Goodbye amnesia
4
洸は小出と会った後から、夢を見るようになった。
それは洸の過去の記憶の一部なのか、見覚えはないが妙にリアルなものだった。
その夢には和隆も出てくるのだが、現実の和隆よりは冷たい印象だ。洸が構って欲しくて縋るも、忙しいのだといい洸を避ける。そうして近寄ってくるのは、もう一人の兄だった男、古瀬浩一郎だ。
長髪の長い髪、前髪も同じくらいに長く、少しウェーブした髪は金髪である。
その人物と嫌みの応酬をした後、洸が部屋に戻るのだが、暫くして浩一郎の部屋に出向き、何か言っているが、浩一郎が笑っている。
そのまま暫くしてブラックアウトする。
そして誰かがはぁはぁと喘ぐ声がして、一帯に響いてくると洸は目が覚める。
目覚めた瞬間、酷く心が引き裂かれていく感覚に襲われるのだ。
「は……はぁ……あっ、はっ」
全身に汗を掻いて、どうしようもなく不安になる。
過去の自分のやってきたことが、襲ってくるかのような感覚がして、洸は過去を知りたくなくなってくる。
どうせ碌でもないに決まっている。知らなくていいと誰もが言う。
そんな過去がだんだんと自分の中に戻ってくるのだ。
洸は記憶を失って初めて怖いと思った。
どう考えても真面に生きてなかった自分を知るのは、今の高校生気分の自分には、こうなるのだと未来を見せられている気がしてならないのだ。
「洸……どうした? 酷く汗を掻いているようだが……」
洸を起こしに来た和隆が洸の側にいつの間にかやってきていて、洸の頬に流れる汗を拭いてくれている。
「……なんか、夢を見たんだけど……忘れちゃって……」
洸は覚えている内容は言わない方がいいと判断した。
まだ会ってもいないもう一人の元兄である、浩一郎が出てきて、それでああなったことは言わない方がいいに決まっている。これが本当の記憶であるかどうかも分からないし、写真を見た結果、小出に聞いた話と混ざっておかしな内容になっているのかもしれないからだ。
「まさか、何か思い出した?」
和隆がそう核心を突いてくる。
「え、何……? 何にも思い出してないけど……」
心の中が読めるのかと疑いたくもなるほど、ストレートに聞かれて、洸は焦りながらもそう何とか返した。
「そう……ならいんだけど。無理をすることもないんだよ。思い出して苦しい思いをするなら、思い出さない方がいい場合もあるんだからね」
「う、うん……それより、お腹空いた」
和隆がそう言って、やはり記憶を思い出してほしくなさそうにしたのを察した洸が、誤魔化すためにそう言ったのだが、その時は演技でもなく、お腹が本当に鳴った。
「……わっ」
「はは、お腹が空くなら、元気な証拠だな。さあ、お風呂入って汗を流しておいで。ご飯はいつものように用意して置いてあるよ」
洸がベッドから起き出すと、和隆は仕事に行く用意をしながら、風呂まで付いてきて、キスを強請った。
いつも通りにキスをして、送り出そうとすると、和隆が洸の耳元で言った。
「私に隠し事をしないでくれ……洸」
「え……?」
「隠し事はなしだよ、洸」
和隆は二度同じことを言った。
驚く洸に和隆は真剣だった。
隠し事をまさにしている洸は、少し困ったが、すぐに笑顔になって言った。
「やだなぁ。全部分かってるくせにー。隠し事しても全部和隆には分かっちゃうじゃん」
洸がそう笑いながら軽くそう返すと、和隆はふっと笑って洸の頬にキスをした。
「何かあったら、すぐに電話をしてきなさい」
「うん、分かった」
そう返事をすると、和隆は仕事に出かけていった。
それを風呂場で見送った洸は、ふっ息を吐いた。
隠し事をすると顔に出るのか、態度に出ているのか。不審な行動でもしているのか。そのどれかは分からないが、和隆に分かる形で自分が何かしているのだろうか。
考えても分からないが、夢のことは関係していると思われる。
洸はとにかく風呂に入って汗を流した後、用意された着替えをする。
