眩いばかり
2
深浦佳鈴はどうして瀬良理一が赤峰崇志という男を知っているのか、それが不思議でならなかった。
ただ佳鈴をずっと監禁するようにして匿っていたのは、確かに赤峰であるが、何十人もいるマンションの住人を理一が全員把握しているわけもなく、まして、今日引っ越すというのが赤峰であることまで知っているほどに事情通なわけでないだろう。
「……理一先生? 何で赤峰のこと……?」
そう佳鈴が口にすると、理一はジロリと佳鈴を睨み付けてから言った。
「やっぱり、赤峰なのか……よりにもよって……それでやつは引っ越したんだな?」
そう理一は言うと湯船の端から腰を上げた。
「あ、うっうん。引っ越すから鍵も変わってて……スーツケース持って出ていったよ」
ビク付きながらも佳鈴が言うと理一は眉間にしわを寄せて怒っているようであったが、そこに自ら指を当ててふうっと息を吐いた。
「……そうか、分かった。ならいい。本当に赤峰とは切れたんだな?」
再度確認するように言われて佳鈴は頷いた。
「だって、もう子供じゃ僕には興味がないし、うざいって……少年とかいうやつしか好きじゃないんだよ、きっと。僕、二十歳になっちゃったからさ」
そう佳鈴が言うので、理一はふっと気付いたように言った。
「そうか、昨日は佳鈴の誕生日だったな」
「そうみたい……なんか実感ないけど」
たまたま設定していたアプリに誕生日が必要で登録していたら、勝手に誕生日おめでとうやら二十歳ですねとか言われて、それで佳鈴は自分が誕生日を迎えて二十歳になったのを知った。
それを昨日、赤峰に話した。
その後赤峰は何処かに電話をして、玄関で鍵を変え、今日出ていった。
つまり、言わなければ赤峰は佳鈴が二十歳になったことにも気付かなかったし、気付いてなければ追い出しもせずに、引っ越し先に佳鈴を連れて行ったかもしれなかったわけだ。
「あーあ、子供じゃなくなったら、僕、どうすればいいんだろう」
ふとこれからの自分が不安になったのでそう呟くと、理一が言った。
「自立をするしかないな。まずは今日の夕飯を食べて寝て起きてから。役所に相談をして……いや、佳鈴、君はご両親の遺産はどうした?」
ふと思い出したように理一は佳鈴に聞く。
「あ、うん。あるけど……銀行に預けてある。その銀行まで行くお金もなかったから……」
そもそも、今手元に現金がない。
何処かに移動しようにも靴がなく、その靴を買うためのお金がないという状況で途方に暮れていたのもある。
「そうか。よかった。それならまず家を借りるために私が保証人になるから、その家を探しに行くところから始めるか。しばらくは私の家に置いてあげるけれど、それでは窮屈だろうし」
そう理一が言いながら計画を立てていくので、佳鈴は思ったことを言う。
「僕、出て行かないと駄目? 理一先生、僕は邪魔? ここにいたら駄目?」
佳鈴がそう言い出してしまい、理一が驚く。
「佳鈴?」
「一人になるの、怖い……」
佳鈴がそう言って泣き始めてしまった。
親しい人に会ってしまったのもあり、ずっと我慢していたモノが溢れ出た。
赤峰のところにいると確かに赤峰は佳鈴を可愛がってくれたけれど、それはただ佳鈴の身体が目当てだけの行動だった。
だから佳鈴は身体を与えれば優しくされると思っていたのに、赤峰はそんな佳鈴すら年齢を理由にあっさりと捨てた。
もう誰も信用ができない中で唯一信頼ができる理一に出会った。
それだけが嬉しくて佳鈴は理一から離れたくはなかった。
「皆、僕のことは要らないんだ……何で僕は生きてるんだろう……」
佳鈴はもう自分の生きている意味さえ見出せずにいる。
完全に病んでしまっている佳鈴に、理一はこのまま佳鈴を独り立ちさせても危ないと思った。
佳鈴の根本的な問題を解決しないことには、佳鈴の生きる意味がない限り、この問題は何一つも解決はしない。
人を一人救うということはそうたやすいことではなかった。
