モノポリーシリーズ
アイネクライネ
飲み会
居酒屋の奧にある、角張った隔離された部屋。
そこには時合壱伽と宮辻滉毅、そして比湖藍音と水偉志朗が座っている。
藍音からの提案で飲み会をすることになっていたが、藍音が予約した部屋がちょっと変わっている居酒屋で少し値段も張る。
しかしそれは御曹司だの金持ちの息子だのという立場である彼らには普通のおしゃれな居酒屋でしかない。これでも彼らにとっては安い居酒屋であるのだが、普通の大学生は入らない場所だ。
そんなところで眉間にしわが寄っているのが壱伽だ。
「呼ばないって言った」
そう文句を藍音に言うのだが、藍音が何か言う前に志朗が言う。
「俺が勝手に来ただけだ。藍音を攻めるな壱伽」
「お前ふざけんなよ、くんなって分かんない? 察しない?」
壱伽が志朗に食ってかかっているうちに藍音は宮辻と挨拶をする。
「あ、どうも三股された一人の、比湖藍音です」
「どうも、何か襲われてくっ付いた宮辻滉毅です」
そう紹介をし合っているうちにも志朗に壱伽が噛みつく。
「察して来ないでよ、せっかく藍音さんと飲めるっていうのに」
「いいじゃん、俺がいても、何たって俺が彼氏なわけですし?」
「何で、これ選んだんだよ、寄りにも寄って何で志朗さんなわけ、本当に訳分からないっ」
壱伽は本気で藍音が志朗を選んだ理由が納得できないと言って喚く。
自分の知り合いで、しかも仲間意識が高い人が壱伽が一番苦手としている男とくっ付くとは予想もしてなかったのだ。
「でもさ、壱伽と一緒にいるところ見かけて惚れたから、壱伽のお陰かもね」
志朗がそう爆弾を落とすと、壱伽はそれを知らなかったらしく驚いている。
「らしいよ。壱伽は目立つからね」
藍音がそう言うと、壱伽は頭を抱える。
「マジでー。何でー、絶対知り合いになるわけもなかったのに、何でだよ」
壱伽には更に納得ができない。
いつの間にか自分が志朗に藍音を紹介したみたいな形になっていた事実に、ショックを受けている始末だ。
どれだけ志朗を嫌っているのか、苦手としているのか本当によく分かるくらいに壱伽は志朗に対して辛辣であるが、それでも志朗をさん付けで呼ぶ辺りは先輩としては認めているところが面白い。
「そういえば宮辻くんは、四回生だっけ?」
「そうです。卒業も確定しました」
「おお、じゃ壱伽の会社に入るわけ?」
「そうです。ご厚意に甘えて、良いところに配属されたので頑張ります」
「ああいいね。志朗もうちに決まってたから、入社したらまたお祝いしよう」
「ああ、いいですね。こういう雰囲気もいいですし、ここの飯も美味しいですし」
「いいでしょ、ここの料理。シェフが知り合いでめちゃくちゃいいからあちこちで宣伝してあげて」
「もちろんです。これは皆喜ぶと思いますよ」
宮辻と藍音は二人で和やかに居酒屋談義をしているけれど、次回の約束をしていることに気付いていない壱伽はふてくされて焼き鳥を食べている。
「何でそこまで嫌うのか分からない」
しくしくとする志朗に壱伽は胡散臭い目を向けて言う。
「どうせ、藍音さんのことも騙してるんだ。絶対そう」
「騙してないし、割とストレートに付き合っているけど?」
「嘘、あり得ない」
「あり得るんだな。もう壱伽と別れて四年だよ? 俺も変わるわけでね」
「そういうふざけたところが変わってないから信じられない」
どうやら志朗は壱伽にだけはしつこく絡む性格らしく、壱伽をわざと苛立たせて会話を繋げているところがある。それに藍音は気付いてからちょっとだけ嫉妬するも、そんな藍音の手を志朗が見えたいところで撫でている。
どうやら嫉妬しないでってことらしいのだが、藍音はそれにホッとする。
志朗は壱伽を揶揄うのが楽しいだけで、壱伽を友人としては好きだけどそれ以上はないと言ってくれるわけだ。
しかしそんな二人の仲をよく思っていないのは、藍音だけではなかった。
すっと宮辻が会話に割って入った。
「壱伽、それ以上は言わない。イチゴのパフェがあるけど、頼む? 見て写真ヤバイよ。イチゴたっぷり」
「頼む」
宮辻がそれ以上変なことを言って苛立ちそうな壱伽をさっと宥めてから、パフェをさっと注文してしまう。
壱伽はパフェを頼んで貰うと、宮辻と一緒に他のイチゴのデザートがないかを探し始めることに夢中になった。
あっさりと煽ったのに宥められてしまい、志朗は藍音を見て肩をすくめた。
壱伽もまた志朗と付き合っていた時から変わり、恋人の言うことの方を優先するようになったのだ。それは志朗が決して見られなかった壱伽の変化であり、今の壱伽が志朗と付き合っている時よりもずっと幸せそうな姿を見ることになった。
とてもいい変化であり、中塔に騙されて落ち込んで人を信じられなかった時よりずっと壱伽が生きやすそうだった。
それは志朗にとっても嬉しいことで、それが分かるから藍音にとっても嬉しいことだった。
その後の飲み会は上手く静かに続き、お互いの近況報告などをして、十時半には居酒屋を出た。
「じゃね、また!」
壱伽がそう言って宮辻とタクシーに乗っていく。
二人はこのままデートを続けて何処かにしけ込むらしい。
志朗と藍音はそんな二人を見送ってから、自分たちは少しだけ歩いて電車に乗った。
タクシーでもよかったけれど、歩きたい気分もあったので二人は歩いて電車で二駅進み、住んでいる街で降りてコンビニで酒やつまみを買い足した。
「もう壱伽が泣くことはないんだなって、何か安心したな」
志朗が急にそう言い出して、藍音は笑った。
「心配性だね。ほんと。でも宮辻君、いい人みたいだから壱伽にはぴったりだね」
「だな、あの壱伽が一瞬で黙るくらいに信用しているのが見られてよかったよ」
志朗はそう言って笑う。
どうやら本当に壱伽が宮辻と幸せなのか知りたかったから無断で来たらしい。
「僕らも良い感じは見せられたし、お互いによかったね」
「そうだな」
壱伽にとって志朗とのことは終わったことになったし、三股で寂しい思いを一緒にした藍音もまた、志朗とは幸せになっていく。
壱伽にとってもそれは確認ができてよかったことだった。
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