彼方より 027

レテカの街でお買い物

 レテカの街での買い物は大体済んだので、街を探索した。
 街は綺麗に整備されていて、大きな通りの周りに商店がならび、裏通りにその民家などが並んでいる。それぞれ区画ごとに家具類の通り、洋服などの服飾系、鍛冶などの通りには防具や武器屋がある。
 食品通りには食べ物屋が多くあり、露店もある。
 特産品は魔物の肉。
 ラヅーツの森には魔物がいるのでそこで取れるものや、浅い森のクムの森から取れるものとある。砂漠からも砂漠の魔物の肉が入ってくるので肉料理はかなり有名だとか。
 もちろん他の街でもラヅーツの森には入れるけれど、冒険者が多い街でないと素材は売れないので結局レテカに集まってしまうんだって。
 そういうわけでその素材を使った鍛冶屋が沢山いて、武器も良い物が集まっているらしい。
「本当に武器は豊富だな」
 なんでもレテカの街の外れには迷宮も三つくらいあってそこで取れる金銀財宝が集まってくる。それが領地を潤している。
 俺は迷宮にはいかないんだけどさ。
 金銀財宝は見ていて凄いなと思った。
「欲しいのか?」
 アッザームに言われて俺は首を横に振った。
「そうじゃなくて、見てるだけでいいかなってやつ。ほら別に欲しくなくても凄いのをみるとわーっと気分が上がるじゃん」
 俺がそう言うとアッザームも気持ちは分かるのか頷いた。
「欲しいモノじゃなくても金銀財宝はあるだけでも違うからな」
「俺は迷宮には潜れないからさ、実際こういうのを目にしたこともないから、ちょっと面白いなって」
 ショーウインドウに並んでいる金貨とか宝剣とかが並んでいるのを見たらそりゃ面白いよね。
 宝箱に沢山入っているのを並べているのは宝石店で、これは客寄せの宝物らしい。
 それを通り過ぎて武器屋も見るが、魔剣を売りに出していてそれが金貨百枚もするものが並んでいる。
「わあ、凄いな」
 まるで聖剣みたいな大きな宝石がついている。
「あれは魔石で、そこに魔力を込めて剣に魔力を付与させるんだ。そうしたら派手な技が出る」
 イヴァンがそう教えてくれた。
「へえ、それで魔物を倒すのか」
「こういうのは迷宮の深いところにいる魔物を狩るときに役に立つ」
「そういえば、迷宮って深さはどれくらい?」
「レテカの周辺のものは深いので階層は五十階だな。浅いのが三十階。残りが四十階なんだが、年々育っているらしくて最下層のボスがまだいないんだ」
「迷宮って育つの?」
 それは初耳だ。
 迷宮が育つって凄く不思議だなあ。
「迷宮ってのは大体育つものなんだよ。できはじめ二階くらいから始まって、階層ボスを倒しても終わりじゃないんで分かるんだ。迷宮には最下層ボスってのがいるのが通常だから。それで育っている迷宮はそのボスがでてこないままだから百年くらいかけて育つ」
 迷宮は踏破してしまうと、それ以上の育たなくなって魔物もあまり湧かなくなるんだとか。冒険者として踏破してしまうよりも迷宮のボスを狩らないで置く方が街の発展にはなる。
 しかし街の位置などによっては踏破して迷宮を消すしかないんだってさ。
 レテカの迷宮は浅いので魔物は間引きもできていて、迷宮もちゃんと育っているのでレテカの街は繁栄してるってわけ。
 砂漠の入り口にあるウヤが閉鎖的なのもあるけれど、迷宮のお陰でレテカの街は更に繁栄しているんだって。
 その迷宮はここ百年くらいに発見されたのでまだまだ若いから、もっと育つ予定らしくレテカの街は向こう五百年は安定するみたいだ。
そういえば深い階層の迷宮は九十五層まで到達しているとされるらしいが、まだ最下層に届かないらしい。一層を踏破するには年単位の準備と時間がかかるからよほどの支援と組織がしっかりしていないと踏破も結構難しいらしい。
 迷宮は見つかるごとに冒険者組合に報告されて国によって管理され、その委託で冒険者組合が管理を補助している。
 なので力の足りない冒険者の無謀な入室は冒険者組合の冒険者身分証明書によって管理されそれを持たないものは禁止されているらしい。
 俺は結局冒険者とはいえ、補助なのでもし迷宮に入ることになっても荷物を持つだけなので戦いはしないけど、迷宮の魔物は肉が美味しいのでそれを売るために潜る冒険者も多いんだって。
「イヴァン達も潜ってるの?」
