Agnus Dei2
6
一族
神との番となり、体を混ぜ合わせた紗和は、少し気持ちも変化をした。
それまで燎に対して持っていた友情は、すっかり愛情に変わってしまっていた。
燎のペニスで何度も犯されていたら、それを好きになってしまったのだ。
もちろんそれまでの燎の思いが伝わったからこそでもあるが、神とセックスをし始めると意識が完全に快楽の世界にいってしまう。
それが気持ちよくて楽だったから、紗和の気持ちの変化も生まれた。
学校が再開し、通い始めると、それまで燎に対して熱を上げていた女子学生たちがあまりに騒がなくなっていた。
もちろん、燎と付き合いたいと思っている人はいたが、その反動で紗和をいじめ抜いていたことがなくなったのだ。
「やっと分かったのかな?」
そう言ったのは友人たちだったが、紗和はその理由を神から聞いた。
「私の所有物に害をなすような人間は存在をしないと言っていい。お前に私の匂いが付いたから私の所有物だと認識して何もできないのさ」
「そういうのは、ずっとそうなの?」
「私が匂いを付け続ければ、ずっとそうなる」
神はそう言って紗和の首筋にキスをした。
「…………!」
つまりそういうことだったのだ。
あの一回で終わるわけもないのだと言われて、紗和は少しだけ困った。
「あんな、凄いの、もう無理……」
そう言い真っ赤になっていると神が満足そうに笑う。
「もっと凄いのもとってあるから楽しみにしていろ」
「……っ!」
更に顔を真っ赤にさせると神がそんな紗和の?を手で触ってきた。
神はこんな些細な紗和の変化に喜ぶ節がある。
恐らく燎の思いにつられているのだろうと言うが悪い気はしないというので、気にしなくていい変化だけれど、燎といる時に感じる幸福感はあるので紗和は好きだった。
燎の思いと記憶などは全部神が引き継いでいるらしいが、それでも燎視点の神でも紗和が勾玉をどこで落としたのかは分からないままだという。
沈んだ村を掘り起こすことは今もやっているけれど、それでも勾玉を落としたところは掘られることはないのだろうし、神がそれを気にしていないなら紗和も思い出しても意味がないと思っている。
鏡が見つかったか代わりがあるとして、勾玉の代わりはさすがにないと思いたい。
神がそれほど重要視しているようではない感じからは、恐らく掘り出されることはない場所に落としたのかもしれない。
しかし勾玉も代わりがあるかもしれない。
加賀美という一族が何かしてくるとしたら、間違いなく神の回収だろう。
そのためには神に附属する紗和をどうにかしたいはずだ。
殺したいのか、本当に贄として使うのか。
どちらにしても紗和は神喰燎という人間の器をこの世から消さないためには、神を利用するしか方法がなかった。
燎の体で抱かれてしまったら余計に情が湧いてしまい、手放せなくなってしまった。
学校へ通い出して暫くはマスコミが校門辺りでうろついているから、気をつけていたけれど、二週間も過ぎると話題は別の事件になっていた。
テレビでは最近増えた学生の自殺事件を特集している。
もちろん学校の集団自殺が発端で、それに触発された学生が同じような集団自殺を続けているという事件だ。
既に五人くらいの学生が集団自殺をした事件が三回目にもなり、話題は若者の自殺についてと最初の事件の操られた上で術の反動で死んだこと以外は普通に社会現象だった。
そんなニュースを見ても気が滅入るだけなので、紗和はテレビを見なくなった。
しかしそんなニュースで、東京の古い街並みの神社にて復活祭が行われていた。
奥多摩にある古い神社では、それまで管理をしていた祭主がそれまで紛失していた神具が戻ったことから復活祭を行っていると報道されていた。
けれど、紗和はそんなニュースを気にもせずにテレビを消した。
気にすることはないニュースだったはずが、重要な情報だったと分かったのは後のことだった。
その日も学校へ向かっていると、校門を超えたところで紗和が呼び止められ、燎が職員室に呼ばれた。
「九条、お前、靴下の色それは違反だぞ」
そう言われてみたら、起きた時に寒くて履いていたものを履き替えずにきてしまっていた。
「あ、間違えた」
「反省文、書いて出すように」
そう言い合っている間に燎は職員室に向かっていた。
紗和は反省文の用紙をもらい、余計な作業が増えたなと思っていると、急に周りの音が消えたことに気付いた。
「……え?
