彼方より
038
イヴァンと二人で過ごす最後の日、祈りの浄化解放と魔力回復、そして二人の帰還
今日はやっとレギオンとアッザームが護衛の依頼から戻ってくる予定だ。
俺はその日は家の中で掃除をして過ごした。
というのも。
「生活魔法の浄化を強化すれば、聖女の浄化能力が目覚めるとかあるかもしれないじゃん」
俺はそう言ってとりあえず聖女の能力と言われている力が解放されないかと生活魔法で使われている浄化を使っていく。
体を綺麗にする意味で浄化は使ってきたけど、それだけしか使っていなかったので部屋を掃除するという大きな魔力量を使ってみることにしたのだ。
「こうして、こうしてっと」
風呂の隅々まで浄化魔法を使っても魔力量がリセットされてからちょっと増えたのもあってどんどん使っていたら、魔力量だけは何故か回復した。
『魔力の酷使、条件を達成しました。魔力量の回復を行います』
「ふえっ!?」
ナビゲーションが急に告げてきたので俺は変な声が出てしまった。
魔力量を回復しましたって……あ、最初に解放された時の魔力量に戻ってる……てか、これ一応カンストしてんのかな?
【HP】450
【MP】99999
カンストはどこらへんですか?
どうやら百万越えることのはきっと人外ってやつなんだろうな。
まあ俺のは余裕で越えてますけど……どうすんのよ。
しかしどうしよう、カンストは999くらいだと思ってたんだけど……いや、またイヴァンに怒られるな。
でもこんな簡単に解放されていいものではないんだろうけど、元々こうだったから仕方ないのか。
基本的にこっちの神様は異世界人に甘いのか、異世界人はこちらの世界にくると神によってこちらの世界の望んだ能力が与えられるようだ。
望んだ能力が得られるらしいけど、俺は神に会ってないし、望んだ能力じゃないのは誰にでも分かると思う。
じゃあ、男性で聖女の称号を貰った人は恐らく俺と同じく神には会っていないのかもしれないな。
「男は絶対に選ばないからなあ……そりゃ問答無用で押しつけるしかないよな」
ということは、聖女を押しつけるためには勇者召喚時に聖女を選ぶ時に、先にいた女性達が聖女を選ばなかったから俺に押しつけられたってことか。
巻き込まれた者だから、聖女を押しつけてもいいやってか。
でもそれで男性が聖女の役目を全うしてくれるかというとそうでもないのかもな。
男性の聖女が何人かいたけど、最後の記載が全員ないので恐らく良くない結果だったのかもしれないけど……。
それでなんで男にわざわざ聖女を押しつけるのか分からないけど……。
それに俺は最初に召喚された段階で全部が伏せられていたしな。
ということは、王国に聖女を使わせる気はなかったってことだよな。
それじゃ何のためにこの世界に聖女が必要だったんだろうな?
聖女の評判は悪くないし、男の俺でも聖女としての称号があれば教会の修道女は喜んでいたみたいだしな。
まあ召喚してきたグノ王国にバレたくなかったのかもしれないと思えば、脱出してしまったこれからは好きにしていいのかもしれないけど。
そうならそうで好きに生きるけどな。
「それならそれで俺の付けた呪い、解除できるやつ。解呪も欲しいな……」
俺はそう呟きながら風呂場を隅々まで綺麗にした。
魔力量が戻ったので生活魔法を使っても魔力切れを起こさないから楽だった。
それから書斎に入って俺は聖女の祈りってどんな感じかやってみることにした。
「こう、この部屋を清浄したい! とか真剣に望むとかかな?」
俺は部屋の中央でそう両膝を付いて座ってから祈るポーズを取った。
『使用の条件を感知しました。祈りによる浄化の魔法を解放します。成功しました』
ナビゲーションがそう言うので俺は驚きながら祈った。
掃除が面倒なので真剣に部屋が綺麗になるように祈った。
すると体の中を何かが抜けていく感じがして、スッとそれが抜けきった気がした。
「……何か、抜けたな」
俺はそう言って目を開けてみると、目の前にあった机や本棚がめちゃくちゃ綺麗になっている。
綺麗というよりは輝くほどになっていた。
「え、綺麗に浄化し過ぎて、新品に戻ったみたいな感じ?」
部屋の中が滅茶苦茶綺麗になりすぎて俺は祈りすぎたなと気付いた。
「いや、これは見られたら速攻俺の魔力量のことはバレるな」
俺はバレることを前提にして心を固めた。
「ハル…………なんで最終日まで……」
書斎を見たイヴァンはガクリと肩を落として溜め息を吐いた。
「ごめん、色々とマズイけど、悪くはない結果かな。力を使おうと願ったら大丈夫な物だけ解放されるみたいでさ」
「祈りによる浄化の能力に魔力量の回復か。聖女の祈りが使えるとなると」
「初期化される前に装備されていた技能なら回復可能な条件を達成すれば戻るってことなんだと思う」
「そうなると防御や結界なんかも使えるようになるのかもしれないな」
イヴァンがそう言うので俺はもしかしなくても聖女の能力一覧に書いてあった能力は解放されるのかもしれないと思った。
ちなみに一覧にあったのは。
闇魔法 光魔法 転移魔法 危険察知 魔法感知 祈り(回復 解呪 結界 防御)。
特にこの世界では光魔法が聖なる魔法ではなくて一つの魔法でしかなく、聖なる魔法は闇魔法になっているのが他と違うんだよね。
なので聖女は闇魔法を操るから、神との繋がりも強いってことらしい。
一般の魔導師は闇魔法士を目指すらしいんだけど、なかなかそこには辿り着かない。
闇魔法は魔物の生命を一撃で止められる。
魔物は闇から生まれるのでその活動源を操れる闇魔法が重宝されるわけだ。
でもそれは聖女に多く与えられる魔法らしくて、聖女は勇者一行に加えられているわけだ。
となると、聖女は一人でも行動ができるわけで勇者を頼らなくてもいいことになる。
意外に聖女は強いって事か?
