彼方より 025

砂漠を越えセフネイア王国へ

ベルナ砂漠を渡って五日目、砂漠最後のオアシス、ラビの街に到着した。
 普通だったらもう一日かかるところ、ジニ族の人たちに護衛してもらったのと最短距離で移動をしたので一日早くラビの街にきた。
 そこはセフネイア王国のウヤの街まで一日の距離でここからは商隊も人通りも多くて盗賊も警戒をして近付かない街になる。
 ジニ族たちにはラビの街に入るまで見送って貰ったので街の人から何事だと心配をされた。
 でも俺たちの中にジニ族らしい特徴のアッザームがいたのでジニ族出身がいたので見送ってくれたのかということで兵士が落ち着かせた。
 そのアッザームであるがちゃんと冒険者だった。
 アッザーム達の犯罪、通行料を貰うという犯罪は実は犯罪にならないんだって。
 ジニ族はずっとここで暮らしているし、通行料も法外でもなかったし、狙う商隊は寧ろ護衛に付いて貰えるってことでジニ族を訴えてなかったので三国の法律にも犯罪とは認められないとされているんだってさ。
 なのでジニ族自体は減っているし、村を出てしまう人も増えているのでジニ族自体が周辺の国に住んでいるのは珍しくはないんだ。
 それでも真っ黒な衣装の駱駝のような乗り物に乗ったジニ族を砂漠で見れば誰でもびっくりもするし怯える。
 でも彼らがとても強い集団で、統制も取れているからこそベルナ砂漠は盗賊もそう多くない場所なんだってさ。
というわけでアッザームはちゃんと冒険者であるからラビのオアシスに入ることができた。
 本人曰く。
「よく来ているし、食べ物も買ってる」
 ということだ。
 この周辺では肌の黒い人が多くて、実際ジニ族とその人達の区別はできない。
 なので彼らを真似た犯罪者がよく出るらしいが、ジニ族はそういう人々を討伐して見せしめをして証拠も出してくるっていうからびっくりだよね。
 だから蟻地獄で殺されたと言われている人達はそういう盗賊だったんじゃないかってことみたいだ。
 そういうわけでラビの街には沢山の肌の色が違う人たちがいる。
 街は豊かで水も食べ物も豊富だ。
 三国から集まるだけではなく、山や森からも色んな魔物の肉が入ってくるし素材も売っている。
 これらを買い付けてセフネイア王国や他の国で売るなんてこともできる。
 買取りは安く買い叩かれるらしいけど、街に入る通行料を気にする人たちは原価でも売ってしまうんだとか。
 ちなみにウヤの街に入るには手数料は金貨一枚。セフネイア王国内から通行書を貰って入るには銀貨一枚。
 最近、ならず者が増えたとかでお金を取るようになったみたい。
 なので俺たちはウヤの街には入らないでレテカを目指すことになってる。
 ラビの街が最後の砂漠になるのでその日は宿に泊まったけど俺はもちろん監禁中。
 街を楽しみたいけど、俺の収納の中にはモルトさんの全財産が入っているからね。そこは自重しなきゃ。
 そういうわけで食べ物だけ買ってきて貰って大人しく食べて寝た。
 というか昨日もその前の日もお仕置きされて疲れてるからぐっすりと寝た。
 もしかしてラビの街で寝かせるためにわざと出かけられないようにされたとか言わないよなと思ったりもした。
 でも砂漠の街は面白そうだったのでまた来てもいいかもしれない。
 ラビの街までなら一日だしね。


 次の日の日が明ける午前二時にはラビの街を出る。
 来たのは七時間前だったけど早めに出ないとレテカの街に夜までに辿り着けないからね。
 砂漠は浅いところになると道がちゃんとしてきて砂に埋もれているけどそれらしい道が見つかるようになる。そうなると馬車を引いている馬の足が早くなる。
 なので街道まできたなら後は道なりに進む。
 お昼前にはウヤの大きな街の城壁が見えてきた。
 その街の横になるセフネイア王国の街道シラフ街道に出る。
 そこにはセフネイア王国側からモルトさん一家を迎えに来た馬車が待っていた。
 馬車に乗り込むのは俺たちとモルトさん一家。
 氷の刃の人たちはここでお別れ。
「いや、なかなかできない体験ができたよ」
 リアさんはそう言って笑っていたけど、ジニ族が出てくるとは誰も思ってなかったよね。本当に。
「また何処かで」
「じゃあな」
 冒険者が別れるときはあっという間、お互いにあれこれやることがある。氷の刃の人たちはラビの街に戻り、またグノ王国まで戻るんだって。そこでまた護衛の仕事を受けてくるんだって。今は儲け時だから強行軍らしい。
 俺たちはモルトさん一家の護衛も引き受けることになるのでレギオンとアッザームが鳥馬に乗って外を走っている。
 馬車は三台だけど飛ばせるのでレテカの街まで数時間で着く予定だ。
 道中何もないといいなと思いながら、俺はイヴァンとモルトさん、それとモルトさんの奥さんと一緒に馬車の中。
 もう一台にはご両親とお子さん達二人が乗っている。
 何だかんだで外の景色を見たりモルトさんとこの先の話とかしていたらレテカの街には夕刻に入ることができた。
 最後は強行軍だったけど、それでも無事に着いたのはよかった。
 