そんな泣いている佳鈴の涙を指でぬぐった理一は、じっと佳鈴を見つめてから言うのだ。
「私のプライベートと引き替えに佳鈴は何を差し出せる?」
理一は昔から優しいだけではなかった。
何かを得るために無償で何かをする人でもない。
佳鈴はそれを思い出す。
佳鈴以上に苦労をして苦学生からのエリートに登り詰めた人である。
佳鈴であろうとも何かを求めるなら引き替えるものが必要だった。
「……でも、僕には何もないよ?」
何も持たずに家を出た佳鈴の何が欲しいのか。
佳鈴は不思議そうに言うけれど、理一は言うのだ。
「まず、ここに住むとしたとして、佳鈴はこれから先をどうする?」
「え……あ、そうか……僕、何もできないんだ……」
つまり中卒である佳鈴にはまず学がなかった。
就職をしようとしても中卒だけである佳鈴が普通に雇われるわけもない。
更に住む場所を貰ったとしても、家賃が払えないままで結局元サヤである。
「じゃあ、まず仕事を探して仕事に慣れる……それからお金を貯めて……一人で暮らせるくらいの知識を得る。でも、これじゃ何年かかるか……」
佳鈴は冷静に自分のことを五年ぶりに真面目に考えた。
家から逃げるという方法は悪くはなかったけれど、やってきた五年に意味が一切なかったことを知る。
現実逃避するにしても高校で家を出られたのだから、高校は行くべきだったし、その流れで大学だって行けたはずだ。
佳鈴を弟ほど愛してはくれなかったけれど世間体を何よりも大事にしていた親なら、きっと大学までは出させてくれたはずだった。
佳鈴は今なら大学生になって、自立の道をもっと現実的に考えて探せたはずだった。
「……僕、もしかしなくても何の意味もないことをしていた……?」
そう佳鈴が言うと理一は頷いた。
「逃げたとは言えない。甘えて寄生してただけだ。佳鈴は頼る相手を間違えたんだ」
理一が続けて言う。
「私を最初に頼ってくれれば、佳鈴、お前はもっと真面な人間になれていただろうね。身体だけでできることなど、せいぜい三十までだ。それから先はどうするつもりだった? 三十になって今のように放り出されて、頼る親も親類もいない人間が、どうやって生きていける?」
理一の言うことは全て佳鈴の胸に刺さり痛みになる。
「だから、ここで放り出されたことをラッキーだと考えるんだ」
「え?」
理一はそこで笑い言う。
「二十歳ならやり直しどころか、人生の構築をし直せる。まず佳鈴のやるべき事は学歴を付けることだ。高卒認定試験を受けてから大学受験をする。そこから四年大学へ通う。これで二十五歳までに大学を卒業できる。佳鈴の家庭の事情なら、これくらいは容認される年齢差だ。ここまでくれば後は一人暮らしをしても十分に稼げる会社に就職はできる。佳鈴がここに住むならば、これを目指して貰う」
理一の計画を聞いて、佳鈴はちょっと笑ってしまった。
「理一先生、相変わらずだ……」
家庭教師をしてもらっていた時も、こうやって理一が大体の目標を立ててくれて、高校受験を目指したのだった。
あの頃は理一がいるだけで世界は違っていたけれど、受験が終わって合格が出てしまったら、その熱さえも両親は奪っていった。あの時の空しさが佳鈴を裏の世界に引き込み、そして赤峰という人間に捕まったとも言えた。
「でも、それは理一先生のプライベートの代償としては違うと思う……僕は何も返していないことになる……」
そう佳鈴が言うと、理一はニコリと笑って言う。
「これはここにいる条件の一つだ。私のプライベート干渉への代償はその先にある。まずは大学生になるまでは、佳鈴には集中して貰う。そこでやっとスタートラインだ」
つまり佳鈴はまだマイナスの人生にいて、とてもじゃないがマイナスの人から何か代償をとるつもりはないと言われてしまったのだ。
「分かった……勉強して大学生にとりあえずなる……」
佳鈴がそう言うと理一は優しく笑う。
