彼方より 043

森で素材集めと冒険者たち

 俺は一昨日に教会が聖女の力で解放された力をかなり強引に奪おうとしている事実を教えて貰った。
 教会に関わる気はなかったけれど、ちょっと気になって調べてみたら、案の定、初代聖女を祀ったのがシリンガ帝国の聖教会で、そこで聖女は教会に属するとされて神と同じ扱いを受けることになった。
 聖女の祈りが人々を守って救って傷を癒やしたことが要因らしいんだけど、そういえば全ての聖女には回復が必須だったみたいに必ず持っていたようだ。
 俺も祈りの中にあるみたいだけど、今は必要がないのか解放に至っていない。
 教会は初代から聖女を崇め、癒やしの女神としている。
 基本的に教会はその国の信仰している神を祀るものなんだけど、教会というのはその神を祀ったりはしない組織なんだそうだ。
 そういう旧神だの旧支配者を神として国で崇めている場所は首都にしかない。
 そして教会はそんな多神教の神も一緒に祀ってはいないが祈っていい場所として世界に普及していったものなんだそうだ。つまりお金や利権で育ってきたのが教会だ。
 孤児院などを併設して如何にも善意でやっていることなんだろうけど、国との癒着もあって今の形に落ち着いたんだろう。
 国は補助金を出し、それを受け取った教会だけが孤児院を経営ができるわけだ。
 ここだと国と領主から補助金がでているはずだけど、何処かで横領しているのか、あの孤児院には寄付金がギリギリ最低限しか届けられないので寄付もない状態でかなり苦しかっただろう。
 俺はそういう中抜きをしているのが教会側にいることは分かっているので、ちょっと教会にはいい気持ちはしない。
 なので俺が教会に行くことはないだろうな。
 一般市民でも聖水を貰うために行ったり、怪我をした時に回復をしてもらうために行く場所であって、祈るためにはいかない感じだった。
 イヴァンやレギオンとかも加護を貰っている神に祈るときに教会に行くのかと聞いてみたら。
「なんで教会なんかにわざわざいかなきゃならない。祈るならここでも十分神には届く」
 とイヴァンは言うし、レギオンに至っては鼻で笑って言った。
「寄付をお願いされるから行くわけない。あいつらは金のあるなしで信仰心を決めるような無粋な奴らだ。俺らの神がそんなものを求めているわけないだろう?」
 そう言うからまあそうだわなと俺も思った。
 とりあえずイヴァンが俺の孤児院に物理的な寄付をしているのはいいことだと認めた上で、教会には近付かない方がいいという修道女たちの判断には大いに同意した。
「いいことを言ってくれたな。あの人達がそう感じるということはそれだけ教会内が異質だったんだろう。それに修道女たちがハルを巻き込みたくないと考えたってことは、ハルのことを聖女だって分かった上で庇ってくれているんだ。好意を無駄にするなよ」
 レギオンに念を押されて言われて俺は頷いた。
 そうだよな、俺が関わっても碌な目には遭わないし、秘密にしてくれている修道女達にも悪いよな。
 なので週一で角兎をある程度狩るのは俺がやって、それをイヴァンが届けに行くのが日課になった。
 買い物も俺がしてるし、選んでいるのも俺だからまあいいかってことになった。
 なので角兎の毛皮が沢山出たのでそれを地元の洋服店に卸していく。
 買取りはもちろん安くなってしまうけれど、需要はあるのでいくらもってきてくれてもいいと言われたから毎回百枚くらい持ち込んでいたら、もの凄く感謝されたな。
「この街で売れない分は王都に持っていくので大丈夫です」
 ということらしい。
 ちなみに冒険者では引き取ってくれるけど、もっと安く買い叩かれることになるし、初心者冒険者たちの買取り金額にも影響するので俺は肉も素材も全部街で売りさばいている。
 それは冒険者組合も商業者組合ももう黙認してくれている。
 前に俺が持ち込みすぎて値崩れが起きかけてから俺と直接取引をするのは不利だと分かっているからみたい。街の洋服店は高級店だけど制作までやっている工房に卸しているから値崩れまではいってないみたいだし、毛皮は既に貴族達の目玉になっているし、ちょっと安くなっても街の人のファッションに流用されるみたい。
