Luck out

7

 野瀬の出来事から三日ほどで、野瀬は監督を次の作品で引退すると言った。
 もう作品は全て撮り終えているので劇場公開されるのを待っているところだったが、野瀬は体調不良を理由に試写会も全部出なかった。
 世の中の人は野瀬の妻である智嗄の姉の声明で野瀬がうつ病になっていることを知らされた。
 あれからも野瀬は智嗄のことになると異常な興奮をして暴れてしまうので、智嗄の話題を出すことも禁止されている。
 今は療養だと言って海外の別荘地に行っているからマスコミも追いかけられなかったし、病気と発表している人を追い回すわけにもいかなかったのだ。
 そして野瀬の話題中も北浦と橋本の話題は続いていたが、急に橋本側がトーンダウンし、示談が成立したと言い始めた。
 というのも、北浦への過度な誹謗中傷が目立ち始めていたせいで北浦が謝罪するけれど、そちらの根拠のない噂を公共電波を使って流したことや、智嗄が和解案を出したけれどそれも拒否したことで、智嗄が橋本に強迫されていたことを警察に相談すると言ったからだ。
 もちろん北浦は謹慎後に謝罪会見を開いたが、そこで何度も橋本側と連絡を取っていること、警察にも自首したこと。その捜査協力をしてもらおうとしたら急に橋本側がそれも拒否したことまで喋っていた。
 つまり警察を介入させたい加害者の北浦と、介入させたくなくて被害届を出さない橋本側という奇妙な構図になっていることを会見で暴露していたのだ。
 もちろん北浦を叩く準備をしていたマスコミは鳩が豆鉄砲を食らった顔をしていた。
「つまり、これはどういうことだ?」
 と、会見を見た人には一つの真相しか見えてこなかった。
 橋本側は警察沙汰にしたくない理由があるということなのだ。
 北浦は警察に全てお任せをしているので事件のことは加害者の自分にすら分からないこと。警察からは会見を開いて事情を説明してもらえることなどを言ったから、この事件は形勢逆転になってしまった。
 この喧嘩は普通は警察から話し合いで示談するように言われるないようではあるが、自首したなら北浦は事情を話しており、そこで喧嘩の理由についても話していることになる。
 それを知りたいマスコミは、警察の会見に押し掛けた。
「えー今回の事件加害者が出頭しており、事情をうかがったところ先に暴言を吐き、加害者に付きまとっていた被害者による誹謗中傷が原因とされます」
「誰の誹謗中傷なのでしょうか?」
「えー、北浦さんの親しい方で、被害者はその方のことを侮辱したことがボイスレコーダーで確認されてます」
 そう警察が言うのでどうやら北浦側はしつこく絡んできては暴言を吐く橋本の言葉を誹謗中傷の証拠として録音をしていたというのだ。
「本件に関しまして、被害者が被害届を出されないと確認いたしましたので、事件立証はできない、警察としては事件は起こっていないため、逮捕状を取ることができません。今回の会見は、事態を重く見たための発表であり、逮捕などの報告会見ではありません。以上となります」
 警察では事件として扱えないと言ったため、マスコミは更に混乱し、橋本側に被害届を何故出さないのかと橋本を追い詰めた。
 その後、橋本の事務所側が声明を出した。
『今回の件でお騒がせしております。橋本泰典が北浦佳隆氏に暴行をされた事件は、橋本が北浦氏に対し、暴言と誹謗中傷、北浦氏の関係者を脅迫していた事実があった上での?を殴られたという経緯があったことが判明致しました』
 つまり先に暴言や脅迫を繰り返していたせいで一回殴られたということである。
 そのことで橋本は警察から事情を聞かれていたが、何と橋本が持っていた診断書が偽造したものだったことが判明した。
 だから診断書がない以上、殴られたけど怪我がないという結果になってしまったのだ。
 もちろん今からでも取れるけれど、傷は三日で治ってしまった程度だったことも判明し、警察から私文書偽造として厳重注意がされていた。
 そして橋本は形勢逆転してしまい、自分が叩かれ始めるとフランスにさっさと逃亡してしまい、橋本の事務所としてはこのまま橋本との良好な関係は築けないとして、橋本との契約を解除するとまでかかれていた。
 事務所は平然と橋本の虚偽に騙されていた立場であることを強調していたので、事務所としては橋本を守る気はないらしい。
 呆気に取られるしかない事情を知らなかった人たちは橋本に振り回されていたことに腹が立ったらしいが、北浦が殴った事実もまた問題としていた。
 内容が内容だけに北浦に同情が集まっていたが、北浦はその後も謹慎を続けるといい、半年後に進退を考えるとした。
 そうなると世間は事件の終息を感じたのか、北浦が戻ってきてまた演技をしてくれることを願ってくれた。
 
