invade

2

 合同同窓会の後、一週間があっという間に過ぎ、凌久はその週は自宅で寛ぐために買い物をしてから自宅に戻った。
 配信の映画が溜まっているので、それを夜通し見て過ごそうと決め、夕飯もさっさと取り、風呂も入ってネットに繋いでるテレビを操作して映画を選んでいると玄関のチャイムが鳴った。
 ちょうど夜の九時を回っていた時間で、こんな時間に誰か来たのかと驚く。
「何だろ?」
 友達だったら先に携帯に連絡があるはずであるし、大家がこの時間に来ることはない。隣の住人は夜勤の仕事が多い人でこの時間にいないことを凌久は知っている。
 だから何かやらかしたわけではないとすぐに思い直す。
 宅配便か何かだろうかとインターホンに出ると、そこには思いも寄らぬ人が立っていた。
「……瀬野先輩? え、なんで?」
 カメラに写っているのは瀬野志道だった。
 凌久が勝手に思いを寄せ、そして勝手に失望して振られたと思い込んだ人である。
そのことはもう仕方ないことであるが、ただ今の凌久と瀬野には接点がない。
 まず瀬野の知り合いには凌久の知り合いはほぼいない。現在の住まいを知っている友人は二、三人しか居らず、唯一瀬野と接点があるのは同じ会社の矢鳴くらいだ。
 けれど矢鳴から直接瀬野と接点があるなんて話は聞いたことがないので、どうして引っ越したばかりのアパートを知っているのか分からない。
 外は雨だったのか瀬野の髪が濡れているようで凌久は応対に出た。
「すぐ開けます」
 そう言ってオートロックを開けた。
 それから三分ほどで瀬野は玄関までやってきた。
 玄関を開けると全身濡れている瀬野が立っていた。
「せ、先輩……早く中に入ってください……。お風呂、入った方がいいですね……」
「すまない……駅を出たあと途中で雨に降られてしまって……」
 濡れ鼠の瀬野は恥ずかしそうにそう言うけれど、凌久がすぐに部屋に案内して風呂にまず入って貰った。
 雨はかなり降っているようで今でも土砂降りと言っていいくらい降っている。防音がよく効いているマンションなのと映画を見ていたので凌久には聞こえなかったのだ。
 とにかく瀬野の着られる服がないので昔貰ったバスローブを取り出した。
 結婚式の引き出物で貰ったものだが大きめのバスローブだったせいで身長が百六十センチちょっとの凌久では酷い不格好になるので結局使わないままだったものだ。
 これしかないので服はどうにか調達しなければならないけれど、着ていた服を乾かす方が早いかもしれない。
 幸い瀬野が着ていたのは普段着で乾燥機に入れておけば乾きそうではある。
 とにかく乾燥機に放り込み、脱衣所のレールにタオルとバスローブを引っかけてから言った。
「ここにバスローブとタオルを引っかけて置いてます。他に着られるものがないので服は乾燥機に入れました」
 そう凌久が言うと中から声がした。
「ああ、助かる。ありがとう」
 その声を聞いてから凌久は脱衣所を出てキッチンでコーヒーを準備した。
 準備をしていた時に凌久は瀬野がコーヒーが好きなのか分からないことに気付いた。
「……そういえば……お茶とか水ばかり飲んでたみたいだし、コーヒーとか飲んでるのみたことないな……」
 生徒会長だった瀬野はいつも生徒会室ではペットボトルの水を持っていて他の飲み物を飲んでいるのを見たことがない。そこまで親しくもない凌久はかといってここで水のペットボトルを出すのは違う気がして、結局コーヒーを淹れた。
 テレビ前のテーブルにコーヒーを置いたら瀬野が風呂から出てきた。
「助かった……濡れても平気だと思っていたけど、想像以上に寒くなって凍えるかと思った」
 そう瀬野が言うから凌久は苦笑してから言った。
「今、十二月ですよ。そりゃ雨に濡れたら体温を持っていかれますよ。今日は特に夜の気温も低いらしくて、もっと気温が下がれば雪が降るかもとか言ってましたよ」
「そうなんだ……天気なんていつも見ないからな……マンションのすぐ下に地下鉄あるし、door-to-doorみたいなもんだから」
 瀬野は高級マンションに住んでいて立地がいいので地下鉄がすぐ側にあるらしい。海外で何年も出張して地位を築いてきた人の生活は凌久もみたことはないので、ちょっと苦笑をした。
