Eureka

7

 伊計久嗣(いけい ひさつぐ)、学園の音楽教師が起こした学生強姦未遂という事件は、学生内に広まっていたが、実のところ、すぐに懲戒免職などということにはなっていなかった。
 伊計は当面の間、謹慎を言い渡されてはいたが、学園長は調査をすると言い、学生からの聞き取りもしている。
 しかしその学生の証言が二転三転しているのだという。
 混乱からの証言の不確かさであろうと言われていたが、詳しいことを聞こうとすると混乱した振りをして誤魔化している節があると学園長が怪しんでいるのだという。
「まずな、その学生が伊計と関係してるっていう証拠がないらしい」
「ていうと?」
 濱田が仕入れてきた情報によると、伊計に襲われたという学生が判明した。
 南光司というのが学生の名前だが、その人物が伊計に呼び出されたという話がそもそも誰も知らないことだったらしい。もし伊計が南に直接言うにしても、学生のクラスに直接尋ねるか、何処かで接触をしているはずなのだが、そこに問題があった。
 まず、伊計はその日午前中は別の学園の吹奏楽部の楽器調整のことで学園にいなかった。午後三時に戻ってきてからは、準備室でその時の書類を仕上げていた。
 つまり大体のアリバイがはっきりしていた。
 周りの学生は伊計が南を呼び出したり、訪ねてきたのを見たことがないといい、そもそも音楽を専攻していない南が伊計と接触を持っていたら目立っていたという。
 その目立った行動を目にしていないことから、伊計が言うように、見覚えのない学生で、顔すらあの時まで見たことがなかったという証言の方が話が通るのだ。
「伊計ってああいうヤツだから、目立つんだよ。特別棟から出てこないようなヤツだったし、うろついていたら何してんだアイツってなるわけ。その南ってやつの教室で、伊計を見かけたことはなかったし、呼び出したとしてもまず南自身が、何で呼ばれたんだって、周りと顔を見合わせて驚くようなことだしな。で、その南の友達の話だと、最近、南が放課後一人で帰っていて、付き合いはないらしい。ただ、そのことを聞くと図書室に通って勉強をしていたって言ってるらしい」
「その図書室で南がよく目撃されてたってこと?」
「そう、毎日のように来ていて、時間を潰してたらしい。図書室は職員棟の最上階の四階が図書室なんだ。特別棟に行ってないってことになるらしい」
「じゃあ、なんで嘘を?」
 南が何かの目的で嘘を吐いていることになるわけだが、伊計を填めるために嘘を吐くとするなら、南が関わりがあったのは伊計ではなくて、加藤か上沢(かみざわ)のどちらかとである。
「そう思って聞いてみたら、上沢の授業の手伝いをさせられることが多かったらしい。あの視聴覚室も前日に上沢が授業で使ってた。その授業が最終だったらしくて、南は手伝いに残ったって友達が証言してる」
「じゃあ……その時に何かあって、南は脅されてる?」
 真希がそう言うと、濱田も頷いた。
「その可能性が高い。今回は加藤の入れ知恵で南が嘘を証言して、何か写真とかビデオとか、そういうものを取り返そうとしていると思ったら話が通る気がする」
 濱田がこっちの話の方がしっくり来ると言う。その想像をなんとなく南の友人に話したところ、その友達もその方が可能性が高いと言ったという。
「それで、南を説得してくれるらしい。だって、脅されているにしろ、何にしろ、嘘をついて後々困るのは南で、脅しの材料だって返してくれるわけもないしな」
 もし事件が解決した後に脅しの材料を返して貰ったら、南なら思い切ってあれは違ったと訂正するかもしれない。そうなる可能性がある以上、脅しの材料は返して貰えないだろう。
「その辺り、協力して貰えるかどうか分からないけど」
 南の証言が怪しい段階で、学園長が怪しんでいるのなら、南も押し通すのは難しいかもしれない。ここは学園長に泣きついて、本当のことを言った方がいいと判断するかもしれない。
「頭ごなしに信用されないわけじゃないんだね……」
「どういうわけか、学園長からの信頼はあるらしい。どういう信頼なのかは分からないけど」
 伊計のことを学園長が信頼している部分が大きく、その部分だけで今回の事件の流れが止まっているところらしい。
 そしてそれよりも加藤に対しての不信感の方が高くあるようで、加藤の件もうやむやにはなってはいないという。
「学園長が英語教師と一緒に目撃することになった時、どうも上沢がいなかったらしい。一緒に来るようにと言い渡したのに、いないことに学園長が不信感を持ってたところに上沢が手足のように使っていた学生が伊計に乱暴されたって言い出して飛び込んできた」
