Humansystem
3
章吾が次に目を覚ました時は周りは夕方になっている。
日が暮れる前であるのは、空の色で分かった。
「……くそ……」
なんでこうなったと思っていると、その章吾の隣に嘉那が座ってみていた。
「章吾さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫とかの前に、説明してくれ」
章吾がそう口にしてから嘉那を睨みつけた。
嘉那は少しだけオドオドとしたが、ゆっくりと言い始める。
「これから章吾さんには迷惑をかけるかと思います。物凄く大きな騒動になると思います。本当はこっそりと出ていく予定だったのですが、そういうわけにもいかなくなってしまって……」
「だから、どういうことで……?」
章吾が苛立って聞き返す。
すると玄関のチャイムが鳴り始める。それは一回では収まらずに何回も鳴っている。
そのチャイムに嘉那は少しだけ悲しい顔をしてから言った。
「今、チャイムを鳴らしているのは警察です。これから警察の捜査がここに入ると思います。そして郁夫さんが一時的に悪人になってしまいます。でも大丈夫です。僕は絶対に負けません。だから、章吾さんには信じて欲しい。郁夫さんは悪くはないってことを信じて欲しい」
嘉那がそう言うと、ドカドカと人が歩いてくる音が聞こえ、庭にもスーツ姿の男たちが溢れている。
これは警察だと言っていたが、郁夫は一体何に関わっていたのだ。それが章吾には一切理解できない。
けれど嘉那は郁夫は悪人ではないと言い切り、信じて欲しいと言った。
それが何であれ、信じろと。
部屋に刑事が飛び込んできたが、咄嗟に嘉那が章吾を庇う。
「この人は何も知らない。僕が警察を呼びました。瀬口嘉那です」
嘉那がそう言うと刑事は手元に持っていた何かを確認してから、ゆっくりとした動作で近寄ってきた。
「君が嘉那君? 大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ですので、ここの人たちに何もしないでください。お願いします」
そう嘉那が言うと、刑事は嘉那をゆっくりと部屋から連れ出した。
しかし抵抗もしていないのにベッドで寝ていた章吾はいきなり刑事に襲いかかられて後ろ手に手錠をされてしまう。
「ちょっと、何なんだ! 何の容疑でこんなこと!」
そう章吾が叫ぶと、刑事が言った。
「少年誘拐監禁の現行犯だ」
そう言い、章吾を引っ立てるように連れて行こうとするが、外で嘉那が暴れて刑事に訴えている。
「その人は今日初めてここに来た、郁夫さんの息子さんです! このことは何も知らないんです! だからそんな酷いことをしないで!」
大人しく従っていた嘉那がパニックになって暴れると、さすがの刑事も嘉那のパニックを止めるために、章吾の手錠を取るように言った。
「あー、手錠は取るけど、一緒に来て貰う」
「俺だって何が起こってるのか知る権利がある。あいつから何が聞けるのか全部話して貰うぞ」
刑事が手錠を取ろうとすると、章吾が刑事に噛みつかんばかりに睨み付けてそう言った。そうすると刑事が嘉那の言う台詞を思い出す。
何も知らない人。
そうして章吾に確認するように刑事が言った。
「えー、ここはあなたの父親の自宅だけど、今まで入ったことはない?」
「入ったのは今日が初めてだ。相続したから中を確認に来ただけだ。使用人がいることも聞いていたし、処分するにも中を見ないことには何もできないからな!」
章吾がそう言うので、章吾はベッドに座らされ、刑事はその確認をしている。ここの屋敷の主人である郁夫が死んだことは知っていたようだが、家の事情までは気付いてなかったらしい。
すぐに章吾の身元が確認され、執事や他の使用人の証言で、章吾がここに来たことはないこと、今日来ていることすら知らない使用人までいたことで、章吾は任意で警察署での事情聴取となった。