その時に肩や腹、足の左足には大きな傷が一直線に付いている。風呂に入るとそれらがピンクに浮かび上がる。
手術を何度かして皮膚の移植もしたと言っていたので、大きな傷はほぼ消されているらしいが、それでも移植の痕が暖まると浮き上がるのだ。
大きな傷は、事故の大きさを物語っていて、洸の転落のことはニュースになったほどだ。
過去の新聞を見ると、二月十四日が事故の日だった。
喧嘩を玄関先でしていて、そのまま部屋の中で揉め、ベランダまで出た時にもつれて洸だけ落ちたのだと書いてあった。警察は事故として書類を送り、事件にはならなかったので、その後の続報はない。
洸は、その日は和隆のマンションへ行ってみようとしていた。
記憶は全くないが、場所は自分の日記を捲ってみたら書いてあった。その辺りまで日記を読んでみたが、一緒に住んでいたことはないが、荘吉の屋敷の方に暫く和隆が住んでいて、洸もそこに半分くらい住んでいたようだ。
その後、大学院に進んだ和隆が家を出て、マンション暮らしを始めたので、洸もマンションに戻り、和隆のマンションに何度も泊まりがけで尋ねていた。
それが大学入学をした辺りのことで、洸も段々と忙しくなる和隆に構って貰えない不満が増えていた。
まるで呪詛のようのに和隆を好きな気持ちを綴り、構ってくれないことを恨んでいる様子が分かる。そうした黒い感情は今の洸にはないので、どうしてそこまで思い詰めているのかが分からなかった。
和隆はここまで洸に執着されて、洸が自分を好いていると気付いてなかったのだろうか? そうした疑問が浮かんでくる。
弟として可愛がる範囲は既に超えているくらいに、洸は和隆に執着しており、休みごとに和隆の家に泊まっている。
けれど当時の洸が、ただの弟と思われていることを不満に思っている記載をしている以上、その時点でも二人は恋人ではなかったのは分かる。
ではいつ二人は恋人同士になったのだろうか?
その期間もまだ判明していないのは、和隆に尋ねることができていないからだ。
あと日記を読み進めていないのもある。あまりに酷い内容に、洸は誰にも見つからないようにそれを読み進めているため、長い日記の一週間分くらいを一日かけて読む羽目になっていたからだ。
やっと高校を卒業して大学になったところであるが、夢で見た浩一郎との繋がりはまだ出てきていない。
そもそも記載の中に浩一郎についてのことは、最初の家族の紹介部分と家族会のような食事の時にしか出てきていない。浩一郎は和隆が家を出た時はまだ荘吉の家に住んでいるようで、実家に戻ると名前が出てくる程度だった。
「そもそもなんで……あんな夢を……」
洸は呟いてから、服を着た。
寒い日は四月に入っても続いており、まだ春休み中であるためか学生くらいの若い人が街に溢れている。
洸は事前に調べた和隆の昔のマンションまで電車で向かった。
東京の端、神奈川の方が違いところにある大学院に通っていたので、かなり遠くなったが、そこにマンションまでタクシーで向かった。
その道中、洸は妙な懐かしさに包まれていた。
「来たことがある……ここ」
何度も何度もこの道を通ったという記憶が薄ら戻ってくる。
その道を進むと見えるマンションに洸は、はっきりと見覚えがあることに気付く。
タクシーから降りてマンションの前に立つと、洸はマンションに重なって別の映像が見えてきた。
「いった……い」
急に頭痛が起きて、洸はマンションの入り口の端によって、そこに座って頭痛に耐えながらも、思い出してくる記憶をしっかりと見た。
叫んでいる自分と、怒鳴り返す和隆。言い争っている二人の間には、一人の女性。
洸は女性を酷く恨んでいて、女性が悲鳴を上げる。玄関先で、洸は怒鳴っているが、和隆が洸を部屋の中に入れる。そして女性も入ってくる。
女性が叫んでいて洸も同じように叫んでいるが、和隆が女性の味方をした。
瞬間、洸は絶望的な気分に陥り、ベランダに走った。
そこで場面がブラックアウトをする。
「大丈夫かい?」