 
 智嗄は全てが片付いた後は、頼まれていた脚本だけを仕上げてしまうと本当に事務所を辞めてしまった。
「本当に、辞めなくてもいいのに」
 そう言われても野瀬を潰してしまい、北浦も謹慎させてしまった事実は消えない。
 北浦が橋本を殴ったのは智嗄のことを『淫乱ビッチ、誰にでも跨がるようなヤツ』と言われたせいだった。
 しかし智嗄は橋本と別れた後は誰とも付き合っておらず、北浦とそう言う関係になったからといえ、橋本の言い分は的外れである。
 けれど智嗄が事務所の稼ぎ頭を二度も傷をつけた事実は変わらない。
「いえ、俺がいるときっと事務所には迷惑しかかからない。だから辞めて独り立ちした方がいいんだ」
 智嗄はそう言い、もう野瀬や家崎たちと関わらないところに行くことにした。
「そっか、寂しくなるな。お前の脚本を真っ先に読めて楽しかったよ。今度からは素直に映画館で楽しむから」
 事務所社長の家崎にはそう言ってもらえた。
「楽しかったのは俺もです。長くお世話になりました。今までありがとうございました」
 智嗄はそう言って事務所を後にした。


 智嗄の全てが片付いたのは北浦の謹慎期間であった半年後だった。
「それでお前はどうするんだ?」
 北浦は謹慎が解けてから、智嗄には内緒で何かをしていた。
 北浦とは野瀬の家で会ってからは、直接は会っていない。
 けれどメッセージアプリでは会話を続けていた。
 人間は話し合わないとダメになることは学んだので、二人はお互いに自分の先を話し合ったのだ。
 その日の夕方、ニュースが飛び込んできた。
 北浦佳隆はアメリカに拠点を移して芸能活動をしていくことになったのだ。
「マジかー……」
 北浦は事務所で残りの仕事を片付けた後、事務所の後援を受けてアメリカの事務所と提携してやっていくことになった。
 既に映画三本の出演が決まっていて、モデルとして雑誌の表紙を飾るらしい。
「役者は続けるとは聞いていたけれど、夢は大きくか……」
 その発表は予想外な展開だったようで、北浦を待っていたファンはかなり盛り上がっていた。
 北浦は野瀬の映画で評価されていて海外でも認知度が高かったこともあり、出だしは順調だった。
 北浦はすぐにアメリカに渡り、脇役であるが映画に出た。
 智嗄はまだ日本にいて、引っ越しのための荷造りをしていた。
 仕事の関係で智嗄はロスに行くことになっていた。
 アメリカの大手映画会社から脚本の依頼が多く入り、いっそのことと思ってアメリカに移住することにしている。
 それに合わせたわけではないが、二人は向こうで落ち合う約束をして、お互いに日本では会わずに別々の日にアメリカに飛んだ。
「智嗄は、恋人と住むんだよね」
 そう言うのは不動産会社から鍵を預かってきてくれた、智嗄の新しいマネージャーになるジョンだった。
 アメリカではフリーで活動をするときはマネージャーを個人で雇って交渉をして貰うのが主流だ。だから智嗄ほどの脚本家ならば交渉役がいる方が安全である。
 法律にも明るいジョンは、前の事務所にいた河合の親戚だという関係で紹介をしてもらった。
 早速仕事は家探しになってしまったが、彼は智嗄が北浦と付き合っていることは最初に打ち明けていた。
「そうだね。でもほとんど俺が一人でいることが多いかもしれないね」
 そう言って通して貰った部屋は、アメリカならではの大きな屋敷だった。
 回りには大物俳優の自宅があったりするような高級住宅地であるがここは北浦がこの場所がいいと選んだ四つから智嗄が最終的に選んだ家だった。
 とにかく治安がいい場所であることが重要視された場所で家の前の道に入るには大きな門を越えないと行けない。回りは塀に囲まれていて警備員もいる。
 知り合いもいない国にいくならこれくらいは妥当だそうで智嗄は文句はいわなかった。
「本当、景色はいいね」
 山の途中にあるから街が見下ろせたので夜は夜で良さそうだった。
 智嗄はそこで仕事を再開した。
「あっちは、これで。こっちはあれで」
 こっちに来るまでに書き上げた脚本は英語に清書をして貰う。
