Outer world

11

 北郷が別荘に帰り着いたのは、慧琉から離れて六時間後だった。
 慧琉に電話を入れてからは、四時間。遠回りをしてやっと別荘地まで戻った時に北郷は家に入った瞬間異変に気付いた。
「慧琉!」
 踏み荒らされた玄関からの足跡、一階の荒らされた部屋。
 明らかに何かを探したであろう痕跡。
 それに見向きもしないで二階へと北郷は駆け上がり、ベッドルームに飛び込むとそこは無残な状態になっていた。
 灯りを付けるとベッドが濡れているのが分かったし、部屋の中に入った瞬間の匂いで、慧琉が犯されたことを意味しているのを知る。
 そのベッド脇にはタブレットがあり、それが充電されていた。
 そんなものは二人とも持っていなかったので、すぐに侵入者の置いていったモノだと気付いた。
 それを付けると、真ん中に動画らしいファイルが分かりやすいように置いてあった。
 そのファイル名は、北郷くんへと書いてある。
 クリックしてみると動画が再生されるも、そこには慧琉が犯されている様子がしばらく映り、明らかに誰かのペニスが慧琉のアナルに入っているところが移っている。
 そして慧琉の痴態を撮しながら、誰かが喋った。
『北郷くん、君が奪った私の宝を返して貰うよ。まさか立原くんと繋がりがあるとは思わなかったけれど。まあ、君と私はやっていることは変わらないよ。君も何も知らない慧琉を犯し、セックス漬けにして止めているに過ぎない』
 そう言っているのが誰なのか、北郷はすぐに分かった。
 これは崎田伊織だ。
 ここまで乗り込んできて、慧琉を犯して連れ去ったのだ。
『いいっああんっおま○こっいいっきもちいいっああんっああ……ああんっ……ああんああいいっあ゛あっいいっ、らめっあ゛あっ、らめっ、おま○こゴリゴリしてるっ……ひっあっ、おま○こ……ああっ……らめっゴリゴリしちゃっ……ああんっおちんぽっおおきいいっああんっ……ああんっいいっ……きもちいいっおちんぽ……ああっ……いいっ気持ちいいっ……ああんっああっあああんっあ゛ああっ……あっ、あ゛っ、らめっらめええっ、あ゛あああぁっあ゛っい゛っ、あっんっ、、いくっあ゛あ゛っあっらめっあ゛っんっ、あっ、あぁっ、いくっ、いっちゃうっ……あぁあああん!』
 慧琉はよがり狂っているままでドライで絶頂をしているが、そこで崎田は得意そうに中出しをしてみせた。
『慧琉はペニスさえあれば、それでいいんだ。愛なんて必要はない。君のペニスでなくてもほら、こうやって喘ぐんだよ』
『いい……ああんっおちんぽっいい……ああんっああっ……きもちいいっああんっ……ああんっおま○こっああんっいいっあ゛あぁっ……おちんぽしゅごいっ、、ああっ、あっ、やああっあっあんっあっあ゛ああぁっ……すきっおちんぽすきぃっ……おま○こっハメハメされて、イキまくちゃうっ……あ゛っ……いい……おま〇こきもちぃっあぁあんっあんっ』
何度も突き上げられて慧琉は絶頂をしている。それを十分以上見せつけられるも、北郷はそれを全部見た。
『あああっ、おま○こっ……ん、いいっ、おま○こにもっと出してっあっあんっ、おま○こに、精液出してっ……僕のおま〇こでいってっあっ、もっときもちよくしてっあっあ、ああああっいい、ああんっおちんぽっズボズボ気持ちいいっ……おま○こ……ああんっきもちいいっ……ああんっいくっああああっ!』
慧琉は何度も絶頂をしているけれど、映っている間に五回も絶頂をしているのに、一度も潮も吹かないし、精液を出して射精もしていないのだ。
 それは北郷からすればおかしな出来事で、慧琉を三ヶ月抱き続けてきたからこそ感じる違和感が酷かった。
「……慧琉は、戦っている……」
ドライで達するのはせめてもの抵抗だ。
 射精もしない潮も吹かないのは相当の我慢がなければできない。
 明らかにクスリを仕込まれている慧琉が、それでも崎田に抵抗をしている。
 堕ちてすらいない。
 抵抗をここまでで止めているのは、教団の仲間がここには沢山きていて、北郷の身を案じたからだ。きっと崎田はここで北郷に会っていたら殺していたのだろう。
 慧琉は崎田をなるべく早くここから立ち去らせて、北郷への関心を減らしたのだ。
 これは確実に崎田の失態である。
 本来なら崎田はここに部下を残し、北郷を殺しておくべきだったのだ。それを慧琉の身体に溺れ、手配を怠り、さらにはこんな証拠を残している。
北郷はそれが分かり、すぐに平井に連絡を入れた。
 慧琉が連れ去られたなら、行き先は東京の崎田病院の近くだ。山の中にあり崎田の大邸宅もある。そして当麻(たえま)教東京支部のあるエリアだ。
 当麻(たえま)教の本堂は取材が殺到しているので、絶対に近寄りはしない。これだけははっきりと分かった。


