twist of fate

8

 翌日に梛音が目を覚ますと、いつもの自室に戻っていた。
 あれは夢だったのかと思い、ハッとして起き上がると体中が痛くて、あちこちが筋肉痛のような鈍い痛みがあった。
「……はっ……あっ」
 夢じゃないと痛みが教えてくれる。
 それでまたベッドに横たわり、それから梛音は悶えて顔を真っ赤にした。
 流されるようでそうではない、確かに求めた結果、そうなった。
 心で繋がっただけではなく、体も繋がってより一層、梛音は小野崎に近付いたと思えた。
 梛音は小野崎に対して、恋心を抱いている実感は、今の方が強い。
 昨日はただ抱いて貰うことが目的だった気がしたが、それでも良かったと思った。
 抱いて貰うことは間違いではなかったし、こうしてちゃんとして貰っている。
 梛音はやっとベッドから起き上がって、服を着替えた。
 貰った服ばかりを着られる季節になっていることに気付いて、これだけ長く他人といたことはなかったなと気付いた。
 もっと側にいたいと思う。これだけ近くにいるのに、もっともっと側にいたいと梛音は思った。
 部屋から出ると、リビングに行く。
 そこにはすでに小野崎がいて、朝食をルームサービスしていた。
「やあ、おはよう、梛音。さっき朝食が届いたばかりだ。お腹が空いているだろう?」
 和やかに新聞を読んでいた小野崎が、梛音に気付いて微笑んできた。
「お、おはようございます……」
 ホッとして挨拶をしたらお腹がグーッと鳴った。
「あ……」
「ははは、早く食べてしまいなさい」
「はいっ」
 梛音は真っ赤な頬を擦りながら、席に座って小野崎と一緒に朝食を取った。
 今日は家電を買いに行き、燃えてしまった日用品をそろえる予定だ。
 有休は残り三日しかなく、この間に引っ越しを完了させるしかない事態だ。
 梛音たちは食事を取ったあとは、すぐにホテルを出て電気店に行き、大きな買い物をたくさんした。
 冷蔵庫、洗濯機、買った方がいいと言われた乾燥機、それにベッドやテレビ、テーブルに食器など、一人暮らしに必要なものを一から買い込んだ。
 それにはまだカードが作れなかった梛音は、気をつけて持ち歩いていた現金で払い、配達も頼んだ。
 近くなので明日には家電は揃い、ベッドやテーブルなども明日の配達で届くという。
 それに合わせて部屋の中の絨毯やカーテンも選んだ。布団もないので買い、一式は明日全部届くと言われた。
「明日は大変ですね」
「そうだね。まあ、置いて貰うだけだろうから、そこまで大変ではないと思う。設置も込みだったしね」
 小野崎が丁寧にあれこれ教えてくれたので、梛音は間違いがないように全部を手配できた。
 電気やガスなどもマンションを買った時にお願いしていたので、電気はすでに入っていて、ガスも手続きが少し手間取ったが、同じく明後日には使える状態になる。
 何とか有休の間に引っ越しはできそうであるが、梛音はこのまま順調すぎる流れに少し不安を抱いた。
 そうあの事件だ。
 望月堅司が送検され、松山将殺しはあとは裁判を待つのみになった。
 森川蘭子は見つかり、森川家は引っ越していただけだった。
 それには常名秀志という政治家が関わっていて、圧力で森川蘭子の事件をもみ消し、望月が殺したであろうヤクの売人、黒田文隆の事件は、麻薬関係のいざこざということでその線でしか捜査をされていない。
 望月と黒田が繋がっている証明は、梛音と小野崎のみが知っていることで、梛音は黒田から直接話を聞いている証人だった。
 このまま黙っていれば、恐らく梛音のことは見逃してくれるのだろう。
 しかしこれを訴え出たら、きっと常名の怒りを買い、小野崎すらどうなるか分からないというのだ。
 口惜しいが、正義を貫いて小野崎が割を食うのは、梛音は嫌だった。
 隣を歩いている小野崎の腕に梛音はしがみついて、しっかりと抱いた。
「梛音。どうした?」
 小野崎にそう言われて、梛音はハッとする。
「あ、いえ。ちょっと疲れたなって」
 電気屋から家具屋とひたすら歩き、店の中もあちこちとしたので幾ら歩くのが慣れていても疲れるものだ。
「そうだね、お昼もまだだったね。少し休むか」
「はい」
 二人で駅近くの喫茶店に入った。
 そこで食事をして一息吐いて、話合いをしていた。