 そう濱田が言うと、真希もなるほどと頷く。
「怪しんでくれって言ってるようなもんだね。学園長はその辺も関係していると思ってるわけか……根が深いんだね。学園長と加藤のいざこざって」
 真希がそう言うと、濱田が首を縦に振る。
「想像以上。ここらで伊計を切って、加藤も切る方向で舵を取るかも」
「じゃあ、今回のことがどうであっても、伊計の懲戒免職が免れなくなっても、加藤も同等に懲戒免職はないにしても来年からの起用がなくなるってこと?」
 真希はまさかと思ってそう言うと、濱田はその可能性の方が高いと言う。
 伊計が首の皮一枚で繋がっているのは、今までの伊計の功績の方が高いからだ。吹奏楽部を他校との合同にして、全国大会に出られるように準備して裏方に回っているのが伊計である。結果は十分に出ていたし、信頼もある。
 部活動の主導は向こうの学園に任せているが、裏方の方が面倒らしい。
 その反対に加藤は化学教師であるが、自身の怪しげな実験ばかりに費やしている寄付金の方も問題になっている。実験結果が得られていない、論文すらない。何をやっていると聞いても要領を得ない。そんな実体の知れない教師の活動に金をつぎ込む、上沢の親とくれば碌でもないことである。
 理事会からも指摘が入り、寄付金は教師個人そのものではなく、学園全体に使うのが好ましいと会議で決まったばかりだ。
 さらには上沢から資金を貰っていた理事が一人解任になった。
 寄付金を私的利用したということが問題化してのことで、五人いる理事の一人から指摘が入り、調査の結果、私的利用と判断された。本来なら犯罪であるが、全額返済して退任したので、事件化はしなかった。
 上沢の親が資金援助していた理事が失脚したことで、上沢の地位も悪くなり、それにつけ込んでいた加藤の悪行も学園長どころか理事会まで届くようになった。
「学園長は、伊計が学生に手を出していることを知ってはいたけど、黙認していた。問題になって上がってこないから。でも加藤の方は、後ろ盾がなくなったとたん、学生側から声が上がってきたんじゃないかな? クスリもやってるようだし……もしかしたらクスリの方が事件性が大きいのかもしれない」
「その南っていう学生が、もしクスリを仕込まれた後だったら、混乱していたって言うのもそのせい?」
「かもしれないな。クスリが抜けた後遺症で、錯乱している可能性もある」
「学園長が怪しんだのは、そこだったのかな」
 明らかに尋常ではない学生の様子に、学園長が伊計よりも加藤を怪しんだのは、クスリの関係かもしれないと疑っているからかもしれない。
「あとは情報を仕入れてこないとな……また状況も変わっているだろうし」
 濱田はそう言うと、お昼休みになると南のクラスに赴いて、南と会ってきたという友人を連れてきた。
 花崎(はなざき)という学生で、南とは幼なじみで親友だと言う。
「やっぱり、南、クスリを使われてたらしい。病院でその兆候が出た。けど伊計の持ち物を探した英語教師が、そういうものを伊計が隠した様子もなかったって。そもそも伊計はそういうものを作ったりできないしな。買うと言っても、その買ってきたものを南が飲まされたのなら、そう最初から言っているはずだけど、いきなり襲われたとしか言ってないから矛盾が増した」
 南という学生は本当は違うんじゃないかと言われた時に顔が蒼白したという。
「南は、多分脅されて、こう言えって言わされているんだと思う。でも南のお母さんも南が違うことを言っていると分かっているから、本当のことを言っていいんだって説得している。でも南はその相手を恐れてるのか、なかなか口を割らない。けど、伊計のせいだって最初は言っていたけど、もう言ってない。通用しない嘘だって分かってるからだと思うけど」
 花崎がそう言う。相当参っているようであったが、濱田が加藤か上沢の名前を出して反応を見ることを提案していたことで、事態が一変した。
「濱田さんに言われて、上沢と加藤の名前を出したら、あいつ大声で泣き出して、ごめんなさいって謝って……それから混乱したから俺、追い出されたんだけど。南のお母さんは、その二人が犯人だって確信したって学園長に話すってさ。だから伊計のことは、多分、今日中には疑いは晴れると思うよ」
 花崎はそう言った。
 濱田が言ってくれた一言で、事態が動いたわけだが、花崎は真希たちが伊計を救おうとしているのが不思議だったらしい。
「……噂は本当ってことなのか……だから?」
 伊計が学生に手を出していることは本当で、その相手が濱田か真希のどちらかで、無罪を信じて行動していたと思ったようだ。
「まあ、そんな感じ。ちなみに伊計が前に手を出していたのは、原先輩だからな」
