彼方より
041
聖女のことと旧神と旧支配者のこと
「今日も聖女のことを調べてるのか?」
イヴァンにそう言われて俺は頷いた。
「ほら、俺の情報ってさ、最初に貰った状態に戻るために解放されてるだけでしょ? その他の能力については解放される条件とかあるのかなと思ってさ」
「え、まだ欲しい能力があるのか?」
「え、違う違う、とりあえずは俺の元の能力が戻れば解呪はできるっぽいことまでは分かったんだけどさ、聖女の能力の一覧を見ていてちょっと差があるんじゃないかって思えてきたんだよね」
俺はそう言って、聖女の能力一覧をイヴァンに見せた。
聖女の能力一覧
7300年前 グノ王国 初代聖女 祈り(回復 結界 浄化) 光魔法
5600年前 ロドロン公国 二代目聖女 祈り(回復 防御) 光魔法 結界魔法
3200年前 セフネイア王国 三代目聖女 祈り(回復 浄化)
2200年前 セフネイア王国 四代目聖女 祈り(回復 浄化)結界魔法
1500年前 ロドロン公国 五代目聖女 結界魔法 光魔法
600年前 グノ王国 六代目聖女 祈り(回復 防御)光魔法
320年前 セフネイア王国 七代目聖女 祈り(回復 結界 浄化)光魔法
こうなっている。
勇者召喚時において聖女の称号を持つ者は全体の召喚から半分くらい。
そのうち、三回がセフネイア王国だ。
他はロドロン公国が二回、グノ王国が二回。
なのでグノ王国としては三回目の聖女が俺だったわけだ。
それで俺の情報はと。
技能 鑑定 収納(∞) 生活魔法(火 水 風 土 闇 光)
技能 言語理解 隠匿 祈り(浄化)創造魔法
技能まだ 祈り(回復 解呪 結界 防御 再生)
技能まだ 闇魔法 光魔法 転移魔法 危険察知 魔力感知
めっちゃ多くないかっていう話。
まあ聖女としての能力に限定すれば。
技能 祈り(浄化)
技能まだ 祈り(回復 解呪 結界 防御 再生)
技能まだ 闇魔法 光魔法
こんな感じになるね。
俺、聖女としては祈りの浄化しかないけどな!
これでもきっとゴミっていわれたかもな!
「しかし、本当にハルの技能には攻撃系の魔法が見事にないよな」
イヴァンがそう言うので俺もそれは残念だと言った。
「だよね、少しくらい己の身を守れる魔法とか技術が欲しかったよ……」
お陰で俺は誰かにいて貰わないと、めちゃ狙い易いカモがネギしょってきた美味しいものにしか見えないんだよね。
聖女が使える光魔法とか闇魔法なども攻撃系のものはあんまりないらしいのだ。
光魔法はほぼ何かの遺跡だったり、迷宮とかで役に経つものであり、光で魔物が倒せるかといったら目潰しくらいしかないらしい。
そして闇魔法なのだけど、これに関しては。
「持ってるヤツがそもそもいなくて、どういう魔法が使えるのか記述なんかがないんだよな」
調べていたら闇魔法の項目だけ空白が多く、所持者がほぼいなかったのでどういう力が使えるのかが分からないとされているんだよね。
「闇と言えばこの世界の闇の神であるアト・ヨゥナーがいるんだが、全ての闇の根源であり、原初の神なんだが、それと関連があるのかどうかも分かってないからな」
イヴァンがそう言う。
この世界には沢山の神様がいる。
多神教の世界であり、日本とかインドとかそういう感じ。
原初の神である闇の神、アト・ヨゥナーが最初にあり、そこの周りに色んな神様が生まれた。
例えば、炎の神カイエンターン・ンソーとか、光の神ルキ・エリドゥとか、イヴァンの種族である鬼人族の神様が鬼神エルクタム・ララルニゾンだったり、獣の神がベクメ・ゼスっていうように沢山の神様がいる。
その神様は一括りで旧神と呼ばれる。
なんで旧神と言われるかというと、その後に支配者という人達、神に似た力を持ち、神たちを世界の端に追いやったとされる支配者たちがいる。
この支配者たちにも沢山の王がいるんだよね。神じゃなくてあくまで王様。
でも一番偉い人は魔導師イー・ヤクプという人でまとめ役。
で、この王様にも獣の王ユヴィラ・マリーってのがいたりする。
鬼神の支配者はいないらしい。
いろいろと被ってる神様と王様がいて、それらは戦っているんだ。
旧神はそのまま世界を混乱させて、支配者と戦っていたんだけど、やがて世界に平穏が訪れるわけ。
