彼方より 036

イヴァンと二人で過ごす-角兎と孤児院に寄付と光る俺

 何だかんだと危ない魔法であることが分かってきた創造魔法。
 俺は暫く様子を見るために使うのは限定しようと思った。
 例えば急を要する時にのみとか、どうしても必要な物とかそういう時くらいでいいかもしれない。
 そういうわけで俺は暫くは創造魔法を封印することにした。
 イヴァンはあの後も俺に対して注意事項をしっかり守るように口酸っぱく言ってきた。
 イヴァンとしてはいつもはレギオンに相談してから物事を決めるから、きっと今俺の問題は頭が痛いんだろうなと思えたので大人しくしていることにした。
 それから俺たちは冒険者組合に行って焦げ付いている依頼を探した。
 受付嬢にはしっかりと断って一緒に依頼を見て貰ったので文句を言われることはないだろう。
 依頼は迷宮の三階までの軽い魔物討伐。
 俺が討伐依頼を受けるなんてって?
 もちろん肉確保のためですよ。
 魔物とはいえ、狩ったことのある魔物、角兎がメインだ。
 二階層にもいるんだけど、三階層の角兎の方が溢れているらしい。
 三階層は密林に近い感じで、木の伐採とかしている職人がいる。その職人は冒険者ではないので雇われた木樵たちなんだって。その人達を守るためにも突っ込んでくる角兎を多めに狩って欲しいという依頼だ。
 こんなのは駆け出しの冒険者がやるんだけど、ここ最近はその新人冒険者も次の階層に進んじゃってちょっと間が空いてしまったんだって。
 それでも魔物は湧くんだけど、依頼自体の報酬が少ない。
 金貨一枚しかないので新人以外はやりたがらないんだとか。
 そういうわけで俺とイヴァンで一掃して、暫く湧かないくらいにしてほしいんだそうだ。
 そう言うわけで俺とイヴァンで三日ほど掛けて通って討伐してきた。
 肉を沢山手に入られるけど、解体費用と合わせると実は赤字になる計算。角兎が百匹以上も湧いていて、一個の解体が銅貨一枚でやってもらえるけど、百匹で金貨一枚になってしまうんだよね。
 それに三日間で金貨一枚なので大赤字なんてもんじゃないっていう。そりゃ誰もやりたがらないよなと俺は終わってから気付いたよ。
「どうせなら、収納の中で肉と皮と骨とかに別れてくれないかな……」
 俺がそう呟いたらナビゲーションが告げた。
『魔物の素材を認知し、条件達成をしました。収納内での解体が解放されました。素材毎に解体されます』
「んん!?」
 俺は思わず叫びそうになるのを飲み込んだ。
「どうした、ハル?」
「解体が……収納内で解体ができるって……進化した」
 俺がそう言うとイヴァンがガックリと肩を落とした。
「収納にそんな機能が付くなんて聞いたことはないのだが……」
 信じられないと言うので俺は角兎を一匹解体して、角、骨、肉、皮に分離したものを収納から取り出してイヴァンに見せた。
「……本当だな。これはあり得ないくらいに綺麗でキズ一つない裁き方だが、いいかハル」
「はい」
「これは俺たち以外に見せるなよ。ちょっとの解体はいいが、全部はダメだ。今回は百匹は解体に出せ。大量発生をしている魔物の討伐だから数が揃わないとおかしいことになるからな」
「うん……それは辻褄を合わせるにはいいけど……残りの二十匹はどうするの?」
 俺がそう言うとイヴァンが言った。
「肉は俺らが食うとして、素材はそのまま街の取引所に引き取って貰うことにしよう」
 イヴァンがそう言う。
 普通は冒険者組合に買い取られたものは商業者組合に流されてから商人の手に渡るんだけど、その仲介料が結構あるんだって。なので討伐証明以外で狩った物は、冒険者が直接売りたいところに売りに行っても違反ではないんだとか。
 例えば、討伐証明に出した魔物の皮などでも売りに出さないで手持ちにする人もいる。そういう人は後から店に売りに出すこともあるわけだ。
 そこまで完全管理をされてしまったら、冒険者もやっていけないからね。
 なので依頼をそこそこに商会などから直接頼まれて依頼を熟す人もいるらしいけど、そうなるとお金は入るけど冒険者証明書も階級は上がらなくなるので都合は悪くなることもあるらしい。
 冒険者は何といっても階級が物を言うんだって。
 将来引退する時に階級が高いと街に住むときには働き手も多くあるらしいんだよね。街に貢献してくれた冒険者に還元する形になるらしい。
 けど金儲けだけに勤しんだ人は自分で商売をするしか道はない。