 そう濱田が言うと、花崎はああっと納得したように言った。
「そういう人と繋がりがあるなら、人は襲わないよな。大体、おかしいよな。この噂があっという間に広がったのも、わざと広めた人がいるようだったし……。じゃあ、伊計と加藤たちは諍いあってるってことか。加藤が伊計を填めるってことは、伊計のことが邪魔になったってことだろうから」
 話の飲み込みが早い花崎がそう言うので、濱田は頷いた。
「それに南を利用したなら、俺、絶対に許せないんだけど」
 花崎が本気で怒っているので、濱田が言う。
「決定的な証拠があれば、加藤は懲戒を食らうよ。未成年淫行どころか強姦も付いて、ついでに教員免許も剥奪の違法薬物製造で逮捕もんだ。だからその証拠探しをしてる」
「そうか、俺も他の人に聞いてみる。絶対加藤と上沢は許さないからな」
 花崎はそう宣言をすると、食堂を後にした。
 その熱意に真希は圧倒された。
「こっちの状況はあまり話さないで、向こうの状況だけ聞き出したのは何か気が引ける」
 真希がそう言うと、濱田が言った。
「他人の色恋沙汰のことを知りたがるのは噂を広げたいやつだけだ。ああやって、自分のことで手がいっぱいだと、こっちの状況なんてそこまで知りたいもんでもないし、知ったところで何処かでうっかり口にしたら噂の元凶が自分になるから、知らない方がうっかりもなくていいって場合もある」
 濱田の言葉に真希は、そういうこともあるのかと納得した。
 世の中には知らなくていいこともある。そういうことなのだろう。
「とにかく、花崎の言う通りに話が進めば、伊計も明日には無罪放免になるだろうな」
 どうにか伊計の無罪が証明されることにはなったが、真希は少し不安だった。
 状況的に不利になった加藤たちが、このまま黙って学園を去ってくれるのか、それが分からないからだ。
 その時、食堂にやってきた国語教師が真希に話しかけてきた。
「手島、お前、ノートの提出し忘れてるだろ?」
 そう言われて真希は思いだした。
「あ、すみません、持ってきてはいたんですが……忘れてました」
「だよな。早くもってこいよ。お前だけテスト範囲が違うことになってしまうからな」
 国語教師がそう言って去っていく。
「なんだ?」
 濱田が不思議そうに聞くと、真希は昼食を食べ終えてから言った。
「ああ、前の学校と教科書が同じなんだけど、こっちの学園の方が進んでて、俺だけ遅れてる形なんだ。で、その補習分をやらなきゃいけないんだけど、先生もどこまでやっているかが分からないと補習もできないからノートもってこいって話なんだ」
「へえ、試験が近いから、その補習も別口でやらなきゃならないんだな」
「他の教科は大体同じだからいいんだけど、国語だけな古文が進んでなかったし」
「大変だな。補習って残ってやるのか?」
「ううん、今のところ自主学習で進める予定。要はノートの足りない部分を先生がコピーしてくれるってだけなんだけどね」
 真希はそう答えて、食器を片付けた。濱田も同じようにして食器を片付け、食堂を後にする。
「とにかく、明日になるまでだな」
「うん、それまでは、伊計とも連絡は取れないかもね」
 真希がそう言う。
 実際には話してどうしてこうなったのか聞きたかったが、伊計の方から消えてしまったため、携帯も出ては貰えなかった。
 自宅に入るのかもしれないが、会いに行っても反応はしてくれそうもない。
 学園内を一瞬にして騒動になった事件であるが、その日の夕方には誤解であったという噂が流れてきた。花崎が流した噂か、それとも別ルートか分からないが、伊計が無罪である可能性の高さに、学園は落ち着きを取り戻し始めた。
 しかし、伊計の日頃の噂から生じた結果であるとして誰も同情まではしていなかったが、事態がそこまで軽いわけでもないことも察していた。伊計が犯人ではないにしろ、そうした行動に駆り立てた何かがあるわけで、その問題を解決しないことには誰も納得はしないであろう。
 

 真希は国語の教師に言われた通りにノートを持って職員室に行った。
 しかし国語教師が準備室にいると言われ、濱田と共に準備室に向かった。
 国語の準備室は特別棟にある。ただし階層は違って二階だ。授業に使う大きなスクリーン状の分かりやすい地図のようなモノや、フリップのようなものまである。各学年のモノが揃っているので、荷物も多いし、教師も三学年いる。
 今日は三人は揃っておらず、真希にノート提出を命じた教師だけが準備室にいた。
「ああ、悪かったね。ん? 濱田は付き添いか?」
 準備室に入ると、教師が濱田が付き添っているのに気付いて、少しだけ驚いている。
