Luck out
3
智嗄は映画現場に行くことで大きく気持ちが変わった。
演技をしている俳優達、それをサポートする関係者。監督やその部下達とみんなが一生懸命でそして真剣にやっていた。
決して妥協しない野瀬監督の納得する演技をするのは難しいのかNGは当たり前、リテイクは何度もである。
昔はフィルムで撮っていたから無駄にはできなかったけれど何処かで妥協をしなければならずそれがずっと悔しかったと監督は言っていたが、デジタルになってからは妥協は一切してなかった。
そのお陰で野瀬監督は世界で賞を撮るほどになったとも言われている。
そんな現場は怒声が飛び、厳しい現場を見ていたら智嗄は監督に呼ばれて脚本の手直しをするようになった。
現場で見ていたり、俳優の気持ちや成り行きから変えた方がいいと思う箇所ができたりしたからだ。
「うんそうだな。こっちの方がいいかもしれない」
話し合って決めていく細かな部分もあり、映画は繊細な心を持つ人間を書いているからか、クランクアップするまで二ヶ月ほどかかり、北浦もかなり俳優として成長をした。
ほぼ素人から始めた演技だったが、主人公が純真から詐欺師になる過程は見事に演技力に直結していた。
「北浦は拾いもんだよ。あの演技力の向上もそうだが、意識もしっかり向上心がある。あと礼儀正しいのも大物俳優に怖じ気づかないで演技ができ、そして分からないことは素直に聞ける性格は何物でもないくらいに本人の性質だ。ありゃ大物になるな」
ある日、野瀬監督がポロリと智嗄に言った。
「智嗄、お前のことをかなり尊敬しているし、ヒーローだって言っているけれど。お前らそこのところ、どうなんだ?」
「どうって。たまに飲みに行くだけですよ?」
智嗄がそう言うと野瀬は笑った。
「懐かれてるなあ~。それにお前もよっしーだっけ? そう呼ぶくらいに仲のいい奴みたことない」
「……懐かれてはいるとは思いますけど、買い被っているんですよきっと」
智嗄がそう言うと、野瀬は言った。
「その気がないなら距離を置け」
野瀬の言葉に智嗄は笑った。
「そんな関係ではないよ。それに俳優はもう懲り懲りだよ」
智嗄はそう言って北浦とは何の関係もないことを言った。
けれど映画の撮影がクランクアップすると北浦からの相談だと言われて会う機会が増えてしまったのだ。
「やっぱり久遠寺先生に聞くと、俺の演技が二割くらいよくなってるって言われる!」
この間クランクアップしたばかりであるが、新しい別の映画に脇役で出演しているのだ。
「まだ映画一本も公開されていないのに、次の映画なんて相当真剣に売り出してるんだな社長も」
北浦は今はモデルの仕事はセーブして、時々一日で撮影が済むものばかり選んでいる。
しかも映画に出る前にドラマの中でゲストで出る回がある。それが俳優デビュー作になる予定だという。
忙しさでパニックを起こす北浦であるが何故か懐いているからという理由で智嗄は北浦の面倒を見させられている。
野瀬には離れろと言われたがそんな関係でない以上離れるのも不自然で智嗄は北浦には邪険にできなかった。
というのも、人に懐かれるのは好きだった。昔も同じ俳優相手にこういうことをしたけれど、結果は別れることになった。
智嗄はそれを思い出す。
智嗄が仕事の忙しさに振られたのだ。あっちも忙しくなり始めていたから別れた後、彼は売れっ子になりモデルとしても目立つようになっていて、やがてパリコレにも出るほどになった。
だから別れていて正解だったと今は思うが、別れる時に罵られたこと、そして命の危機になりそうだったことから、智嗄にはトラウマだった。
「久遠寺先生?」
「ああ、何でもないけど。その先生はやめてくれる?」
「何で?」
「そう呼ばれるのは余り好きじゃないからだ」
「うーん、じゃあ智嗄さん?」
「それでいい。皆そう呼んでいるから」
特に意味はなかったし、そう呼ばれた方が事務所関係でも自然だったから、そう言ったのだが北浦は嬉しそうにしている。
「さすがにちーちゃんは関係上不味いなと思ってましたから、そっか普通に智嗄さんでいいんだ」
そう言われたので智嗄は言う。
「別にちーちゃんでもいいけど、よっしーは使い分けできそうにないからな」
こんな智嗄でも親しい人以外の前ではよっしー呼びはしていない。
「あ、そうですね。多分思いっきり呼んじゃって周りが顔面蒼白しちゃいそうですもんね」
北浦は笑うと昔のような顔で笑う。
その笑顔を見るのが智嗄は好きだった。
忘れ去っていたはずのその笑顔に今はホッとしてしまうから不思議だ。