 そうなると儲かっている時はいいけど、金を湯水のように使ってしまう生活から抜け出せずに落ちぶれてしまうのだ。
 そういう人は後を絶たずで、街にいられなくなって地方に去って行くんだって。
 堅実にやるなら冒険者組合を通した方が賢明ってわけ。
 でも物が多いときには今回のように冒険者組合以外を使うのもありになる。だって三日間の依頼の報奨金が金貨一枚だものね。
 素材の買取りも安いので金貨五枚もいかないかもしれない。
「ああ、こりゃ俺が配達の仕事をした方が儲かるね」
「だろ? だから他に持っていった方がいいわけ。角兎の毛皮はご婦人達の外套なんかに使われるらしくて人気なんだが、冒険者組合に引き取って貰うと商業者組合から買い取った商人が王都に持ち出してしまうから、領地内にあんまり出回らなくなるんだよな」
 なるほど領地内にある店に卸せば、領地内で消費されるというわけだ。
 だから冒険者組合もそれは黙認しているのだろう。
 というわけで、三日間掛けて狩った角兎の百匹は冒険者組合に卸して、素材はそのまま引き取って貰い、肉は俺たちが引き取れと言われた。
「大量すぎてこっちでは裁き切れない。街に卸してやれ。査定に時間がかかるから夕方に受付に来てくれ」
 そうブラン組長に言われて俺たちはそれらを持って方々の肉屋に角兎の肉を卸した。
 もちろん値下がりはしてしまうけど、街の人は大賑わいだ。安く肉が手に入るのだから、そりゃね。
「今日は角兎の肉が安いよ!」
「こっちも入ったばかりの角兎の肉だよ! 安いよ!」
 てなわけで、ご婦人達が一斉に肉を買い求めていた。
「まあ、安く買い叩かれたけど、これはこれで悪くないね」
 俺はちょっと笑ってそう言った。
 イヴァンはそんな俺を見て笑っていたから良かったのかもね。
 なので俺はまだ余っている肉を持って孤児院に向かった。
 収納があるから入れっぱなしでもいいけど、せっかく街で盛り上がっているんだから、お裾分けくらいいいじゃんってことで。
 孤児院は街外れにあって教会みたいな建物の裏手にある。
 そこまで行ったら子供の声も聞こえたけれど、それでも街にある教会よりもずっと薄汚れていることは分かる。差別化されていて目立たないようになってるのは子供達の貧しいところを見せたくはないのだろう。
 それでも領主の援助はちゃんとしているのか、子供達の着ている服は汚れてはいるが破れてはいない。なので支給品はちゃんとあることはわかる。
 でも食べ盛りの子供達にはやはり食事は足りていないような気がしたので俺の肉の寄付は大変喜ばれたのだ。
「まあ、お布施にお肉……ありがとうございます! 助かります!」
 孤児院はそれなりにきちんとしていたけれど、それでも経営は厳しいものだ。
 冒険者は危険を伴う仕事なので親が亡くなってしまったり、親が育てられずに置いて行くこともあるんだそうだ。
 そういう子供たちのために俺は多めに肉を配った。
 幸いだけど、冷蔵倉庫があったけど、動いていないというので魔石を取り替えてやって。動かしてから角兎の肉を沢山寄付した。
「魔石が空になる頃にまた来ますね」
 俺はそう言って野菜など調味料も置いてきた。
 冷蔵倉庫は壊れてなくて、ちゃんと動いたし、壊れたらそれこそ俺の創造魔法で改修してもいいわけだよ。そうだよこういう時に使わないでどうするって思った。
「ああ、本当にありがとうございます! 神様、女神さまっ!!」
 凄く修道女に祈りを捧げられてしまったんだけどさ。
 女神様ってなんだと、聖女の称号が見えているんじゃないかとびくりとしたんだよね!!
男の俺に女神さまとか言うのは明らかにおかしいんだよね!
 その時に俺が曖昧に微笑んだらさ、俺の中でナビゲーションが告げたんだよね。
『聖女の祈り、条件達成がされました。聖女の祈りを解放します。成功しました。祈ることで願いを叶えます』
「……!!??」
 もう声が出なかったことはよくやったと言って貰いたいくらいだったんだけど。
 それで修道女の目には俺は光って見えただろうね。
 うん、俺光ってるもんな、体がね。
「うっそ、光ってるし!」
 思わずそう言ったらイヴァンも驚いているし、修道女は更に感激して涙を流しながら祈っているしで、俺はもうパニックよ。
「え、え、何これ」
 そう呟いたらやっと光が消えたんだけど、それで修道女と目が合ってね。
「聖女様……まさか……そんな……おお、聖女様!!」
