彼方より 035

イヴァンと二人で過ごす-鑑定の試験で秘薬の作り方を知り創造魔法発動

 三日間の謹慎が終わったので冒険者組合に行くと、受付で薬草の代金が換金された。
 それを炎炎組織の口座に振り込んで貰い、俺は身軽になる。
 金貨五十二枚は振り込んで貰って金貨一枚を換金してもらって銀貨十枚を受け取った。
 ついでに受付で副組長のダヤさんを呼んで貰って俺は鑑定の試験を受けることになった。
 イヴァンもついてきているけれど。
「俺も測って貰っていいか? 最近鑑定の調子が上がっているんだ」
 そうイヴァンが言うのでダヤさんはそれならばと一緒に試験を受けた。
 鑑定の試験はダヤさんが持って来た鑑定品を詳しく鑑定してみること。
 もちろん既に鑑定済みでどういうものか分かっているものばかりだけど、俺とイヴァンは別室でそれぞれに受けた。
 俺の前に出されたのは魔導具。どういう魔導具かということも試験の一つ。
 四角いまるで音声の通信機みたいな長方形の形。見覚えあるなあこれ。サバゲーやってたやつが持ってたんだよね。学校に持って来て遊んでいたら没収されてたけどな。
 俺が鑑定を使ってみてみると。
【古代通信機】-【通話のみを行える。距離は関係がないが受け取る側は固定されている。魔力充電は魔石の魔力切れで使えないが魔石を代えれば使える】
 と見えた。
やっぱり通信機だ。距離が関係ないのはいいけど、あのスマホ型通信機とは画面があるかないかの違いくらいかもしれない。
 なのでそのまま言ってみると、ダヤさんはそれを記録にしていく。
 本体を回してみると魔石を入れ替える場所が分かったのでそこを明けてみた。
 確かに魔石は入っているけれど、魔力の切れた魔石しか入っていなかった。
「あああ、それそこに魔石を入れるところが……」
 ダヤさんが急にそう言ったので俺はキョトンとする。
 ちょっと分かりにくいような構造で指でちょい押しして下へと引っ張ると開けられるんだけど、今の感じだと開け方が分からなかったみたいだね。
 次に出されたのはちょっと大きめの水晶のようなもの。
【犯罪鑑定装置】-【犯罪者を鑑定できる簡易装置。魔導具に設置して使う。青は無罪、紫は軽犯罪者、赤は人を殺めたり貶めた犯罪者。他の物と連動して使うのが基本。冒険者証明書、商業証明書、住民証明書など】
 やっぱり犯罪者かどうか分かるような装置ってあるんだな。
 これを魔導具に設置して使うみたいだ。
俺がそう言うとダヤさんがまた妙な声を出している。
 あ、これ鑑定仕切れてなかったやつだな。
 どさくさに紛れて、今まで鑑定仕切れなかったやつだしてない??
 他にも鑑定品があったので全部見ていったら、大体詳しい使い方が分からなかったようなものまでしっかりと俺の鑑定だと使い方が書かれていることが分かった。
「なるほど、ハルさんの鑑定はより詳しく説明書付きってことなんですね」
「みたいですね……この間の薬草採取の時に効能とか使い方が書いてあったので」
 俺がそう言うとダヤさんが驚いた顔をして俺を見てきた。
「それじゃ、秘薬の素材を見れば、秘薬の作り方が分かってしまう!?」
 そう言われてそれは分かるかもしれないなぁっとちょっと思っていたらダヤさんが部屋を飛び出して行って何かの薬草を持って戻ってきた。
「こ、これを鑑定してください」
 薬草はガラスの筒に入っていて鑑定してみるとその筒は時間停止装置だったみたいだ。これも魔導具らしい。
 それから薬草を鑑定すると。
【ドラゴン草】-【ドラゴンの巣に生息する薬草で、ドラゴンの涙の栄養で育つドライ草の略称。ドラゴン草を使った、竜(ドラゴン)の血(一滴)、ソラル草、聖水(純度90)を調合することで秘薬を制作可能】
「あー……」
「作り方も書いてますか!」
「書いてますね」
 俺はその鑑定結果を見て調合も書いてあると言うとダヤさんが前のめりで俺に聞いていた。
「教えてください!」
「いいですけど……」
 俺はそう言って鑑定結果に出ているものを読み上げた。
 するとダヤさんが何だかクルクル回りながら喚き始めた。
「組長!!!」
 そう叫びながら試験会場からまた消えてしまった。
 俺は取り残されてしまったけど、隣で鑑定の試験を終えたイヴァンが部屋を覗き込んでいた。
『終わった?」
 俺はそう聞かれたけど俺は首を横に振った。
「ダヤさんが飛び出して行っただけで、試験の終わりは言われてないからまだ部屋から出ない方がいいし、イヴァンも入らない方がいいかも」
「分かった」
 俺がそう言うとイヴァンは扉を閉めてくれた。
それからダヤさんがブラン組長を連れて戻ってきてまた同じドラゴン草を鑑定させてきた。
 まあ鑑定結果は同じなのでそのまま伝えたら何か余計に発狂した。
「組長! 材料が揃ってます!」
「ああ、これは領主に報告をしなければ!!」
 そう言って盛り上がっているので俺はちょっと引き気味。
 材料が揃ったってなんだ?