 平井の通報で、北郷は慧琉が教団に誘拐されたと言うことを警察に被害届を出した。
 すると警察は最初こそ懐疑的だったけれど、現場を調べた東京から刑事が来ると急に事件として取り扱ってくれることになった。
 それによって残っていた精液から、警察がずっと追っている教団によって作られているというセックスドラッグが検出され、慧琉がそれを使われていることが分かったという。
 更にその精液を調べたところ、二十年前に起こったある事件の容疑者のDNAが検出され、動画の様子から犯人が崎田伊織であることが断定された。
「……崎田は何の容疑で、過去に何を?」
 北郷が刑事に聞くと、刑事は言う。
「二十年前……当時の弁護士なんだが、当麻一家を支えていた教団お抱えの弁護士一家が惨殺された事件だ。崎田と当麻家は当時、双子姉妹のことで崎田と揉めていたらしい。その資料が弁護士一家の親戚によって最近になって持ち込まれた。どうやら残っていた惨殺現場の蔵の中に隠してあったらしい。ちょうど当麻(たえま)教の事件が起こってテレビで放映されている時期だったから何か参考になればって持ち込まれた。ドンピシャだよ。崎田伊織に関しては、崎田病院による書類偽装など沢山の余罪があって、警視庁でも捜査本部ができている」
どうやら警察も当麻(たえま)教の事件はちゃんと追ってきていて、ここにきて持ち込まれた資料などで、当麻(たえま)教のバックボーンが崎田医院であることまで追い込めたらしい。
「君には辛いだろうが、これを通報してくれて助かった。これによって他の刑事たちにも元生き神だった彼らも被害者であるとはっきり会見で言い切れる」
 刑事はそう言ってくれて、二度目の教団本堂の強制捜査が行われた。
 それは生き神だった二人への児童虐待と性的な虐待に対する捜査だった。
 その捜査は教団側としても意外だったようで、隠しきれなかった双子を虐待するために用意した部屋が見つかり、その部屋には長年行われた双子への性的虐待の証拠画像が収められている動画が録画されているものがたくさん見つかった。
教祖である当麻優に逮捕状が請求されるも、優は逃亡したのか施設内では見つからず、関係者宅を捜索するために、東京支部である教団施設まで強制捜査をされた。
 けれどそこにも優はいなかった。
 崎田伊織にも過去の事件で逮捕状が出た上に、当麻慧琉の誘拐に関しての容疑者として逮捕状が出ていた。
 それでも崎田が何処に隠れたのかが分からず、教祖の優と崎田は同じ場所に逃げたのかもしれないと警察は全国への指名手配をした。


