彼方より
005
次のお仕事で再会する
服をかなり買い込んで結局靴を売ることでタダで服を手に入れてしまったため、予算が余っている。
金貨四十七枚もあるので(服買うたびに増えたので)余裕を持って暮らせる。
そこで地図を見て服屋の老婆にも聞いた、カザの地に向かう決心をした。
カザの地は駅馬車で行けるのだけど、目の前が砂漠の街。
冬の間はここで過ごすか、砂漠を抜ける道を使うのが一番安く渡れるらしい。
このグノ王国とセフネイア王国の国境は国境を通る際の手数料が凄く高い。金貨十枚まで跳ね上がり、庶民が通れる手数料ではなくなっている。
でも一番安全に越えられるのはやはり手数料を払う国境越えなのだが、俺はカザに向かってそこから砂漠に入る商人の護衛に収納持ちとして参加した方が安全に安く砂漠を渡れる気がしたのだ。
駅馬車といえど、盗賊に襲われる可能性は高い。
駅馬車には護衛は一人しかついていないからだ。
それを知ってから旅をする方法を聞くと、国境を越えなければ駅馬車は使えるけれど、国境を越えるなら大きな商人の商隊に入る方がいいと言われたのだ。
とにかく、この世界にきて三日目。
宿は今日泊まったら朝一に駅馬車に乗らなければならない。
なので買い物を終えてから冒険者組合に向かった。
受付に行く前に掲示板に貼られている依頼書を見た。
荷を運ぶ依頼はないかと見ていたが、大体は門の外に出て小さな森の中で魔物を退治する依頼ばかり。王都であるから城門以外にも街が広がっている。その街に魔物が来ないように依頼が沢山出されているようだった。
しかしそれは俺には関係ない。
暫く見ていたが、依頼はなさそうだった。
諦めて駅馬車に予約を入れようかと思って冒険者組合を出ようと思ったら、受付嬢が声を掛けてくれた。
「もしかして配達の依頼を探してますか?」
「はい、ないみたいですね」
そう言うと受付嬢が手招きをしてくれた。
実はあるんだそうだ。
なので依頼受付の方に移動をして説明を聞いた。
「実は青級の方に依頼をするのはダメなんですけど、昨日の依頼がとても丁寧だったと聞いた商人の方が、配達の依頼をしたいとハルさんを名指しで依頼してきたんです」
そう言われて俺は驚いたけれど、そういえば矮人のおじさんが商人に紹介しておくと言っていたのでその関係なのかもしれないと思った。
「そうなんですね。どんな仕事ですか?」
とりあえず話を聞いた方がいいなと思って依頼内容を見せて貰った。
依頼は店の品を運ぶ配達の依頼だ。
倉庫一つ分、できれば数回に渡っての移動になるということだった。
冬までに王都の店の品をカザの店に移動するのだそうだ。
カザの街まで王都レダイスから二つの街を越えた先にある。
馬車で三日の距離で二泊する計画だ。
そして依頼料は荷が多く入れば入るだけ増えて、金貨五十枚から最大百枚までになっていた。
相当急いでカザの街に移動をしたいのだろう。
でも今は荷馬車が借りられないのだという。人々が冬に向けて王都を脱出しているのだ。中には引っ越しそのものをしている人もいて、セフネイア王国までも行くものだから荷馬車が一ヶ月も貸し出されたままになっているのだという。
そうして荷馬車が不足している情報が出始めるともっと足りなくなり、とうとう荷馬車事態が全部貸出しされてしまい、予約も埋まっているのだそうだ。
「今年は特に酷くてね」
それで俺はだからかと服屋の老婆のことを思い出した。
服屋なのだから服は持って行けばいいのにと思ってたのだが、その荷を積む馬車がそもそもないのだ。だから持って行けないので売るしかないのだ。
「依頼料もいい値段だし、いいですよ。俺もカザに行こうと思っていたので」
「そうですか、ありがとうございます。依頼料は冒険者組合を通じて預金として渡すことができます。冒険者証明書には預金通帳の役割もあるので依頼が終わりましたら依頼達成証明書を持ってカザの冒険者組合に提出してください。それで完了されます」