 あ。ソラル草ってこの間、俺が採取してきた中にあったよな?と俺は思い出す。
 滅多に自生しないと書かれていたけど、一本だけ採れて俺の中で創造魔法が複製を作り、気付いたら十本くらいになって五本だけ買取りに出したな。
 ってことは、もしかしてドラゴンの血も何処かにあって作れるってことなのか?
 大丈夫なのか作れても……。
 俺はちょっと不安になったけれど、それを余所にダヤさんから俺の鑑定試験の合否が告げられた。
「合格です。もちろん大鑑定家としても活動されて構いません」
 そう断言されてしまい、俺はちょっとホッとする。
「鑑定業とかよくあるんですか?」
「ありますよ。迷宮から出る宝物など、売りたくはないけどどういうものなのか知りたい人が組合を通して依頼を出したりしますし、大鑑定家ですと組合の常駐鑑定家が鑑定できない物に対して強制鑑定を行って貰うことになりますね」
 なるほど鑑定できないものができたらしていい感じかと俺は認識した。
「今日は本当にありがとうございました。幾つか鑑定してもらったものは組合の鑑定家も鑑定がしきれなかったものだったんですよ」
「あ、やっぱり……そうじゃないかと思ったんですよね。ダヤさん大喜びしてましたし……」
「あはははは」
 ダヤさんは笑って誤魔化している。
 バレてますよ!
 そういうわけでやっと試験会場から出られてイヴァンと合流。
「どうだった?」
 俺がイヴァンに聞くとイヴァンはこそっと言った。
「確かに鑑定の能力は上がってた。でも俺に関してはハルほど見えているわけじゃないみたいだけど……どういうわけかハルのことは全部見えるんだよな」
 イヴァンがそう言うので俺はキョトンとする。
「どういうこと?」
「それがな、ハルは隠蔽を掛けているから俺が鑑定しても見えないはずなのに、昨日からハルの情報が全部見えているってこと……ハル、創造魔法ってなんだ?」
 イヴァンがそう言ってきて俺はギクリとした。
「あ、そこ、見えてるのか……」
「昨日から急に見えるようになった。だから鑑定の能力が上がったのかと調べて貰ったんだよ。確かに上がってたし、一部は使い方も見えたけど、魔導具の名前は分かっても詳しい使い方までは分からなかった。だから気のせいかと思っていたんだけど、ハル、その様子だと自分でも分かってるんだな?」
 俺が創造魔法が解放されたことを黙っていたのをイヴァンが怪しんでいる。
「ここでは何なので、家に帰ってからでいいか?」
「それでいい、素直に話せよ」
 そう言われて俺は頷いた。
 イヴァンが滅茶苦茶睨んでくるのでこれを教えないとたぶん碌な目に遭わないと予想できたからだ。
「ハル、お前の冒険者証明書の中に鑑定を入れるぞ。お前には鑑定の仕事もしてもらうからな」
 ブラン組長にそう言われてしまい、俺はそれを承諾するしかなかった。
 断れる状況ではなかったし、鑑定士は他にいるのでその人達が鑑定できないものを俺に回してくるってことになった。
「何か、やっと地に足を付け始めたって感じだね」
 冒険者組合にしっかりと認知されて、活動拠点をここに置いて、能力も隠しすぎず出し過ぎずでやるというのは結構楽ではある。
「とにかく、明日また冒険者組合で仕事を受けられるしね。薬草も結局新しいのを取ってくるように言われたしね」
 俺は新しい依頼が受けられるので上機嫌だけど、イヴァンは気になることがあるからずっとしかめっ面。
 家に帰り着いたら食事の準備をしながらイヴァンに話すことになった。
「いつそれが解放されたんだ?」
 そう聞かれて俺は思い出す。
「確か、風呂で三人で盛り上がってた時。あの時は言う暇がなかったからね」
 俺がそう言うとイヴァンは確かに言う暇は俺に与えられてなかったと気付いたようだった。
「確かに」
「その後は忘れていた。でも薬草採取した時に階級が上がったみたいで……それで珍しい薬草が複製できるようになってて……薬草が滅茶苦茶増えた」
 俺がそう言うとイヴァンははあっともの凄い溜め息を吐いていた。