嘉那は警察官に支えられるようにして車に乗り込んだが、中で必死に叫んでいる。
けれど、章吾が普通に屋敷から出てきたのを見た瞬間、泣き出して謝っている。
ここまでの大騒ぎになるとは思ってなかったというのが本当のところか。
章吾まで誤認逮捕される事態になる予定ではなかったのだろう。
そして章吾たちが警察署に到着した頃には、警察署の大勢のマスコミが詰めかけていて、写真を撮りまくり、そして警察署に入るとロビーで流れているニュースには、大きなニュースが起きたように上空から撮影されているこの警察署が映っている。
その見出しは。
「未解決事件だった瀬口嘉那くん誘拐事件。嘉那くんが無事発見される!」
という衝撃的な見出しになっていた。
衝撃的な展開を知る羽目になった章吾は、犯人の息子としてモザイク付きでテレビニュースになった。
警察署で事情を聞かれることになったが、どうやら誘拐犯だったのは章吾の父親である郁夫のことらしい。
正直言って章吾は答えようがなかった。
八年前、章吾は郁夫に引き取られはしたが、一緒に住んだことはなかったのだ。
「うちは、俺が生まれたくらいで離婚して、母親に育てられた。仕送りはしてくれていたらしくて普通に暮らせた。それから母が死んで、頼まれたからと大学の費用とかもあるから、一応後継人になって貰うために引き取られた形だ。その後は、会社も継いだ。けど、大学生になってまで一緒に住む理由がなかったし、場所が場所だったから住んだことはない」
章吾の答えはやがて警察の調べで全て明らかになった。
警察署には警視庁から派遣された警部で、章吾の友人でもある宮川卓也警部が派遣されたのだ。
「お前、刑事課だったっけ?」
章吾が卓也をみてそう言うと、卓也は言った。
「いや、未解決事件の方。特命捜査第1係。つまりうちの事件なわけ」
卓也は取調室に入ってくると、他の刑事と交代して入ってきて、章吾に近くの居酒屋で出前して貰った定食を持ってきてくれた。
「まあ、お前の言うことは俺が保証しなくても調べれば一発。だが、親父さんの方はどうかな」
そう言われてしまい章吾はそれはさすがに庇えなかった。
無実だと言うには、少年はあそこで暮らしていたし、実際に行方不明だった少年だったことはDNA検査で明らかになったばかりだった。
「あいつ、本当にいなくなった子供だったのか……」
「ああ、親子関係ありって出たし、家族が再度提供したDNAからも関係が認められたそうだ」
「つまり、親父が誘拐犯で、誘拐した子供を屋敷で監禁してたってことか?」
「そうなる。んだけど、どうも違うらしい」
そう卓也が言うので章吾はキョトンとして尋ねた。
「どういうことだ?」
「まあ、どうせマスコミが書くだろうし、発表もされるだろうから言うけど。どうやら、あの少年は別の人間に誘拐されて置き去りにされたらしい。そこで別の男性に車に乗せて貰ったところで家に帰りたくないとごねたそうだ」
「なんで?」
「少年が言うには何かやって家を追い出される罰を受けている最中に知り合いについていったらしい。それでこのまま帰ったらまた両親が怒って殴ってくるから怖いから帰りたくないって言ったら、その男が「分かった」と言って別の夫婦に頼んで、親父さんの屋敷まできたそうだ。それからずっとそこで暮らしていたとか言ってる」
卓也がそう言いながら、一緒に定食を運んできて章吾と食べ始める。
「それ、何年前だ?」
「八年」
「俺が大学生の時で、親父に引き取られた後か」
「それくらい。お前、親父さんのことあの時嫌ってたから、全然会ったりもしてなかったよな」
「……ああ、せいぜい三ヶ月に一回、ホテルで食事みたいなことだけだったな」
その頃の郁夫の様子を聞かれるが、変わった様子は見られなかったと章吾は答えた。
「基本的に子供には甘い人だった気がする。なんか本人は虐待されて育ったとかで、十八で家を飛び出してやっと自由になったとか。それから仕事仕事でやっと結婚できたのが五十過ぎだったらしいし……」
