眩いばかり
6
佳鈴の命が狙われたことで、理一はしばらくバイトを辞めるように言った。
「え、でも……」
「勝手で申し訳ないけれど、店長とは話を付けてきた。佳鈴、ちょっと前に人と揉めたらしいね」
そう理一に言われて佳鈴は頷いた。
「それでね。他のお客から佳鈴をウエイターから外せと苦情が来ているらしい」
「え……そうなんですか?」
それはさすがに店長も言ってこなかったことだったので、佳鈴には驚きだった。
「もちろん、それで佳鈴を外してしまうと、他の常連が気に病むからと使ってくれていたらしいけど、今回のことでもしターゲットが佳鈴だった場合、店のお客が何て言うか……そういうことらしい」
そう言われて佳鈴は察した。
もともと店長と佳鈴は折り合いが悪いようだった。
それに店長は何かある度にもめ事の元を排除して何も無かったことにしていたように思う。
佳鈴が田伏と揉めた時に、両方を辞めさせることで両成敗ではないが、後で起こるかもしれないもめ事を回避しようとしていた。
けれどお得意さまである理一に頼まれたのもあり、そこで折れたけれど、今度もまた佳鈴が騒動の元になっていると思ってすぐに切ってきたのだろう。
「今回は確実に巻き込まれた形だが、あそこには縁が無かったと思うしかない。バイト先はまたゆっくり決めるとして、今度ある秘書検定の勉強時間に充てるというのはどうだろうか?」
理一が気を遣ってくれて、バイトは当面休んで勉強を優先するのがいいだろうと言ってくれている。
「……はい、そうします」
悲しいけれど仕方がない。
「それで今度は秘書がするような仕事をバイトに選んで、勉強もしていくという方にしてみようか」
理一の言葉に佳鈴は頷いた。
「そうですね。資格取ってしまって、他にも何か資格がいるなら取っていくことにします」
「そうだね、スキルアップをしよう」
理一の言葉に佳鈴はニコリと笑う。
ウエイターも楽しかったし、田伏以外のバイトとも上手くやれていた。だから悔しいのはまだある。店長に嫌われていると佳鈴は思っていたけれど、合わない人とは本当に佳鈴はとことん合わなかった。
根本的に佳鈴の底の浅さを見破る人がいる。上辺だけで生きていて、見せる顔以外の顔があるのをかぎ付ける様な人には佳鈴は嫌われやすい。
可哀想にと言う人もいるけれど、佳鈴の過去を知ったとして何人が可哀想だと言ってくれるだろうか? そういうことを瞬時にかぎ分けられるのが店長だったのだろう。
逆に佳鈴のそういうところを分かった上で付き合ってくれるのが、鹿嶋だったりする。
そして表の顔だけで可哀想だと言ってくるのが田伏のような人である。
いくつもの顔を使い分けたとして、それを見破っても好きだと言ってくれるのが瀬良理一だけだった。
佳鈴は理一の提案に乗る形で、レストランのバイトは辞めた。
「ごめんね、急に」
鹿嶋には駅で会って話をすると。
「じゃあ俺も辞めるわ」
「え?」
「元々バイトしたくて入ったわけじゃなくて、暇すぎてバイトしてただけだから。他に目的もできたし、そっち優先かな」
「あー、鹿嶋が好きにするのがいいよ。僕は何も言えないから」
「そうする。どうせ、俺のことも鬱陶しいと思ってるよ、あの店長。基本的にイエスマンしか欲しくないみたいだし」
案の定鹿嶋が電話でバイトを辞める相談をすると、その場で明日から来なくていいと言われたようだった。
「な、辞めるの簡単だろ? あそこのバイト、辞めるやつも多いけどバイト料がいいからすぐ代わりが見つかるらしい。深浦の代わり、もう見つかったとか笑ってやがった」
「それなら辞めるの気に病むことないよね」
佳鈴は急にシフトを抜けたら迷惑がかかると思っていたけれど、意外に変わりがいることが分かって少し安心をした。
「じゃあ、図書館で勉強でもする?」
鹿嶋がそう言い、歩き始める。
「そうだね。一人でいるよりはいいかも」
佳鈴がそう言うと鹿嶋がキョトンとする。
「なんか、一人で家にいると寂しい?」
「あー、まあ、時間余ってるとね、めちゃくちゃ凝った料理作って結局大変になっちゃうから」
そう佳鈴が言うと鹿嶋もなるほどと頷いて笑う。
それから二人で図書館に行き、午後六時まで勉強や別の資格の相談などをして閉館前に図書館を出た。
近くのスーパーで買い物をしている間も鹿嶋が付き添って一緒に買い物をして、家に帰っても鹿嶋とアプリのテレビ電話を繋いで、普段料理をしないという鹿嶋に佳鈴が作り方を一から教えた。
勉強中もカメラを繋いだままで話しながら勉強をしていると理一が帰ってくる。
