彼方より 022

ベルテ砂漠にて出会う三人目

 いよいよベルテ砂漠の旅。
 モルトさんは自分たち家族の護衛に、一つの冒険者組織を雇っていた。
 全員で五人の所帯。
「やあ、君たちが別の護衛をしている炎炎組織の人かい?」
 そう言ってやってきたのは氷の刃という組織の代表。
「あたしはアウレリアーノって言うんだ。面倒だからリアって呼んでくれ」
 アウレリアーノさんことリアさんは身長二メートルもある女性。筋肉隆々で力が強いんだろうね、武器は斧。やるな本当に強いんだ。
 赤い髪に黒い肌、溌剌としている笑顔でいい人そう。
それからエランさんは黒髪に青い目の剣士、やはり百九十センチくらいある。細めな体型。豪快に笑うところがリアさんに似ていると思ったら弟なんだって。
 女性がもう一人、マコネさん剣士だって。百八十センチだけど気が強そうな目つきとかしてる。強そう。
 サイハさんは白髪に金の目をした賢者、百九十センチの細め、魔法とかで援助するんだって。鋭そう。俺に鑑定をいきなりかけてきたやばめな人。
「あ、隠蔽してるんですねさすがに」
 とか言われちゃった。
 なのでイヴァンに警戒されちゃった人でもある。
 そしてテロアさん、二メートル二十センチ筋肉隆々の巨体、盾だって、頭はスキンヘッドに黒目の人。喋らないで頭だけ下げてきたので人見知りしてる?
「あんたが可愛から照れてるんだよ」
 リアさんがそう言ったので何かリアさんとテロアさんでこそこそと言い争いが始まってしまった。
 何だか楽しそうな人たちだね。
 というわけで俺たちも自己紹介をした。
 イヴァンは剣士、剣聖持ちだって分かったらエランさんとマコネさんが尊敬の眼差しでイヴァンを見ていたよ。
 剣士にとってその最高峰であるのは剣聖らしいんだけど、その剣聖は生まれながらの称号なのであとから解放されない限りは滅多に剣聖にはなれないらしい。
 レギオンも剣士、剣聖はないけれど魔法を使える。魔法を剣に付与して使うらしくて、とても強いんだとか。純粋な剣士の腕は剣聖に負けるけど、対人に関してはイヴァンよりも強いことがあるらしい。
 才能って凄いんだな。努力でどうにかなるところまで行くんだもんね。
 というわけで俺の紹介。
「補助になります、収納持ちです」
 俺がそう言うと氷の刃の皆さんはちょっと驚いていたけどね。
 白金級に収納持ち補助がいるの?っていう驚きだった。
「なんで?」
「ハルの収納はそこらの収納の大きさじゃないからだ」
 イヴァンはそう言って、レギオンが言う。
「後で分かる」
 そう言われてやっと出発となったんだけど、リアさんがモルトさんに突っ込んでいた。
「旦那、荷物が一つもないんだけど!」
 荷車はあるけど、それには俺たちが乗るための荷馬車である。
 荷物が一個もないんだから驚くに決まっているよね。
「大丈夫ですよ、そちらのハルさんの収納に全部収まっているので」
 モルトさんがそう言うと氷の刃の皆さん、驚愕して俺を見ていたね。
 カザの街のモルトさんの商会を知っているなら、どれだけモルトさんが荷を持っているのか知っているからね。
「そういうわけですので」
 モルトさんがそう言うと、やっとどうして俺が平然といるのかという謎に行き着いたらしいので良かった。
「おっそろしいことを……事前に言って貰えれば」
「それだと誰かに話してしまうかもしれないし、聞かれているかもしれないので、今がちょうどいいかと」
 周りには既に出発した商人達が離れていて誰も残っていなかったからだ。
「たくっ旦那心臓に悪いよ」
「ははは、済まないね。今回は人運びってことで依頼を出しているから君たちは私たち家族を守ってくれればいいんですよ。荷の方は彼らがしっかり守ってくれますので」
 そう言われてイヴァンもレギオンも頷いている。
「ははは、そういうことか」
 リアさんもやっと納得がいったらしい。
 どうして金級二人の白金級の護衛がついているのに、金級組織の氷の刃が呼ばれたのか謎だったらしいんだ。
 でも言われたら納得ができたんだって、良かったねえちゃんと通じる人たちで。
 道中大丈夫そうな感じで進み始めた。