 って凄く祈られてしまった。
「ち、違いますから、何か女神の祝福だと思うんですけど!」
「はい、分かりました。そういうことにしておくのですね! 畏まりました!!」
 修道女二人がそう言って俺の言い訳をよい風に解釈してくれて黙っていてくれるようだった。
「大丈夫です神の御業です。私たちは神に仕える者でございます。聖女様は神からの奇跡でございます! 教会は聖女様を崇拝しております、決して裏切るようなことはございません!!」
 そう断言されたけれど、いやほら色々と困るわけで、俺はいくら違うと言っても信じて貰えない状況だったのでとにかく誰にも言わないでと念を押した。
「不敬罪で処刑されかねないので、誰にも絶対に誰にも言わないでください」
 俺がそう言うと二人は俺に祈りを捧げてくるのでそういうのもダメと言って何とか普通に接して貰うのに、三十分くらい祈られ続けてから納得して貰った。
 イヴァンはとりあえず周りを警戒してくれて、俺が修道女を説得している間も手伝ってはくれなかった。
 まあ、こんなところで光ってる俺が悪いんだけどもさ!
 イヴァンが説得しても全然聞いてくれなかった上に俺の言うことしか耳に入っていなかったから仕方ないんだけどね。
「とにかく余計なことを言って領主様の耳に入ったらとんでもないことになるので、俺が寄付していることは言ってもいいですけど、俺を聖女とか女神とかは絶対に言わないでくださいね」
「分かっておりますとも、必ずやお約束いたします!」
 てな感じで、聖女とか女神とかは言わないけど、神様みたいな扱いは継続中。
 それでも俺がしたことは嬉しいらしくて、今晩は肉料理がたらふく子供の腹に入ることになるようでよかった。
 やっと孤児院を後にして俺はイヴァンに謝った。
「ごめん、まさかそこで光るとは思わなくてさ」
「分かっている、女神の祝福は不可抗力だからな。でもあれほど光るのは俺も見たことはないから……」
「うん、そっち関係のやつの解放です……」
「……そうか。こうなるとお前は家で大人しくしている方がいいってことになりかねないな……」
 うっかり善行をしたらレベルが上がりましたなんてことばかりだと、俺は常に何かするごとに光ってしまうことになってしまう。
 しかも神職の人たちは誤魔化せないのか、聖女とすぐに見破ってきたのは怖い。
 信心深いからこそ見えるのかもしれない。
「あそこ以外の教会には近付かない方がいいかもしれないね。信心深い人には俺の事がそう見えてしまうのかもしれない……」
 俺がそう言うとイヴァンも頷いている。
「俺もこれは盲点だったな。まさか信心深い部分が見破れることと関係しているとは……俺もずっと迷信だけど俺の事を分かってくれるのは絶対にその人だけだと思って生きてきたから。だから俺にもハルがそうだって確信が持てたのかもな」
 イヴァンは自分がいきなり俺に引かれたのはやはり聖女と関係していると分かってしまったからかもしれないと気付いたようだった。
「でも俺は今はハルが好きだから、それは切っ掛けに過ぎないからな」
 イヴァンがそう俺に念を押してくるから、俺はちょっと笑っちゃったよ。
 その必死さは俺がイヴァンが俺を好きなのが聖女の称号のせいだと不安がっているのを感じているんだと思う。
 アッザームのことを話した時に俺はアッザームが聖女の奴隷だから俺を好きだと言っているだけだと思っていることを吐露したからね。
「大丈夫だよ、分かっているから」
 俺はイヴァンを信じる。
 たとえ、そうじゃなくなってもイヴァンが悪いわけではないのだから。
「さあ、帰ろうか。うちも角兎の肉焼きにしよう」
「炒飯がいい」
「分かった、それにしよう。レギオンが作ってくれたタレがあるし、残りは汁物にすればちょうどいいね」
「うん、いいな」
 俺はイヴァンに笑いかけて、イヴァンは笑い返してくれて、手を取って歩いた。
 その日はイヴァンと盛り上がってしまって、酔ったままセックスになだれ込んでしまったのだった。


【名前】ハル
【称号】聖女 23 淫乱 35 色情狂 33
↓ ↓ ↓
【称号】聖女 20 淫乱 36 色情狂 34

 待って……なんで聖女のレベルが下がってるの?
 俺何かした?
 祈りで願いが叶うってことになったけど、そのせいですか!?


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