 レテカの街はセフネイア王国にある西から二番目の大きな街になる。
 クムの森やラヅーツの森、ベルテ砂漠から入る物を扱いながら、国外に輸出するようなものが揃っている。
 なぜウヤの街がそうではないのかというと、ウヤの領主の貴族はちょっとガメツイんだってさ。
 そこで街に入る手数料は身分証明書があれば要らないとしているレテカの街に冒険者が集まるようになったんだ。
 なので冒険者がここを拠点にしていることも多いって。
 まあ立地的にはもうちょっと王都シラバークに近いスザの街というのが人気らしいけど、王都に近いと呼出しも多くて面倒なんだってレギオンがレテカに拠点を移したらしいよ。
 そこでメキメキと階級を上げたから、レテカの組織の中では一番強い組織として炎炎組織は名を知られている。
 城門を入る時なんか。
「あ、おかえりなさいませ」
 と凄く丁寧にイヴァンは検問の兵士に言われてた。
 ちょっとイヴァンはそう言われることに居心地が悪そうだった。
 あんまりこういう感じは好きじゃない方だと思ってたけど、やっぱりそうみたいだな。
「金級になったんですね! おめでとうございます!」
「ああ」
 イヴァンは人見知りじゃないけど、喋りたい相手とそうでない相手の差があるよな。
 必要じゃないと喋らないし。
「こちらは鉄級なんですね。補助の鉄級は珍しいですね」
「どうもです」
 俺はにっこりと笑って挨拶をした。
 第一印象は大事。
 するとちょっと兵士の人が照れていた。
 可愛いね~、俺よりちょい上なのにな。
「ハル……色目はダメだ」
 そうイヴァンに言われて俺はモルトさんに笑われてしまった。
 冒険者証明書があるのでレテカの街には無料で入れる。
 モルトさんたちは家族分の入場料を払っている。
 これは後で身分証明書を役場で作れば返還されるらしい。
 レテカの街って結構親切だね。
 そりゃウヤの街よりレテカの街を選ぶよな。
 そう思いながら街に入ると、ちょうど宵闇の時間。
 街には人が溢れている。賑やかな街並みはカザの街並みに豊かな証拠だ。露店もまだまだ出ていて、日が暮れるからと街灯が付き始めている。
 俺はそんな街並みを見ていた。
 カザの街よりも大きくて、気候も緩やかで一年間ほぼ変わらないんだとか。長袖を着ているくらいで済むし、夜でも上着一枚着たらちょうどいい。
 俺たちは先に宿泊施設に寄って、モルトさんの奥さんを降ろした。
 俺とイヴァンとモルトさんはそのまま倉庫に移動する。
 そのまま倉庫に荷物を全部降ろして、ついでにモルトさんちの家の荷物とご両親の引っ越しの荷物も降ろした。
「まだ義両親の家が決まっていませんので、引っ越し作業は決まり次第、お願い致します」
「はい、分かりました」
 俺はそう言ってやっと荷を全部納めてホッとした。
 これで俺がいなくてもモルトさんたちは最終的には困らないからだ。
 レギオンがモルトさんに自分たちの拠点になる家の住所を教えていた。
 それによると街の中の家ではなく、小山沿いにある屋敷に住んでいるようだった。
 倉庫からの方が近いかもしれない距離で、街まではひとっ走り。道中には街道があってそこには家が沢山建ち並んでいる。その登り切った先に二軒の家があってその片方がイヴァンとレギオンの拠点だという。
 でも鳥馬を返さなければならないので中心地まで戻り、そこでモルトさんと別れた。
「それではお疲れ様でした」
「また後日」
 そう言い合って別れて俺はイヴァンたちと家に向かった。
 街並みは綺麗で大通り一本で屋敷までいけるので迷子になることはないけれど、一キロほど歩いたかもしれない。その間の街道沿いには家が建ち並び、庭付きの家として賑わっているようだった。
 その坂道を上がりきるとやっと二人の家に辿り着く。
 俺とアッザームは付いてきただけなので屋敷のことは初めて見るけれど、とにかく大きかった。
 元々貴族が住んでいた家だったけど、その貴族が引っ越してしまったためにずっと空いていた屋敷。それを報酬として二人が貰ったので拠点にしたっていうだけだから、もちろん家はそれこそ見栄えはいいが汚れていた。
「うわ、汚いな。掃除は全然してないね」
