彼方より
018
二人の組織に誘われる
とうとうこのカザの街にきてから四ヶ月目が終わりそうな日。
俺とイヴァンとレギオンの話合いだ。
「それで、ハルはセフネイア王国に行くんだよね?」
とイヴァンに言われた。
「行くけど?」
「それで、俺たちもセフネイア王国が拠点だ」
イヴァンの言葉に俺はそうなんだと言った。
そういえばイヴァンもセフネイア王国から来たって言っていたなと俺は思い出す。
「そこでなのだが、ハル。俺たちと一緒に組織を組まないか?」
イヴァンがそう俺に提案をしてきた。
組織とは、冒険者組織と言って、いわゆるパーティーを組むこと。
こっちでは組織と言うんだけど、階級が上になるほどこの組織を組んでいることが前提の依頼が入ってくるらしいんだ。
組織は基本、二人から百人くらいの大きな組織まであるらしい。
人数は二人からなら、どれだけいても構わないんだそう。でもその組織は運営をしなきゃいけないのでお金も維持費も半端ないくらいにかかるんだとか。
なので一般的な魔物討伐をする組織は四人か六人くらいらしい。
イヴァンとレギオンの組織が二人なのは二人の力が相当強いことを意味している。
とはいえ、二人でも金級止まりだから本人達的には強いわけではないという。
世の中には強いやつは白金級になっているしな。白金級は桁違いに強いくせにソロが多いらしい。まあ組織を組んでも報酬や成果が全部組織に吸い取られていくから、白金級にとって組織を組むメリットがないんだとか。
あと、白金級は基本的に国の王などが任命するっていうのもある。
国が認めて初めて白金級になるので、基本的に国の依頼で動くから冒険者組合からすれば白金級は緊急事態以外の依頼は受けてくれないのであんまり惜しくない階級らしい。
なので金級の方が冒険者組合としては大事な高階級者になる。
そんな金級二人が組んでいるから組織の階級も上がっちゃって白金級になっているんだけど、組織の階級はあくまで依頼を受ける時の目安になるだけっぽい。
で、百人もの組織を組んでもメリットがなさそうだなと俺が思っていたら、それはなとレギオンが説明をしてくれた。
「基本的にそこまでの大人数いる組織は巨大迷宮を攻略することを生業にしている。迷宮は魔物が救っている場所で、地下へと続く特殊な環境を攻略する場所だ」
俺はこの世界にもダンジョンがあることを知った。
こっちでは迷宮と言うらしくて、いわゆる俺が覚えている英語らしい言葉は使われないから迷宮というんだと思う。
そこに潜るには荷物も半端なく必要で、人も沢山いるんだそうだ。
食べ物だけでも大変だろうなと想像が付く。
何でもこの世界の迷宮は様々な深さで、世界最大の迷宮はシリンガ帝国にあるアムタバラ街の迷宮らしい。
その迷宮は街の中に入り口があり、迷宮の品が沢山出るので栄えている街になったらしい。魔物も階層が浅いと簡単に倒せるので、低下層でも街の人が食料を求めて入るんだとか。
それで周りに街ができて人が住んで、入り口が街の中央になってしまったらしい。
そんな迷宮だけどまだ踏破されていない。
なんでも現在最高階層は九十二階層目で、それでもまだ先がありそうだということでおそらく九十九階層か、前人未踏の百階層もあり得ると言われている。
その迷宮は既にアタックが続いて既に五百年。五年に一階層が進めば万々歳な感じになっているという。
そんな迷宮には金銀財宝どころかドロップする魔物の肉も高級品なので百人の組織員がいても養えるってわけらしい。
一つの国に一つは階層が五十以上のものがあるみたいで、そこを生業にしている冒険者も多いんだって。
でもイヴァンとレギオンはそんな迷宮には興味はない。
潜ったこともあるらしいけど、実入りもいいけど、何だか魔物を狩るだけの生活はちょっとと思ったらしい。
旅をしてそれなりに世界を見て楽しんだ方が自分たちには合っていると思って旅を続けていたらしい。
それでもセフネイア王国の拠点はずっと変わらないそうだ。
その拠点に久々に戻るだけだけど、そこに俺を連れて行こうというわけだ。
なんでも大きな屋敷を所持しているんだって。
「討伐依頼を受けたら、何故か報酬が払えなくて家を貰った」
そういうことらしい。
報酬が家になっても嬉しくはないな。
だって税金とかそういうのがあるんでしょ?