 凌久のマンションは最近引っ越したばかりの十畳にキッチンとバストイレ別洗面台ありのちょっとだけマシな一人部屋だ。本当はもう少しいい部屋に住めるのだが、下手にいいところに住んで生活レベルを落とせなくなるのが嫌で、前のアパートよりいいのはオートロックが付いたことくらいだろうか。独身男性の住むアパートなので気軽ではある。
 そんな部屋であるが、よほど瀬野には珍しいのか、瀬野は周りを見回してから凌久が勧めた床にある座布団に座った。
「志水ってこういうところに住んでたのか」
「一人暮らしならこんなものですよ。コーヒー、お口に合うか分かりませんが、どうぞ」
「お、何から何まで助かる」
 そう言うと瀬野はコーヒーを一口飲んでから少しだけ眉をしかめた。
「駄目でしたか?」
「いや、良かったらだけど、ペットボトルの水とかない?」
「あ、ありますよ。そっちでよかったんですね。迷ったんですけど……」
「悪いな。最近コーヒーのブラックを飲み過ぎて、それを注意されてからやめてたら、逆に飲めなくなってるみたいで」
「あははは、ありますよね、そういうの」
 凌久は笑いながら台所に戻って冷蔵庫に入っている水を持って戻った。
「悪いな、本当に。迷惑掛けているのに図々しくて」
「いえ、あるものでしたので別に。買ってこいって言われたらさすがに追い出しますけど?」
 凌久がそう言って笑って返すと、瀬野も笑っている。
「勘弁してくれ、この大雨の中、この辺で迷子になりかけて辿り着いたんだから」
 そう言われてしまい、凌久はやっと瀬野がどうしてここにきたのかという本来の話をしていないことを思い出した。
 コーヒーを一杯飲んでから凌久は聞いた。
「そう言えば、どうされたんですか? 急に僕なんか訪ねてこられて……」
 凌久が単刀直入に聞き返すと、瀬野が言った。
「いや、ほら同窓会で何か話があると言っていたのに、具合悪くて帰ったって聞いたから。何を話したかったのか気になってな」
「そ、そんなことでわざわざ訪ねてこられたんですか?」
 まさか瀬野がそんな些細なことであろう問題を気にしているとは凌久も思わなかったのだ。
「そんなことだよ。で、何だったんだ?」
「あの、いえ……それは……」
 凌久はまさかその話を蒸し返されるとは思いもしなかった。
 一週間前に自己完結してしまった思いは、絶対に実らないのは分かっている。だから告白なんてしない。
 それに今ここでそんなことをしたら、瀬野が居づらくなってしまう。
 着替えも濡れた服で追い出すわけにはいかない。
「すみません……もう解決してしまったので……そのもう大丈夫です」
「へえ、解決したのか」
 凌久がもう相談することはないと言うと、瀬野の声のトーンが落ちた。
「……あの、すみません」
 その声のトーンが落ちたのが怖くて凌久はビクリと震えた。
 瀬野がこういう声を出すときは苛立っている時だということを凌久は覚えていた。
 自分の思い通りに事が運ばないことに苛立つ時があって、こうなるといつもは高丘などが仲裁に入って宥めるのだが、凌久はその時いつも何もできなかった。
 怖くて顔が上げられないでいると、瀬野が溜息を吐いて言った。
「それは、具合が悪くなったのに帰りの居酒屋で友達と仲良く一杯できるくらいのことだったんだ?」
 そう瀬野が言い出して凌久は何故それを知っているのかと驚いて顔を上げてしまった。
 すると瀬野は能面のように表情を全く顔に出さないままで凌久を見ていた。
「仲よさそうだったね、何だっけ。いつも一緒にいるやつ。あいつに相談して解決しちゃったわけか」
 そう言われたらそうなので凌久は驚きながらも頷いた。
「……はい、すみません」
「でさ、それって何だったわけ? 解決できる人が側にいるのに俺に尋ねるくらいの重大なことだったはずだけど? 俺はそれを知らされずに帰れってことかな?」
 瀬野がそう言い出して凌久は怖さを強く感じた。
 威圧感のある瀬野は高校や大学時代とは違った優しい先輩ではない。
 ずっと盲目で見ていたせいもあるし、凌久は自分が直接怒られたりこういう態度をされたことがないので、ずっと知らずにきたことだった。
 瀬野はこういう高圧的な態度を取るような人だったのだ。
 目が覚めてしまったら、色々と瀬野の悪いところが目に付いてきてしまい、凌久は焦った。これまで矢鳴がそこまでいいか?と言っていた言葉を今やっと理解できたのだ。