「良い子だ。それでこそ、佳鈴だ」
そう言い、理一は佳鈴の頭を撫でてから言った。
「暖まったら、身体を隅々まで洗って、綺麗にするんだ。そこにあるものは使ってくれて構わないから、しっかり洗いなさい」
そう言うので佳鈴は頷いた。
それを確認すると理一は風呂をやっと出て行った。
佳鈴はそれを見送ってから、身体が芯まで温まっていることに気付いた。
あの寒かった長い時間に失われたものは全部戻ってきたように、心まで満たされる羽目になっている。
そこで佳鈴はやっと自分がこの五年、楽しかった日もあったけれど、その半分以上が無価値の時間だったことを知った。
自分がただの性の消費に使われただけなのだ。
もし本当に佳鈴のことを考えてくれていたら、家に閉じ込めたままになんてしないで、理一のように未来を見せるようにしてくれたはずだからだ。
けれどその五年で失ったことを佳鈴は自分の無知が招いたことだと思った。
ちゃんと考えられもしない子供が考えたものはただの逃避だ。何もない誰にも誇れもしない無意味な時間。
それを死ぬまで続けるつもりだった自分の愚かな無知に、今初めて佳鈴は恥ずかしいと思った。
とてもじゃないが理一の前に顔を出せるような人間ではなかったのだ。
けれど理一は、それを分かった上で優しく受け入れてくれて、佳鈴の無知をなくすためにその知識を与えようとしてくれている。
佳鈴は理一の期待に応えなければならなかった。
五年の行方不明の後に見つかった深浦佳鈴の姿に理一は心の底から怒りを覚えた。
あんなに賢く、聡明でありながら、両親に愛されなかった子が可哀想だと思っていたけれど、そのまま家出をしたことを知り、きっと何か計画をしていたのだろうと思った。
ところがだ。やっと見つかった佳鈴は、そんな賢い選択は一切していなかった。
ただ男の奴隷として性の道具となって暮らしていた。
真面な環境ではなく、真面な人間関係すらない、性の道具としての佳鈴を知った時は、腸が煮えくり返るほどに、佳鈴の無知を呪い、その無知につけ込んだ赤峰崇志を呪ったほどだ。
佳鈴には、もう助けてくれる人などいない。
理一はその佳鈴に、最後のチャンスを与えることにした。
それが学を与えることだ。
佳鈴はこれからきっと知識を蓄えていくだろう。
そしてその己の無知からした愚かな行動を呪うだろう。
理一は正攻法で佳鈴を手に入れようと考えた。
赤峰がしたこと以外の方法で、佳鈴が両天秤に掛けてどちらを最終的に選ぶのか、それを見てみたかった。
その日から佳鈴は元家庭教師だった理一との生活が始まった。
理一は会社から帰ってくると必ず佳鈴の勉強の手伝いをしてくれた。
沢山の参考書を一緒に買いに行って、その時に佳鈴は自分の服など足りない靴も買って貰った。
昼食は一人で近所のレストランで取るように言われた。
食事は作れると言ったが、理一は佳鈴に外で人に慣れる生活をするようにと言われた。
「佳鈴はこの五年、他人とのふれあいが足りない。大学生になればそんな人の中を通勤して、そんな人たちとも会話をしていく。そのために、軽く人と会話をする機会を作った方がいい」
引きこもって生活をするのも大問題だったのである。
今五年ぶりにちゃんと話しているのは、理一くらいである。
「……そうですね」
言われてみればそうである。
人との関わりを増やして、世間に慣れるということも佳鈴の仕事の一つである。
無知な故に足りないことは沢山あった。
夕飯はさすがに作ると言う佳鈴は、買い出しから全て近所のスーパーに通って自分で選んで買い物をするということから実行した。
今までは外に出ないというだけのことだと思っていたのに、一ヶ月も苦労する羽目になった。
靴を履いて歩くだけで靴擦れを起こした。
靴を履いて歩くだけで一ヶ月も足が慣れず、スッポリに変えたり当たり障りない柔らかい靴にしたりと試行錯誤をする羽目になった。
「靴を履かないってこと事態が、まさか足の皮を弱くするなんて思わなかった……」
そう言う最初に酷い靴擦れは病院に行った。
佳鈴はずっと保険証などの支払いをしていなかったけれど、役所でホームレスをしていたことにして申告をして、再度保険証など人として必要なものは取り直した。
理一がそうした支援団体を使って調べてくれて、その支援団体の協力で佳鈴の戸籍以外の保証は復活をした。
保険証なども再発行されていたので、病院にも通うことができた。
医者はホームレスをしていたという佳鈴の言葉を真には受けなかったけれど、佳鈴が役所や支援団体と協力して自立を目指していることを知って、佳鈴が靴を履かない生活で監禁されていた事実には突っ込まなかった。
もちろん、そこに不審を持って調べることはできただろうが、今正に立ち直ろうとしている人にこれ以上の不幸は要らないだろうと思ったようだった。
「大変だけれど、これからずっと良くなる。まずは踵などをケアしていこう」
そう言われて徐々に靴に慣れた。
一ヶ月もするとやっと普通の靴で外を歩いても大丈夫なようになった。
佳鈴の状態は支援団体としては、今の状況がとてもいいというのと、理一の支援が大学を出るまで責任を持ってみるという計画であることを知り、それを援助してくれることになった。
そして佳鈴は持ち前の優秀さを発揮して、年に二回ある高卒認定試験を二回で全科目に合格をした。その時には次の大学受験が始まる前で、そのまま大学受験に突入した。
佳鈴は一年間毎日、理一が用意した勉強を続け、昼食は外で取り、更に夕食作りは息抜きに毎日やった。
そのルーティンで佳鈴は大学受験に合格をした。
理一の家から通える範囲の大学にしたので、佳鈴の優秀さならもっと上の大学を狙えたけれど、佳鈴は高望みはしなかった。
「僕は、優秀な大学を出ることが目標じゃ無くて、その先を生きていくのに必要な人との関わりを増やしていくことを目標にする」
それが佳鈴の志望動機だったから、一つだけランクを落した。
佳鈴は理一との生活には一切の性欲を持ち込まなかった。
理一の期待に応えることが何よりも大事だったし、それは佳鈴のためであることははっきりとしていたからだ。
そして大学に通うことになり、佳鈴は講義に慣れてくるとアルバイトも始めた。
「そうだな、成績には余裕もあるし、働くのに慣れるのも良いだろう」
理一もそれには賛成をしてくれて、佳鈴は夜の六時から十時までのバイトを週四で入れた。
バイトはレストランの給仕だったけれど、今まで佳鈴が昼食を食べるために通ってきたレストランだったので、慣れるのも早かった。
そんな佳鈴の仕事を終わる時間になると必ず理一が会社帰りに迎えに来る。
今までは佳鈴の時間に合わせて午後七時には家にいた理一だったが、午後十時までバイトをする佳鈴に合わせて残業をするようになった。
「お、深浦のお迎えが来てるぞ」
一緒のバイトをしている鹿嶋太志が窓の外を見てそう言う。
それに佳鈴も気付いてから理一に手を振った。
理一は手を上げてから少し足早にレストランに入ってくる。
「いらっしゃいませ……」
「コーヒーを頼む」
「はい」
理一はいつもの窓側の席に座って佳鈴の仕事を終わるのを待つ。
ぴったりと十五分前に来てだ。
佳鈴がコーヒーを運んでから戻ってくると、鹿嶋が言う。
「すっげー、見張られてるみたいだな」
「……え? あ、そうかな? 俺は見守って貰っている気がしてるよ」
佳鈴がそう言うと、鹿嶋はそうか?と首を傾げている。
「そっかー? 休みの日とかあんまり出かけないんだろ?」
そう言われて佳鈴は頷きながらも言う。
「だって、CBS(国際秘書)検定を受けるために勉強してるし……」
そう佳鈴が言うと鹿嶋は驚く。
「えー、お前凄い資格を取るんだな。それって英語もしゃべれないと駄目なやつじゃん」