「買い物は全部済んだね。あとは足りない物は徐々に買い足すとして……」
 小野崎がそう言っていると、小野崎のスマホが鳴った。
「あ、ごめんね」
 小野崎はそう言うと、店の外に出た。
梛音は外が見える窓から外の雑踏を眺めた。
 見知らぬ人の流れを見るのは何だか好きで、ただぼーっと眺めていると、小野崎が戻ってきた。
「すまない、急な仕事が入ってしまった。タクシーを呼ぶからホテルに戻ってくれ」
 小野崎がそう言うけれど、梛音は笑って言った。
「大丈夫ですよ、ホテルその先です。歩いていけますよ」
「しかし……」
 小野崎は心配したような顔をしたけれど、梛音は言う。
「もう僕が危険なことってないですよね」
「そうなのだが……」
「大丈夫です。人通りも多いし、何かあるはずもないですよ」
 梛音はそう言うと小野崎と一緒に店を出た。
 通りで小野崎がタクシーに乗ると、それを見送ってから梛音はホテルへの道を歩いた。
人通りは多かった。
 周りは駅前ということもあり、サラリーマンや若い人が行き来している。
 当然、こんなところで何か起こるわけもなかった。
 梛音は完全に油断をしていた。
 交差点を渡り、ホテル側に歩き始めた時、周りに人がほぼいかなかった。
 というのも、駅に向かっている人は反対方向になるからだ。
 ホテルの先は、オフィス街。まだ午前二時半くらいで仕事中なのか人通りは少なかった。
 そのため、バス停近くに止まっている大きな車に不信感を抱かなかった。
 バス停を通り過ぎようとした時に、その車から二人ほど人が降りてきて、あっという間に梛音の口を塞ぐと、抱えてすぐに車に乗り込んだのだ。
 瞬きをする間、驚きの声も上げられないくらいの手際の良さで、梛音は車に乗せられたため、梛音は抵抗すら一歩遅れた。
「ううっ!!」
 気付いて暴れかけると、押さえつけられて車がすぐに発進した。
 口を封じられたままで腕や足も縛られて上から押さえつけられている。
 景色も見えないままで移動しているから、何処に連れて行かれるのか分からない。
 さらにはどうしてこんな目に遭っているのか、梛音には理解もできなかった。
「はい、上手くいきました。それじゃいつものところで」
 男がどこかに電話をしていた。
 どうやら最初から梛音を狙っていて、待ち伏せをしていたのだと梛音は気付いた。
そこで小野崎のことを思い出す。
 あんなに心配してくれていたのに、それを無碍にした挙げ句、こんな失態をしてしまった。素直に好意を受けていたら、こんな目には遭ってなかったはずだ。
 だから尚更、梛音は落ち込んだ。
 しかしどうしてこんな目に遭っているのかという理由、それを考えるとそれは一つしかない。
 どう考えても梛音が見た、あの事件のことだ。
 黒田のことなのだろうか。しかし、それは望月が勝手にやったことだから、きっと望月が犯人でも誰も困らないはずだ。
 それなのに、梛音に何か言わせたくない、生かしておくわけにはいかない理由がどこにあるのだろうか。
 もうこの事件で、梛音の役割はとっくに終わっているというのにだ。
 梛音は散々、考えても分からない。
 

 車は暗くなるまで進み続け、どうやら高速に乗ったことは分かった。
 高速で進み続け、休憩もなしにどこかの山道に入った。
 そこを進み続け、気付けば空に星が見えるくらいの暗い場所にきた。
 そしてそこで煌々と照っている倉庫のような場所に入り、梛音はそこで初めて体を起こされた。
「おら、歩け」
 そう言われて連れて行かれたのは、地下の部屋だった。
 そこに入れられてから、すぐに顔をパーティー用のマスクみたいなふざけた格好の高級スーツを着た男が三人の男を連れて入ってきた。
「この少年で間違いないですか?」
 そう言われて梛音はドキリとする。
 マスクの男は梛音を見て、ゆっくりと頷いた。
 マスクの男はそれだけすると、部屋から出て行った。
「おい、そこの柱に縛り付けろ。あとはあいつに任せる」
 男たちはそう言うと、部屋を出て行った。
 暫くして梛音は一時間ほど一人にされたが、周りは車の音や木々のざわめきと、上の階で誰かが歩いている音がする。
 梛音は必死に考えた。
 僕は何を見た?
 あのマスクの男が不利になるような何を?