そう言われて、洸は現実に戻ってくる。
誰かがいつの間にか側にいて、倒れている洸を解放してくれていた。
顔を上げて見ると、その人物は老人だ。瞬時に洸は思い出した。
「……管理人さん……」
洸がそう言うと、管理人がハッとした。
「洸くんかい? ああ、洸くんだ……ああ、よかった。無事だったんだね。いや、今は大丈夫じゃないね……どうしたんだい?」
管理人は洸に見覚えがあり、はっきりと洸を認識した。
洸はそのままゆっくりと側にあった花壇の石に座った。
「すみません……ちょっと記憶が混乱していて……その」
洸がそう言うと管理人は察したようで頷いた。
「あの事故だからね。記憶がその時だけ欠落していても不思議ではないよ。少し休んでいきなさい。ここに来たってことは、思い出したいからだろうし……私でよければ力になるよ」
管理人はそう言うと、管理室に案内してくれた。
洸はやっとのことで立ち上がり、管理人の好意に甘えることにした。
管理人は白井祐(しらい たくす)という五十七歳の老人だ。管理人と言っても大家でもあり、十年前にこの場所に十階建てのマンションを建てた。大きなマンションだが、学生中心のマンションで、大きな部屋ではない。
そんな場所に洸はよく来ていたと言う。
「洸くんはね。お兄さんの寺嶋さんのことが本当に好きだったんだね」
管理人が洸にお茶を出してから、そう言い出した。
「毎週来ては楽しそうに食事にでて、日曜の夜には帰るんだ。そんな日々が二年近く続いていたね。寺嶋さんは可愛い弟だって可愛がってたんだけど、私には到底、それだけではないと思っていたよ」
そう管理人は記憶を頼りにして、管理日記を開いた。
あの事故の時の記録を警察に話した後に書き足したのだという。
「その日は、二月十四日。世の中はバレンタインデー。チョコを貰ってくる人も多かった。洸君はその日は機嫌が悪そうだったよ。青い顔をしてやってきて、私にも挨拶はしなかった。いつもは笑顔で挨拶をしてくれるのに、その日は思い詰めている顔をしていた。何かあったのかと不安になって、跡を付けると、部屋まで寺嶋さんと洸君が言い争いを始めていた」
洸は和隆と一緒にいた女性に「泥棒猫」と叫び突き飛ばした。
すると和隆が洸の頬を殴り、女性を助ける。女性は困った顔をしてから言った。
「私は……寺嶋さんの婚約者なのよ」
その女性の言葉に洸が激高する。
「ふざけんな! 絶対に認めない! 認めないからな! この売女! 殺してやる!」
洸の激高ぶりは女性を震え上がらせるもので、このまま婚約を続行すれば洸に殺されることが分かったのだろう。
あまりの洸の激高に、管理人が手助けをしようと出て行くと、和隆が洸の腕を掴んで部屋に入っていく。しかし怒鳴り声が響き、喧嘩は収まりそうもない。
「洸、いい加減にしてくれ、俺は結婚をするんだっ! お前の相手はしない!」
「ふざけてるのは和隆でしょ! 僕は絶対に認めないっ! あの女殺してやるから! 僕から和隆を奪い取るなんて絶対にさせない!」
洸の和隆への執着は酷かったが、管理人は和隆に婚約者がいる事実をこの時初めて知ったという。
女性は、ふらっと立ち上がって部屋に入っていくと、玄関先で叫んでいた洸がリビングまで走っていった。
管理人は心配になって、そのまま一緒に玄関まで入っていった。
洸の取り乱しようは今までの洸からは想像できないほどの混乱で、どうにかしないと刃物を持ち出しての事件になりそうだった。
「和隆まで、僕を……僕をいらないって言うのっ! 僕はもう汚れてるから……僕なんていらないんだっ!」
洸はそう叫んだが、和隆が言った。
「そういう問題じゃない。家族である以上、お前は弟でしかないんだ」
和隆がそう言い切ると、洸はそれで更に絶望したように言った。
「じゃあ……生きてる意味なんて……ないよ……」
洸はそう言うと、静かに立っていた。
和隆はやっと洸が落ち着いたと思ったのか、静かに言った。
