彼方より
010
新たなるストーカー
グノ王国カザの街にきて一ヶ月。
俺はイヴァンと暮らしながら街の仕事を手伝っている。
「こんにちは、冒険者組合から来ました」
「ああ、荷物は裏だよ」
俺は収納を使った配達の仕事をしている。
荷馬車を使うほどでもない荷物から大きな荷物の配達まで一気に請け負って一日に10件ほど熟したりもする。
いわゆる宅配便ってやつだ。
一般人の依頼から大きな商会の仕事まで様々な配達をやっている。
もちろんそれは冒険者に残っている焦げ付いた依頼というものだ。
街の人も冒険者で依頼を受けているからその人達が請け負った後に余っている配達の仕事を受けているため、結構有り難がられている。
銀貨一枚の仕事から金貨十枚の仕事まで色々。
モルトさんからの指名依頼もあるのでそれはそれでやっている。
配達は難易度が低いので冒険者証明書が欲しいだけの人が月一の依頼を受けるのにちょうどいいらしい。なので月末は一気に配達の仕事はなくなってしまう。
今日は大きな商会の大きな荷物が残っていたのでそれを受けた。
月一の依頼を熟すにしても荷馬車を借りないといけないような配達はあんまり人気がない。
「それじゃこれを頼むよ」
そう言われて見せられたのは米袋サイズ四十個だ。
一気にそれを収納して見ると、店の主人が驚いている。
「へえ、こりゃ凄いな。助かるよ」
「はい、これを倉庫までですか?」
「そう、それじゃ一緒に行こうか」
「はい」
店の主人と一緒に倉庫まで歩いて行く。
倉庫街はカザの街にもある。
もちろん商会がやっている貸出し倉庫で、商人は小さな倉庫から大きな倉庫までそこで借りる。というのも倉庫が一括であるとそこを襲われてもさすがに全部の倉庫がやられることはない。自分の荷が狙われても倉庫街だと何処にあるのか分からなくなるというようなこともあり、盗難防止にはこういう風に倉庫街がある方がいいらしい。
倉庫を管理している商会は、ヘンセル商会といい、デッカー・ヘンセルという人が商会の代表だ。
ヘンセルさんはよく倉庫を出入りする俺のことは最初怪しがっていたけれど、俺の収納量がかなり多いことや、小さな店の仕事をしていることも知ってくれて、倉庫の出入りも認めてくれた。
そりゃ週に四回も出入りしていたら怪しいから仕方ないよな。窃盗の下見じゃないかって疑いたくなるよね。
倉庫ではガラム・シトニコさんという冒険者の警備員が付き添ってくれる。
店の人もいるけれど倉庫内ではこうやって付き添いが必要だ。
他の店の荷を荒らす人もいるらしくて、監視は絶対なのだ。
俺はいつも通りに荷を運んで、新しい荷を詰め込んだ。
大体倉庫を行き来するのはあまりしないらしいけど、俺がいるからか割と気軽に荷の入替えをする店が増えたみたい。
今は冬というか秋くらいの仕様にするので夏の荷を仕舞って長い秋の荷を置くんだってさ。そうしたら次の夏までは同じ荷物で済むんだって。
そういうわけで倉庫を行き来する俺みたいなのがいると役に立つらしい。
でも俺がいるのは今年だけなので、店の人たちにできれば来年もいて欲しいとか言われてる。
セフネイア王国に行くつもりだから断っているけどね。
荷をまた運んで店に戻って裏の倉庫に積み上げて今日の仕事は終わり。
依頼達成証明書を貰ってお昼には冒険者受付にいける。
街は大きいけれど端から端まで歩いても二時間くらいなのでできる仕事かもしれない。
「お疲れ様でした」
「はい」
そう言われて依頼料を受け取る。
今日は二回荷を運んだので金貨二枚だ。
歩くだけで金貨二枚は美味しい。
最近は大きな荷物はあまりないのと俺が街になれてきたのもあって護衛のイヴァンは付いてこない。もちろんお願いをされればイヴァンも一緒に雇われるけどね。
まだ時間があるので掲示板を見て行けそうな小さな仕事も三つほど受ける。
「はい、三つですね。頑張ってください」
「頑張ります」
受付で依頼を受けて歩いて依頼者のところに行く。
街の大きな宿からの依頼と、小さな花屋の依頼。それから一般家庭の依頼だ。
依頼に関しては後から増えたりもするのでお昼くらいに新しい依頼が張られていたりする。なのでお昼に一旦冒険者組合に戻るのはありなのだ。
大きな宿の仕事は、引っ越しの手伝いだ。
「すまないね、結局荷造りもあんまりできてないんだ」
そう言われて散らかった部屋を見せられた。