最後までいた闇の王であるイヴァンダイク・スヴェントがこの世界を去ってしまったのがこの世界でいうところの一万年前のこと。
もちろん見た人はいないけれど。
この世界の歪みは旧神と旧支配者の戦いが異世界でまだ続いていて時々こっちの世界にも被害が及んでいるから生まれる歪みとされている。そこから魔物が生まれたりしてこの世界に魔物が湧くんだっていう考えなんだよね。
迷宮は今でもこの世界で眠っている旧神だったり旧支配者が封印されているかもしれないと考えている国もあって迷宮は国で管理されているのはそういう意味もあるらしい。
昨今では迷宮は観光地みたいなもので、踏破してしまってなくなったら困るので踏破はしないらしいけど(踏破寸前まではとりあえずやって、最後の階層のボス、迷宮の核を守るボスは倒さないという方針らしい)。
それで神って普通は光とともにあると考えるのが俺の世界では普通のことなんだけど、こっちの世界は神は闇から生まれるものであり、人も魔物も闇から生まれ闇に帰るとされているんだよね。
だから光魔法で魔王を倒すとかはない世界。
あ、ちなみに魔族はいるよ。シリンガ帝国の帝王から住人達は魔族と呼ばれる人達なんだよね。
更に言うと魔物と魔族はまったく別物。魔族は意志があるけれど、魔物は歪みから生まれるものであってこの世界の生物ではないんだって。
勇者が召喚されても魔族を倒すとかもない。魔王自体がいないとされていることや、その代わりに魔王と名乗っているのがシリンガ帝国の帝王だったりするけど、シリンガ帝国と戦えるほどの資産と機動力を持っているのは、ロドロン公国くらいと言われているからね。
そのロドロン公国はシリンガ帝国と戦ってはいたけど、段々負け込んできてグノ王国を乗っ取ろうとしてきたのでグノ王国は勇者召喚をしてロドロン公国と戦ってくれと言ったらしいんだよね。
あっぶないよね。俺、あそこに残ってたら知らない世界でロドロン公国と戦わされていたんだよね。
恨みもなんもない人達と戦うとかあり得ないんだけど。
俺がグノ王国を出てから既に二ヶ月が過ぎているんだけど、こっちの世界にきて七ヶ月が過ぎた。
グノ王国とロドロン公国の戦いはかなり派手にやり合っているらしい。
噂だとグノ王国のオスロの森があるオスロ半島にロドロン公国の上陸を許したらしいし、そのロドロン公国はシリンガ帝国に首都をルロアルへ挙兵があって追い詰められて国は混乱を極めている。
この国、セフネイア王国も挙兵をしてグノ王国への320年目の再戦をするからと冒険者から傭兵が集められている。もちろんそれに参加する人もいるらしいけど、ほとんどの冒険者は戦争は兵士や騎士がやるものだと思っているので参加はしないで街の平和を守ってる。
イヴァンやレギオンにもそういう話が回ってきたらしいけど、二人はこの街が戦場になったらこの国を出ればいいと思っているようだから戦争には絶対に参加しないらしいけどね。
今回の勇者召喚において、俺の聖女の役割ははっきり言って意味がないんだろうな。
創造魔法くらいが使えるかなって程度、収納で荷を運ぶとかはできそうだけど、それだけって感じ?
まあ創造魔法は使う気は全然ないんだけどね。おっそろしいものができたら怖いし、それがうっかり誰かに見つかったら俺の周りがまた危ないことだらけになるしね。
既にうっかりで珍しい薬草を増やしてしまったしな。
「あー、そういえば俺の加護が見えないような文字になっているんだけど、これってもしかしてその神様の名前を書けないとか言ってはいけないとかいうやつだったりしない?」
俺は自分の鑑定結果を見て更にそれをイヴァンに見せて言う。
もう俺の情報は説明するより見せた方が早いのでイヴァンには躊躇なく見せることにしている。
イヴァンもそこを見て首を傾げている。
「確かに文字になっていなくて伏せているのだろうが、この世界に名前を言ってはいけない旧神や支配者は存在しないんだがな」
そう言われてしまい俺も首を傾げた。
分からないことだらけなのは間違いない。
うーん、俺の加護も謎だし、聖女の能力というには俺の能力は過剰なんだよね。そのくせ攻撃魔法はないから守られながらでないと生きていけないっていう。
何してくれてるの神様?
イヴァンとレギオンとアッザームも最初はどうかと思ったが結局親切で助けてくれているから俺はとりあえずどうにかなってるけどさ。
俺はそのほかの初期設定で貰った能力くらいが戻ればどうにかなるかもしれないとは思ったけれど、光魔法も闇魔法も発動方法が分からないと来ている。
他の聖女の祈りに関しては恐らくそんな危機になれば解放される技能なんだろうから、そんな危機がきていない現状を喜ぶしかない。
「この辺も謎のままだよな」
「謎はそのままでも今はいいが、ハル、この危険察知とか魔力感知とかこの辺は解放を目指した方がいいな」
「え、それ?」
「ああ、そうすれば迷宮でも敵が迫ってくれば危険を知らせてくれる。魔力感知は誰かがハルを狙っていれば必ず魔法を使うだろうからそれも分かる」
イヴァンがそう言うのだけれど俺はふうっと息を吐いた。
「でもそれ、たぶんだけど……俺が誘拐かなんかされて本格的に困ったときしか解放されないと思うんだよね」
俺がこれまで解放された条件とその時に起こったことをイヴァンに話した。
「危険察知が危険を感じたのが条件になるならアッザームに襲撃された時に解放されてないとおかしかったはずなのに発動したのは聖女の奴隷だしね。しかもそれはまだ解放もされないし、初期値の解放時にもなかったんだよね……創造魔法の時なんか、俺、淫乱とかしか成長しないから祈ったんだよね。そしたら解放されたんだよね。さすがに使うとかの機能とかは、街で魔導具を見た時だったけどさ」
俺がそう言うとイヴァンは一応は条件達成は簡単ではあるが、発動する条件の選択が結構難しいことは理解して貰った。
「それに、時々聖女の成長が下がる時があるんだよね。その条件も分からないんだよ。ちなみにアッザーム達を聖女の奴隷にした時は逆にあがったんだよね。下がった時は教会に行った後に気付いたくらい。でも何もしてなかったよね……祈りが解放されたけど、力が解放された時に下がったことはないんだよね」
「確かに……創造魔法を解放された時は聖女の成長はそのままだったな。だが減ったのは何かに使ったとは考えられないか?」
「そりゃ考えたけど……あ、そういえばカザの街にいる時も二個くらい減ったことがあったんだよね。あの時は別に何か力が解放されたりはしてなかったから……」
そう言われたイヴァンであるが、ふと思い出したように言った。
「それって、俺とレギオンがハルを抱えて歩いただけで収納が解放された時じゃないか?」
イヴァンがそう言うので俺はハッとする。
「え、それだったら……俺、教会で何かやらかしてることになるんだけど?」
俺がそう言うとイヴァンもうなり始める。
「光ってはいたが……あれは祈りの解放だったしな……しかし俺は何も変わっては……」
そう言いながらイヴァンは自分の鑑定を自分でしている。
「あー……これだ」
イヴァンは自分を鑑定した後に言った。
「俺には幸運なんてついてなかったのに、幸運(小)が付いてる。これだな……たぶん、教会でやらかしてるぞ」
イヴァンがそう言うので俺はやっぱりかとがっくりとした。
「減った謎は解けたけど……何やらかしたんだろう……」
怖くてもういけないと思うけれど、また近々いかないといけない。迷宮で魔物を討伐していくらかの食べ物を渡す約束をしてしまっていたからだ。
俺はイヴァンと二人で深い溜め息を吐いてから言った。
「どっちにしろ何が起きてるのか確かめないとな」
「だよね……」
厄介だけど、幸運程度ならついてて欲しいくらいだけどな。
そうすればあの孤児院がちょっとはマシになるんじゃないかなと思えるからだ。
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