 ジョンの妹のサラが翻訳をしているというので智嗄は雇って一緒に仕事をしてもらった。ジョンもサラも仕事が定期的になくて困っていたからか、智嗄の仕事を一生懸命してくれた。
 その甲斐があり、智嗄の脚本は智嗄が思っているように丁寧に翻訳されてすぐに映画会社が飛び付いてくれた。
 順調にアメリカの生活に慣れてきた頃、北浦が三つの撮影を終えて家に戻ってきた。
「ああ、いい家だな。智嗄、やっと会えた」
 北浦はすっかり大きくなった体を寄せてきて、智嗄が驚いているのにも構わずに抱き寄せてきた。
「お帰り……よっしー」
 智嗄がそう言うと北浦はくすぐったそうに笑う。
「もう、そう呼んでくれるのは智嗄だけになった」
 北浦は既に智嗄をさん付けはしなくなっている。日本では意味があった距離感であるが、もうここでは必要がない。
 北浦はこっちではカミングアウトをしていて、智嗄という恋人がいるのも知られている。そして智嗄もまた有名人であるから、その二人が日本から拠点を移したのはそれが関係しているというのは有名だった。
「智嗄、触らせて」
「うん、触って」
 智嗄はそういうとジョンは慌てて妹をつれて帰っていった。
「……んふ……ふ……ん」
 二人はキスをして絡み合った。
 日本を出る前に半年、アメリカにきて半年。合計一年間、二人はリアルで会っていなかったのだ。
 一年ぶりでも北浦は智嗄を抱く腕は性急で、とても興奮しているのが分かった。
「もっと……智嗄」
 触りたいしなかに入りたいともっと抱いてくる北浦に智嗄は微笑む。
「俺だって、もっとしてほしいよ」 
 智嗄がそういうと北浦は智嗄の中に挿入った。
「ああ!!」
 とてつもない圧迫感に襲われて智嗄は北浦の滾っているものを受け止めた。
 懐かしい感覚を体はしっかりと覚えていて智嗄は体が歓喜していることに気づいた。
「お前が中に……はいって嬉しい……はあん……ああああ!!」
「智嗄、ああ智嗄のなか、たまらない……とろけそうだ」
「ああぁっんっはぁっ……あっあんっあんっ」
激しく求めてくる北浦に智嗄はしっかりと答えた。
 ずっと待っていたのだ。こうやって抱き合える時を。
「ひあぁっあんっよっしーっ……はげしっ……あっああっあっあんっあんっあひっあっあっああっ」
「智嗄……ああ、やっぱり智嗄だけだ……ずっとこの中に戻りたかった……」
「ああっすごいっ……あっあひっい゛っあっあんっ!」
「もっとだ……もっと」
「ああっ……あっあんあんああっ」
パンパンと音が鳴り響くほどに腰をぶつけ合い、二人は絶頂に向かった。
「ああんっひっああっいっちゃうっ……あぁっいいっひっああんっ!」
「……くっ!」 
 二人が同時に追い上げられて達してしまったけれど、それで終わるわけもなかった。
「あぁんっ……いぃっ、あっ、らめっ、おちんぽっあっ、あっあっあっ……ふぁっ、ひぅっ、あんっああぁっあひぃっ、あんっ、あんっ!」
「智嗄……智嗄……っ!」
「ひあっ、あ゛っおちんぽ、らめっあぁっ……あ゛っあっあっああっあぁああっ……あっあっあんっ、あんっあんっあんっあ゛ああっ、あっあぁあんっ」
北浦に追い上げられれば、智嗄は更に淫らに北浦を誘った。
 腰を振り、もっと抱いてと抱きついて嬌声を上げた。
「ひああっ……らめっあっん゛っひっいっ……あんあっ、んっああぁっ! ああっらめっ、いっちゃう……から、おま○こらめっああんっあっ!」
「イって智嗄、何度でもイッて」
「んっあっ……あ゛っああっあっいくっ、い゛ぐっおま〇こイっちゃうっ……ひぁっ、あ゛っ、ひあん゛っあっ、あ゛ああっあぁ!!」
「ううっ……はっ!」
二人は止まることなく絡み合い、そして思い存分二人で快楽を貪った。
 お預けを一年も食らっていたから、止まることはなく、何度も何度もお互いに求め合ったのだ。

 この先、北浦の仕事はこれからの評価で変わる。
 北浦は一ヶ月ほど休みがあるけれど最初に撮影した映画が月曜日に公開されるので、恐らくそこから更に忙しくなるだろう。
 だから、束の間の休息を二人はベッドで過ごす羽目になったのだった。

感想



選択式


メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで