Distance
everywhere+over Distance
君らに恋をしているのだけれど
埜洲(やす)が呼び出した飲み会がたまに開かれる。
年も同じで趣向も似ており、気兼ねせずに話せる同僚。
そんな、埜洲由規(やす よしのり)、京義照仁(たかぎ あきひと)、世嘉良圭章(せかりょう けいしょう)の三人が集まったのはあるバーだった。
いつも通り、京義が10分前、世嘉良が5分前、そして埜洲が10分遅れというスケジュールなのでおのおの勝手に飲み始めるのは通常だ。
「いつも通り、バーボンロック」
埜洲がそう注文して座った時には、すでに京義も世嘉良も二杯目に突入している。
「そっちどうよ最近」
最近学校は夏休み前の試験期間に突入して、生徒たちはあたふたと勉強を始めたりしている。
ここにいる三人のうちで試験というものに関わっているのは化学の教師である京義くらいだ。
他の二人は気ままなもので、試験期間に試験管として呼び出されるくらいにしか仕事はない。
どうよと尋ねたのは、残り二人の恋人の話である。
もちろんそれは言わなくても分かっていることで、二人はふうっと息を吐き出して暗い顔をする。
「やっぱ、試験期間とかは手出しは駄目じゃねー?」
「当たり前だ。ここは辛抱するのが普通だろう」
世嘉良が言った言葉に京義が言う。
試験期間の生徒の忙しさは暇である美術教師にはあまり伝わってないようだ。
「辛抱ねえ、二週間、いや、もっとか……」
世嘉良がそう呟く。
埜洲も確か試験期間は二週間で、生徒は自発的に始めるのは三週間前くらいからであるのは知っているというよりも、思い知らされたところだった。
「……長くないか?」
埜洲(やす)は数えていてそう言った。
三人は即座にうんと頷いている。
「アレに二週間はさわれないなんて……」
忌々しいとばかりに京義(たかぎ)が呟く。
「なんて焦らしプレイなんだ」
世嘉良(せかりょう)も同じように呻く。それに同意して埜洲も言う。
「けどよ、下手に赤点とられてみろよ。補習だぜ補習。夏なのに補習」
そう声を低くしてささやくように言うのだ。
それを聞いた世嘉良は。
「いや、まあ、普通にしてたら千冬に補習はないな。うん」
そう言って自分の恋人は大丈夫だと呟く。その一方不安な顔をするのは京義だ。
「うちのアレは心配だ……復習はさせているんだが、本番で失敗なんてあり得そうだ」
京義の恋人はちょっとお馬鹿さんの部類に入るクラスだ。気を抜くと赤点も取る可能性もある。
ちなみに京義がアレと呼ぶのはただ単に照れるから名前を呼べないだけだ。
「うちも心配ないな。つか、相手してくれないのは当然ってぱしっとやられたもんなー」
埜洲は恋人に攻め寄ってしっかりと拒否られてしまった後だった。
そのときに、補習のことを言ったのも恋人の方からだった。
「でもさ、せっかく楽しみにしてる夏休みを補習で~ってのは無粋だよな、それは納得したんだけど。どうしてもさ。こう触りたいもんは触りたいと」
「欲望には忠実だな、埜洲」
「それでやりこめられてりゃ世話ないな」
世嘉良と京義に突っ込まれて埜洲はふうっと煙草の煙を吐く。
「正論だけに反論不可だ」
何ともないとばかりに埜洲は平気な顔をしている。恋人には散々言われてるから赤の他人から言われても気にしない。
「大体お前らは学校であれこれやり過ぎだ。少しは控えろよ」
世嘉良がそれをツッコムと、二人はしらっとそっぽを向く。
両想いになって盛り上がっているから学校でも手が出てしまうだけのだが、確かに頻繁過ぎる自覚はあるようだ。
「世嘉良んとこのは純情だから、学校でなんてあり得ないんだろうな」
埜洲がそう言うと世嘉良はその通りとばかりに頷く。
「うちはみんなが協力的でねえー」
埜洲はにこにことしてそう言う。協力させているだけであるがあえてツッコムところではない。
「まあ、相手にあったやり方というものもあるだろう。別に不満があるわけでもあるまい」
京義の言うことはもっともなのだが。
「いや、あんたのところのはヤバイからね、そろそろ自重したほうがねえ」
化学室の幽霊として有名になってしまったから、夏に向けて観客が増えてしまうのではないかと不安がる埜洲に、京義はニヤリとして言う。
「このたび、同棲することになったから、それも心配ない」
京義の言葉に世嘉良も埜洲も一瞬驚いたが、ふっと笑う。
「なんだ、そうなってたのか」
「まったく余裕で同棲に持ち込むか」
ほとんど同棲と変わらない生活をしている世嘉良もたまに泊まりに来て貰っている埜洲も、そういう状況になるのは嬉しいから、京義が喜んでいるのは分かるのだ。
それに京義の恋人は家庭環境が複雑だったらしく、ようやく引き取ったらしい。
「夏休みに入ったら引っ越す手はずになってるから、邪魔するなよ」
京義はそういって、恋人との時間を邪魔されないように牽制する。
「はいはい、うちにも邪魔しにこないでねー」
いつも暇だと京義は埜洲の家に行っていたこともあったので埜洲がそう言い返す。
そうやって笑っていたが、ふっと誰ともなく息を吐く。
「あ~あ、あと二週間……長いなあー」
埜洲がそう呟くと二人も頷いてため息を漏らす。
ちょうど恋人たちが一生懸命挑む期末試験の最中に恋人が相手するのは無理だから暇になってしまった者達が集い、ただの近況報告をする飲み会。
今後も何かあれば頻繁に開かれることがあるかもしれない。
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