「俺は結婚して家庭を持つ。お前もそうしろ。それがそれぞれのためだ。私にはお前を受け止める自信はないし、私には無理だ」
和隆の言葉に洸は言葉を返さなかった。
和隆はそう言った後、女性が管理人に支えられて部屋にいて、心配そうに見つめているのに気付いて、歩いてきた。
「すみません、もう騒ぎは収まりました。君も弟が悪かった……後で謝罪させるから、その今日は帰ってくれるか?」
そう女性に話しかけ、女性が頷いて言った。
「弟さんをとにかく落ち着かせて…………ひっ!」
女性がそう言い換えて悲鳴を上げた。
何がと思って管理人が見ると、洸がゆっくりとベランダに移動していた。
「……洸っ!」
気付いた和隆が走って追いかけていったが、洸は次の瞬間、ベランダの柵を乗り越えて向こう側に消えた。
その瞬間、木々に何かが落ちる音が響き、ドサリと何かが地面に叩きつけられる音がした。
「きゃああぁ――――――っ!」
女性が悲鳴を上げて倒れた。管理人は女性を支えてその場に寝かせてから、ベランダに走った。
ベランダの柵に掴まった和隆が信じられないものを見た顔で、地面を凝視している。
管理人が下を見ると、地面に人が倒れているのが見えた。
管理人はすぐにベランダから一階までエレベーターを使って下り、携帯電話を握りしめて救急車を呼んだ。
近くにある消防からすぐに救急車が発進したんか、五分後には事故現場に辿り着いた。
そうしていると和隆が我に返ったように一階まで下りてきて、洸が乗った救急車に乗り込んだ。
呆然としている和隆の婚約者という女性は警察に事情を聞かれても、震えて答えられず、管理人も混乱していて答えられなかった。
やがて警察が現場検証をした結果、ベランダの柵が壊れていることに気付いた。その柵は昨夜の暴風の時に壊れたもので、管理人が気付いて修理の依頼をしていたところだった。
明らかに事故ではなく、洸の自殺未遂だったのだが、管理人はそれは伏せた方がいいのではないかと思った。
その日は、事故ではないかという話で警察は引き上げ、後日和隆が喧嘩をしていて、壊れていた柵に洸が寄りかかったので落ちたと証言をしたと管理人は聞いた。
あの柵は、施工工事時の腐敗が酷かったらしく、元々欠陥していたことが警察の調べで分かり、管理責任の問題を飛び越えたものになった。
しかし、早急に工事をする予定だったこと。洸がそこに落ちるとは予想できなかったことから、事故として扱われることになった。
女性からは証言はほぼ取れず、ベランダにいる洸しか見ていないので事故の瞬間を見た訳ではないと証言しており、管理人も同じように瞬間は見ていないと答えた。
その後、管理人は和隆から謝罪を受け、和隆はマンションを引き払った。
その時に洸が寝たきりになったことや、目覚めるかどうか分からないことも聞いていたという。だからこの事件はこれ以上大きくしてはいけないと管理人はそのことを聞かれても分からないと答え、やがて住人入れ替わりと共に事件のことは忘れ去られたという。
二年もあれば、その当時いた人も引っ越している上に、管理人も近くの別の家に住んでいるが、ここの管理は別の人に任せているので、今日、洸が管理人に会えたのはラッキーなことだったらしい。
「僕は、自分で飛び降りたんですね……やっと、納得できました。ずっと不思議だったことがあって、どうしても今と繋がらなくて、おかしいと思っていたんです」
洸はそう言い、管理人が見せてくれた日誌と管理記録と話に感謝した。
「……正直、こんなことは忘れていてもよかったことかもしれないんだが、洸君がここまできて知ろうとしているなら、話した方がいいと思ったんだ。きっと洸君は思い出してしまうだろうから」
管理人がそう言った。
管理人が知っているのは事件のあらましだけで、洸がここに来る前に洸に何が起こっていたのかは分からないという。ただ青い顔をしていて機嫌が悪かったということ。その事実のみだ。
「あの、ここに僕がきたことを和隆には言わないでください……多分知られたくなくて隠していたと思うので……」