「他にないか? ハル?」
「えっと魔力が最大値に戻った」
「最大値……それは極限まで上がったって意味か?」
「そう……元々そうだったみたいで……そこは俺は気にしてなかったんだけど回復したと言われた。体力的なものはちょっと体力ある程度だけど……」
「……解呪まで手に入れたとか言わない?」
イヴァンはちょっと自分が見なかった間にさっさと解放していく俺に呆れた様子だったけど、俺はまだ解呪は手に入れてはいなかったので首を横に振った。
仕方ないので俺は隠蔽を取ってイヴァンに鑑定してもらいながら自分でも鑑定を見てみた。
【名前】ハル
【種族】神族 (見た目 人族)
【年齢】18
【基準】999
【称号】聖女 20 淫乱 38 色情狂 36 神々に愛されし子 召喚に巻き込まれし者
【技能】鑑定 収納 生活魔法(火、水、風、水、土、光、闇。攻撃には使えない魔法)祈り(浄化) 創造魔法 言語理解 隠匿
(元々あったもの-闇魔法 光魔法 転移魔法 危険察知 魔法感知 祈り(回復 解呪 結界 防御))
【運】幸運EX
【加護】******
【生命力】800 (元は200)
【魔力】99999
………………待って、俺、人でなくなってね?
「ハル……なんで人や亜人どころか亜種ですらなくなってるんだ?」
「分かりませんよ。いつからこうなってたのか、俺が聞きたいくらい。俺だって分からないんだから」
俺はそう言ってイヴァンの鑑定をした。
例えばイヴァンだとこんな感じ。
【名前】イヴァン・タキ
【種族】鬼人族
【年齢】90
【基準(lv)】870
【称号】剣聖
【技能】剣術 鑑定 (聖女の祝福-収納) 生活魔法 水魔法 風魔法
【運】幸運(小)
【加護】鬼神エルクタム・ララツニゾン(小)
【生命力】1035
【魔力】1790
一般人だとこんな感じ
【名前】-----
【種族】人族
【年齢】30
【基準】170
【称号】なし
【技能】生活魔法
【運】なし
【加護】なし
【生命力】200
【魔力】200
とまあこんなレベルなんですけど、俺も十分おかしいけどイヴァンも十分おかしいからね!