そう思って聞いていたら、冒険者組合がミスをしたってことで税金は向こう二百年くらい払わなくていい契約なんだとか。なので報酬をそれで受け取ったのはかなり前のことだそうだ。
「家も部屋も提供するから、一緒に仕事しよう!」
イヴァンがテンション高くそう言ってきて、俺はびっくりするばかりだ。
それを聞いていたレギオンがちょっと呆れた顔をしている。
俺はイヴァンの既に俺の回答など決定したような表情に、思わずレギオンを見てしまった。
「お前さ、この街でちょっと目立ち過ぎたんだよ。収納の性能が高すぎるから、他の組織がお前を組織に入れれば、迷宮の攻略も簡単になると思われている」
「え、迷宮なんて嫌なんだけど」
自分を守る手段もまだ何ともなってない今、明らかに自分の命も簡単に刈り取られるだろう迷宮の深部に潜るなんて冗談ではない。
「お前がそう言っても、既に大組織がお前の情報を手に入れてお前を手に入れるために動き出したって話が出回っている」
「えー断ればいいんだろ、そんなの」
「ハルは甘いな」
断れば済むことだと言ったらイヴァンがそう言う。
「甘いって?」
「断れないようにするに決まってるじゃん。百人もいるんだよ? どうとでもなるってもんよ」
そう言われて俺は相当マズイ立場にいることを知る。
俺は今、とりあえずはソロで行動をしていることになっている。
イヴァンとレギオンが護衛に付いているけれど、それはあくまでイレギュラーな状況だ。
つまり一人の冒険者くらい誘拐でも何でもできるというわけだ。
もし国がそれに関与していたら、俺の存在などそれこそ米粒一つ扱いだよ。
どうとでもできるってもんだ。
「そこで俺らの存在だ。俺らの組織に入っていれば、白金級の組織の人間を右から左には動かせない。冒険者組合も早々雑には扱えないから、お前が行方不明になれば大問題になる。もし誘拐されても俺たちの組織に入っていれば相手の組織を解体させることも可能になる!」
レギオンさん怖いこと言わないでください。
まるでその組織に恨みがあって解体させたいみたいじゃないですか。
俺がそう思っているとどうやらその組織とは因縁があるみたいなのだ。
「実は、ハルのことを狙っている組織は、昔俺らも所属していたことがあるところなんだ」
「そうなの? でも辞めたんだよね」
「辞めたというか、強引に抜けたが正解だな。脱退をなかなか受け付けて貰えなくて、結局セフネイア王国の王族関係者に介入して貰ってシリンガ帝国の宮廷から無理強いするなってお願いしてもらって脱退できたからな」
何それ怖い。
国が絡んでまでしなければ脱退できないのなら、俺がうっかり加入させられたら絶対に逃げられないやつやん!?
「はい、お前らの組織に入ります」
俺は怖くなってそう言っていた。
さすがに俺が簡単に了承したのでイヴァンもレギオンも驚いていた。
「いいのか?」
レギオンがそう聞いてくるので俺は言っていた。
「何が不満だよ。俺はお前達のことは信用してるけど、その訳分からん国を絡めてまで脱退するのに苦労する組織に捕まるよりは絶対にお前達といた方がマシだと判断しただけだ」
俺が優越の差がそれだけあるのだと言うと、レギオンはクククッと面白そうに笑っている。
「お前、あいつらが怖いから後ろ盾に俺らを付けようって魂胆か」
「そうだけど何か悪い? 今やお前達は白金級の組織だ。そこにいくら百人いようがどうしようが、白金級の組織同士の組員の取り合いとか、明らかに国が介入して止めてくれるだろうが」
俺はそう言い、自分の身をとりあえず安全圏に置きたいだけだと言った。
実際白金級の組織同士の組員の取り合いなんて見苦しいことこの上ない。
まだ俺が別の組織に入っていればそこで終わる話だが、俺がソロでいるうちはこの騒動は収まるどころか広がる一方だ。
現に俺も今、他の組織に入らないかと誘われている。
まだイヴァン達に言ったことはないけれど、イヴァン達を前にしても彼らが誘ってくることはよくあった。
でも俺が入るつもりはないことを告げるとどうせイヴァン達の組織に入るんだろうと言って納得してくれていた。
まだイヴァン達の組織に入っていないのはちょっとした事情があると勘ぐってくれたのである。
まあこの辺りの冒険者はちゃんとしている人が多いのか、事情を分かってくれて身を引いてくれている。
その代わり彼らの依頼だったら俺はちょっとしたことなら引き受けたりもしていたのでその辺で揉めることはなかった。
