Distance
カウントダウン
17
北上神はやっとここまで気付いてくれたのかと思った。
ここまで露骨にやれば、誰でも自分に気があって、しかもその恋愛感情が絡んでいるのではないかと、少しでも邪推するものだ。
その辺、鈍い卓巳は、自分が思われているとは考えない性格らしい。
それが幸いなのか、仲川のことにも気が付かなかったのだから。
でも、もうそれの恐怖はないと思う。
卓巳は、完全に北上神を意識しているのは、傍目から見ても明らかだ。
まるで、刷り込みみたいな作業を繰り返してきたから、意識するのは当然として、この先の答えを卓巳が出すのかどうかは北上神にも解らない。
卓巳は正解と言われて、少し驚いているらしいが、嫌悪感はないようだ。
「……やっぱり、そうなんだよな」
卓巳はそう呟いたのだ。
なんだと思って北上神が聞き返す。
「そうなんだとは?」
すると卓巳は顔を真っ赤にして大きな声で言う。
「だ、だって! 男に男がき、キスしたら、すごい、変じゃないか!」
そういうのである。
「まあ、確かに変だな」
「そ、それに……。それを嫌だって思ってない俺だって十分変なんだよ! どうしてくれるんだよ!」
卓巳はそう叫ぶと、ソファのクッションを掴んでそこに顔を埋めてしまう。
あらら、意外な展開。
と北上神は思った。
卓巳がキスを嫌がってないのは、確かだから、北上神はそこに付け込んでいたのは確かだ。
だが、それを自分が変だからと思う辺りが可愛いというかなんというか。
「じゃあ、卓巳は俺のこと、どんな風に思ってるんだ? 俺に恋愛感情がある好きだと言われてどう思う?」
北上神が覚悟を決めて聞くと、卓巳は少し動きを止めて、それから顔を上げてこちらを向いた。
「……う、嬉しいかも……」
顔を真っ赤にして言うその姿が可愛くて、思わず北上神は卓巳を後ろから抱きしめていた。
「お前、そういう可愛い顔するなよな」
「え?」
「たまんねえってこと。俺はお前に惚れてるんだぞ」
「あ、そっか……こんな変な顔がいいのか?」
卓巳は妙なことを言うので、北上神は笑ってしまう。
「正直言うとな。一目惚れだったんだよな、俺」
「え?」
そんなことまでは考えはいかなかったらしく、卓巳は驚いている。
卓巳が振り返ると、ちょうど北上神の目の前に顔がある状態になった。
「その顔、すげーピンと来てな。こりゃ助けてやったらいいことあるんじゃないかって思った。最初は下心満載だったんだが、アレのことでそれも一時お預けくらってなあ」
北上神は正直にそう言う。アレとは、仲川のことだ。それさえなければ、これ幸いにもっと口説いたのにと言いたいのだ。
でも、それでも周りには解るくらいには口説いていたのだが、卓巳が全然気付いてないときているから、これからは本格的に行くしかない。
「下心満載だったんだ……」
それを聞いても、卓巳は別に嫌悪感を抱いたりはしなかった。
というのも、ここまで来たら自分は、北上神威を、恋愛感情ですきなのかもしれないと思えてきたからだ。
「そう、スキンシップも、卓巳に触りたい一心だったしな。キスだってしたかったからしたわけ。かなり、理性試されてんのかと思った時もあったけどな」
そう告げられると、確かにそういう場面もあったかもと思える。
キスはただ本当にキスしたかっただけだろうし。相手が好きな相手なら、隙があったらしたいものだろう。それに卓巳自身嫌がってなかったというのもあるわけだ。
「じゃあ、お風呂も?」
「そうそう、卓巳の体を見たいが為に必死だったわけ」
そう言われると脱力してくる。
そこまでして、北上神は努力をしていたわけだ。
あんなことが起こっていたというのに、なんて余裕だと思った卓巳である。
「けれど怖がらせるのは駄目だって思ってな。自重してた」
真剣な声で言われて、北上神の顔を見ると、その顔は真剣だった。
本当に卓巳に嫌われるのが怖いという表情で、真剣で、それがドキリと卓巳の胸を打った。
あれで自重してたなら、本気になったらどうなるか……。それに卓巳は気付いてなかった。
「それは、ありがたいけど……。どうして俺なんかを?」
特に自慢するところがあるわけでもないし、特徴があるわけでもない。北上神が言うような顔も自分ではなんとも思わないし、誰かに何かいわれたわけでもない。
