even then
14
籐佳と永峰は一緒に住むことはなく、家は隣同士でずっと暮らした。
とはいえ、眠るときは籐佳は永峰と一緒に部屋で寝ている。
ただ触れることは一切していない。
というのも、籐佳はセックスにおける記憶が少し歪んでいるから、当面の間セックスは自重しようという話し合いをしたのだ。
その期間は、籐佳がカウンセラーを受けて、それが終わるまでの間だったのだが、籐佳の闇は深く、なかなか普通にはなれなかった。
そこで永峰は一緒の布団で寝ることから始め、ゆっくりと触れていくように籐佳の心を優先して治していくことにしたわけである。
そんな日々が籐佳が大学を出るまで続いた。
何となくであるが、そこが一番キリの良い期間ではないかとお互いに言わなくても感じた結果、セックスという物に触れずに約一年八ヶ月くらい過ごしたのだ。
穏やかな時間は籐佳の心を完全に癒やし、永峰もそれによく付き合った。
そして大学の卒業式が終わった後だった。
「有瀬、この後どうする?」
卒業証書を受け取ってさっさと帰り支度をして帰っている途中で倉知がそう聞いた。
「ん? 達己さんと父さんと食事だよ。こういう時でもないと一緒にご飯食べられないから」
籐佳がそう言うと倉知は羨ましそうに言う。
「いいなー、有瀬のところはお父さんの考え方が柔らかくて」
「ああ、倉知のところって……家を追い出されたんだっけ?」
「そう、聞いて。マジで卒業したら他人だって言われて、実家に俺の荷物一切ないんだよ。捨てられたんだ。まあ、要らないんだけども!」
倉知はそう言い、怒っているけれど本当はそこが怒りポイントではない。
「まさか、俺、売られるとは思わなかったもん」
「ああ、結納金って志方さんが言ってたやつね」
「ゆ、結納じゃないしっ!」
倉知はその結納金を志方から家族に払われてしまい、戸籍も抜けてしまったのだという。倉知の家はちょっと変わっていて毒親と呼ばれる人たちだったらしく、志方が関係性をなくすためにそうしたらしい。
「でもよかったじゃん、これからも一緒にいられるようになったんだから」
「まあ、そうだけど」
そう話していると大学の門のところに籐佳を待っている永峰と父親がいる。そしてその隣に志方もいる。
そこに向かって籐佳と倉知は駆け寄った。
それぞれに大事な人と手を取り合って、大学を卒業できることを嬉しく思って大学から去って行く。
これからこの握った手を離すことなく生きていくのだと。
「それじゃ、永峰さん、籐佳をこれからもよろしくお願いします」
父親が新幹線で帰るので見送りにきたら急にそう言い出した。
そういう話は食事の席ではしなかったけれど、父親的にはこの時がいいだろうと思ったらしい。
「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
父親と永峰はしっかりと握手をした。
そして父親は籐佳を見てから言うのだ。
「籐佳、幸せになりなさい」
「うん、なるよ。父さんも」
お互いに幸せを祈って父親は新幹線で地元に帰っていった。
その見送りが済んだら籐佳は永峰と一緒に家に帰る。
特に言葉にはしなかったけれど、お風呂に入って着替えた後、永峰が籐佳を永峰の部屋に呼んだ。
籐佳が永峰の部屋に入るのは初めてのことだった。
意外かも知れないが、永峰の部屋に入るよりは永峰が籐佳の部屋に来てくれることの方が多かったのでそうなっていた。
「あ、そういえば、達己さんの部屋初めてかも」
「そうだな。基本的に入る必要がなかったし、でも今日は違う」
そう言われて入った永峰の部屋は部屋構造はほぼ左右反転しているくらいで籐佳の部屋と変わりはなかったけれど、それでも自分の部屋とは違う匂いがした。
そして寝室に入ると、黒や茶色に配色されているベッドや置物に目を奪われたけれど、そのまま永峰によって手を引かれて籐佳はベッドに腰を掛けた。