でもそこに大きな組織がやってきて揉めるの前提な話になってしまっている。
そうなったら俺だって覚悟は決めるさ。
俺が覚悟をさっさと決めたことに二人は驚いたままである。
「本当にお前は……行動力があるんだか……男らしいというか」
レギオンがそう言って俺の評価がおかしくなっているようだ。
イヴァンはせっかく俺が二人の組織に入ると言ったのに驚いたままでいる。
「何だ? 俺がお前達の組織に入ったらおかしいのか?」
「そうじゃなくて、何か拘りがあって一人でいるのかなと思っていて」
イヴァンがそう言うので俺は真面目に返していた。
「拘りなんてないけど、ただ知らない人といきなり組織組むとかあり得ないから断ってるだけだけど?」
俺がそう言うとイヴァンはそういうことかと何だか腑に落ちたようだった。
「そうか、ハルにとってこっちの人は全員出会ったばかりで信用できないってことだよね」
「その通り。だからそもそも組織を組むという選択肢はなかったんだよ」
俺はイヴァンとレギオン以外を今のところ信用していない。
この二人は何だかんだでそれぞれ三ヶ月、四ヶ月と一緒に暮らした仲だ。
その間に嫌なことはされていないし、セックスはまあ気持ちが良かったから許容範囲なんだよな。
でもそれでもイヴァンとレギオンは俺に対して一緒の組織でやろうとは言わなかった。そりゃ一緒に暮らしていてもまだ信用に値しないからそうだろうと思っていたけれど、急にイヴァンが提案してきて初めてそこで俺にとって組織に入るかどうするかと考える時間が与えられたわけよ。
そう俺が言うとイヴァンがちょっと困った顔をしていて、レギオンが笑っている。
「ハルとしては組織を組もうと提案されたことがないから、俺たちと組織を組むということは考えてこなかったけど、今回俺たちから変な組織に狙われていると聞いて、ここは一旦俺たちの組織に入っておこうと思ったわけか」
「その通りだ」
俺はそうはっきりと告げた。
「言ってなかったっけ?」
イヴァンが提案すらしてなかったっけっと言うけれど俺は言い返す。
「聞いた覚えがない。イヴァンが一緒にいたいと言うだけで、具体的なことを言わないからな。何をどうして一緒にいるのか俺には分からん。まあ、一緒に暮らしているからそのことだろうなとは思っていたけど」
俺がそう言うとイヴァンはガックリと肩を落としていた。
そしてレギオンが一人だけ笑っている。
「そりゃ相談も提案もされてないなら、ハルがどうこう考える余地はなかったな。イヴァンお前は自分の考えだけ暴走させて、ハルにちゃんと言葉で言わないまま察してくれっていっても通じないぞ」
レギオンはイヴァンの抜けているところを大笑いしている。
「そう言うなよ、俺は言ったつもりだったんだから……」
イヴァンはそう言って落ち込んでいる。
しかしすぐに復活をして言った。
「じゃあ、セフネイア王国に行ったら、俺たちと住んで俺たちの組織にはここで入るってことでいい?」
イヴァンがそう言ってきたので俺は頷いた。
「それでいい。ただ俺の仕事がちょっと優先してもらえると有り難いんだが」
「何の仕事?」
「モルトさんのところの荷運びだよ。前から予約されてるのは知っているだろう? そのモルトさんからもう一件、祖父母の引っ越しの仕事も受けたんだ」
俺がそう言うとイヴァンはその時の約束の話を思い出したようだった。
「ああ、そういう話をしていたな。決まったんだ?」
「そう。先にテジラに行って祖父母の荷物を持ってカザまで。それから俺の収納具合でモルトさんの仕事の荷物や家具を運べるのか試さないといけない。俺の容量分からないんだよな」
俺がそう言うと、イヴァンもレギオンも承諾してくれた。
「けど善は急げだ。ハル、冒険者組合に行くよ」
イヴァンがそう言って俺の腕を掴んで早々に家を出て行く。
俺は引き摺られて一緒に家を出る羽目になった。
カザの街で四ヶ月。
この街にも馴染んだけれど、俺はグノ王国を脱出しなきゃいけない。
王族とか面倒ごとに巻き込まれる可能性があるから、無関係の国に移動して安全に暮らしたいのだ。
そういわけであと少しで俺は長く暮らしたこの街を旅立つことになるのだった。
それは一人ではなく、強くて優しく、それでいて一緒にいて苦痛ではないイヴァンとレギオンと一緒にだ。
それはそれで先の未来が楽しそうな気がした。
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