さっきまで車の音や人の話し声、ざわざわと風が鳴らす木々の音まで全ての音が消え去ってしまっていた。
異様な空間に紗和は瞬時に警戒をしたけれど、その時に紗和の腹が少し熱いことに気付いた。
「なに、これ……」
そうしているとリンリンリンと鈴の音が聞こえて、頭から真っ白な布を被っている人が見えた。全身が真っ白な袴姿で、鉄の杖を持ち、その杖が床を叩くと鈴の音がリンリンリンと聞こえた。
明らかな異質な物、それは確実に紗和を捉えに来たものの姿だった。
「……燎っ!」
思わず校舎を振り返り、燎がいるはずの職員室を見たけれど視界は霧の中に消えてしまった。
これはきっと術なのだろう。
人には見えない、そして感じることができない術だ。
そして逃げようとしたけれど、後ろを振り返ったらもう側にその人たちが立っていた。
周りを三十センチくらいで囲まれて、リンリンリンと鈴が鳴ってくると紗和の視界が急に暗くなっていくのを感じた。
紗和にはこれから逃げる術はなく、心の中で燎に向かって助けを求めるだけになってしまった。
紗和が次に目を覚ましたのは何時間も後のことだった。
見たこともない天井が見え、そしてすぐに自分が気を失う前に見た光景を思い出して紗和は飛び起きた。
すると目に真っ先に飛び込んできたのは、格子状になった木の壁だった。
「え……」
それはいわゆる牢屋だ。
起き上がってすぐに入り口を確認してみたがそこには南京錠がしてあった。
人間である紗和にはそれだけで十分なことで、逃げることはできなかった。
「どうしよう……」
助けを求めようにもここが何処か分からない。
ふと紗和が自分の服を見ると、着物に着替えさせられている。
裾は開けてしまっているが、そのお陰で何がどうなっているのか分かってきた。
「……儀式だ……」
どう考えてもこれは儀式を行うための格好だ。
本物の儀式がどうなっているのかは知らないけれど、わざわざ術を使って誘拐した相手を着物に着替えさせて閉じ込める意図があるのは、その関係しかあり得なかった。
紗和に気をつけるように言っていた神のことを思い出す。
神は紗和に何かあれば分かると言っていたけれど、少し暖かいお腹の様子を紗和は気にして見る。
はぐってみるとそこには文様はでていなかったけれど、それでも少し暖かかった。
とにかくどうにかしないといけないと思いながらも、目が覚めたのに誰も牢屋までは来なかった。
そしてそれから朝にでもなったのか、誰かが牢屋の通りに入ってきたようで、お盆にご飯を載せたものを持ってきたようだった。
「あの、ここはどこなんですか!?」
牢屋の前にやってきた人に紗和が尋ねると、その人は何も言わずに食事を食事受けのところに置いてから牢屋から離れていく。
「あの! 誰か!」
格子にしがみ付いて奥を除こうとしたけれど、どうやら洞窟になっているようで先は深いのか見えなかった。
大きな声を出しても誰も寄ってこないし、様子も見に来ないところを見ると、ここから紗和が抜け出すことは不可能ということなのだろう。
「……おなか、空いたな」
食べると危険だと分かっているけれど、お腹が空いているのも事実だった。丸一日は過ぎているのだろう。
お腹は鳴るけれど、警戒をして紗和はご飯から離れ、牢屋の隅に座った。
牢屋の壁や床はコンクリートで覆われているが、これは恐らく掘って逃げるのを防止するためにそうしているのだろうと思った。
そして空腹のまま半時ほど紗和は放置された。
やがて誰かが歩いてくる音が聞こえて、紗和はそこを見た。
「おや、この食事はお気に召さない?」
そう言われて睨み付けると、その人物は牢屋の前に立った。
紗和は睨み付けてからハッとする。
「……燎……?」
そこに立っている男は、燎にそっくりな容貌をしていた。
「まさか……そんな……」
しかしよく見ると似てはいるが、目の前にいる男の方が年を取っていることが分かる。
「燎とは、烏丸燎のことか? 村で助かった子供の一人」
そう言われて紗和は警戒をする。
睨み付けると男は側にあった椅子に座って言った。
「あの燎という男は、どういう男だ?」
「……え?」
どうやら彼らは燎のことを詳しく知らないらしいことがここで分かった。
「多少の術を使えるようだが、そういう修行でもしていたのか? 報告ではそうしたことはないと見ていたが?」
「は? 何? 術って?」
紗和は何の話だと言うように問い返した。