 氷の刃の皆さんは砂漠をよく往復している。
 何でもベルテ砂漠を渡る商人の護衛を生業にしていて、夏でも平気で砂漠を渡れる人たちらしい。夏は灼熱だけど熱に強いんだそうで平気で砂漠を渡れるから商人には有り難がられているらしい。
 でも冬の極寒はさすがに無理で、冬の間はノタの街で魔物を狩って生活をしていたらしいんだ。
「そういやノタもカザも冒険者組合の事件は衝撃だったな」
 そんな話が出てきて俺はちょっと焦る。
「癒着も凄かったみたいで何人も冒険者が捕まったし、組織の解散も増えたしな。あれで砂漠を渡る仕事が一気に増えたよね」
 どうやら他の砂漠を渡るような仕事をしていた組織が解散になったりで仕事量が増えたらしい。そのお陰で護衛の仕事は人手が足りず、料金が上乗せになってるらしい。
「真っ当に生きてるヤツにはそれなりにいいことも起こるって事だ。私らは稼ぎ時だけどな」
「そうそう、そいつらのお陰で盗賊と通じているやつも見つかって砂漠の盗賊アジトも結構分かったらしいしよ」
 そういう話が出たので俺はレギオンに尋ねていた。
「砂漠に盗賊がいるの?」
「ああ、大きな商隊を襲う盗賊一味が三つほどいるんだが、今回の騒動で一つの盗賊一味がかなり捕まったらしい。首領とかも街にいたんでお縄になっていたよ」
 でも残りの二つの盗賊はまだいるわけだ。
 そう俺が思っているとレギオンが言った。
「一つは盗賊と言っていいのか分からないが、砂漠の民のジニ族だな。こいつらは砂漠を渡る商人から少しの荷を奪う程度だ。彼ら曰くこの砂漠は彼らの領土だから通行料を寄越せってことらしい」
 そうレギオンが言うと、リアが言った。
「確かに彼らの要求はちょっとと思うが、その後の対応が違う。彼らに荷を渡すと丁寧にウヤの街の近くまで護衛をしてくれるんだ。当然他の盗賊からも守ってくれる」
「へえ、義賊なんだ?」
「まあ、そうなるなあ。でも荷の要求が多すぎると戦闘になるけど、私はあいつらの戦術を知っているから戦いたくはないんだよね」
「どういうこと?」
 俺がレギオンを見るとレギオンもそれは知っているようだった。
「蟻地獄だ」
「あ、蟻地獄ってあれでしょ、砂に沈んでしまうやつ。流砂じゃなくて?」
「流砂ならまだいいよ。でも蟻地獄の先には魔物がいるんだから」
 そうリアさんが言って俺はああそういうことかと納得した。
 魔物に餌をやるように商人をそこに放り込む、そうすればジニ族は戦わないで遺体も全部魔物が処理してくれる。
 しかもその魔物は人は食べるけど人に付いている防具やら剣とかなどは吐き出すらしくて、人を食った後に巣の外に放り出すんだと。エグいな。
「なるべく出会わないようにしたいもんだが、出没情報もないから彼らがよく現れた場所を避けるしかない」
 そう言うのでベルテ砂漠では遠目に何か見えないか警戒をしながら進んだ。
 一日目には最初のオアシスに到着した。
 サタムのオアシスは小さな街になっている。
 人も多くて宿もある。
 野宿をしなくていいオアシスなのでモルトさんは家族の部屋と俺たちの部屋、氷の刃の部屋と取ってくれていた。
 なのでベッドで寝られてよかった。
 二日目は夜が明ける前に出発、一日歩いてほぼベルテ砂漠の中央で野宿になる。
 馬車を集めて暖を取るために魔導具を使う。
 自分たちの荷馬車の周りに魔導具を置いて温度を一定化させるんだけど、この魔導具が結構高価で商人のモルトさんだから四つも持ってるんだとか。
 もともとモルトさんの店で売っていたものらしいけど、そうそう売れるものではないので売れ残りだけど、中古品でも価値はあるし安くなれば売れるかもしれないので使うことにしたんだとか。
 結構モルトさんはやり手の商人かもしれない。
 この世界では中古品は結構人気なんだ。新品が欲しいのは山々だけど、そうなると特注とかになってしまうから貴族が払い下げた中古品とかは値段も下がって買えるような値段になるし、使い古してくればもっと安くなって一般人でも運が良ければ手に入れられる値段になっていく。
 俺は服なども中古品で買ったので新品の値段も知っているけど、ほんと半額以下になる。魔導具とかも型落ちもあるらしくて、そうなるともっと値段も下がるんだって。
 俺は魔導具は家にあったお湯を沸かすとか、水が出るとか、水洗トイレとかそういうのしか知らないけど、こうやって旅に役立つ魔導具はいいな。
 俺もそういうの作りたいな。
 工作は得意だったんだけど、こういう魔導具は錬金術とかなんだろうな。
 俺は聖女だから、錬金術師になってなれないんだろうな。
 いや……技能の関係で解放されるかもしれない!
 俺の技能がぶっ壊れだし、称号もあり得ないしな!
 そんなことを俺は思っていたけど、そうも言ってられない事態になってしまった。