 薄暗い中でも汚れていることは分かるのではっきりとそう言うと二人はちょっと慌てていた。
 掃除するにもずっと出かけているので掃除をする間はなかっただろうし、かといって休みの日に綺麗にするかと言われたらしないんだろうな。
 家事が得意なレギオンもちょっとだけ気不味いようだった。
「明日は休んでも、モルトさんちの引っ越しが終わったら、この屋敷、綺麗にするぞ」
 そう俺が言うと、イヴァンもレギオンも頷いた。
 でもアッザームだけはこの家が汚れているという感覚はあまりないみたいでキョトンとしている。
 そのまま門を開けて中に入り、イヴァンが「明かり」と言うと家中の明かりが灯った。
 玄関の床は光が反射して光っているし、ドアを開けて入ったら彫刻の怪しげな生き物の石像があるし、窓はステンドグラスで綺麗だし、階段は左右に上がり口があって、上には廊下が見える。
 玄関の大きさだけでもたぶん俺がカザの街で住んでいた家くらいある。
 そんな部屋の右隣がダイニングで、奥に調理場がある。そっちの奥には使用人の部屋が四つ。
 左隣がリビングで奥に風呂がある。その奥の部屋は書斎などがあるらしいけど前の貴族が本を全部置いて行ったらしくてそのまま残っているという。
 この家のトイレは階段下。
 二階に上がると憩いの場があって左右に部屋が四つずつ。全部で八つの部屋が二階にある。
 とりあえず近い部屋をイヴァンとレギオンは使っているので俺はその向かいの部屋にした。ちょうど街が見える方の部屋が余っていたので選んだら何故かイヴァンが付いて一緒の部屋にすると言って寝室の準備を始めた。
 まあ、ずっと四ヶ月くらい一緒に暮らして大きなベッドとはいえ三人で寝ていたからそのつもりなのだろう。
 でもレギオンはそのまま自分の部屋に入ったし、アッザームも部屋は選んでそっちで準備している。
 イヴァンは俺が詰め込んで持って来たカザの街で買い込んだ寝具を貰ってそれを敷き直している。
 それを放置して調理場に行って買った鍋などを出して片付けた。
 そこにレギオンがやってきて手伝ってくれた。
 お腹が空いているのでダイニングに皿を用意して収納から肉などを取り出して並べた。今日は簡易でも仕方ないなと思っていたら全員が揃ったので黙々と食べた。
「色々足りないな」
「ああ、アッザームの物が足りてないだろう? お前の服はちょっと目立つからもっと街の雰囲気に合わせろ」
 アッザームは黒いローブを纏っていて、中はガチガチの武装をしている。
 砂漠での武装なので相当ガチのものらしく、簡易なものにするようにとレギオンに忠告された。
「分かった、明日買いに行く」
「そうしてくれ。ついでにハルも一緒に行って街の様子を眺めてこい」
「うん、そうする。イヴァンも行くよね?」
「当たり前だ」
 明日は街を観光するってことで話は纏まって、レギオンは一人別の用事に出かけるという。
 そのついでにアッザームを炎炎組織に入れるかどうかはイヴァンとレギオンに判断を任せることになる。
 俺は何も言わないし、レギオンはちゃんと考えているだろうし、アッザームはそこまでずうずうしくはないけれど、どうせ俺が出かけたら付いてくるんだろうし、結果は見えているかも。
 俺らはそれぞれに淡々と用事を決めたり、家のことをどうするかで話し合って、その日は大人しく寝ることになった。
 散々旅中にも好き勝手してくれたからさ、俺は大人しく寝たくて布団に入ったんだけど、最初はイヴァンだけが寝ていたけど、レギオンは寝る挨拶に来ただけで部屋に戻っていった。
 その後にアッザームが部屋にやってきたので空いている方に寝かせてやった。
 何か感激して俺にくっついていた。
 たぶんレギオンはずっと俺を旅の間独占していたから、アッザームに寝るところを譲ってやったんだなと分かったのでちょっと可愛いなレギオンとか思った。
 とりあえず、生活基盤がちゃんとするまではセックスしてる余裕はないから、俺はちょっとだけホッとしたけど、ちょっとだけ不満だったのは秘密だ。


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