魔法の技術によってお金は転移魔法で移動ができるらしい。とても珍しい技術で冒険者組合や商業者組合などの国を跨ぐような組織と国が運用しているという。
一般人には使えない高価な魔導具が必要らしいので人の転移には使えないのだとか。
迷宮などでは転移技術もあるけれど、それとは別の技術で迷宮の転移は解明されていないらしい。
とにかく依頼を受けたので商人のいる店に向かった。
トルブレ商会という大きな店を持つ商人、モルト・トルブレさん。
ふっくらとした様相で人の良さそうな表情をしているが、目の鋭さはさすが商人という感じ。背も高くてやはり俺よりも二十センチ以上高かった。
それでも街の平均身長が二メートルらしいのでモルトさんも小型な人扱いになる。
「ああ、ハルさんですね。来てくださってありがとうございます。サボさんから話を聞いて配送のしてくれるとのこと。早速ですが荷を見て頂いた方が分かりやすいかと」
そう言われて自己紹介もしないままで倉庫に連れて行かれた。
馬車で王都の端の方にある倉庫街。商人の荷が沢山置かれている場所で、警備などが常駐している倉庫街だ。
そこは一手に一つの警備会社が荷の安全を守っているという。百を超える倉庫が立ち並んでいて、魔法によって鍵も何もかもが管理されている。
そんな場所で俺はモルトさんの倉庫に案内された。
それは東京ドーム一個分の倉庫と言えば大きさが分かるだろうか。それくらいに大きな倉庫。でも荷は既に三分の二くらいしか残っていない。
「実は既に荷を運びだしているのですが、どうしても荷馬車が当商会のものでは間に合わずなのです。どれくらいの荷が収納できますか?」
そう問われて俺は首を傾げた。
正直言って分かんない。
「とりあえず、入れてみますね」
そう言うしかなかった。
依頼は受けたので俺が荷を持ち逃げできるわけもないため、とりあえず荷を入れて見た。
シュシュッと荷が亜空間にどんどん吸い込まれていくけれど、全く問題なく収納できているのは荷が全部木箱に入っていたからだ。
つまり木箱として認識されているので一枠に木箱として収納されている。
中身はあまり変わりがないのか枠は五十ほど使って種類別に辛うじて別れている。
それでも俺に見える百の枠は埋まることなく、三分の一の荷が入った。
「え、まだ入るんですか?」
さすがにモルトさんが驚いて尋ねてきたので俺は頷いた。
「まだ入るようですね。俺も自分の収納容量が分からないんですよ。だからこれは俺にとっても挑戦なんですよね」
「そうなんですか……分からないほど大きな収納なんですか……そうですよね。こんな無茶な荷物を入れることなんてないでしょうし」
「そうなんですよね」
なのでどんどん荷を入れていくと、とうとう最後の荷物まで綺麗に入ってしまった。
さすがに百の枠が埋まったけれど、横にスライドするとまた百の枠があってそこの十ほど枠が埋まっていた。
中身は分からないけれど一応の違いはあるらしい。
『百の枠が埋まりました、収納が技能が拡張されます。千の枠が解放されました』
久々にナビゲーションが技能のアップを知らせてきた。
「あ、もっと入るみたいですね」
俺がそう言うとモルトさんは驚きに目を見開いていた。
「もしかして技能が解放されたのですか?」
「あ、はい。そうみたいです。結構入ったんですけど、更に入るように拡張されたみたいです」
「それは凄いですね! ああ、これで店の荷が全部綺麗に運べそうです!」
そう言われてモルトさんには握手された。
「さっそくですが、ハルさんには私が用意した馬車で移動して貰います。あと今日は私が用意した宿舎に泊まって貰います。ほら荷を持っていらっしゃるので何かと危ないかもしれないので」
そう言われて俺はそれはそうだと思った。
俺の今宿泊している宿は一泊銀貨二枚の安宿だ。そんなところに店の全財産の三分の二を持ったものが泊まっていたら誰でも狙うに決まっている。
い、意外にこの仕事、容量が入れば入るだけ俺の命も危ないんじゃないかな?