洸がそう言うと、管理人は分かったと言った。
こんな事実を洸が思い出したと知ったら、和隆も混乱するだろうと管理人は思ったのだろう。
洸は管理人にお礼をして管理室を後にした。
タクシーは呼んで貰ったので、それで都内まで戻り、電車に乗った。
ズキズキとしていた頭痛は、洸の記憶を呼び覚まし、あの夜の出来事がリアルに感じられた。しかし、それが自分の記憶だという認識はそこまではなく、洸は冷静にその記憶と向き合った。
まだガラスの向こうにある自分の過去を見ているだけのような、そんな感覚が強く、ただ心は悲しいと感じていた。
事故が起こるまで、洸と和隆は恋人ではなかった。
事故後に和隆がそう言い出しただけだった。
その事実に、優しい和隆が、洸のために人生を犠牲にしたことがありありと分かり、洸にとってはその衝撃の方が強かった。
なりたかったであろう研究者の道を、洸の我が儘な自殺未遂という事件で台無しにした。あんなに優しい和隆が、洸を置いて誰かと結婚していくなんて、きっとできなかったのだろう。
和隆に女性の影が見えないままであるから、あの女性とは別れたのだろう。
洸は本当に悪いことをしたと思った。
その反省をした洸だったが、乗り換えの駅の近くで、知らない人に話しかけられた。
「お前、あの時のヤツじゃん……元気そうじゃん」
そう言って男は洸の席の隣に座り、こっそりと洸に妙な動画を見せてきた。
「ほら、これ、お前。この時はお互い楽しかったな」
そう男が言う。しかし洸の耳にはその言葉は入っていなかった。
動画は、洸が男数人に泣きながら犯されている動画だ。
色んな男が洸の上に乗りかかり、洸を犯している。洸は精液まみれに形ながら、男達にどんどん犯されて、悲鳴を上げているようだった。
さすがに公共で音声を流すことはしなかった男だったが、映像だけでも洸が望んだ関係ではないことが読み取れた。
そこで洸の記憶の扉が一気に開いた。
「……ひっぃ……あああっあああ゛っ!」
それまで自分の記憶と思わなかった記憶が、洸の頭の中に一気に溢れ、洸が大きく悲鳴を上げてその場に倒れた。
思い出させる記憶は、洸が和隆を思うあまりに道を外した事実で、洸が様々な人と寝ていた記憶。その結果、妙な輩に罠に填められてレイプされた事実だ。
それは二月十二日のことで、洸は混乱したまま十四日の昼に解放された。
呆然としながらも自宅に辿り着き、躰を綺麗にしても収まらないレイプという事実に、洸は小出に裏切られた事実も思い出した。
小出が借金に困って洸を売ったのだ。洸を罠に填め、洸はレイプ動画を撮られ、写真も撮られた。それを脅しに使われて追い詰められた洸は、和隆に助けを求めにいったが、その時に和隆の結婚を知ることになった。
一気に絶望が襲ってくる。
もう誰も助けてくれないのだ。自業自得とはいえ、味方だと思っていた人にすら裏切られた。
「もう……生きていても意味がない」
自分がそう絶望した理由がよく分かる。泣きたいほどの記憶が心を壊そうとしてくる。洸はこのまま、また忘れてしまいたい衝動に駆られるが、そこで和隆の言葉を思い出す。
「洸とは恋人同士だよ」
そう言った和隆の優しさ。それどころか和隆の覚悟の証。
和隆はそれらを知った上で、洸を恋人にしてくれたのだ。
「……助けて……和隆……」
洸がそう小さな声で呼ぶと、誰かが洸を抱え上げた。
「病院に運びますので、退いてください」
その声は和隆だった。
「かず、たか……?」
どうしてここにいるのだと、洸が目を見開いて見ると、和隆が悲しそうな顔をしていた。
「思い出すことはないと言ったし、隠し事をしないでくれとも言ったのに」
和隆がそう言った時、洸はやっと和隆が洸の行動を全て見張っていた事実を知った。
そして洸はそのまま意識を失った。
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