 次の日、朝早くにイヴァンに起こされたような気がした。
「もう、起きなきゃいけない……」
 そう言いかけて俺は異様な雰囲気になっていることを察した。
 俺たちの周りには色黒の剣を持った人たちが数人取り囲んでいるのだ。
「……えっと、何?」
 俺は思わず尋ねてしまった。
 真っ黒なローブに兵士の格好をした知らない人に取り囲まれたらそれは盗賊に襲われたと言ってよかった。
「見つけたか?」
「ここだ」
 男達がそう言い合い、俺の荷馬車に乗ってきた。
 そしてイヴァンが俺を庇おうとするんだけど、それを兵士たちが牽制してイヴァンと俺を切り離してしまった。
 レギオンは俺から少し離れたところで押さえつけられている。
 レギオンほど強い人がこうなるってことは、この人達滅茶苦茶強いって事?
 でも盗賊がそこまで強かったらおかしな話なので、俺はそれで昨日の話を思い出していた。
 この人達はジニ族、砂漠の民だ。
 俺は兵士に取り囲まれてるけれど、荷馬車から降りるように言われた。
 マズイな俺がいなくなったらモルトさん一家が終わる。
 そう言ってもモルトさん一家も捕まっているし、どうするんだと思っていると俺だけがジニ族の輪に取り囲まれてしまった。
 レギオンや氷の刃の人たちは全員一所に集められているし、モルトさん一家は荷馬車に閉じ込められているようだった。
 ここまで強いはずの冒険者を物音させないで鎮圧するとかジニ族の人たち強すぎない?
 そりゃ皆通行料を払って護衛して貰うわな。
 って思ったけど、彼らの目的が今回は通行料ではないことは俺だけ取り囲まれていることで分かった。
 すると集団の中で恐らく一番地位のある人が俺に近寄ってきたのだ。
「こいつだな」
 そう言われてしまい、どうやら俺のことを鑑定したらしい。
 そうなると俺の技能の隠蔽は恐らく貫通しての鑑定をしたんだろう。
 マズイな、たぶん聖女だとバレた。
「来い、我の番よ」
 そう言われたのだけど俺は言った。
「あんたが俺に用事があるのは分かった。でも俺は今仕事中でその邪魔をされるのは大変に遺憾だ。ところでお前は俺に何の用がある?」
 と俺はどうせ死ぬならはっきりと聞いた方がいいなと思ったので聞いた。
 こういう時、俺の心は何故か恐怖に彩られないんだよな。
 突然開き直ったみたいになってしまって、強気になってしまう。
 そう俺が急に言ったものだから、相手も驚いて俺を見てきた。
「そう、だな。お前にとっては急な話だろう。分かったこっちに来い。話をしよう」
 一番偉いらしい男がフッと笑ってから俺を見てそう言った。
 周りが一気に緊迫していた雰囲気から、その人が笑ったのを見て殺気立っていた雰囲気がなくなった。
「分かった。他の人たちには手を出すなよ」
「それも分かった。用があるのはお前だけだ」
 そう言われたので俺はその男の手を取った。
 とりあえず俺の要求を聞いて貰わないことには色々と困るので話合いには応じなければならない。
 その男に連れられて一つの天幕に入った。
 そこには寝具と椅子と机など必要なものが並んでいる。
 男達はこの商隊は既に制圧しているからか、わざわざ見える場所に天幕を張ったのだろう。
 それから椅子に座るように言われて座ると飲み物を出された。
 けど俺は飲まなかった。
 怪しいのこの上ないわ。
「それでこちらの要望だが、お前が欲しい。お前を私の村に連れて行く」
 そう言われたけれど、俺はそれを断った。
「あのさ、お前の村に行って俺が楽しく暮らせるとでも思うわけ?」
 俺はそう言っていた。
 その返答にはさすがに男も驚いていた。
「俺はカザの街のようなところで暮らしたい。砂漠の村で暮らすのは無理。それに言っただろ、俺は今仕事中でそれを放り出して行くわけにはいかない。お前達は俺を連れて行ければそれでいいとか思ってるんだろうけど、俺の気持ちを置き去りにするなら、番とか都合のいいこと言ってないで奴隷だと言えばいいだろ」
 俺はかなり怒っていたのでそう一気に言ってしまったのだけど、これは相手を怒らせてしまったかもしれない。
 男が立ち上がって俺の腕を掴むと、俺を引き摺ってベッドに放り投げたのだ。
「……っ!」
 これはマズイ、怒らせたか。
 俺はそう思って身を強ばらせてしまった。
 ここから逃げるにも俺一人で砂漠は渡れない。
 それにイヴァンもレギオンも、モルトさんたちも置いていけない。
 どうしよう本当に、俺がそう思っていると男は俺に覆い被さってきたのだった。


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