 俺としては売れればいいので値段は酷く安くなければいいと思っているのでほぼ同じところの三軒ほどに卸している。
 肉は孤児院に行くし、余りすぎたら街で売ればまた特売日になって街の人も潤う形になる。
 中には俺たちみたいに真似をして角兎で一獲千金を夢見た人達がいたみたいだけど、百匹の解体費用と肉や素材の倍々を秤に掛けるととんでもなく儲けが少ないことに気付いたみたい。
 俺は解体が収納に付いているし、製品の質は取立てだし、毛皮も納品する前に生活魔法で店がこうして欲しいと言っていた感想もかけているのでちょっとした手間で済むんだけど、他の人はそれを全部手作業でやらないといけないし、少しでも駄目なものは買い叩かれる。
 角兎百匹に対して儲けられるのは金貨五枚程度、手間暇掛けて五万円は一ヶ月は暮らせるお金だけど、そこまでの労力を考えたら足りないくらいなんだ。
 これなら迷宮の十階層辺りまで潜って高位の魔物を狩るか、森で魔物討伐の依頼を受けた方が月換算で金貨十枚くらいで儲かるんだよね。
 ちなみにこの辺に済んでいる冒険者の一月の儲けは金貨二十枚くらい。
 新人だと金貨五枚はいけるので、冒険者になれるならなった方がいい世界。
 けど、命懸けであるし、能力がない人はなれないから、冒険者は恵まれた人とされる。
 この世界での共通認識として、技能や称号など能力の有無がただの町人として暮らすか一獲千金を目指せるかで決まるんだよね。
 俺みたいに攻撃魔法が一切ないのだと、冒険者としては万年下位冒険者としてほそぼそとは暮らせる。
 でも俺のように色んな技能を持っていたら、魔物を狩るなど以外の仕事がちゃんと見つかる。
 それでも技能がない人は工房の下積みのままで終わったり、諦めて小さな村に引っ越して農民をしながら細々と暮らすしかないようだ。
 街に住む人達は何かしら技能か称号持ちばかりで、一人で暮らしていける人ばかりなんだ。
 つくづくグノ王国の最初の鑑定でゴミと言われたのはラッキーだったと言える。
 あの時可哀想だと言われて城で囲われていたら、俺の人生完全に詰んでたんだよね。
 追い出されたのは腹が立ったけど、今は感謝してるよ、ゴミだって笑ってくれたことにはね。
 その子たちもロドロン公国との戦闘に駆り出されているらしいから、今頃大変だろうな。追い出された方がマシじゃんってね。
 そういうわけで俺はラヅーツの森に入って、今日は外の魔物を察知しながら薬草を採る。
 薬草は俺が自分で研究するのに欲しくて集めている。
 創造魔法で回復薬とか解毒薬とかの水薬を作れることを知ったので、幾つか作ってみたくて薬草を集めている。
 今日もイヴァンとアッザームが一緒だ。
 レギオンは基本的に近場では俺とは出かけない。
 まあ、街の女性たちがレギオンを狙っていて付け狙ってくるから出かけるのが嫌なんだって。
 もちろん一人でいれば、家に押しかけられるかもしれないけど、その時は色々な手法で追い出せるからいいんだって。
 どんな方法なのかは聞かない方がいいと思って聞いてないけど……。
「しかし一杯生えているよね……この森って一日で元の形に戻るっていうのも凄いんだけど……」
 この世界の森はいくら傷を付けたり壊しても一日くらいでほぼ元に戻り、一週間もすれば木も生え変わるんだって。
 それが普通のこととして認識されているんだよね。
 なので迷宮と同じく、取り過ぎてもいつか補塡されるので大丈夫というわけ。
 俺が取り過ぎた時は値崩れするから怒られたけど、魔物がいなくなるとか薬草がなくなるからという意味で怒られたことはないんだよね。
 なので、迷宮で育つ野菜なども取り放題であるからこの世界の野菜は安いんだとか。
 もちろん農家が育てる迷宮の深い階層から持ち出した野菜とかは人が栽培しないと人の口にはなかなか入らないらしいけど。
 ちょっと深いところに入って初見の薬草をなるべく一個は綺麗に取ることにした。
 俺の創造魔法があれば深い森でしか採れない薬草でも、一個あれば複製ができるから幾つか複製して回復薬とか作ったらその回復薬そのものを複製すれば、常備で薬が製造可能になるってことなんだよね。
