彼方より 033

イヴァンと二人で過ごす-やり過ぎて冒険者組合で怒られる

 レテカの冒険者組合の組長室に呼ばれ、組長であるジンナ・ブランの前で俺はちょっと緊張をしていた。
 正直言うと、グノ王国では目立ちたくなくて呼び出されることがないようにと気を付けていたんだけど、セフネイア王国ならまあ大丈夫かと思ったんだよね。
 あと薬草採取がとっても楽しかったんだよ。
 あれもこれも役に立つんだって思ったら見える範囲の物は狩り尽くした状態にしてしまっていたけど、二、三日で生え替わるから大丈夫と聞いてホッとして更に採取したんだよね……。
 まさか提出し過ぎて怒られる羽目になるとは思わなかったんだけど。
「それで、なんであんなに採ってきた?」
ブラン組長は二メートルくらいでイヴァンよりは小さいけど、横に大きな人。スキンヘッドで厳つい顔をしているから怖いったらありゃしない。
 そんな人が俺を睨み付けているから怖い怖い。
「役に立つんじゃないかなと思いまして……解熱とか回復薬の材料とか色々あったもので……」
「だが取り過ぎだとは思わなかったのか?」
「すぐ生えてくるから大丈夫かなって……それに掲示場にあった焦げ付いた依頼も熟せるからいいかな~って……」
 俺がそう正直に答えると俺の資料らしいものを見ては、ブラン組長はハアっと溜め息を吐いている。
「ハル、お前の収納は容量がでかいのか?」
「はい、商会倉庫に二個分くらいは入りますけど」
「それで倉庫一個分の薬草を採ってきたと?」
「あー……自分用にも採ってきたのと、終焉の業火の皆さんに分けたので、もうちょっと入ってましたけど……ダメなら引き取ります」
 何だか受け取って貰えないなら意味がないと申し出ると副組長のダヤ・モヴさんが慌てて言った。
「大丈夫です、冷蔵倉庫にしまえるので。ただ分ける苦労があるので」
 そう言われて俺は首を傾げた。
「倉庫に出した時に仕分けしておきましたけど? ちゃんと分類分けしてそれぞれに」
 俺は分類分けはして出したのだと言うと、ダヤさんが慌てて部屋から飛び出して行った。
 何だろうと思っていると三分くらいで走って戻ってきた。
「た、確かに分類分けはされているようです。一応全ての確認は致しますが」
 俺はそこまでしなくてもいいのにと思って言っていた。
「え、収納の中で種類分けができるので、綺麗に分けてますよ? 鑑定もあるので間違いはないですけど……」
 俺はそう言っていた。
「お前、鑑定持ちだなんて登録はしていないようだが?」
 あ、組合に登録する時には収納のことしか書かなかったっけ?
 しまったなあ。と俺は思いながら焦っているとイヴァンが言った。
「女神の祝福だ。後から解放されたらしい。俺も書いてはいないが、最近収納が解放された。とはいえ、ハルほど大きなものではないが」
 そうイヴァンが言うとブラン組長が頭を抱えている。
「だが技能は一個だけ書いておくだけで登録はできるし、後から解放された能力の登録は義務付けられていないはずだ。ハルは何の違反もしていない」
 イヴァンはそう言ってくれたらダヤ副組長も頷いている。
「確かにその通りの規約になっています。違反はありません」
 そっか違反してないのならいいや。
 俺はホッとする。
「そうだが……書いていて貰えればあとで役に立つんだが……」
 どうやら鑑定の仕事もそれなりにあるらしい。
 俺はふと思って登録してもいいかと思えた。
「じゃあ、冒険者証明書に鑑定のことも書いて貰えますか。今後その仕事も受けられるってことですよね?」
 俺がそう言うとイヴァンはちょっと嫌そうだったけど、俺がしたいことを止めることはなかった。
「そうだな、まず鑑定の精度がどうなのかってところも査定をしなきゃいけないから、すぐに登録ではなくていいが」
 ブラン組長がそう言うけれど何だか嬉しそうにしているので鑑定ができる人は欲しいのは事実らしい。
「明日、良ければ検査をしましょう。それでよろしいですね?」
 ダヤ副組長がそう言ってブラン組長が頷いた。
「では明日の昼過ぎに組合の受付で私、ダヤに呼ばれてきたとお伝えください。私が担当させて頂きます」
「よろしくお願いします」
 俺はそう言って鑑定の試験を受けることになった。
 それで薬草の件だけど、全て冒険者組合が買い取ることになった。
 俺がまだたらふく収納に貯めているからそれは後日いい感じに流してくれと言われた。
「そうしないと値崩れをする。依頼が焦げ付いたら俺からお前に使命依頼を出すから、納品してくれ」
「分かりました」
 実はさっき出した薬草の四倍の在庫があるとは言えなくなってしまった。
それがさ、これはまだイヴァンには言っていないんだけど、沢山あるといいなと思った瞬間、薬草が倍に増えたんだよね。
 これってこの間、何か増えた技能の一つかもしれないんだよね。
 しかも俺幸運持ちだからか、あるわけもない珍しい薬草が結構沢山取れたんだよね。
 それこそ二階層目には一個か二個見つかったらいいような薬草が五十くらいな。
 そんでそれがもっと増えればいいなって思ったやつでそれが倍々で増えたんだよね。
 そう思って俺は自分を鑑定してみたら、自分の鑑定能力があがったのか隠蔽部分にしっかりと新しい技能がついているのが見えた。
 やっぱり間違いじゃなかったか。
 創造魔法。これだわこれ、絶対これだわこれ!
 薬草が倍々に増えたのこれだよ!!
「それでまだ話があるんですか?」
「どうして急に焦げ付いた依頼を消化しようと思ったんだ?」
 何か別の目的があるのではと疑われたようである。
 なので俺は正直に話した。
「あの、俺の依頼達成一覧を見て分かりませんか? 俺、収納以外の仕事を受けたことがないんですよ」
 そう俺が言うとブラン組長はそうなのかと一覧を証明書から読み取っている。
「最後の護衛の依頼がついているのは組織に入ったからで俺が護衛対象の一人なので、それは入れないでくださいね」
 俺がそういうと物の見事に収納を使った配達の依頼しか受けていないことが理解された。
「なるほど、それで」
「おかげさまで収納を使った配達の仕事で鉄級まできましたが、青級などで必ずするという薬草採取や魔物討伐などやったことがなかったので、ちゃんとそれらしくした方が今後のためではないかと考えたのですが、かといって他の冒険者にとって鉄級がいい依頼を取ってしまったら要らない恨みを買うかなと。なので焦げ付いている依頼、若しくはその日に受けられていない依頼ならば、誰にも迷惑が掛からないのではと考えてのことだったので……敢えてそれを選んだとしか答えられません」
 そう俺が道筋を立てて説明をしたら矛盾はないのか、ブラン組長とダヤ副組長がなるほどと頷いている。
「確かに焦げ付いていた依頼だから誰がどう解消しようと構わないことだが……ハル、お前はやり過ぎだ。全部の焦げ付いていた薬草関係の依頼達成した上に重複達成もしまくっているんだからな……たく、こんなやつそういないんだよ」
 どう扱っていいのか分からないというようにブラン組長は言っているけど、俺は別にこのレテカの街に貢献はしようと思っているけど害をなすことはしないつもりなんだけどな。
 まあ怪しいと言われたら怪しいよなこんな経歴持ちとかさ。
「とにかく、薬草の精算に時間がかかる。三日後まで暫く大人しくしているように!」
 ブラン組長にそう言われたのだけど、俺は聞いていた。
「街で買物しても構いませんか」
「それは勝手にしろ。配達の依頼は受けるなよ」
「分かりました」
 何か知らんがめちゃ怒らせている模様。
 面倒ごとなんて抱えたくないからか、俺の事を厄介者と感じたのかもしれない。
 しまったなあ。ほどほどにして置くべきだったな。
 俺はちょっとしくじったなと思って、落ち込んでいたらイヴァンが慰めてくれた。
「ハルは悪くないよ。依頼がやり過ぎになるなら上限を決めていない組合が悪い」
 確かにそうだけどな!
 一杯達成したらダメとか言われてもな!