そして当時のことを段々と思い出してきた。
あの時のことは何度も北浦が話してくれたから記憶の奥底にあったものを思い出す。
二人で一生懸命勉強をしたこと。それは今二人で演技のことでやっていることに似ていた。
それが楽しくて智嗄は北浦が来ることを止められなかった。
その演技指導は恋愛映画に出る北浦に合わせているからか段々とその相手をしていくことになった。
「お前のことが気になっているんだ」
「だから、分かんない」
智嗄の演技はど素人であるがそれは北浦も気にしていないのでそのまま読む。最初は台詞を読むだけだったのに、やがて動作が付いてまるで舞台稽古のようになった。
智嗄の脚本ではないから恋愛もののドラマの展開は分からないものであるが、それでも女性がときめくのは分かる。
こうやって好きだと言ってくれる人が側にいたら女性どころか男でも嬉しいはずだ。
だからドラマでの台詞だと分かっていてもきっと惚れるはずだ。
実際智嗄も赤くなる顔を押さえきれなかった。
だけどこれは演技である。
「……いいよ、しても」
結局よく分からないままキスシーンに突入するのは恋愛ものによくあることだ。
自分ならこんな唐突なキスシーンは好きではないけれど、きっと世の中の女性はイケメンにはそうされたいのだろう。
そんなことを思っていると北浦の顔が近付いてきて唇にキスをされた。
急なことで頭がついてこなくて智嗄は北浦にされるがままに長いキスをしてしまった。
けれどそういえば演技をしていたからかと智嗄は思い至り、続きの台詞を口にしていた。
「キス、しても分からない」
真剣に睨み返してそういうと、北浦はそれ以上演技はできなかった。
「すみません……」
少し落ち込んでいる北浦であるが、智嗄はふっと息を吐いて言った。
「キスしただけで、勃起させるとは本当によっしーは仕方ない奴だな」
ここはさらっと流せばいいのに智嗄は誘惑に負けてしまった。
きっと触れるなと言われたから、意識をしてしまったのだろう。
人間ダメだと言われて踏み止まれる人は危険がなければ踏み止まらない。
そしてきっと同じ間違いをしているのは分かっている。
いつか手放す日が来て、前のように仕方がないと手放せるだろうと自分の心を甘く見た。
智嗄は野瀬の警告を無視して、二の舞いを演じてしまう。
「触りたいなら触ればいい。今だけは好きにしろ」
智嗄がそう言うと北浦は驚いた顔をしていたが智嗄が本気で言っていると分かったのか、貪るようなキスをしてきた。
「ふ……ん……んん……」
キスをまたしたら智嗄も止まらなくなっていた。
「智嗄さん……ああ」
北浦はその場に智嗄を押し倒すと、智嗄の服を脱がせ、乳首に素早く吸い付いた。
「あ、……あ……んあ……」
「智嗄さん……」
北浦は智嗄の身体中を舐めて、そして優しく触ってくる。執拗に乳首を吸いながら、智嗄の体を撫で回した。
「あ……ん……あん……」
「智嗄さんの中に入りたい」
北浦がそう言うので智嗄は言った。
「好きにしていい……」
智嗄はそう言いながら北浦の勃起している性器を撫でていた。きっとこれはいけないことであるし、いい結果なんて生まない。面倒ごとにしかならないと分かっているけれど、それでも今は北浦のこの凶悪なぺニスが欲しかった。
「ん……ああああ……はん、あ、ああっ、あ!」
ずるずると中に挿入り込んでくるものを受け入れ、圧迫感に智嗄は耐えた。
この先の行為に快楽があるのを知っているから止められなかった。
「ああ……んああああん、あっあっ!」
「智嗄さん……ああ気持ちがいい……すごい……」
北浦は力強く腰を振り、智嗄を追い上げてくる。
その力強さは北浦が智嗄を強く求めている証拠だった。ずっと北浦は我慢していたようで、その邪な心を解放している。
必死な顔で智嗄に触れてくる北浦は男の顔をしていた。あの時の可愛い子供ではなく大人の男だった。
「智嗄さん……ああ出る」
スキンがなかったので、北浦は中で精液を吐き出してしまった。
「……すみません、中で」
「別に構わない……気にするな」
智嗄はそう言うけれど、北浦のぺニスは勃起してまた固くなった。
「好きにすればいい」
煽るように中でぺニスを締め付けてやったら、北浦はまた腰を振り始めた。
その力強さにはさっきの余裕のなさはなくなり、必死さと共に強引さが増した。
「ああぁっんっひあぁっあんっはげしっ……あっああっあっあんっあんっあひっあっやっああっ」
堪らないくらいに気持ちが良くて智嗄は嬌声を上げた。
「ああっ……あっあひっい゛っあっあんっっ……あっあんあんああっ」