 殺人事件や黒田のこと以外にも何かあったんじゃないか。
 そう考えてもあの時は何でも怪しく見えた。
 どれがそうなのかさえ分からない。
 もしかしたら、何も見てない可能性だってある。
 梛音はそう考えていると、部屋のドアが開いた。
 少し太った長身で体が大きい男が一人で部屋に入ってきた。
「ほら、お前の好きなやつだ。いつも通りに好きにしていいが」
「分かってる、最期までだろ? 任せろ」
 男がそう答えるとドアが閉まった。
 男が近付いてきて、梛音の顔に触れる。
 それを梛音は顔を振って逃れた。
「気の強そうな、目。いいね、そそるね。俺はそういうのが好きだ。ついでに言うと本気で抵抗しろよ。そうじゃないと面白くないんだ。最終的にお前は殺す。そう言われているからな」
 男がそう言って中央の柱に縛り付けている縄を解いた。
 そして足や腕の縄さえ解き、口の猿ぐつわさえ取ったのだ。
「な、なんで……僕が……どうして」
 梛音はその理由が一切思いつかなかった。
 何をして自分は殺されることになるのか、それをこの男は話してくれそうだった。
「お前、見ちゃいけないものを見てるんだよ。些細なことだ。でもお前が覚えてなくても、こっちとしてはお前がいつそれを思い出すのか、それが怖いのさ」
 そう男が言うと、梛音を床に押しつけてのし掛かり、梛音の服を引き裂いてくる。
「やめ……っいやあっ……っ」
 殺すだけではないのだ。
 梛音はそれに気付いて必死に抵抗を始めた。
 男の顔を引っ掻き、爪を立ててあちこち傷を負わせても、男は平然として梛音の服を剥ぎ取っていく。
 パンツを剥ぎ取られる時でさえ、男の顔に蹴りを入れても、男はニヤニヤと余計に喜んでいて効果がない。
 抵抗されることを喜んでいるからなのか、抵抗すればするだけ、興奮しているようだった。
「いやっやめろっ……ああっやっあっ……あっ」
 下着と一緒にパンツを剥ぎ取られてしまい、ワイシャツを着ているだけにされ、中のシャツも切り取られてしまった。
「ああっやっああっ!」
 完全に床に押しつけられて、男が梛音の乳首を口で吸い始めた。
 乱暴な吸い上げと舌使いで嬲り始め、梛音はそれに首を振って、手で男の肩を押し上げて抵抗する。
「いやあっ……ああっやだっいやああっ!」
 叫んでいてももちろん誰も助けてはくれない。
 殺す前に犯して楽しんで絶望させてから殺すのだろう。そんな残酷なことをしてまで梛音を殺すのは、そこまでしてでも梛音の証言を消したいからだろう。
 梛音さえ覚えていないその情報、いつ梛音が記憶から掘り起こすのかその恐怖に怯えるくらいなら梛音を消した方がいいと思ったのだ。
 梛音には親類縁者とは縁が切れているし、小野崎しか味方はいない。
 そんな青年が一人消えたところで、大した事件にもならないのだ。
 男たちはそう判断をして梛音を白昼堂々誘拐をしたのだ。
 もし誰かが見ていたとしても、きっと梛音の行方は誰にも分からないだろうし、恐らく圧力がかかって、捜査は進まないで終わる。
「いや、助けて、小野崎さんっ……あっやだっあああっ」
 梛音がそう叫べば叫ぶだけ、男は興奮して梛音の体中を舐め回してくる。
「ひああああっ」
 ペニスを口で吸い上げられて、無理矢理に快楽のドアをこじ開けられる。
 それは屈辱であるはずなのに、梛音には嫌悪しかない状態でも体は正直だった。
 気持ちがいいことを覚えてしまった体は、快楽に素直に向かってしまう。人の体がそうできているのか、そうなることで楽になろうとしているのか。抵抗も空しく、体が反応を始めてしまった。
「お前……最近、セックスしてやがるな……」
 襲ってくる男がそう言い、梛音のアナルに指を突き挿れて、ガンガンと突き上げてくる。
 何か付けているのか、滑り気のある何かを塗られて、梛音は悲鳴を上げた。
「いやあああっ、やめっやめてっいやだああっ!!」
「そうそう、叫べ。誰も助けてはくれないけどな。お前が泣き叫んでいるのが楽しいんだよ……どうせ、ペニスでよがる体になるんだから」
 太い指でアナルの奥まで指を突き入れられて、無理矢理前立腺を扱き上げてくる。
 とても優しくもなく、強引に快楽へと引き摺り堕としてくるそのやり方に、どうしたって梛音が慣れるわけもなかった。
 抵抗し、必死に叫び、決して望んでいないことを証明するかのように叫ぶ。
「いやだっいやだっいやああっ……ああっやめっくそっ……」
 足を振り上げて男を蹴り上げ、必死の抵抗であるが男には聞いていなかった。
 抵抗されるのが好きだと言い、平然としている様子から慣れているのだと分かる。
 梛音は絶体絶命で、このあと男に好き勝手された後、殺される道しか残っていなかった。

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