章吾の言葉は鏡の向こう側で刑事が聞いているのは明らかではあったが、章吾はやましいことはないと信じて本音で話していた。
「けどやっぱり仕事仕事で秘密ごとが多かったらしいから、母が耐えられずに一歳の俺を連れて別れたって。まあ、それから女の噂も聞かなかったらしいし、本当に仕事人間だったみたいだ」
「それがどうしてこうなるんだか」
「それで親父は何か言い訳を残してたか?」
章吾が遺言らしい物を見なかったかと聞くと、卓也は少しだけ言い淀んだ。
「あったのか。で、なんて言っているんだ?」
章吾は察して話を続けた。
「あー、なんか誘拐された子供だってことは知ってたと。それで何度聞いても帰りたくないと泣くので、調べたらしい。そしたら子供の親が探してはいたけれど、テレビで泣いて名前を呼んでいるのを見た子供が、その両親を見て急に吐いて寝込んだんだと。それで虐待があったのではないかと近所で聞き込みをしたら案の定、でるわでるわの証言で嘘偽りないことが分かったそうだ。それでどうするか悩んでみたが、親父さんも同じ立場として、このまま返しても両親のところに戻されて、引っ越した先でまた虐待が始まるのは想像に難くなかった。それで子供が一人でも生きていける年齢、成人するまでは責任を持って育ててやろうと思ったって」
つまり同じ虐待の被害から救おうとしたというのだ。
しかし嘉那の両親は、嘉那を探し続けた。
けれど嘉那は帰りたくはないと本気でそう言い、何度も提案すると狂ったように抵抗するようになったため、精神上よろしくないという医者の言葉と共に提案をしなくなった。
「どっちが本当なのかどうかってことだけど、少年は親父さんの言う通りだと言ってる。けどストックホルム症候群の可能性が高いから、鵜呑みにもできないし、かといってそれを嘘だと言って親に引き合わせるのも、虐待が本当だった場合、少年に危険が及ぶかもしれないから児童相談所とかが一時預かりをするかもしれない」
卓也の言葉に章吾は少年が言った言葉を思い出す。
「俺に迷惑がかかるからと謝ってた」
「まあ、お前自身よりは親父さんの名誉が傷つくことが、あの少年には許せないことらしい。あまりに興奮して庇うから引き付け起こしたり過呼吸になったり。とにかく屋敷を出てから精神が安定してない。それまでは近所の親切な医者が秘密で診てくれていたらしくて、来た当初にしていた怪我以外したことはないって太鼓判押してるから、嘘ではないのだろうけど」
「それも調べて分かってるんだろ。少年が訴えた内容の方がテレビで泣きながら礼を言っている親よりも信用できる真剣さがあるって」
章吾がそういうと卓也が舌打ちをした。
まさにそういうことになっていた。
元の近所に聞き回ったところ、昔から嘉那が放置されていて、夜中に家から追い出されて泣いているのを何度も見たことや、児童相談所に三回以上保護されたことがあり、骨折などで二回、救急で運ばれたことがあるというのだ。
しかし児童相談所は他にも同じような事案があり、本人が戻るというと家に帰していたというのだから、救いがなかったという嘉那の言い分が通ってしまった。
「それで親父さんはもうちょっと踏み込んだところを調べて、あの父親が性的虐待を行っていて、子供を売り物にして金銭を得ていた事実まで掴んでた」
それらは全て少年の発言から調べたものであったが、虐待の事実を掴んだのは記者の振りをして調べてきた探偵で、病院からも骨折や怪我のカルテまで盗んでいた。
それらは嘉那の身体に残っている傷からカルテ通りで間違っておらず、それを鑑定した警察病院の医者は虐待はあったと診断した。
子供を性的虐待して喜ぶ一部の人間のリストまで用意していて、その中には現在、そうした犯罪で捕まっているものが多かったという事実まで出てきた。
「ああ、それで大騒ぎになるけれどやるしかなくて、警察に通報したのか」
「そう言ったのか?」
「二十歳になったから運命を受け入れるとか……」
「そうか、成人すれば親の干渉から逃れられる。親と戦うにはそこが重要だったんだな」
そう卓也が言うと、刑事が入ってきて耳打ちをした。
「弁護士? 嘉那くんの? 自分で呼んだのか?」
卓也がそう言うので章吾が聞き耳を立てていると、ドアがノックされた。
すぐにドアが開いて、高級スーツをしっかりと着ている三十歳くらいの若い長身の男が立っていた。モデルと言っていいくらいの容姿であるが、その視線は厳しかった。
「すぐに黒田章吾さんを釈放してください。本人が関わっていないことは車に積んでいるカーナビで証明ができます」
そう言う男を章吾は見たことがあった。
父親がよくカフェでお茶をしている弁護士事務所の安藤道和弁護士で、独立に関して郁夫がかなり援助をしたと聞いた。
「そう言いましてもね。現場にいたんですよ」
「それなら屋敷の防犯カメラにも映っているはずです。あそこのデータは管理会社が一年間のデータを保存しています。黒田章吾さんが一年間、あの屋敷を訪れたことがない証明もできるはずです」
安藤弁護士はそう言い切り、父親と共犯であろうと刑事が言っている黒田章吾を解放するには、それからたったの一日もかからなかった。
まず、あの屋敷に自由に入るには、門に設置してある指紋センサーに登録したものしか入れない。
まず登録されているのが黒田郁夫と、運転手の来須健一、執事の石井長政、庭師の植木安明、清掃の長谷川さやか、コックの飯島博文という面々だけで、メイドの永島真由子に至っては、この屋敷にきてから外に出たことがないという徹底ぶりだったらしい。
当然、瀬口嘉那の指紋もないのかと思ったら、どういうわけか登録されていた。
嘉那が言うには、近所の山を散歩したり近くの河原に泳ぎに行ったりしていたというから、監禁されていたという事実が薄らいでしまったのだという。
つまり本人が言う通り、好きでそこに残り、それに郁夫が答えておいてあげていたという使用人からの発言も取れていることから、郁夫は間接的な誘拐犯ではあるが、罪を犯した人ではないという微妙なラインになっているのだという。
そのことで詳しい証言をした人がいた。
「通報しなかったのは少年の命に関わる問題で、警察に通報しなかったのも同じこと。警察に通報すれば両親に返していただろうし、そうなるといずれあの子は両親に虐待されて死んでたか、俺と同じになるかのどっちかしか道はなかったよ」
そう言うのは同じく虐待を受けて育って、罪を犯してしまったけれど、殺したのはその虐待をしてきた両親だったというコックの飯島だった。
飯島もまた酷い虐待を親から受け、十八で逃げ出すときに親と口論になり殺害。少年院に入って二十歳で院を出たが、コックの修行をしてなんとか生きていたという経緯がある。
同じ道を歩ませたくないという飯島は、郁夫を説得して嘉那を置いてあげて欲しいといい、そのために嘉那に料理の腕を仕込んで、独り立ちできるようにしてきたという。
章吾が釈放されるに至ったのは、やはり防犯カメラの映像が原因であった。
この一ヶ月、一度も屋敷に足を踏み入れておらず、郁夫がしでかしたことを知っていたなら、郁夫が死んだ後に早々と嘉那の処遇をどうにかしに屋敷に来ていたはずであるがそれがなかった。
さらには電話やネットの履歴を見ても屋敷と章吾が関わっていた事実が一切出てこなかったのだという。
つまり、繋がりがあった証明が取れない以上、章吾の身柄を拘束するには裁判所が拘留を認めない。挙げ句弁護士が出てきて、不当拘束であることまで訴えられたら、拘束する理由がなくなってしまった。
「つまり、俺は一応関係はないということは証明されたのか?」
「いや、起訴しても不起訴になる可能性が高くなったからというのが、上の判断ってこと」