「うん、だからその英語とか教えて貰ってる。他にもそれに秘書技術認定二級はもう取ったから、次は準一級を目指してる」
「マジかー……道理でなんかその辺ちゃんとしてると思った。どこの執事よって」
「あはは。そういうわけで、別に遊んでないわけじゃないよ。ただやることが決まってるから忙しいだけ」
佳鈴のちゃんとした目標がある未来を聞いて鹿嶋はうらやましいと言った。
「俺なんか、大学に入るのが目標だったからこの先、何になりたいのかわかんないんだよな。いっそのこと、俺もその秘書っての取ってみるかな」
「あー、普通の秘書検定なら二級辺りは筆記だけだからいけると思うよ。準一級とか一級は面接が難しいから大変みたいだし」
そう話している間にやっとバイト時間が終わった。
「ああ、じゃあさあ、俺にその辺のこと教えてくれない?」
鹿嶋がそう言い、それに佳鈴は頷いた。
「いいよ、僕の知識で役に立つなら。ただ日曜しか空いてないけど……」
「それでいい、俺んちでちょっとやり方を教えてくれれば有り難い」
「うん、分かった。今週末でいい?」
「お願いします」
「じゃ、僕が使った資料とか持って行くね」
「この店の前で待ち合わせしよう。家、わかりにくいしね」
そう言いながら二人は着替えをしてから店を出た。
既に店を出ていた理一に気付いた佳鈴であるが、鹿嶋が言い出した。
「俺、あの人に挨拶しておくな。なんか心配されるとアレだし」
そう言いながら佳鈴と二人で理一に近づく。
理一は驚いた顔をしているが、すぐに佳鈴が鹿嶋を紹介した。
「同じバイト仲間の鹿嶋君」
「初めまして! 鹿嶋太志といいます。あと、秘書検定のことで深浦の力を借りたいので、宜しくお願いします」
そう鹿嶋が言うと、理一は少しだけ佳鈴を見る。
「僕の知ってることだけ教えるだけ」
そう言うと、理一は言った。
「鹿嶋くん、連絡先と住所をお願いできるだろうか?」
そう理一が言うので、佳鈴はギョッとすると、鹿嶋は心得たというように携帯を出してさくっと電話番号と住所を言った。
「ああ、鹿嶋くん、ありがとう。佳鈴は色々あって預かっている子だから、何かあっては困るので」
そう言うので佳鈴は、軽率な行動を取ったのかと思い至った。
「いえ、いきなりバイト先のやつが挨拶に来たらそうなるかと……大丈夫ですので、今度の日曜日、お借りします。それじゃ、また!」
鹿嶋はそう言うと、さっと踵を返して帰って行った。
「面白い子だね」
理一がそう言うので佳鈴は焦って言う。
「あの、勝手に約束してごめんなさい……」
佳鈴の様子に理一は少しだけ首を傾げた。
「佳鈴が大丈夫だと思った友達なのだろう? 彼はいい人そうだし、気遣いもある。心配することはない。電話番号も住所も分かっているからね」
理一はそう言って携帯に鹿嶋の番号などを登録している。
理一はそうやって佳鈴を危険に巻き込まないために、気を遣ってくれているのだ。
だからこそ佳鈴は、理一の期待を裏切りたくはなかった。
「今日は何を作る予定だい?」
理一が話を変えてきたので、佳鈴はその話に乗った。
「はい、今日はグラタンです。昨日のうちに用意しておいたので、あとはマカロニゆでてオーブンで焼くだけです」
「なるほど、それはいいね。焼いている間に風呂に入ってしまおう」
「はい!」
佳鈴は理一のところに住み着いてから、既に一年と半年以上が過ぎていた。
何事もなく、大学生に慣れて、順調に佳鈴は人との関わりを増やしていく。
家出をしての五年と、ここに来てからの一年半と比べたら、確実に人として成長ができているのは、理一と過ごしている一年半の方が濃密で身がある日々で楽しかった。
それは赤峰から捨てられたという気持ちを一掃し、あの時に脱出ができたのだと思えたほど、佳鈴に初めて訪れた幸せな日常だった。
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