心臓が飛び出そうなほどに高鳴っている。
ついにこの時がきたと思ったけれど、籐佳は自分がしっかりと永峰を受け入れられるのか分からなかった。
そんな不安は、もちろん震える手が永峰に伝えている感情がある。
「手元の明かりは付けておくよ。きっと目を開けた時に不安にならないだろうから」
そう言い、枕元にある明かりのみを付けてくれた。
まだ明るい部屋の中で籐佳はゆっくりと永峰によって服と脱がされた。
永峰もそれに合わせて服を脱いでいってくれる。それはお互いにその気持ちがあることを意味していて、決して無理はしないという永峰の気遣いが見えた。
籐佳は二度も男たちによって傷つけられた。
それによるセックスへの恐怖をやっと克服できるまでになった。
キスはしたし手は握ったし、体をさすられることも慣れた。
それでも時々魘されてあの悪夢を見ることがある。それはどす黒いものに笑われながら犯されるもので、それはずっとカウンセリングを受けても消えることはなかった。
そのカウンセリングも効果があって、籐佳は本音を言えるようになり、こんな夢を見るのはきっと触れて貰えない事への不安なのだと言った。
服を脱いでしまったら、永峰が籐佳の傷に触れた。
そこは祥吾に刺され、手術をした時の傷が残っている。
最近は綺麗に縫えるようになったらしいが、それでも大きな傷なのでスッと線が入っている。
「これだけは残ってしまったね……」
それを残念だと思っているらしい永峰であるが、籐佳はそれで永峰が落ち込むことはないと言った。
「もう痛くもないから僕は気にしてもいないです」
けれどそこを永峰に撫でられ続けていたら、何だか声がでてしまった。
「……あんっ……」
「籐佳、触られると感じる?」
「あ、うんっ……なんかこそばゆい感じ……ああっあっ」
びくりと感じて震えていると、永峰はそんな籐佳の頬にキスをした。
「籐佳、可愛い……」
「あっ……んっああっだめっああん」
「ちゃんと気持ちよくなれてるよ……全部見てて……触っているのは俺だから」
そう言われて籐佳は目を瞑ることは出来なかった。
体を触れられ体が熱くなるのは、あの時では同じではないのだと分かる。
「あ、は……あぅ、あああ……」
永峰は籐佳をベッドに横たえると、籐佳の体中を撫でた。
「んんっ……は、あー……っんっ……あぁっ……あぁっ」
時間を掛けてゆっくりと体を開き、籐佳が怯えないように常に籐佳は触ってくる永峰を見た。
何もかもをしてくれるのが永峰であるという認識を持ちたかったし、目を瞑ると嫌な記憶が呼び覚まされるのだ。だから決して永峰から目を反らさなかった。
「ああっ、あっ、あっ……く、ふう、ううぅん……っ」
「うん、大丈夫。ちゃんと気持ちよくなれているね」
そう言われるとちゃんと永峰の愛撫に体が反応して、ペニスが勃起しているのが分かる。
「も……っ、だめ、それさわったら……ああっ……だめ……あぁ、あんっ……っ」
しっかりと勃起している籐佳のペニスに触れ、それを永峰が手で扱いていく。
籐佳は自分ではしないせいで、その感覚に腰が抜けそうなくらいに感じた。
「ああぁ……っ、んあっ、はぁ、はぁうっ……は……っ、はふぅ……っ、う……」
「大丈夫、ほら気持ちよくなれる……どんどん俺の手で感じて」
「んんうぅう……っ、はぁ……あっ、あぁん……っ」
永峰に導かれて、籐佳はあっという間に射精をさせられた。
「う、あっ……あ、い……っ、ああっ! はぁ……あぁ……っ」
ビクビクと震える体に永峰がキスをして宥め、そしてアナルにローションを付けて指を挿れた。
「はぁっああぁ……、あぁあんっ……」
「大丈夫、力を抜いて、中を少し弄るよ……そういい子だね」
籐佳は言われるがままに体の力を抜き、永峰の手に合わせて息を吐いた。
セックスをどうするのかは知っている。
もちろんこんなことをしなくてもいいのも知っている。
体を繋げないでも心さえ繋がっていればという理屈も理解できる。
けど男女でさえ、レスで別れるくらいには問題のある性欲で、それを永峰に一生我慢をさせてしまうことは籐佳にもできなかった。
「あっ……あっ……あぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっはっ……あっ……」
あんなことがあったからこそ、あの不快な思いをしまったままで時折魘されるなら、永峰と結ばれてその思い出に浸りたい。
その方がきっとずっと心が楽になれると思った。
その通りで、今だって不快なことなど何もないのだ。
「あっ……あっ……っ、あぁあああんっ!」
アナルに指を挿れられて中の良いところを擦り上げられると、籐佳はそれまで感じたことがない快楽がやってきたことに気付いた。
決してあの事件では感じることすらなかった感覚に籐佳はやっとそこから抜け出せそうだった。
「あぁああ!! ぁああっ! ああぁ……っ!」
「ここ気持ちいいんだね、前立腺だから男は誰でも気持ちよくなれる場所だ。だから気持ちよくなっていて」
「あ……ああ……っ、あひ……ひぅは、ぁ……っ」
前立腺を刷り上げられて、籐佳はそのまま絶頂をした。
「あぁ、あひぃ……っ、ひ、ん、ひぁあああ!!」
一気に駆け抜けた快楽に頭が真っ白になっている間に、永峰が言った。
「気持ちよくイケたな、そのまま体の力を抜いていて……」
「はぁあんっ! あふ、ふ、ぅうんっ、ん、んん……っあぁあん!」
とうとう永峰のペニスが中に挿入ってくる。それだけで籐佳は息が止まりそうだった。
息を抜いてと言われてすぐに中を圧迫してくる物が挿入り込んできて、籐佳の中を侵略していく。
この挿入感は過去に味わったはずなのに、どうしても籐佳には初めての感覚だった。
「あぁっ、あっああっ、あんっ!」
奥までドンドン挿入ってくる永峰のペニスを籐佳は息を吐きながら受け入れた。
こうして貰わないときっと心が満足しないと思うほどに、熱い大きなものに籐佳は永峰の優しさも感じた。
「あぁっ、ああっ、あっあっ、ひ、ぃい……っ」
「籐佳、いい子だ。そう息を吐いて……そうもうすぐ根元まで挿入るよ」
「ああ……あ、ぁ……お、おっきぃ……ああぁああっ!」
グンと奥までペニスを突き入れられて、籐佳はそれだけで嬉しさがさらに増した。
「大丈夫かい、籐佳……」
「ひぁあ……っあっ、あっ……あぁっ! だいじょうぶ……ぁ、ん……なかで、達己さんを感じる……うれしい……やっと一つになれた……んぅうう!」
籐佳がそう言って微笑むと永峰はニコリと微笑む。
「籐佳、私の籐佳……可愛い籐佳……愛しているよ」
「うん、僕も、達己さんを愛してる……だから、達己さんの気持ちがいいように、して……」
「分かった、嫌になったらちゃんと言って。止めるからね」
「止めなくていい……だって達己さんにされること、嫌なことなんてないから」
籐佳がそう言って微笑んで、永峰の首に手を回して引き寄せ、そしてキスをした。永峰はそれを受け入れ、そしてそのまま腰を振り始めた。
「あっ、はあっ、はあっ、きもち……っきもちぃ……っ!」
擦り上げられる感覚が気持ちよくなってきて、籐佳は自分でも知っている快楽をきっと追っているのだと知った。
「ふぁあっ! あは、はっあ、ぁ……っ、すご……っ、きもち、ぃ、い……っ!」
もう知らないふりは出来ないほど籐佳はセックスというものを知っていたし、中で感じることが出来ることも知っている。
でもそれはもう知らない人たちから与えられるものではない。ちゃんと好きな人から貰えている快楽だ。
「あっ、あっあっ、ぁん、んっ……ああ、んああ……きもちぃ、ああ……っ」
「籐佳、可愛い……俺も気持ちがいいよ……もっと籐佳をみせて……」