「智嗄さん……たまらない……」
「ああんっひっああっいっちゃうっ……あぁっいいっひっああんっ!」
腰を抱え上げて、智嗄が体を反らしているのを下から突き上げるようにして北浦が腰を振り上げる。
「あっああぁあっあひっあんっああーっ」
堪らないほど感じるから、そういう反応をしていると余計に北浦は煽られているように感じたのだろう。
「はぁっあぁあ、んっ、やっ……、あぁんっあっああぁんっ! んっ、んぁっあぁっ」
智嗄は抱きかかえられて突き上げられて、腰を振っている北浦にしがみ付いた。
「らめっおちんぽっ……あっあぁああっあ゛ひっ、いっあっあんっらめっ、あっあんっあんっ」
「智嗄さん……なんていやらしいんだ……この腰使い堪らない」
「ひああぁっい゛ぃっあっそこっだめっ……あっあうっひああっあ゛ひっあっらめっああああんっ」
激しく突き上げられて、また中で北浦が精液を吐き出してきた。
「あああっひあっらめっ……おくでだしたらっ……あっああぁっああんっ! あひっあんっあっあっあっあんっ」
「感じるんですよね、もっと中で出します……もっと俺で感じて」
「ああんっいいっ、きもちいっ、いいっ……あっい゛っあひぃっあああぁーっ……! あひっ、あ゛っひああっ……あっあんっあんっ」
強引に何度も突き上げられ、セックスは何時間にも及んだ。
北浦のペニスがなかなか萎えることがなく、延々と勃起を続けてしまうので智嗄が中で受け止めるしかなかった。
「ああっ、あひっ、んっんっふ、やめっ、ちくび、一緒にしたらっあっううっあ゛っうっ、んっああああっあ゛ぅっ……ひぁっ、や……んっふぅっあっ」
智嗄の乳首を北浦が吸い上げながら腰を振り続けていて、智嗄はそれで堪らなく快楽を得た。
「ああん……ちくび、乳首らめぇっ……あっあっあっあぁんっじゃあ、ちょっと乳首、らめっ……ああっあっんっあっあひっんああっ」
元々そこまで乳首で感じるほどではなかったけれど、智嗄は北浦に執拗に舐め上げられてそこで快楽を得ていた。アナルと乳首を同時にされたら、堪らなくて智嗄は絶頂をした。
「智嗄さん、イッた……もっと俺で感じて……っ!」
「あうっいってるのにっあぁんっ……いぃっ、あっ、らめっ、おちんぽっあっ、あっあっあっ……ふぁっ、ひぅっ、あんっああぁっあひぃっ、あんっ、あんっ!」
絶頂をしているけれど、ドライオーガズムを迎えてしまっていたから、快楽の中に更に快楽で追い上げられて智嗄は混乱しそうだった。
「ひあっ、あ゛っおちんぽ、らめっあぁっ……あ゛っあっあっああっあぁああっ……あっあっあんっ、あんっあんっあんっあ゛ああっ、あっあぁあんっ」
他の人ととのセックスでここまで感じたことがなく、やっぱりセックスにも相性があるんだと初めて知った。
北浦もこれまでにセックス経験はもちろんあるだろう。
なのに激しく追い立てるように腰を振るのを見ると、智嗄との相性が良すぎて気持ちが暴走しているのだろうと思えた。
「ひああっ……らめっあっん゛っひっいっ……あんあっ、んっああぁっ! ああっらめっ、いっちゃう……から、おま○こらめっああんっあっ!」
「智嗄、さんっ……ああ、中でまた出すっ」
「んっあっ……らしてっああっんっあああんっ……おま○こでらしていいっ……ああんっきもちいいっああんっああっ」
「ううっ……っ!!」
「あ゛っああっあっいくっ、い゛ぐっおま〇こイっちゃうっ……ひぁっ、あ゛っ、ひあん゛っあっ、あ゛ああっあぁっらめっ……ああんっおま○こっイクっ!!」
二人はやっと最後の絶頂をして達した。
北浦のペニスが智嗄のアナルから出ていくと、智嗄は満足したように少しだけ笑った。
すると北浦が言った。
「智嗄さん……好きです……」
「そうか……でもこれは」
「気の迷いですよね。分かってます。でも寝たからには俺のことは嫌いじゃないってことですよね」
「それとこれは……」
違うとは言えなかった。
北浦には全部バレているかのように北浦が言った。
「もし智嗄さんが誰とでも寝るのに抵抗がないのなら、映画会社は首にはなってないでしょう?」
「それとこれは……」
「別なんですね。いいですよそれで……智嗄さんを抱けるなら俺はそれでもいい!」
北浦は智嗄を手に入れるのはできないと最初から諦めている。
けれど体だけは手に入ることを知ってしまった。
それは智嗄には止めることができない悪い方への道しるべだった。
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