彼方より
031
イヴァンと二人で過ごす-迷宮へ
何だかんだと俺は悩んだけど、焦りは何も生まないって思って地道に冒険者組合で仕事を探すことにした。
収納を使った仕事はモルトさんの一家引っ越し作業もあっという間に済んじゃったしね。
モルトさん夫婦たちの住まいは決まっていたけど、ご両親の家がなかなか気に入るのがなくて結局中古の家を取り壊して建て直したんだって。
家を建て直して二週間で引っ越せるってどういうこと?
俺はそう思ったんだけど、矮人族(俺の世界ではドワーフだね)だと二週間で家を建てられるんだって。
凄いな。と思ったけどモルトさんのようにお金持ちの人が頼んだ普通の家ならってことみたいだ。
実際、その一般的な老夫婦の家は俺がカザの街で住んでいた家みたいな簡易な家だったんだよね。広さはあったし、ご家族が揃うようの部屋とかもあったけど、結局老夫婦が住む家なのでそこまで部屋数も多くなく、必要最低限の設備にしたからってことみたい。
俺ももしあの屋敷に住んでいなかったら、そんな家に住みたいなと思ったような家だったよ。
そういうわけでモルトさんちの仕事はこれで終わり。
モルトさんのお店も一週間前にきっちりと荷物を運んで、もう店として開店もしてるよ。雑貨品の多いモルトさんの店はグノ王国から持ち込んだ魔導具品などが結構売れているみたい。
その魔導具は炊飯器。レテカではパンが主流だったみたいでご飯を炊くという魔導具はなかったんだ。稲も育つ地域なのと迷宮で魔物を倒すと米がドロップするんだけど、それを使い道が炊飯器で解決ってことみたい。
街の食堂で炊いた米が出始めたら、皆段々とハマっていった。
俺は米の事は知っていたのでモルトさんに話したことがあるんだけど、それでモルトさんはグノ王国から仕入れられるだけ仕入れたみたい。
それが爆発ヒットなんだからウハウハだろうね。
ご飯もので丼飯ってのを俺がモルトさんに教えて、まあ肉乗せて秘伝のタレをたっぷりかけるだけなんだけど、それをモルトさんの知り合いの食堂で作って貰ったらそこから爆発ヒットして今やレテカの街は丼ものが流行ってる。
今まで串焼きにしていた肉を載せるだけなので簡単だからね。
街はそういうわけで活気に溢れていて、俺はレテカの街は気に入っている。
とはいえ、俺一人で歩ける街ではない。
冒険者の多い街なので、平和に見えてもトラブルは多い。俺だけだとナメられるから結局今日もイヴァンを連れて冒険者組合に来ている。
レギオンとアッザームの二人は別行動で、彼らはモルトさんに紹介された護衛の仕事を請け負ったのだ。
シラバークまでの十日間の護衛の仕事。
詳しくは聞いていないけど、商隊の荷運びの護衛だそうだ。
俺が受けられればよかったんだけど、アッザームが俺が悩んでいることをレギオンたちに話してしまったので気を遣われてしまった。
荷運びばっかりでは俺もさすがにどうかなと思ってきていたのもあったんだよね。
もうちょっとできることを増やしたいと思っている俺に、イヴァンが付き添ってくれて冒険者らしい依頼を受けることにしたんだ。
冒険者組合は朝の依頼争奪戦が既に終わった後だったけど、豊富に依頼は残っていた。
俺には初心者レベルの薬草の採取がいいかもしれないとそこを見た。
「これって大丈夫だよね」
俺がそれを指差すとイヴァンがそれを見て頷いた。
「迷宮とはいえ、ちょっと入ったところだから魔物が出るとしても角兎くらいだろう」
イヴァンがそう言ってくれたので俺は依頼を受けることにした。
「鉄級の方が薬草採取の依頼ですか?」
なんて不思議がられるのは当たり前だ。
普通、これは青級から受けるような依頼なんだよね。
「あの、収納を使った依頼ばかりでこういう依頼を受けてこなかったので」
俺が正直にそう話すと受付は俺の依頼履歴を見て本当に俺が薬草とかの採取依頼を受けていないまま鉄級に来ていることを知ったようだった。
「まあ、本当にそうですね。とても珍しい経歴ですが、グノ王国からということですのでよくあることではあるんですよね」
そう受付嬢が言ったので俺は何でか理由を聞いたら、なんでもグノ王国の冒険者は満遍なく依頼を受ける必要がないらしくて一つに秀でていたらそれで階級が上がってしまうんだとか。
レテカの街では満遍なく依頼を熟さないと階級は上がれないし、特に銅級から鉄級に上がるには試験があるものなのだとか。
なので俺みたいに収納一個の技術で鉄級に上がることはレテカの街ではできないんだそうだ。
なので俺がグノ王国で鉄級までに上がれたことはとても珍しいけれど、正解の方法だったみたいだ。まあ俺が鉄級に上がったのも前例はそこまでなかったけど、あの組合騒動の中で上げて貰ったようなものだったしね。
そういうわけで俺は地道に下位の焦げ付きそうな依頼を熟していくことにした。
薬草はラヅーツの森の迷宮で取るのが一般的らしい。
ラヅーツの森は濃い森なのでそこで薬草取りをするのは初心者には向かない。迷宮の二階くらいの草原や森の多い場所で採るのが一般的なんだそうだ。
俺は迷宮にはいかないと言っていたけど、結局行くしかないことになっていた。
運命ってのは分からないね本当に。
舌の根も乾かないうちに迷宮だよ。
迷宮には入場料が必要だ。
入るのに銀貨一枚、千円くらいね。
それと冒険者証明書が必要なんだよね。
一般人が紛れ込まないようにしているのと、迷宮の異変を知らせる兵士を雇っているからその分の給料なんかを入場料で賄っているんだとか。
迷宮も魔物が間引きされないと魔物が溢れてきて集団魔暴走というものが起きて街が襲われるんだって。だから常に迷宮は兵士によって見張られている。
その見張りは領主が雇っているから、領主によって迷宮は管理されているので入場料は迷宮毎に違うのは仕方ないことらしい。
これでもかなり安くて冒険者がここに居着いている理由にもなっているんだ。
他の大きな迷宮だと、金貨一枚とかあったりするらしい。
金にがめつい領主じゃなくてよかったね本当。
そういうわけで迷宮一階へと入る。
入り口からかなり歩いても暗いだけで魔物は出ない。
これは迷宮ではよくあることらしいのだけど、暗さに慣れて動けるようになるように慣れる場所が一階らしい。
でも時々、スライム系がいることがあるので気が抜けない。
俺の武器は身を守るための短剣しかないけど、これだとスライムとか角兎を狩るのには向いているんだそうだ。
なので出てきたら倒すしかない。
「二階へ行くぞ」
「うん」
一階の暗さに慣れながら、光魔法を使って明かりの練習をしながらきたので何とか無事に階段を降りられた。
二階の明るさが見えてきてホッとした。
そして迷宮の二階。
階段の間から抜け出るとそこは草原になっていた。
「うわ、迷宮ってめちゃくちゃ広いね」
草原の奥には森が幾つも見えて、地下に潜ってきたはずなのに青空が見えるから頭の中がちょっとパニックになる。
「本当に空まであるんだ……」
俺の世界の小説や漫画でもよく迷宮は出てきたけど、広かったり一週間以上移動しなきゃボスに辿り着けないなど色々あったんだけど、正にこういうことなんだなと思い知らされた。
「周りには何もいないようだ。草原を歩きながら探していくぞ」
「うん」
俺が今回受けた依頼は、熱冷ましの薬草と回復魔法の素材になる薬草。
こんなに需要がありそうな依頼が焦げ付こうとしているのは、冒険者の街ゆえの問題らしい。
冒険者が集まってくると組織ができるし、皆強くなる。
となると実入りのいい強い魔物と戦うために迷宮に深く潜ることになる。
なのでこういう依頼は初心者レベルでないと受けなくなる。
もちろん初心者もいるんだけど、最初はやってくれるけどすぐに実入りのいい魔物討伐にいってしまうんだって。
この街には住民登録があって身分証明書がちゃんとあるので一般人が冒険者登録をすることはないんだそうだ。だからこういう依頼を月一で熟してくれる弱い戦力なんかが圧倒的に足りないのだ。
俺はそういう依頼こそ熟さないとなと思ってしまったのだ。
スライムや角兎などを狩る練習もできるしな。それに俺は強い魔物と戦いたいとは思わないので基礎ができればいいかな。
そういうわけで草原を歩きながら鑑定を使う。
それによって一気に周りの鑑定がされるんだけど、なかなかどうして全部が鑑定されてしまいちょっと目が回る。
「……これを、こうして選んでってできるかな」
俺が独り言を言っているとイヴァンが察してくれて言ってくれた。
「欲しいモノだけ思い浮かべれば邪魔な鑑定は消えるぞ」
「おお、おお、凄い本当だ」
ちなみに薬草だけ思い浮かべて鑑定をし直したら思いっきり薬草だけ表示されるようになった。しかもちゃんと位置まで分かるようになっている。
「ふふふ、これで俺も勝ったも同然よ!」
俺はそう言いながら薬草を片っ端から採取した。
依頼のではないのもあったけど、麻痺の解除の薬草とか石化防止の薬を作るために必要な薬草とか、ちゃんと理由が書いてあるやつが多かったのだ。
何に使えるかまで書かれているし、冒険者組合が引き取ってくれなくても俺が備蓄していくのもありだったからだ。
収納にはいくらでも入るし、時間停止がついているから腐らないしな。
どんどん採って収納に入れていくという作業を繰り返す。
そうしていると森まで辿りついたら鑑定をやり直し。
既に依頼分は終わっているけれど、俺は森も見てみたかったので近付いた。
「ハル、気を付けて」
そう言われて俺は鑑定をし直した。
すると周りの情報を魔物と薬草に厳選したら、魔物の鑑定が出てきた。
スライムの表示名が付いていたので俺は剣を抜いた。
すると二匹が森の木の中から飛び出してきた。
let's Monster Huntingってやつ。
スライムはぴょんと跳んで近付いてきて、俺はそれを避けて剣をスライムに刺す。
これだのことに五分もかかりました!
だって跳ねるし近付いてきたら怖いしで、逃げながら追いながらってやっていたら五分もかかってやっと一匹よ。
もう一匹も避けながら何とか仕留めたのだけど、結局二匹のスライムに無傷とはいえ、十分も掛かってしまったんだ。
はあやったと思っていた何故か小さな拍手がした。
それも一人の拍手ではない。
「な……に……」
俺は驚いて振り返ると、イヴァンの側に別の冒険者が二人ほどいるのだ。
「初討伐おめでとう」
「時間はかかったけど、無傷なのはいいね」
「初々しい~」
そう言われてしまいちょっと恥ずかしい。
一人は紺色の髪に赤い目の頭に耳が付いているので恐らく狼人族(ライカン)だ。剣と腕に盾らしいものが付いているので剣士なのだろう。イヴァンよりも身長が10センチほど高そうな体をしている。
そしてもう一人は矮人族らしい。背が低くて体が大きい、灰色の髪に灰色の髭に灰色の目と灰色三昧だけど、光に当たって白く見える人だった。
「えっと……どなた?」
俺はよく分からないけど、イヴァンとこの人達は知り合いのように和やかだったので思わず尋ねていた。
「俺はカルロ・ラザーロ、狼人族だ。こっちの矮人族がマッテオ・ポエリオ。俺たちは終焉の業火っていう組織のものだ」
そう自己紹介をされて俺はやっぱり組織名は中二病から脱せないんだなと思った。
もちろん顔には出さなかったけれど。
「ハルです、人族の括りですけどちょっと色々と特殊なのでなんて名乗っていいのかわかりませんが……炎炎組織の一員です」
俺がそう自己紹介をするとカルロがちょっと驚いている。
「へえ、イヴァン、とうとうレギオン以外の組織員を入れたんだ?」
「色々あって二人入った」
イヴァンがそう淡々と答えるとマッテオも驚いている。
「初心者を二人も入れたのか?」
「いや、もう一人は銀級のやつ。ハルは戦闘は経験してない補助の能力だけで鉄級だぞ」
イヴァンがそう言うと二人がやはり驚いている。
「補助だけで鉄級だって? マジかよ特殊過ぎるだろ?」
「え、補助ってどの能力?」
二人が口々にそう言うのでイヴァンは俺を見る。
「うん、いいよ話しても」
イヴァンが信用している相手のようなので俺はそう言っていた。
なのでイヴァンは俺との出会いをちょっと嘘を混ぜて話した。
例えば、俺が異世界人であることは伏せたし、称号が聖女であることも伏せた。
出会いもイヴァンが襲ったとかはなしにして、普通に宿が隣でという話になった。
それで俺たちは付き合っていてレギオンも俺に惚れて、こっちに戻ってくるときに俺が鉄級になったから炎炎組織に誘って、その旅の途中のベルテ砂漠でジニ族のアッザームと知り合って意気投合して連れてきたと。
俺がまだ戦闘ができないので一人を守りにして二人が戦う形にするとよいのでってことでアッザームが入ることになったという経緯。
全員が俺目当てであることは伏せているけれど、大丈夫かな。
「ほう、俺に嘘を話すとは幾らなんでも舐めすぎなんじゃね?」
「そうそう、本当のことを言って貰おうか?」
その話を聞いた二人は、はいそうですかとは聞いてくれない人だったのである。
どうすんのよこれ。
俺はその人達がイヴァン達にとってどういう人なのか分からないので何も言えずにイヴァンを見たのだった。
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