男性の研究者らしい人の部屋らしい、資料が沢山並んでいる。
「このまま収納していきましょうか?」
俺はそう言っていた。
「そんなことできるのかい?」
「はい、階級がいい感じに上がってそのままの状態で収納することができるので、引っ越し先に同じ広さがあればそのまま再現できます。整頓して欲しい場合は言って貰えれば収納したまま整頓できますけれど」
「じゃ、そのまま持っていって、このままの状態だと仕事の再開が早くなりそうだ」
「はい、じゃあ収納します」
そう言って手を翳すだけで収納できた。
俺は収納がレベルアップして、触らなくても見た物をそのまま収納することができるようになっていた。再現も可能だし整頓することも可能だ。
部屋中の荷物を収納して、宿の中の彼の荷物は彼が持ち出す鞄以外は収納した。
そのまま歩いて新しい引っ越し先に移動して言われた通りの場所に荷物を出す。
引っ越し作業は十分、歩いて二十分、元に戻すのに十分、計四十分しかかからなかった。
「噂通りだね……引っ越しがこんなに簡単に済むなんて」
「ははは、役に立てたようでよかったです」
「ああ、もちろん。このまますぐに仕事が始められるよ、助かった」
そう礼を言われて冒険者証明書を受け取った。
こんな調子で二件目三件目も一時間以内に済んだ。
十六の刻過ぎには全ての仕事を終えて、冒険者組合に戻る。
依頼料は一件目が金貨二枚。有名な研究者だったし、引っ越し作業なのでそれなりの値段になってる。二件目は銀貨二枚。三件目は青銅貨五枚だ。
普通は冒険者組合を通すと手数料も取られるので依頼者はもっと払っているらしいけど、そうしてでも早く運びたいか、自分では運べないんだろうなと俺は思っている。
その合間を埋めるには俺みたいなのはいた方がいいのだろう。
今は街の中の依頼だけ受けているけれど、遠くの依頼になれば金貨十枚からの依頼ばかりになるらしい。そうなると荷馬車を持っている人が専門に仕事として受ける。
一般的な荷物を運ぶ配送業者みたいなのもいるらしいけど、人手不足だ。この世界でも人手不足はよくあることみたいだ。
隙間産業みたいに俺みたいなのはそれなりに需要がある。
十七の刻には冒険者組合を出られて、家までの間にある露店で野菜を買って、パンなども買う。基本的に炒め物だけはするけれど、肉などは味付けなどもあるので露店で買ってそれを皿に盛った方が楽だった。
料理をする時間はあるけれど、今まで真面目にしてこなかったので作り方がうろ覚えだ。
調味料は揃えているけれど、肉をそのまま仕入れるよりは味付けのついているものを揃えた方が簡単なのでそうしてしまう。
作るのはスープくらいになってしまうからもうちょっと料理を覚えないとなと思っているところだ。
どうせだし、本とかで覚えるとかありだろうか?
「ハル、今日は一人かい?」
串肉を売っている店のおじさんがそう話しかけてきた。
「うん、今日は簡単な仕事だったから」
「そうかい。今日は肉はいいかい?」
「じゃあ、二つ貰おうかな」
「まいど」
大蒜風味になっている肉串焼きを買った。
やっぱ年齢的に若いので肉はあればあるだけ嬉しい。
そのまま収納に仕舞って暖かいままにしておく。
家に帰り着くとまだイヴァンは帰っていなかった。
「そういやノタ街まで行くって言ってたっけ?」
ノタ街はノイラの森へ行くために冒険者が集まる街だ。
カザの街からは物資が届けられるのだけど、その護衛として出かけている。
本人は護衛の仕事は四日かかるので嫌がっていたけれど、依頼されてしまったのでついでに魔物肉でも取ってこいと送り出してやった。
今回は他の冒険者組織と行動を共にするらしく、いつも一緒の組織だったレギオンさんはお休みらしい。
カザの街に来てからあまり一緒に行動をしていないらしくて、何があったのかあんまりイヴァンも話してくれない。
仲違いでもしたのかと聞いても違うと言うだけでどういうことなのか言わない。
まあ俺が間に入るとは言っても、レギオンさんとも親しいわけではないので間を取り持つこともできないしな。
そういうわけで家にいると玄関のチャイムが鳴った。
誰が来るんだろうと思って出てみるとさっき思っていたレギオンさんだった。
「あの、イヴァンはいませんよ?」
そう俺が言ったんだけど、レギオンさんは言った。
「お前に話がある。イヴァンのことだ」
そう言われてしまったら家に入れるしかなかった。
