言うので三人で冒険者組合を出た。
 既に日が落ちかけていて薄暗くなっているけど、まだまだ市場は開いている。
 ちょうど十五の刻くらいだから、完全に日が暮れる二十一の刻までは二時間ほどある。
 冒険者達がどんどん森や迷宮から戻ってきて、冒険者組合もこれから二十二の刻まで賑わうだろう。
 その中を俺たちは笑い合って買い物をしていく。
「久々にその串肉を買うか」
「ああ、カザの街の串肉の支店かこれ?」
 アッザームがそう言って懐かしいと言うと、店の主人がニコニコして言った。
「久しぶりだね、ハルくん。今日も買ってくれるかい?」
 俺はこの街に来てからよく買っているので顔なじみだ。でもアッザームは初めてここにきたみたいだった。
「もちろん、一人二本で八本で、保存で二本だから十本ください」
 俺が景気よく頼むと、主人がニコニコして焼いてくれたものにタレを染み込ませてからもう一度焼いてこんがりさせてから皿に盛ってくれた。
 俺はそれを収納に仕舞っていくと、周りを歩いていた人達が三人も串肉屋に並んでいるように見えたのか、人気があって美味しい店だと思ったようで並んできた。
「じゃ、またね」
「おお、ありがとうよ」
 簡単に挨拶して店を後にすると、十人くらい並んでいたみたいで主人は忙しそうだ。
 買い物をしてそれからゆっくりと家に帰ると、レギオンが疲れた顔をして待っていた。
「大丈夫?」
 そう俺が聞くとレギオンはふうっと息を吐いて俺に向かって手を広げた。
 俺はそのままレギオンに近付いていくと、そのまま抱き締められた。
「ああ、ハルは抱き心地がいいな……串肉の匂いがするけど……」
 そう言われて俺は笑った。
「食べる? カザの串肉の支店のやつ」
「久々にそれでいいな。炒飯の練習をしていたから炒飯が余ってる」
「いいよ、それで」
 そう言うわけで男所帯なので簡単なものを夕飯にした。
 がっつりと肉と炒飯でもりもりと食べる。誰も文句を言わないのは、本当の男所帯は本当に悲惨でまず家で食事をすることはないからだ。
 外食は当たり前、美味いモノは食えるけれど、お金は掛かってお金がない時は保存食を食べるしかない。その保存食がまた誰が作ったのか知らないが、草を固めただけのように不味くて仕方ないのだ。
 その不味さからすれば串肉は天国のように美味しいし、炒飯は神がかっていると言えるらしい。
「美味しいね……」
「ほんとにこの肉のタレの旨さはヤバいな」
 やっぱりカザの街の串肉屋は支店でも美味いんだよね。
 俺にとってはこの世界の最高の肉料理がこれだったりする。
「これ時々食べないとね」
 俺はそれを食べて満足した。


 次の日は昨日採ってきた素材を使って、まずは回復薬を作ってみる。
 作り方は書斎を見て回った時に見つけた冒険者の手引きの中に錬金術の項目であった。
 それを見ながらレシピ通りに作ってみた。
「これって料理に似てるけど、失敗しないよね?」
 創造魔法で作るにも材料は必要にはなるので創造魔法は錬金術の上位相互版なんだろうけど、ただ混ぜるだけで食事があんまり美味しくならない自分でも大丈夫かと不安になる。
 そうして収納の中で混ぜ合わせるイメージで作って見たけどそれによって収納から取り出された液体を瓶に入れて鑑定をしてみる。

【名前】回復水薬
【水準】特別最高位
【効能】回復水薬の中でも最高の効能を持つ。怪我は一瞬で治り、切断された腕や足でも元通りになる。
 
「ふう、何か間違えたな」
 俺は何とか平静を装うために息を吐いてそれを収納に仕舞った。
 見なかったことにしよう。そうしよう。
 秘薬よりヤバイものができたのを俺は見てないことにした。
 
 よし気を取り直して、もうちょっと緩い感じで、こうこ~うかな。
 それからすぐに回復薬ができた。

【名前】回復水薬
【水準】最高位
【効能】回復水薬の中でも最高位の効能を持つ。怪我はすぐに治り、塞がる。切断された部位は元には戻らないが、くっつけることはできる。


 また気合いを入れすぎたか……ふう。
 俺はそれも仕舞い込んだ。
 もっと落ち着いて、かるーくかるーく。
 次もすぐできた。


【名前】回復水薬
【水準】高位
【効能】回復水薬の中でも高位の効能を持つ。怪我はゆっくりと治り、切断された腕や足などはくっ付かない。


「よし、これなら外に出せるなあ」
 やっと鑑定されても驚かれないものができた。
 性能も悪くないから、いけるだろうな。
 これを複製して……、えっと収納の瓶に入れて取り出す。
「よし、複製もできた」
 これを十本……あ、瓶がないから、あと六本で八本できた。
「おお、いいなこれ。あとは……アッザームの籠手を作ってっと」
 アッザームがこれがいいと言っていたのは防具デザインの本でみた昔のもの。ちょっと日本の籠手に似ているやつ。それを今風にして取り付けやすくする。
「おおできた。綺麗だなこれ、似合いそう」
 銀色に光る籠手に黒の装飾をしてやると渋くなるな。
 うん、いいね。
 俺はそれを制作したあと、休憩がてらに菓子でも食べようと思ってお茶を入れに降りて行くと、食堂にはジャガイモの皮を剥いているレギオンがいた。
「あ、レギオン、これみて」
 俺はそう言ってできた回復薬を見せた。
「ああ、回復薬を作れたのか」
 レギオンはそう言って鑑定を使って見ている。
「うん、普通に使っても問題がなさそうだな」
「よかった。作れるから入れ物買ってきて一杯作っておくね」
 俺はホッとしてそう言うとレギオンがニコリと笑って言ったんだ。
「それでハル、残りの二個はどうした? 瓶は十本渡したよな?」
 レギオンから入れ物を貰ったのでそれで作ったんだよね。十本貰って八本見せたら残り二本は何処だってなるよね。
「え、失敗した」
「いいから出しなさい」
 失敗したって言うのに信じて貰えなくて俺は仕方なくその二本を出すしかなかった。
 もちろん、めちゃ怒られた。
 手足が生えてくるとか。くっ付くとか書いてあったらさすがに怒られるか。
「ちょっと考えて作ろうな? ハル?」
「気合い入れたらこうなっただけで……俺は悪くないよ?」
 とっても理不尽だ。
「言い訳はいいから、これは絶対に収納から出すんじゃないぞ?」
 そう言われてしまい、俺は何度も頷いた。
 出せるわけないじゃん。
 秘薬みたいに材料が揃ったけど作るのは他の人がやるのとは訳が違うんだから~。
 そう言っていると俺の中でナビゲーションが告げたのだ。

『創造魔法で水薬を作る条件を達しました。新たに秘薬を簡易制作ができるようになりました』

 待って、秘薬が簡易で作れるって何?
 そんなもの作れたら困るんですけど!!
 もしかして何か作るごとに妙なものが作れるようになるのか!?
 厄介ごとしか生まなそうだからいらねえ!!!


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