「あぁっ、あっあっあっ……あっあっは……っあっ! はぁあっ! あっ、ん! んっ! んぁっ!」
永峰は籐佳に視線を合わせて、そして獣のように求めてくる。
それが籐佳には嬉しくて心が溶けていく気がした。
やっぱり違う、あんな乱暴なことなんか、何もない暴力でこれは愛がある行為である。その違いを知って籐佳は嬌声を上げた。
「ああっひゃあぁあん! あぁっ、あぁあっ! ひぁ……っぁ、すご……い……っ!」
「籐佳……気持ちがいいよ……」
「あぁん僕も……っきもちぃ……、きもちいいっ……ああっ、きもちぃ……っ」
籐佳の乱れる様子に永峰も心配していたことはもう杞憂に終わったと思った。
籐佳はちゃんと違いを分かって永峰に体も心も預けてくれている。
「ああっ! すご……いっああんっ……あぁっ、きもちいい、ああなんかくるっいくっ……あ──っ!」
籐佳は突き上げられるだけで絶頂をして精液を吐き出した。
それに合わせて永峰も絶頂していて、中で何かが膨らむのを感じた。
どうやらいつの間にか永峰はコンドームをしていたらしく、膨らんだのはそれだった。
抜けていく感覚に籐佳が身をくねらせると、永峰がコンドームを外しているのが見えて、籐佳は思わず言っていた。
「なかに、欲しかったのに……」
何気ない一言だったけれど、それだけで永峰の中の何かに火が付いたらしかった。
「じゃあ、生で感じてくれる? たぶんすっごいヤバイかもしれないけど大丈夫だよね?」
そう言う永峰の言葉に驚いている間に、籐佳の中には生の永峰のペニスが挿入り込んできた。
「ひあぁっ! あっ、あぁんっ……ああっ……あっ、あんっ」
その感覚はコンドームをしている時とは比べものにならないほどに熱く、そして硬い感覚だった。
「籐佳は、ここが好きそうだったな」
「ああーーっ! やぁっ、すっちゃ、らめぇっ、あっ、あっ、あぁあんっ……」
そう言われて前立腺を擦られ、さらには奥までしっかりと突き挿れてから中を混ぜられるように腰を振られてしまった。
「あぁっ、んっ、あ゛ひっあひっあんっあんっあんっ」
とんでもなくそれで感じ、籐佳はこの快楽が簡単には終わらないことを知る。
強引に突き上げてくるくせに、気持ちよくさせてくれるから籐佳はもうセックスに関する暗い記憶は消えて行ってしまった。
「んっんっんん……ふぁっ、はあっ、あっはぁっんあっあぁんっあひっあっらめ、んっああっ」
永峰に精液を中出しをされて、籐佳はそれで絶頂をしてしまったけれど、もちろんそれで永峰の性欲が止まるはずもなかった。
これまでの一年八ヶ月ほどの我慢が数時間で終わるわけもない。
「やっあっあっあっあっあひっあひっやっああぁっ」
「もっとだよ、籐佳、ほらもっと出るよね」
「もっらめっ……ああっあああんっ!」
「それじゃ一緒にいこうか、また中出ししてあげるからね」
「あ゛あ゛ああっ! い゛っ……あっ、ああっあ゛あっあんっやっいくっいくっ……! あっあっひあああっ」
二人は一緒に絶頂をして、性欲を吐き出した。
けれどそれで終わるわけもなく、二人は一晩中盛った後も止まることなく翌日も性欲が収まらなくて散々二人で盛った。
そのセックスもやっと精根尽きたように終わったのが、一日経ってからで、さすがに倉知や志方に飽きれられたほどである。
けれど本人たちはそれでも平気で、籐佳が永峰の仕事の秘書になってからも二人はそれなりにオフィスラブを楽しんでいる。
長く続いた事件の影すらも籐佳の中で消化を仕切るのに一年八ヶ月もかかったけれど、籐佳はその日からあの悪夢を見ることもなく、前を向き永峰の隣で新たな一歩を踏み出したのだった。
それは穏やかな日常が続く優しい世界の始まりだった。
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