 北郷も刑事たちが動いている間、東京に戻り平井のところで情報収集を続けた。
 崎田の自宅には誰もおらず、強制捜査もされたが沢山の資料が押収されるも崎田の居所は分からなかった。
 ただ崎田は近年、自宅にはほぼ戻っておらず、何処かに隠れ家を作っていたようだという話があちこちから聞こえてきた。
 その崎田の自宅は、長年巨額の電気代と運び込まれる酸素ボンベが大量に出入りを繰り返していたという証言が近所の住人からの話で分かった。
 どうやら病人を抱えていることも分かり、それが誰なのかと言う謎も残っている。
 それに関しては想像でしかないがと北郷は刑事には話した。
「たぶん、慧琉たちの母親、前々生き神だった当麻姉妹だと思う。崎田伊織はどうもその双子に執着していたようだし、慧琉や詠芽にも執着している。どうしてかは分からないが……手に入れないと気が済まないようだ」
 死亡届すら崎田医院からのものであることを踏まえると、それも偽装だった可能性の方が高いと刑事も納得した。
 そして崎田が当麻家の弁護士と揉めていた事実があり、弁護士一家が殺されて双子姉妹が消えたことから、崎田は弁護士一家を殺して当麻の家を乗っ取り、支配しているのだという構図がすぐに刑事にも浮かんだ。
「崎田伊織は、優秀な学生だったらしい。けれど我が強く、こうと決めたことを曲げることはなかったそうだ。その拘りは双子姉妹に向けられ、崎田は医大を退学させられている。その後は一時消えていたが、ある日戻ってきて崎田医院の副院長に就任した。そして当麻(たえま)教の信者を受け入れ始めて、双子が入院した。その頃に教祖が優に変わり、当麻(たえま)教との繋がりが深くなっている」
 平井がそう調べてきたことをまとめると、北郷も唸る。
「双子を手に入れるために、地位や金を用意し、双子の弟である優を仲間にして、揉めていた当麻(たえま)教の弁護士を始末、そして優を教祖にするためにその親すら始末したってことか……」
「警察の調べで、当麻(たえま)教の元教祖だった双子姉妹の親は、崎田病院の隔離された部屋で薬漬けにされて痴ほうにされてたよ」
 精神を病んでいるというカルテで強いクスリを与えられ続けた両親は、薬漬けだったけれど、今はそのクスリを抜くために警察病院に保護されたようだ。
 その悍ましいほどの執着に、北郷も身震いをする。
「なんてやつだ……」
「そういうやつだよ。自分の欲望のためには、何でも利用をした。お前らの居場所がバレたのも、俺の事務所に被害者家族としてきた、信者を送り込んできたからだ。俺がテレビ出演を増やされた間に協力者として潜り込んだ事務所を荒らし放題ってわけだ……やられたよ本当に」
 ここにいると書いたわけではなかったけれど、連絡を取り合っている協力者の名簿が盗まれたのだ。そこから一人一人様子を伺い続け、動きのある協力者を絞って、阿蘇山の一軒家まできた。けれどそこで慧琉たちが追い出されていたので、周辺の宿泊施設を捜索し、別荘地まで行き着いたようだった。
そんな資料を漁って、北郷は一つのことを気に掛けた。
 それはここまでの拘りがある崎田なら、隠れ場もまたそれに関係した場所ではないだろうかということだ。
 そこで北郷は当麻家のことを調べた。
 当麻家はずっと片田舎で宗教団体の教祖一家としてやってきた。
 その村はベッドタウン化によって開け、高速道路が通ったことで一気に近代化をした。
 けれど、その村の奥地にある元々の村は、山を越えたところにあるのだという。
 村の表は栄えたが、奧の方までは開発はされなかった。高速道路に近い場所だけ開発が進んで、奧の村の住人も手前の村に引っ越したからだ。
それに気付いた北郷は、村のことを調べると、その村一帯を崎田の不動産会社が買い、開発した後に崎田伊織が所有していることが分かった。
 崎田はそこに屋敷を建ているから、双子姉妹と慧琉を連れてそこにいる。
北郷はそれを刑事に伝えた。
「……確かに別の不動産会社の持ち物のように見せかけた、崎田の所有地です。工事が行われていますし、最終的に崎田の不動産会社が買ってます。恐らくここが隠れ家だろう」
 刑事もそれに納得して、捜索隊と共に大きな捜査陣を用意して、その屋敷に強制捜査に出ることになった。
 もちろん、その捜索令状はすぐに下りた。
 北郷は刑事に同行を願い、刑事も慧琉がいる以上、北郷のフォローは必要だろうと納得して同行を許してくれた。
 当麻(たえま)教の事件は、マスメディアもやっと本来の報道に戻りかけている。
 それまでの奇妙な印象操作に、一般市民も気付き、抗議してきた結果、放送内部に存在する工作員をあぶり出すことに成功をしたのも、報道が正常に戻っている一因だった。
そして当麻(たえま)教を操っていた崎田のことがメディアに知れると、メディアは新しい標的に喜んで飛び付いて報道合戦を始めた。

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