「いや俺たちは迷宮専門じゃないから、精々肉欲しさに浅いところを潜るくらいだな。ああいう大きな迷宮は少人数で潜るものじゃないしな。俺らは二人だったしな」
「あ、そうか。二人じゃ深くは潜れないよな」
 俺はそう言ってちょっとアホなことを聞いたなと笑ってしまった。
「大昔は組織に混じって潜ったことはあるが、正直踏破するのに夢中にはなれなかったからな、俺もレギオンも。だから迷宮は早々に潜るのもやめて二人でも冒険者ができる道を選んだんだ」
 イヴァンの言葉に俺は結局仲間との気持ちの差で二人は迷宮の魅力には取り憑かれなかったんだね。
 ほらよく冒険者は迷宮に潜ってこそみたいなものがあるらしいけど、俺もそれは全然なので恐らく魅力は分からないのかもね。
 宝石とかザクザクなのは面白いけれど、それで迷宮を目指すかと言われたら目指さないしな。
 結局、観光をしながらイヴァンとレギオンの話を聞いたり、アッザームのことを聞いたりして、お互いの情報交換になった。
 アッザームは街で過ごすのには慣れていたようで、ちょっと安心した俺である。
 聖女の奴隷になってまで付いてきたから、街の生活はどうかなと思っていたんだけど、全然大丈夫そうだ。
「アッザーム、人混みは大丈夫か?」
 俺がそう聞くとアッザームはうんと頷いた。
「俺はよく街に来ていたから慣れている」
「そうか、それならいいんだが」
「それに、ハルがいるから全然大丈夫」
 ニコリと笑ってアッザームがそう言うと、周りの女性達がキャーと喜んでいた。
 あ、こいつこの笑顔で女性を沢山食ってきたやつやん……っ!
 俺はそう思った。
 アッザームもイケメンだけど、異国風な雰囲気あってエロいんだよな。視線とかが。
 こいつ分かっててやってんだろうからたち悪いよな。
「……なんだ、これでもハルは堕ちてこないんだな」
 アッザームがそう言い、俺はこいつの小悪さを知った。
 そういえばこいつも俺のこと問答無用で襲ったんだったな。
 どの口で今更口説いてきてんのかね……。
「ハルはそんなことでは堕ちない」
 イヴァンがそう言って俺を抱き寄せて目を手で伏せてくる。
「わ、わ、見えないってば」
「見なくていい」
 イヴァンは嫉妬している。
 俺はそんなイヴァンに寄りかかった。
 するとそれでイヴァンは安心するのか俺を抱き締めてから離してくれた。
「さあ、買う物買ったし、アッザームの証明書をもらいに行こう」
 俺はイヴァンにそう言い、それから振り返ってアッザームに笑いかけた。
「アッザムも行こう」
 アッザームの愛称のアッザムと呼んでみたら、アッザームはちょっと戸惑っていたようだけど、ワッと子供みたいに笑った。
 俺にはちょっと小さい子みたいな感じなんだけど、どうみてもこの中で一番年上なんだよな。
 あ、あれか。生まれながらに甘えられる環境じゃなかったから甘えたいのかもしれない。
 分からんけど!
 甘えられる時に甘えておけばいいんだよな。
 俺だってイヴァンにもレギオンにも甘えられているしな。
 二人と腕を組んでそのまま冒険者組合に行ってアッザームの証明書を受け取った。
 ついでに今ある街の依頼書を見てから家に戻った。
 街の中心から十分、冒険者組合からは十二分なのでとても便利になった。
 もうちょっと慣れたら一人でも行動ができそうだ。
 歩いて行動ができるのは本当に有り難い立地だ。
 家に戻ると家の外観が綺麗になっているのに気付いた。
「あれ、綺麗になってる」
「ほんとだ」
 俺とアッザームがそう言うとイヴァンが言った。
「レギオンが業者に頼んだんだろ」
 なるほどだから俺たち全員街に行けって言ったのか。
 さすがレギオンだ。
 綺麗になった外観は周りの景色にしっかりと馴染んでいる。
 もちろん塀に囲まれているから上の方しか見えないけど。門を潜れば庭まで綺麗に掃除されているのが分かった。
 木々は選定されるか伐採されているし、畑にしていた部分は耕されている。
 壁を張っていた蔦は綺麗に剥ぎ取られていたし、薄汚れていた部分も汚れがない。
「一日でできるもんなのか」
 俺はこういう屋敷の掃除を見たことはなかったんだけど、不思議そうに言うとイヴァンが言った。
「専門の清掃商会に頼んだんだろ。ああいうのは一軒家を一日で綺麗にしてくれるものだ」
 そう言われて恐らく魔導具とか魔法とかを使った清掃なんだと気付いた。