卓也がそう言って章吾を解放してくれる。
しかしそれでも章吾がこのまま安泰という訳でもなかった。
会社は酷い損害を受けた。取引先が一斉に取引の中止を申し出てきて、退職者がほぼ半数になり、不動産会社の事務所はマスコミに囲まれて業務ができない状態だ。
「章吾さん、これからのことは郁夫さんから任されておりますので、大丈夫です」
そう安藤弁護士が言う。
「父は何処まで取り決めを?」
章吾が安藤に尋ねると安藤は言った。
「嘉那くんの気の済むまで復讐する手伝いをします。まずは両親を訴えてます。二十歳ですので本人が訴えることはできます。裁判になるかと思いますが、こちらは当初からいろいろと証拠を用意していますので、大丈夫、勝ちますよ。そして郁夫さんの正当性を証明して見せます。嘉那くんと同じく救われた私が、この手で」
そう安藤が言うので、章吾は驚く。
安藤もまた嘉那のように郁夫に救われて立ち直って社会に出た一人だった。
ただ嘉那はまだ成人したばかりで、郁夫の力が必要だった。その手助けをするのだと安藤は言う。
「それならよかった。相手は正義を盾に甘い汁を吸ってきたやつだろうし、それで復讐がされ、気が済むのならやった方がいいだろうな」
嘉那の気持ちは分からないが、それでも安藤の自信からして両親の虐待は相当酷かったことがうかがい知れた。
「何かあったら俺にも連絡をくれ。できることがあるなら、親父の不起訴を狙いたい」
「ええ、大丈夫です。世間はこちらの味方です。ですので、章吾さんも好きにやってくださって構いません」
そう言われて章吾は閃いた。
章吾は堂々と警察署の入り口からマスコミがたむろしている道を通り、カメラや記者の質問を受け付けた。
「お父さんが犯罪者で、どういう気分ですか!」
そういうマスコミに向かって章吾は言った。
「残念ですが、少年は父に救われたと言っているそうですよ。監禁もされてなかったし、自由に屋敷内も外にも出られたそうです。それよりも実のご両親の方を訴えるそうですよ。少年への虐待の罪で」
最後にマスコミがまだ掴んでいない情報でマスコミを攪乱する。
「ぎゃ、虐待って、嘉那くんのご両親が嘉那くんを虐待していたってことですか!?」
マスコミもまさかの事態に混乱に陥る。
写真を撮っていた者は、あまりの事実に章吾を撮るのをやめて両親がいる自宅に向けて出発し始めるし、記者はさらに章吾を質問攻めにし始めた。
「本人もそう言ってますし、ご近所さんはやっぱりと思ってると思いますよ。虐待されているところを見た人も多いですし、何より彼は違う犯人によって拉致されて遺棄されたそうですよ」
警察発表すらされていない事実を口にしたせいで、刑事が生放送を見たのか走ってきて止めようとしているが、それは問屋が卸さない。
午後一のニュースの生放送である。全国放送も多いところでこんなことを言ってしまえば、警察も秘密にはしておけなくなってしまうだろう。
それが狙いだ。
両親は早く嘉那に会いたがっているようだったが、それをマスコミがまず阻止をするために行動をしてくれる。そうすれば近所などがもう黙っていなくてもいいのだと言って、一斉に喋ってくれるだろう。そうなれば、嘉那に両親が近づくこともなくなる。
まずは物理的に接触を断つのが章吾の狙いだ。
こうすることで、章吾への嫌がらせも郁夫の犯罪も、すべて嘉那の虐待の話にすり替わるだろう。
章吾は郁夫とそこまで親しくしていたわけではなかったが、仕事人間だっただけで、家族のために金銭面で別れた妻を不自由にはしなかったことへの恩返しは、しなくてはいけないと思えたのだ。
そして嘉那を救ってやれるのは、もう郁夫ではない。
郁夫が残していった嘉那が、自由を本当に勝ち取れるまで見守るのが章吾のこれからの役割のような気がしたのだ。
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