冒険者の平均だと。
【名前】---
【種族】---
【年齢】190
【基準(lv)】300
【称号】なし
【技能】剣術 生活魔法 火魔法
【運】なし
【加護】なし
【生命力】590
【魔力】800
こんな感じで冒険者でも平均値はかなり一般人より数値が高いよね。
でも魔力とか生命力は鑑定を使っても普通は見えないんだそうで、魔力一杯あるとかないとかそういうのは経験値か水晶の色判定くらいでしか分からないらしい。
俺の場合、鑑定が性能がいいので数値が見えているけれど、ほとんどの人はレベルが上がったって感じることはあるし、女神の祝福なんて言うくらいだから目に見えて体が光ったりするから分かるけど、数字には出ないのでどれだけの能力を持っているのかはやっぱり水晶とか体力的なものは動いてみて分かる感じ。
これだけ魔導具が発展している世界なのに、未だに数値して魔力やレベルなどを表記しないのはきっとそれによって起こる価値観の問題があるのかもしれない。
だから異世界人たちは魔導具を作る上で数値を出す決断はしなかったんだろうね。
俺でもこの法則が分かれば、数値化は碌な結果にならないと分かる。
そんな物で魔力が分かってしまったら、俺はきっと王たちに拘束されて一生その魔力で結界を張るか、防御をし続ける役目とか押しつけられてしまうんだろうな。
よくあるじゃん、聖女はそういう役目のために無理矢理拘束されてこき使われるとかさ。あ、それで聖女はそういうのがバレて逃げたっていうのもあるのか。
「ハル。種族も隠蔽して人族ってことにしておけよ」
「分かってるってこんなのダメだもんな。よっと……」
で、俺を鑑定して見える範囲だとこんな感じ。
【名前】ハル
【種族】人族
【年齢】18
【基準】300
【称号】なし
【技能】鑑定 収納 生活魔法
【運】幸運(大)
【加護】なし
これがこっちの人が俺を鑑定した時に見える俺の情報。
幸運は付けて置いた方がいいとイヴァンが判断した。
まあ俺の状況からして結構ラッキーなことが続いているし、幸運が付いているからって言えば言い訳で切り抜けられる状況ではあるんだよね。
俺には加護が付いているけど、どうしてかそこはバグってるんだよね。最初から。
俺にさえも分からないか、認識することができないのかもしれないので放置。
もっとも隠蔽するからあってもなくても分からなくても意味がないという感じ。
イヴァンに協力して貰って情報を偽装したけど、これでも俺は結構なレベルらしい。
なので基準のいわゆるレベルの設定は要らないんだけど、一応これくらいには見える感じでいいかなという設定。
まあ魔力が分かる人には俺のアホみたいな魔力は感知できるだろうし、誤魔化し切れないんだろうけど、でも数値が分からない以上、一杯ある程度で誤魔化せる。
実際、俺は攻撃魔法が使えないという状態なんだよね。
聖女だからか、解放する方の魔法は使えたっぽいし、助ける魔法は使えるんだよね。
たぶん闇魔法も光魔法も攻撃する魔法じゃないものが使えるんじゃないかなと俺は予測しておく。
そして聖女の魔法一覧には攻撃魔法が一個もないことも思い出した。
つまり聖女はあくまで補助の能力であり、攻撃は一切しないんだろうな。
「俺は最初にハルを見た時には、魔力が沢山ある聖女だと思って、技能とか見なかったが、ハルには沢山の技能がついていたんだな。聖女の祈りはまあ分かるが、それ以外も強力すぎる。鑑定と収納も同時持ちは冒険者にも結構いる方だからいいが……他の技能は絶対に秘密にした方がいい」
「うん、そうだよね……俺もそう思う」
こちらの一般的な人には技能でも生活魔法があるが、その生活魔法だって火だけとか水だとか、一個だけという人が多い。それこそ冒険者になろうって人は基本的に火と水がないとかなり厳しいので組織を組んでもその辺も組織に入れるかどうかでシビアになるらしいんだよね。
俺は恵まれてはいるけれど、攻撃の技能がないのが大問題。
自分でその対処ができないってことなんだよね。
これはちょっとどころかかなりデメリットなんだよ。
一応、迷宮で剣を使ってはいるし、倒せているけれど、それは浅い層であることとイヴァンがついて補助をしてくれているからってのが大きいんだよね。
だから俺は凄く気を付けないといけない立場に置かれているわけよ。
そんな話をしていたら既に夕刻近く、遠くに日が落ちて行くのが見える夕刻八刻だ。
そうしてやっとレギオンとアッザームが九日の依頼を終えて帰ってきた。
「ハル! ハル! 帰った!」
アッザームが玄関で大きな声を上げている。
俺はイヴァンから離れて玄関に向かった。
「お帰り、アッザム、レギオン」
「ハル!」
アッザームが荷物を放り出して俺に抱きついてきた。
力強く抱き寄せられて俺はちょっと嬉しい。
でも苦しい。
アッザームは遠慮なしに俺にキスをしてきてさ、そのキスで息ができないわ、抱き締められて苦しいわで、ジタバタしていたらレギオンが止めてくれた。
「アッザーム、ハルが苦しんでる」
「あ、ごめんハル」
アッザームがやっと締め付ける腕を緩めてくれたら、直ぐさまレギオンに唇を奪われてしまった。
「んん~~~~~~~~」
レギオンも長めのキス。
「~~~はあっ!」
やっとレギオンが離れて息ができるようになるとレギオンは俺の額にキスを落として言うのだ。
「今夜は眠れないぞ?」
その瞳が爛々としていたから俺はゾクリとしてしまった。
期待しているけど、怖いような辛いような気分だ。
だって猛獣二人がどれだけ暴走するのかキスの時点で分かってしまったからね!!
感想
favorite
いいね
ありがとうございます!
選択式
萌えた!
面白かった
好き!
良かった
楽しかった!
送信
メッセージは
文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日
回まで
ありがとうございます!