 本当にそうで、清掃と浄化などを使った清掃を専門としている商会があって、街には二、三件あるものだそうだ。俺は自分たちで掃除をしていたし、清掃には生活魔法を使っていたけど、こういう大きな家になるとそういうわけにはいかない。
 なので清掃商会に頼むんだって。もちろん人数と汚れに応じてお金はピンからキリまでなんだけどね。
 俺はそれを幾らなのかはきかないことにした。
 たとえ、俺の発言が元で掃除をしたのだとしても、掃除をすると決めたのはレギオンだし、炎炎組織の専用屋敷になっているから俺の働いた分もそこに入ってるからね。
 俺の配達の仕事は炎炎組織が受けた仕事にしてもらっている。
 そのお陰で俺には取り分が減っているけれど、モルトさんの仕事は大きかったし、これからは他の仕事もするだろうし、そこは気にしていない。
 俺は炎炎組織に入ることで身の安全を買ったのだと思えばそこは妥協すべきところなんだよね。
「ただいま~」
 俺が声をかけると調理場の方からレギオンが出てきた。
「帰ったか、腹が減っているだろう?」
「うん、沢山歩いたからね」
 俺はそう言って香ってくる香辛料を使った肉料理の匂いを嗅ぎつけた。
「あ、これスパイシーなやつ」
「ちょうどいい肉をハルが持っていたからそれを使った」
 俺が収納に入れっぱなしにしていたカザの街から持ち込んだ肉の塊をレギオンが欲しいと言っていたので渡しておいたのだ。
 あとはこの世界には冷蔵庫もあるし、大きめの貯蔵庫もあるのでそこにはすぐ使うものを取り出しておいてある。
 スパイシーなのは俺がグノ王国から持ち込んだものだ。
 いつかちゃんとしたスパイシーな肉を家で再現するぞと思って買っておいたんだけど、俺では再現しきれなかったのでレギオンが挑戦していたのだ。
 なので夕食には大好きな肉料理が並んだ。
 野菜は買ってきた分をさくっと切ってサラダにした。
 肉は大きめのオークの肉で、これがまた美味いんだよね。
 先に荷を指定の場所に置いたりしてから食堂に入るとそこには料理が長机にならんでいた。
「絶対美味しいヤツ」
 俺はそういい、早速椅子に座った。
 イヴァンもアッザームも座ってレギオンが座るとすぐに食べ始めた。
 肉はジューシーで少し硬めだけど、しっかりと香辛料を使っているからその方が美味しく感じた。
「うん、美味しい」
「美味いな」
「これはいいな」
 皆がそう言うからレギオンがちょっと嬉しそうに笑っている。
 料理を褒められるとレギオンは本当に嬉しそうにするんだよね。
 なので俺はレギオンのことは素直に褒めることにしている。
 イケメンの普段の陽気な笑い方もいいけど、ちょっと照れたように笑う顔はとにかくいいんだよ。
 俺はそう思ってニコニコしていた。
 食事は男所帯なのであっという間に食べ終わる。
 俺だけは最後まで残ってしまうので、レギオンが最後まで付き合ってくれた。
 イヴァンとアッザームは俺が出した荷物を受け取って風呂やお手洗いなどの魔石を補充する作業をしている。
 風呂は入りたかったのでそれもお願いした。
 食事を食べ終わったらレギオンと一緒に片付け。
 半分はレギオンが片付けていたから、俺はほぼ自分の使った食器だけ洗った感じだけどな。
 この屋敷の設備はとてもよくて、水も惜しみなく出るし、お手洗いの水も結構すっきり流れる。水はこの屋敷の裏手にある井戸から汲み上げているんだんけど、どうやら山に雨が降って井戸に水が溜まるのでこの街は降水量もそれなりにあるようだ。
 まあ、冒険者が移住してそのまま定住しちゃうような街だから発展しているんだろうね。
洗い物が済んでしまったらレギオンが俺にキスをしてきた。
 もちろんキスはスパイシーな味がしたけど、それはそれで面白かった。
 長くキスをしていたらちょっとエッチな気分になったけど、キスはキスだけで終わってしまった。
 それから居間の方に集まって風呂のお湯が堪るのを待ちながら、イヴァンは俺にべったりしながら本を読んでいたし、俺は俺で魔法の本を読んでいた。
 アッザームは織物上に座って俺の近くにいたし、レギオンはちょっと離れているけれど、さっきキスしたしいいのかな。
 お風呂にお湯が貯まると全員でお風呂に入った。
 もちろんそれだけで済むわけないよね。


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