紗和自体は燎の中に神がいるのを知っているけれど、それは中身が燎ではない何かであることを知っているに過ぎない。けれど神が術をしっかりと使っているのを見たことはないのだ。
背中には触手を生やしていたけれど、その異形の姿が術というわけでもないのは分かる。あれは神の形態であり、術ではないのだ。正しく術を使っている神は見たことがない。
だから答えようがないのも事実だ。
「なるほど、とぼけるというわけか。まあいい、ここを見つけ出せるほどの能力者でもあるまい。君には当初の役目を果たしてもらおう」
「役目って……?」
「贄だよ。君は神に選ばれた贄だ。だからこそ、君を使って神を引き寄せる儀式をする。そうすれば神は元の形に戻り、私たちの守護者となる。そして祭主として我々は返り咲く」
そんなことを言われて紗和は失望をした。
村人も欲に塗れていたと神は言っていたけれど、結局祭主一族も同じ輩であるのは間違いなかった。
「……神って何?」
紗和はそう訪ねた。
紗和は神について正直に言うと何も知らない。
神が語ったことによるとずっと封印されていて、記憶もないほどの存在である。
ならその神を祭っていた一族だという彼らはそれを知っているのではないかと思ったのだ。
神すら知らないこと。
「そうだな、意味も分からずこの大役を果たすことになるのは可哀想ではある。良かろう、その辺りを教えてやろう」
男はそう言うと、指を鳴らした。
それで二メートルはあるような大柄で筋肉隆々の男がやってきた。
格子のドアについている鍵が開けられて、紗和に出てくるように男が言う。
「準備もするから付いてくるといい。ただし逃げようとすれば、その男がお前の首をひねって体だけを儀式に使うようにする。もともと頭は必要ないのでね」
さらっと怖いことを言うので紗和はビクリとする。
どうやら生きている必要はないらしい。
もし神が言うようなことをするのなら、確かに生きている必要はないだろう。
ただ彼らは神が何も考えていないモンスターに見えたのだろうか。
それとも実態を実は知らないということではないだろうか?
「さて神が何だと聞いたところだったね」
男がそう言いながら、先を歩いて行くと大きな洞窟に出た。
そこは煌々と火が焚かれていて、大きな社が建っていた。
古くからあるわけではないようだが、それでもこの規模の大きなものを建てられる財力がある一族ということだ。
確かに神は言っていた。
富を与えていたと。ならば、それくらいの端金は彼らも村を追い出されたと言っても持ってはいたのだろう。
「ここは、神喰神社だ。あの村から持ち出した我が一族、加賀美家の社だ。主に儀式をする時に使用をする。村にあったものと同等の物で効果ももちろんある」
それを聞いて紗和はボソリと言った。
「俺は、村の社を知らない……」
そもそも本当に記憶がないのだ。
「ああ、そうだったな。君は記憶がないのだった。さて、ここに祭っている神については、正直我々も分かっていない」
「え?」
まさか本気で分かってないとは思わなかった。
そして馬鹿正直に答えるとも思っていなかった。
「我々が存在をする前から、神は鏡に閉じ込められていたようだ。その鏡を見つけた一族が祭り初め、儀式を完成させ、そして儀式で神を呼ぶことに成功をした」
どうやら儀式を繰り返しやっと完成したのが、神が言っていた儀式の一部なのだろう。それからどう変化したのか分からないけれど、その儀式は見よう見まねでできるような物ではなかったらしい。
「村がどうして今まで無事で繁栄をしていたのか分かるかね?」
「……さあ?」
「我々が追い出された後も同じ儀式を同じ時にして、神を降ろしていたからだよ」
「……はあ」
儀式を同じ日の同じ時間にすることで、村の儀式をも成功させていたという。
村と同じことをすることで彼らにメリットがあるとは思えなかったが、彼は言った。
「村人に脅され追い出されはしたが、あの村は我らの故郷だ。萎びて終わらせるわけにもいかなかったし、何より神具も村人に脅し取られていたから守らないと祭主の意味がないんだよ」
紗和の思っていることが顔に出たのか、村を救っていた理由を言われた。
「そのどれにも俺は関係ないから」
はっきりと紗和が言うと、彼は紗和を振り返った。
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