じゃあ、何処が?というのが、卓巳が不思議に思うところだ。
「まず、顔。それから性格も好きだな。そういう結構突拍子も無いことも言うし、面白いことも、可愛いところも結構好きだ。何でかな? 全部っていったら嘘になるからなあ。かなり、俺の好みから外れてるのは俺が一番知ってたつもりだったが。でもそれでもお前がいい、東稔卓巳じゃなきゃ駄 目だって部分が、俺の中で多かったってところかな」
北上神は慎重に考えながら答える。それは自分の気持ちを確認しているのもあるし、卓巳に聞かせている部分もある。
結構妙な告白である。
でも、北上神の中で東稔卓巳という存在が大きくなっていっているのは確かだ。
日に日に大きくなっていく気持ちをなんとか抑えてきたのだ。
「卓巳は、俺のことどう思う?」
北上神は聞き返してきた。
それに卓巳は素直に答える。
「そうだな。顔は嫌味な程整ってるからなあ。結構好きだな。意地悪なところとか、ちょっと秘密主義だったりとか。でも、俺が聞いたら答えてくれたりするのは嬉しい。違うことは違うと言ってくれるし、でも結構暴走する方だし、俺がどうにかしなきゃと思えるところもあって。それにちょっと年相応なところもいいかな、ギャップがあったし……それで……」
卓巳は一気にそこまで言って、一旦言葉を切った。
そして気が付いたように言う。
「どうしよう、俺、威のことかなり好きなんだと思うんだ」
と告白したのである。
言った卓巳の方がびっくりしているのだ。
「……これって、告白になるのかなあ?」
そう言って北上神を見る。
北上神は嬉しそうに笑って卓巳の頬にキスをした。
「十分、告白だと思うが。俺はかなり嬉しいぞ」
北上神は本当に嬉しそうな顔をして言った。
卓巳からここまで引き出せたのは上出来だろう。
だが、かといって次の段階にとはなかなかいけないが辛い。
卓巳も男同士で抱き合うなど考えてはいないだろうからだ。
そこまで考えて、凄く慎重な自分に北上神は爆笑してしまった。
「な、なんだよ。どうしたんだ?」
いきなり北上神が一人で爆笑し出したので、卓巳は驚いてしまった。
それも、北上神は卓巳から離れると、床に転がってゲラゲラと笑い転げているのである。
さっきの告白がおかしかったのか?と思ったが、どうも違うらしい。
北上神が自身のことを笑っているのが何故か解ってしまったからだ。
これも不思議な感覚だ。
「何が可笑しいんだ?」
こんなに笑っている北上神を見るのは初めてだった。
「自分が、すげー慎重過ぎて、可笑しい!」
北上神は言ってまだ笑っている。この笑いの発作はなかなか終わりそうに無い。
「早く、卓巳を押し倒したいのに、でも焦るな、まだだ、うん、とか思ってやがる!」
そう言うのだ。
「お、押し倒す!」
びっくりした卓巳は、顔を真っ赤にして北上神を睨んだ。
意味が直に解ってしまう自分も恥ずかしいのだが、それ以上にはっきりと押し倒したいといわれたことが、もっと恥ずかしいのだ。
もちろん、押し倒すとは、抱きたいってことで、抱き合うということはセックスのことだ。
それは知識としてある。あの学校にいれば、そういう要らない知識まで入ってくるから仕方ない。
「すげー抱きたい!」
北上神が叫びだした。とうとう我慢も可笑しさも限界だったらしい。
「俺にも心の準備ってもんがあるんだ!」
「でも、抱きたい!」
「あほ!」
「あほでも何でもいい!」
「発情期にはまだ早い!」
「人間はいつでも発情期だ!」
「勝手に盛るな! 俺はまだ発情期じゃない!」
段々と北上神が下品な言葉に突入しても、卓巳はまだだと言い張って、結局、その日は何もなかった。
というのも、北上神の腕がまだ完全ではないというのが、卓巳の主張で、それが完治するまでは、絶対に嫌だと言い張るから、北上神も仕方なしに言うことを聞くことになったのだ。
自分でも完全ではないと解っているのと、卓巳が承諾してくれる条件を得ることが北上神の条件でもあったからだ。
結局、なんだかんだで、北上神が完治という言葉を医者から貰って、診断書を保健医に提出してから、ということに纏まってしまったのだった。
その夜、卓巳は一人でやられたと思ったのは言うまでもない。
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