「道理で取った数より多いなと思うはずだ……」
「四倍くらいになってるね……ソラル草とか珍しいらしくて、階層で一個採れればいいところ、複製で十本に増えたんだよね……」
 勝手に増えたと言うとイヴァンはそんなことが可能なのかと呆れている。
「ちょっと一杯あればいいなって思ったんだけど、そうしたら反応したみたいで……」
 俺がそう言うとイヴァンは更に頭を抱えた。
「と、とりあえず先にご飯を食べよう。食べながらでも話はできるし!」
 俺はそう言って先にご飯を選んだ。
 イヴァンもそれには反対しなかったので急いでご飯を作り、食べながら再開だ。
「それでハルはそれを使ってみてどうだった?」
「んー、特に負担もなく、あっさりだったから……でも収納の中で勝手に増えたから見てないんだよね」
「それは普通の素材と変わらないのか?」
「多分、複製した方を提出したんだけど、それで秘薬が作れたみたいだから……」
「秘薬? なんで秘薬なんて作る羽目になった?」
 イヴァンは秘薬と聞いて渋い顔をしたので俺は正直にダヤさんに試験として見せられたドラゴン草から秘薬の調合方法と素材が見られたのだと伝えた。
 そうしたら。
「…………」
 イヴァンが机に突っ伏してしまった。
「だ、駄目なやつだった?」
「やっぱり部屋を分けたのはダメだったな……今度から鑑定も査定も全部俺たちの目の前でやってもらうし、組合に出すものは俺たちに見せて相談してから出すことにしろ」
「……そうします」
 量くらいならばイヴァンも仕方ないと思ったらしいが、まさか珍しい薬草がとんでもない重要な薬草だったのはイヴァンも知識がなかったので見落としたようだった。
「そうか……鑑定で探せるから、珍しい物はそう出るのか」
 イヴァンの言葉に俺はうんと頷いた。
「名前とそれを使った薬とか、調合するのに何を使ったらいいのかとか……そういうのは表示名の下に書いてある……そこから更に詳しく調べる項目があって……」
 俺は珍しい薬草を収納から取り出してからその鑑定をして説明をした。
「例えば……このソラル草は、滋養強壮にもいいし、磨り潰して患部に塗れば傷もあっという間に治るらしい」
「……そうか」
「で、これをこうして、えい!っとすると複製完了」
 俺はそう言いながらイヴァンの目の前でソラル草の複製を作った。
 机にそれを置くとイヴァンがそれを鑑定しているようだった。
「確かに、複製されたものも本物と同じ性能だから複製とはでないな……。俺には名前と効能だけしか出てないし、詳細はない」
「そうなんだ……じゃああんまり詳細は言わない方がいいかもしれない?」
「名前が分かれば普通はいいんだよ。使い方だとかそれを使った何かの制作方法とか鑑定では分からないものだ」
「そう、なんだね……」
 そういえばそうだ。
 最初の頃は人を鑑定ばかりしていたから、その人の情報が見えていたけれど、最近は詳細で更に何かが見えそうだった。
 なので薬草みたいに詳細を見ようと思えば見えるのかもしれない。
 まあ見たい物ではないのでしないけれど。
「じゃあ、鑑定も気を付けなきゃな……」
「組合でやらされる鑑定は、鑑定士が鑑定できなかったものだけだろうし、そうそう鑑定依頼は来ないだろう。それよりも複製の方だ。うかつに珍しい物を複製してしまったら、何処で手に入れたと怪しまれる羽目になるな」
「だよね……今回は焦げ付いた依頼が溜まるくらいに薬草取りがいなかったから誤魔化せたけど……次からは気を付ける」
 まさか複製品でも効能が一切変わらない、複製どころか完璧なクローンと言っていいものを複製と言うんだから、そりゃ大問題になるな。
 聖女がどうとかよりこの創造魔法の方がヤバくない?
 創造魔法を使って複製で連絡魔導具でも作ろうかと思っていたけど、作らないでよかったかもしれないね!?


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