居間に入って貰って飲み物を出した。
「お前さ、イヴァンに何か言った?」
「何の話なのか……」
そもそもイヴァンとレギオンさんの間に何があったのか分からないのにその質問には答えはないと言えた。
「イヴァンは勝手にやってきてここに住み着いてきたのでとりあえず家賃を折半することで置いてやってますけど……」
俺はそう答えた。
セックスしてる仲ですとはいえないので黙っていた。
「そもそもお前達の出会いは何なんだ? イヴァンと出会ったのは安宿だったのは本当なのか?」
「それは間違いないです。隣でした。俺が光魔法をちょっとぶっぱなしてしまってそれに気付いたイヴァンが止めてくれたんです」
俺がそう言うとレギオンはふむと頷いた。
「いや、その後だ。どうしてお前ら性行為をする間柄になった?」
そう言われて俺は目を見開いてしまった。
「……は?」
なんでバレたなんでバレたって頭の中が混乱したよ俺は。
レギオンさんははあっと息を吐いてから俺に言った。
「お前ら、旅の間もいちゃついていただろ? お前から色香凄かったしよ」
「い、いやそれはちょっと……いやそうなんだけど、その言えない」
俺はさすがにイヴァンが俺を聖女と見破って勃起して襲ってきたとは言えなかった。
聖女である称号は誰にも言えない。
イヴァンには鑑定でバレたけれど、これ以上それを知っている人を増やすわけにはいかない。
俺にとって最大の秘密が理由でセックスをする間になったとは言えないのだ。
「言えないってどういうことだよ。お前とイヴァンは付き合っているんじゃないのかよ」
そう言われて俺は首を横に振った。
「付き合ってない……そういうんじゃない……」
俺はそう言うしかなかった。
一緒に生活をしてセックスもするけど恋人ではない。
俺はイヴァンを可愛いとは思うこともあるけど、恋人同士だとは言えなかった。
付き合おうとか言われてないし、そもそもどういう関係かという話をしてこなかったんだ。
「……付き合ってないのか?」
「そういうんじゃないというか……」
俺もなんて言っていいのか分からない。
「それはお前の技能が収納以外見えないことと関係があるのか?」
レギオンがそう言い出して俺はびっくりした。
「……は? あの、それは別に」
「その隠蔽したの、イヴァンだろ?」
「……あー……、やり方は教えてもらったけれども」
魔法ってもしかして誰かの匂いというか癖が分かるんだろうか?
俺はそんなことを知らないので何故バレたのか分からない。
俺が戸惑っているとレギオンさんは俺の腕を掴んできた。
「お前、もしかしてイヴァンが探してた聖女なのか?」
ドンピシャで当ててきたーーー!!
俺はレギオンさんに言い当てられて焦った。
冷静に対処することができず、どう誤魔化すのか考えているとレギオンさんは俺を長椅子に押し倒してきたのだ。
「本当にそうなんだな?」
「ち、違うし!」
俺は何とか暴れて逃げようとしたけれど、全然動かないのな!
冒険者の階級が高いやつって力もあるし、何より獣人ってだけで鬼人のように力が強いんだよ!
「ほう、違うってか?」
そう言うとレギオンの目が光っている。
「お前、鑑定持ちかよ!」
俺がそう叫ぶとレギオンがニヤリと笑った。
「そうだよ、お前、面白い技能と称号持ちじゃねえか」
「ちょ、見えてんのかよ!」
「淫乱ってお前、あいつに犯されたんだなっ」
「そうだよそれがどうした!」
俺はそう怒鳴り返していた。
けれどレギオンは全然俺を押さえつけている腕を解いてくれない。
何これ、俺が聖女であることもバレたし、淫乱称号持ちなのもバレたし、さらには他も全部見えているんだろうな!
「異世界人か……なるほど。あいつが興味を持つわけだ」
「ちょ、お前」
レギオンが何だか息が上がってきて足に当たるレギオンの股間が膨らんでいるのに俺は気付いた。
おーまーえーもーかーーーー!!
「ないないっマジでないっ」
俺は必死に逃げようとしたけど、レギオンは俺を片手で押さえてから平然と俺のパンツを脱がし始めた。
「恋人同士じゃない淫乱なら、俺も味見させてもらうわ」
レギオンがそう言ってきて俺は終わったなと思った。
抵抗できない時点で逃げられる気がしないからだ。
いーやーもー!!
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