 なんでこんな高圧的に人を脅すような言い方で攻めてくる人を好きだったのだろうか。本当に理解が追いつかなかったのだ。
 凌久の中ではあのショック以来、瀬野への関心はほぼゼロに近い状態だった。
 ただいい先輩だったし、凌久は嫌な思いをしたのはあの裏で話していた悪口に近い内容くらいだ。それしか嫌なイメージはなかった。
 けれど今目の前にいるこの人は、本当に自分が憧れていた人なのかと別人かと思うくらいに違うように感じた。
 それもそのはずだった。
 凌久は瀬野が社会人になって出張で三年くらい海外にいる間も帰ってきてからも約五年も瀬野には会えてなかったのだ。だからその間に凌久の思い出が美化されてしまったのもあったし、瀬野自身が変わってしまったのもある。
 その違和感のちぐはぐなところが大きくなり、今その正体が顔を出そうとしている。
「ずっとな、お前のこと、こうしたいと思ってたんだよな」
 瀬野はそう言うと立ち上がり凌久の方へと向かってきた。
 その時の瀬野の顔はとても優等生で優秀だった人の顔ではなかった。
 何か良からぬことを企んでいる人の顔で、凌久は咄嗟に逃げようとした。
「……あ……っ」
 しかし立ち上がろうとした途端、足に全く力が入らないことに気付いた。
 いやそれどころか体に全然力が入らないのだ。
「あ……いや、なんで…………」
 床に倒れ込んだ凌久は必死に起き上がろうとするも、体は力が入らずに匍匐前進すらできなかった。
 そしてすぐに瀬野に捕まった。
「逃げるなよ、志水」
逃げようとする凌久の足を掴んで瀬野は凌久を引き寄せる。そして凌久の服を捲り上げると露わになった肌に顔を埋めてきたのだ。
「いや……瀬野、先輩……なにを……」
 逃げようとしても仰向けにされて膝の間に瀬野が入り込み、ホームウェアだったせいでパンツも簡単に脱がされて、下着越しに股間を弄られたのだ。
「凌久……ああ、ずっとこうしたかったんだ」
 瀬野が突如変貌して、凌久を名字ではなく名前で呼び、凌久の乳首を唇で吸い上げて舌で嬲ってきたのだ。
「あ、やだ……ああっせんぱい……ああっ」
 逃げようとしても股間を握られている状態では怖くて身動きが余計に取れなかった。
 強く股間を握り揉んでくるから、これ以上逃げようとすれば握りつぶされるかもしれないと怖くなるのは仕方の無いことだった。
 瀬野もそうする目的で股間を握っているのだろうが、やがてその手が離れたと思ったら、下着の中に手を入れ、凌久のペニスをむき出しにするとそれを瀬野が手で扱き始めたのだ。
「ぁ、あん……あ、だ、だめ……っ」
「ああ、凌久の乳首、美味しい……舐めやすい大きさだね……オナニーの時は乳首も弄ってるんだな……舐めてやったらちんぽがビクビクしてんの……可愛い」
少し凌久が抵抗をするがそれを瀬野が許してくれるはずもなかった。
 瀬野は最初からこうすることが目的で凌久の部屋にやってきたのだ。
だからこうなったら止まらないのだろう。
「あ、あ、だめ、だめっ……あぁっ――!」
ペニスをいいように扱かれて、こんな状況なのに凌久はペニスで感じた。そして瀬野が言うようにオナニーで乳首を弄っていたから乳首でも感じてしまっている。
「やめ、せいぱいっ……ん、く、ぅ……っ」
乳首を弄るようになったのは、男同士のセックスに興味があって調べた時に、乳首も開発するとオナニーもよくなるという話を読んでから始めたことだ。
 知ってからすでに五年以上経っているから乳首も自分で開発済みである。
「あっ、あ、あっ、っく……あっ、う……あ……っ」
「凌久、いい声聞かせて……」
「あぁ……っ、あはう……っひぃ、あっ!あ、んん……っ」
凌久は瀬野に乳首を舐められながらペニスを扱かれて、とうとう絶頂へと導かれた。
「あっ、はぁ……あっ、ああい……っ、ああああぁ!!」
溜まっていた精液が吹き出て、それが瀬野の手を濡らしている。一部は吹き出た勢いで凌久の腹を濡らしていたけれど、それを瀬野が舌で舐め取って綺麗にしている。
 その時の瀬野の目は完全に獣のような人を食らうくらいに恐ろしい姿に凌久には見えた。


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