やっと収納持ちの恐ろしさを俺は実感し始めたのだった。
その日、結局安宿の方はモルトさんの店の人にお願いして引き払って貰った。
ちょうど泊まりたい人がいたようで、その人に宿泊費を譲って貰って返金代わりにしてもらったと言って銀貨二枚を返して貰った。
モルトさんが用意してくれた宿は王都の中でも高い宿だった。
部屋は大きいけれど、その入り口には冒険者の人が護衛についてくれている。
で、その護衛が。
「なんでお前なんだよ」
俺がそう言った相手は、イヴァンだったからだ。
鬼人の角二つが生えている黒髪金色の目をした強姦魔だ。
「ハルだったのか。護衛の対象の人間は」
イヴァンも顔合わせに驚いているようだったが、ちょっと和やかに笑い出して怖い。
「お知り合いですか?」
モルトさんがそう言うので、俺はどういう知り合いか言えずにいるとイヴァンが言った。
「宿の部屋が隣だったんですよ、それで知り合ってね。ハル」
「……ええ、そうです」
さすがに出会い頭に襲われたとは言えないし言わないよな。
ドギマギしたけれど、さすがに空気は読んでくれたようだった。
「そうですか。こちらイヴァンさんと、こちらはレギオンさん」
「どうも」
レギオンと言われた男は頭から耳が生えていた。
あれだ、獣人。しかも狼の獣人だ。
鑑定をしてみたら狼人族と書いてあったので狼で間違いない。
レギオンさんは青髪に赤い目の人。
聞くところによると、イヴァンとレギオンさんは組織を組んでいて一緒に活動をしているらしい。レダイスまでは護衛できて、二日ほど観光をしたらしい。
宿屋は別々に取っていたらしく、行動は別行動。
なので俺とイヴァンに何があったのかはレギオンさんは知らない。
「とにかく、ハルさんは大事な方ですのでしっかりと護衛をお願いしますね」
「もちろんです」
二人はそうはっきりと応えてくれた。
モルトさんはどうやら差別などしない人らしいのがこの時分かった。
レダイスから逃げ出すのも恐らくその差別が酷くなり、国として成り立たなくなったからということかもしれない。ギリギリまで国には止まるが首都にいるのはやめたのだろう。いつでもセフネイア王国かシリンガ帝国に避難できるようにカザの街に行くのだという。
「あなたが私の全財産を持っていることはお二人には秘密です。あなたは大事な私の親戚でカザまで護衛をして貰うことにしました」
まあなんで大事な親戚の子が安宿に泊まってたのかというような野暮なことはイヴァンも言わない辺り、事情は察しているのかもしれないと俺は思った。
そう思ってイヴァンを見て思わず鑑定をしてしまった。
イヴァンは隠蔽をしていると言っていたけれど、案の定鑑定技術は隠蔽しているようで鑑定結果にはでない。けれど種族、鬼人族。剣聖、生活魔法までは読み取れた。
恐らくこの辺りは冒険者証明書で確認ができるのだろう。
「あの二人は冒険者階級どれくらいなんですか?」
モルトさんにそう聞くと、驚くことにイヴァンもレギオンさんも銀級の冒険者らしい。
上から三番目の階級だ。
「この依頼を完遂すると金級に昇格するらしいですよ。組織としては既に金級扱いですがね」
どうやら奮発してモルトさんは財産を守ることにしたようだ。
荷馬車などを新たに雇って護衛を沢山付けるよりも、俺に荷を運ばせて馬車で移動、護衛は銀級二人の組織なら値は張っても安上がりらしい。
「ゆっくり休んでくださいね。私は隣の部屋にいますので」
「はい」
とりあえず、風呂とお手洗いが付いているいい部屋で、俺はまず風呂を借りた。
この世界にきて三日目の風呂。かなり汚れていたので体中を綺麗にして洗った。
体を洗っていたら何だかちょっとムラムラしちゃって一人でアナルを弄ってしまった。
何だかこっちにきて大変なのにオナニーするとか俺結構余裕かもしれない。
そんなことをしながらも風呂に入って寝間着に着替えてベッドにダイブした。
安宿の藁ベッドとか明らかに違うスプリングは入ってないけれどいい堅さのベッドで俺はそのまま横になっていたらいつの間にか眠ってしまっていた。
ご飯は既にモルトさんに傲って貰ったので食べ終わっているから後はもう寝るだけだったのでぐっすりと寝た。
初めてゆっくりとした睡眠が取れたかもしれない。
それくらいに安心して眠ることができたのだった。
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