そこで通話を終わらせて、佳鈴は理一を出迎える。
「おかえりなさい、理一さん」
佳鈴がニコリとして出迎えると、理一も柔らかい顔を向ける。
「ただいま。今日は大丈夫だったかい?」
「はい、鹿嶋と一緒に図書館で勉強して、さっきまで料理の作り方を教えたりして通話してました」
「ああ、オンラインで○○会みたいなやつか」
「そうです。鹿嶋は料理を全然しないとかで、今日一緒に買い物してそれで作り方を伝授したんです」
「あれ? 鹿嶋君はバイトあったんじゃないのか?」
そう理一が言うので佳鈴はそうなった理由を話した。
「僕が辞めたことを知って、自分も辞めるってその場で電話をして相談をしたら、明日から来なくて良いって言われたって。今日は元々休みだったから。あと僕の代わりはもう見つかったからって嬉しそうだったそうです」
「……なるほど、そういうことか。鹿嶋君には申し訳ないことをしたね」
「いえ、元々暇だからバイトして時間を潰していたとか言ってました。なので、僕と同じ秘書検定を受ける目標ができたから、それに集中するって言ってます。鹿嶋君、とても頭もいいんですよ。一回覚えたら二度は言わないでいいから、凄いんです」
「そうか。それはいい勉強相手になったね」
佳鈴があまりに嬉しそうに鹿嶋の話をするので、理一は嫉妬したように佳鈴の頬を撫でてくる。
「うん、二人の時は二人の話もしたいね」
「……あ、……ごめんなさい」
「いや、私が鹿嶋君に嫉妬をしてるだけだよ。佳鈴はそのままでいい」
「…………はい」
まさか理一が鹿嶋に嫉妬をしているとは思わず、佳鈴は顔が真っ赤になる。
嫉妬して貰えるような執着を理一が持っていることが、なんだか佳鈴には嬉しかった。
また理一のところに来てからの二年、それを理一はそれでいいと言ってくれる。
「ぼ、僕も、今の理一さん、好きです」
佳鈴は自分を褒めてくれた理一を好きだと言って気持ちを返した。
それに理一はさらに優しく笑って佳鈴の唇を親指で撫でてきた。
それはキスをしたいけれど、理一の昇進問題が決まるまで何もしないと言った手前なにもできない理一がやってしまう癖だった。
「嬉しいね、そう言って貰えると」
唇を触れる指に、佳鈴はキスをするように唇をとがらせて理一の手を両手で包んで大事にした。
しばらく二人でそんな行為を楽しんでから、リビングに入った。
何気なく暮らしているけれど、確実に佳鈴と理一は二人の気持ちが高まっていた。
身体を繋げないと期間を決めてから、ずっと二人はそれを意識して手を撫でたり手で触れたりと些細な触れ合いを楽しんだ。
普通の生活から恋愛まで、佳鈴は真面な感性を身につけて、一般的な大学生となっていた。
五年間のブランクを乗り越えての大学生として一年が終わり、二月には休みに入っていく。
そしてその休みの間に佳鈴はまた奇妙な現象に合い始めた。
非通知の電話が自宅に掛かり始めた。
もちろんそれは出ないし、非通知はそもそも着信音が鳴らない。
けれど電話のランプが赤く光るため、近くを通っていると気付く。
留守番電話になっているから何か残しているのかと確認をすると何も言わないので、その都度消していたが、気付いたら相当数の無言電話が掛かっていることに気付いた。
ちょうど理一の部長昇進の佳境に入っている時期であるから、何かしらの妨害工作だろうかと思い、電話には出ないで佳鈴は理一にも心配させたくなくて留守電は全て自分で確認をして消してしまっていた。
「何がしたいのだろ……」
よく分からないけれど、精神的に追い詰めたいのだろうかと佳鈴は考えて、非通知の留守電を気をつけて消した。
そしてそれが一週間を過ぎると、佳鈴はまた誰かに付けられているような気がした。
また嫌がらせの一つかと思い、なるべく人がいるところを選んで歩いていると、相手も警戒されているのが分かったのか、そのうち気にならないくらいに離れたようだった。
わざわざ理一ではなく、佳鈴を狙っているあたり、理一の弱点が佳鈴であることを知っている人が狙っているのだろうと佳鈴は考えた。
そうしてある日の夕方、歩道を歩いてスーパーから帰っている時だった。
急に大きな車が目の前にやってくると、その車の中から黒服の男が三人も出てきて佳鈴に襲いかかった。
「……ひっだ、誰かっ!」
そう叫ぶけれど夕方の人通りのない道では、助けを求められるような人すら存在しなかった。
あれだけ気をつけて行動をしていたのに、人のいない時間を狙われた。
「はなっ……んん゛っ!」