 イヴァンにバレた創造魔法だけど、あまり使わないで肝心な時に使えなかったら困るよなって思ってレギオンに提案したら、どうせならと薬を作るために使ってみようってことになった。
 もちろんそれは売るためじゃなくて炎炎組織内で使うつもりだ。
 そうすれば薬草採取もしなくていいし、回復薬も買わなくて良くなるからってことだからね。
 確か終焉の業火の人達も自分たちで薬師を抱えてて材料だけ集めて作っていると言っていたからそれはありなんだよね。
 そういうわけで、深いところまで潜って取ってくることくらいは俺もしたいので付いていった。
「うわ、怖いな魔物」
 大きな猪が飛び出してきて一気に襲いかかってくるけどそれをイヴァンとアッザームが一気に片付けてしまう。
 さすが冒険者としては金級と銀級の二人。この辺りの魔物なら簡単に倒せるみたいだ。
 その魔物も俺が収納して解体し、肉は食べるために取っておいて素材は俺が貰う。
 売ってもいいんだけど、過剰に売ったらやっぱり安く買い叩かれるので求められていないものは俺が創造魔法で何か作る方がいいんじゃないかってことになった。
 洋服もそうだけど絨毯でもいいかもねとなったからね。
 こっちの人は靴を履いたままで行動するいわゆる俺からすれば海外使用なんだけど、でも俺はラグに寝転がりたいという気持ちがあってそれを叶えるために今回は使用する。
「結構、奥まできたし、魔物も見たことがないの狩ってきたけど」
「この辺りだと、全然手応えがないな」
 アッザームがそう言い、イヴァンも頷いている。
 どうやら彼らには狩りやすい狩り場みたいだ。
 森の中は危険だって言われていたけど、正直言うとこの二人と一緒だと危険を感じないんだよね。
 一人だったらとっくにパニックになってるけどな。
「どれか依頼が残っていたら達成に使ってもいいな」
 段々と強い魔物が出てきて、猪どころか大きな熊だったり、大きな鳥だったりするんだけど、ぱっと鑑定した限りではロックバードとかジャイアントベアーとか書かれていてちょっとびっくりする。
 俺はこの世界の魔物辞典を読んだお陰か鑑定能力もそれに合わせて上がったようで、初見のはずの魔物でも鑑定ができるようになっていた。
 一個も俺は倒せてないけど、一個だけ留めを刺すだけでいいと言われて達成したのがロックバードだったりする。
 そのお陰で俺の何かのレベルが上がってんのよね。
 俺には戦闘系の技能もないし、上がる魔法もないんだけどね。
 ほいほい簡単に魔物を倒されたら、どれだけ強い魔物なのか俺には理解ができないんだよね。
「よし、帰るか」
「そうだな。この辺りで戻らないと日が暮れる。野営の約束ではないから戻るぞ」
 イヴァンがそう言うので俺たちは元来た道を戻った。
 ある程度戻ったところで誰かがジャイアントベアーと戦っているところに遭遇した。
「あ、冒険者だ」
 俺はそう思って見ていたんだけど、イヴァンとアッザームが何かヒソヒソと話している。
「これは駄目そうだな」
「ああ、魔法使いがダメージを食らっている。回復を持っていないのか」
「持ってなさそうだな。盾役もそろそろ体力が削れてきたな」
「さて、どうするかな?」
 イヴァンとアッザームがそう言い合っているので俺は思わず言っていた。
「た、助けてあげないの?」
 俺がそう言うとイヴァンとアッザームが顔を見合わせて笑った。
「え、何?」
「いやな、こういうのはルール違反なんだ」
「違反?」
「そう、相手が助けを求めてこない限り、その間に入ることは獲物を横取りしたなんて言われかねない。だからあっちがこっちに気付いて助けを求めてくるか……」
「全員が戦意喪失するまで俺たちが手を出すことはできないんだ」
 そう言われてしまい、俺はそういうのがあるのかと驚いた。
 そうしていると俺たちがいるのに気付いたのか、魔法使いの女性が叫んでいた。
「お願い、助けて!」
 そう叫ばれてしまったのでイヴァンがすぐに飛び出して行った。
 アッザームは俺の側を離れないようにして、イヴァンから離れたところに立ったままだ。
 そしてあっという間にイヴァンはジャイアントベアーを斬って倒してしまったのだった。



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