「ありがとうねイヴァン。でも暫く大人しくしておくよ。怒られたしね」
 俺はそう言ってからイヴァンと一緒に冒険者組合を後にした。
 家に帰る途中に何だかイヴァンが後ろを気にしていたけれど、俺はそれに誰か気になる人がいるのかなという感じにしか思わなかった。
 けれどその夜になって原因が分かる。
 俺たちがいつも通りに食事をして風呂に入って寝室で寝ていた時だ。
 下の階の何かが反応して家中に妙な音が鳴り響いている。
「ガンガンガンガン!!」
 それが何の音か分からずに俺が起きると、イヴァンが既に起きていた。
 壁掛けを少し開けて外を見ているので俺は気になってイヴァンのところに行った。
「何の音、これ?」
 まだガンガンと鳴っているけれど、それを聞きつけたらしい近隣住人が起き出して外を見ている。そしてその中を街の方へと逃げていく人影がいたけれど、その人達が兵士と搗ち合って大きな騒ぎになっている。
「強盗だ」
「え、街の中でもいるの?」
「いるよ。この街にも冒険者崩れはいるんだよ。それにごろつきもいるからな」
「そうなんだ……でもなんで?」
やっとガンガン鳴っていた音が止まり、外の騒ぎも落ち着き始めたようだった。
 兵士が三人ほど屋敷にやってきたのでイヴァンと一緒に一階に降りた。
「すみません、防犯装置が思ったよりも鳴ったようで……」
 イヴァンがそう説明をして兵士に謝っているけれど、家の中に設置するやつをわざと塀を越える時になるように設置したらしい。
「ダメですよ、これは家の中に設置するものですよ。外に設置したらこんな風に大騒ぎになります。でも今回は本当に強盗がいたようなので仕方ないですね。ちゃんと外の防犯用に変えてくださいね」
「分かりました」
 イヴァンが素直に謝ったら兵士はそれで許してくれた。
 近隣の人も強盗が捕まったことを知ってホッとしていたようで、うちの大きな騒音は問題視されなかった。でも二度目はないねこれは。
 とにかく起こされた人達はあくびをしながら家に戻っていき、兵士達は強盗十人ほどを連れて街に戻っていった。
 俺とイヴァンのところにもう一回兵士がきて言った。
「昼頃でも構いませんので検問所の詰所にきてくださいね。そこで取調べがありますので」
「分かりました」
 イヴァンがそう答えたので周りに残っていた住人達も家の中に消えていって静かな夜に戻った。
 俺たちも家に戻って戸締まりをちゃんとして、また布団に入った。
 その後は疲れていたのでぐっすりと朝まで眠った。


 次の日に検問所の詰所に行くと、昨日の調書を受けた。
 とはいっても既に捕まった盗賊達が罪を認めたらしい。
 どうやら俺が沢山薬草を納品した上にまだ持っていると話していたのを聞いたせいだったみたい。
「横取りですね。冒険者組合が商業者組合に流す前に横取りした物を商業者組合に買い取って貰えれば儲けられると考えたみたいです。貴重な薬草も多数納品されたそうで、そりゃ狙われますね」
「……ああ、そういうことですか」
 俺はどうやら見せてはいけない納品物を見せてしまったために狙われたらしい。
「よくあるんですよ、横取り。でも横取りをした証拠がないので……大体は泣き寝入りになるんですけど、昨日は目撃者も多数いましたし、言い逃れはできない。これまでもあいつらの余罪はあるんですけど、今回のことを認めた程度では精々街から放逐される程度なんですよね」
 なるほど、一回の罪を認めれば、他の余罪はしらばっくれると。
 そうすれば精々この街での犯罪記録は残るがこの街以外ではそれを調べられる方法はないわけだ。
 冒険者崩れなので冒険者としては再登録はできないし、抹消されているからそもそも冒険者ではないけど、それでもその振りをして他の街に入ることはできる。通行料を払えば入れるしね。
「気を付けてくださいね」
「はい、気を付けます」
 調書は一時間ほど質問に答えたけれど、俺たちは全然悪くなかったので特に言えないことはなかった。でもイヴァンの装置の設置が間違っていたことで近所を騒がせたことは怒られた。
 イヴァンが言うには。
「あいつらに付けられているのは分かっていたが、装置があれしかなかったから仕方なくそれを設置した。レギオンとアッザームがいれば買いに行って貰うこともできたんだけどな」
 急ごしらえなので家の中に入れるよりは門で防ぎたかったらしい。
でもそのお陰で家に入られることなく撃退できたので良かった。
「イヴァン、ありがとうね。帰りに魔導具買いに行こう」
 俺がそう言うとイヴァンは頷いた。
 結局魔導具を買いに行って帰ろうとしたら冒険者組合から出てきたダヤ副組長に見つかってそのまま冒険者組合に連行されてまた怒られた。
「大人しくしてろと言っただろ」
「俺たちは大人しくしていたけど、強盗がきただけです!」
 俺はそう言い返してまた何故か怒られた。
 理不尽すぎない?
 なあ、理不尽だよな?
 俺がそう思っていると俺の中のナビゲーションが告げてきた。
『創造魔法が成長しました。知りうる物の製造、複製が解放されました』
「ん?」
 俺は思わずそれに声を上げてしまった。
「どうした、ハル?」
「え、あ、うん。大丈夫」
 俺はとりあえず誤魔化した。
 何か知らんが創造魔法の中でも特殊な解放がきた。
 特殊過ぎて何に有効なのか分からんけどな!


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