すぐに叫んでいる口は布で塞がれて声は出なくなり、大きな男に抱えられて車に放り込まれてしまった。
中にも他に男が乗っていて、すぐに佳鈴は押さえ込まれた。
そしてドアが閉まり車は発進していく。
あっという間の出来事だった。
相手が計画をしてここだと狙ったのだろうが、佳鈴はどうして自分が狙われるのかが分からなかった。
「よし、成功だっ」
「急げ、言われた通りに」
男たちは静かに行動をしてくるが、佳鈴の腕は後ろ手に縛られ、ナイフで服を切り裂かれた。
「よし、脱がせ」
一斉に男たちによって服を脱がされ、佳鈴は全裸にさせられた。
「ううっ! ううっ!」
佳鈴が暴れるように身体を揺すると、男たちは佳鈴の目隠しをした。
何も見えなくなって、佳鈴は焦るも男たちは黙ったままで佳鈴の身体を縛っていく。
足が折り曲げられて縄で足を固定されてしまい、どんなに動こうとしても男たちのてによって押さえ込まれてしまう。
「んっ……んっ……んっ……んっ、んっ、んんっ──!」
男たちの手が身体中を這い回り、佳鈴はあまりの気持ち悪さに吐き気がしたほどだった。
「んっ、ぅっ、んっんっんっんっ……!」
そもそも男というものに触られるのは三回目だ。
赤峰以外は武原しか知らない。レイプをされたことはあるが、こんな集団によるレイプはされたこともない。
しかも組織だってこんなことをするためにわざわざ人を攫うような人たちによってされるなんて、想像もしたこともない。
「んっ──……っ、んっ、ふっ、ふっ、」
這い回る手が性感帯を撫で上げてきて、佳鈴は恐怖のあまり身体が思うように動かなくなった。抵抗をしているはずなのに、まったく抵抗になっていない状態になり、男たちにいいように身体をいじり回された。
「んんぅ……っ、んん、んんぅ……っ!」
アナルまで指を入れられ、早急に身体を開かれて、無理矢理性器をアナルに突き入れられた。
「ん゛ん゛ん゛!?」
男たちは黙ったままで佳鈴を押さえつけて犯し、車は常に動いていて停まるのは信号くらいだった。
停まっているところを警察に見つかるよりは、高速を無駄に流している方が場所を特定もされないし、わざわざ監禁場所を用意しなくてもいい。高速のサービスエリアでも端の方に車を止めて、佳鈴を縛り付けた状態で男たちは佳鈴を犯し続けた。
「んん゛ぅ……っ! んんんーっ!!」
最初こそ痛かったし、辛かったのだが、だんだんとセックスというものを思い出し、皮肉にも五年間、赤峰によって開発された身体は男を受け入れてしまい、佳鈴はその行為で何度も絶頂をさせられた。
「んん゛ぅ……ん、ぐぅうぅ……」
男たちは何度も佳鈴の中に中出しをして、精液を吐き出しては掻き出し、また誰かが行為を続ける。
「ん゛ん゛ぅ……っ、ん、ふ……っ、ぅ、うぅ……っ」
ずっと佳鈴は縛られ、目隠しを取られることもなく犯され続け、その時間は三日間にも及んだ。
「んっんんっ……! ん、んんん……っ」
慣れた行為だと絶頂もするし、気持ちいいと感じる。
それがどうしても佳鈴は情けなく、恥ずかしく、そして過去を後悔する出来事だった。
好きでもない人とただ衣食住を欲しいがためにセックスを続けた。
意味もない浅はかな行為である。
セックスというのは何かと引き替えにしていいものではないと佳鈴は思い反省もしたのに、誰かは佳鈴をこうやって犯してやれば、快楽に沈むと知っている。
「ああ……っ、らめっ…ああっ! んっ……あ、ああ……っああ……!」
一日経ったら猿轡は取ってもらったけれど、佳鈴はどうせなら塞いでくれた方が良かった。
「ああっ、や……っ、も……あっ、あっんああ!あっ……ああー……っやあ……っ、あああっ!だめ、だめ……!」
自分の口からは嬌声が漏れ、それがだんだんに甘くなり、自分の声だと思えないほど淫らに喘いでいるから、それを聞きたくなかった。
「あぁ……っ!やだ……ああっ!あ!ぁあ―――ああ……っ、ああぁ……っあ……っ、んんっ」
いやだと口では言っても身体はセックスを覚えている。
「んぁああっ! あっあっ! ぁんっあんんーっ! あん! はぁああん……っ」
淫らに喘がされて、佳鈴は何も見えない分からないまま男たちによって犯され続けた後、自宅に帰された。
目隠しが外されたのは玄関の前であり、佳鈴は男たちが逃げていく音も聞いたけれど、それを振り返る気にさえならず、玄関のチャイムを押した。
心はもう絶望をしていた。
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