「あー、一緒に帰るんで」
「悪いな。ちょっとだけ手島に説明するから、濱田は廊下で待っててくれ」
 国語教師がそう言い、濱田が廊下に出る。
 真希は少し心配になって、濱田に駆け寄って声をかけた。
「一人で大丈夫?」
「あー、部屋出る時にメールくれ、一階の入り口にいるから」
 さすがに廊下でも特別棟には居辛い。一人が怖い濱田が、特別棟の入り口まで移動すると言った。幸い階段を下りたら入り口で、その外は運動部が外周マラソンの走り込みをしている。人通りは普段の時間よりも放課後の部活時間の方が多いので、濱田はそこまで移動すると言うのだ。
「うん、そうするね」
 濱田が階段を下りていくのを見送ってからドアを閉めて、真希は教師と向き合う。
「まあ、あんな事件があったところにいたくないのは分かるが……手島の成績とかいろいろ話したかったから、悪かったね」
 国語教師がそう言い、真希に椅子に座るように言った。
 そのままノートを見ながら教科書を出し、授業の進み具合のことを話し合った。二十分ほどかかって、補習分の進め方を決めた。
「じゃあ、家でこの辺をノートに写しながら、このプリントを提出してくれ。二、三回で追いつくから、試験までには今のところまで追いつくぞ」
「はい、ありがとうございました」
 真希はそう言いながら、貰ったノートのコピーと自分のノート、プリントなどをバッグに仕舞い込んだ。
「ちょっと時間がかかったな、悪かった。濱田にも悪かったって言っておいてくれ」
「分かりました」
 そう言いながら携帯で濱田に連絡を付けるも、アプリからの返答はなかった。
「あれ?」
 そう思って何度か鳴らしてみるが、返事がない。
「大丈夫か? 一階まで送ろう」
 国語教師が顔色の悪い真希に向かってそう言った。
「あ、お願いします」
 一階まで降りるだけでも特別棟が怖いのだと認識されて、真希は国語教師に案内されて一階まで降りた。入り口のところまで来ると、濱田の姿は見当たらない。
「トイレでも行ってるんじゃないか」
 国語教師がそう言う。
 真希は焦って、何度か携帯を操作すると、返事が返ってきた。
 ポンと鳴った返事の内容は、真希の顔を蒼白にする。
「どうだ。トイレだっただろ?」
 国語教師がそう言うので、真希はそれに頷いた。
「あ、はい。手が、離せなかったって……すみません、お騒がせしました……あの……ここに荷物置いて、トイレの方見てきていいですか? 一人で探せますので」
 真希が緊張した顔でそう言うと、国語教師はおかしいなという顔をしたが、頷いた。
「まあ、気をつけて帰れよ、手島」
 国語教師はそう言うと、二階に上がっていった。
 真希は国語教師が部屋に戻ったのを確認した後、携帯を握り締めた。
「いかなきゃ……」
 真希はそう呟いてから、自分の携帯を入り口の下駄箱の中に入れてから階段を上った。


「申し訳ありませんでした」
 泣きながらそう頭を下げたのは、南光司だった。
 学園長との話し合いの後、入院していた南だったが、一日の入院で退院した。しかし、自分がしてしまったことを詫びたいと学園を訪れ、伊計の前で謝罪をした。
「伊計先生にも本当に、迷惑をかけました……俺が……何か、されて……記憶が曖昧だったんですけど、そう言えと言われて……そう言ってました。脅されていて怖かったんです……

 南はそう言い、友人の花崎と母親に付き添われて、泣きながら謝っている。
 学園長も南は結局は被害者なのだから、できれば許してほしいと伊計に言う。
「それで、南は誰に脅されていたんですか? 私はそれを聞く権利がありますよね?」
 伊計は南の謝罪を受け入れたが、そうするように仕向けてきた黒幕のことは知る必要があった。
「それが……上沢先生と加藤先生だと」
 学園長がそう言った。
「やはり……私と少し険悪になっていましたから、そうだと思いました」
 伊計はやっとそれで納得した。
 南が脅されて嘘を吐かされていたと分かった以上、加藤を追い詰めるのに十分な証拠が手に入ったことになる。上沢もセットになっているとなると、双方を学園から追い出すことが可能になった。
「加藤先生も上沢先生も、懲戒処分となる予定です。私はそう理事会に申し出ました。学生にクスリを使うなんて……何て卑劣な」
 学園長は怒りに震えている。
 学生が自ら望んでそうしたのなら、自業自得というのが学園長の考えであるが、こうなると話は違ってくる。意識を混濁させて手を出し、その行為を録画し、それを材料に脅してくるのだ。今回は伊計に罠を張るつもりで、南が被害にあったかもしれない。
 そうした事件を起こしてくるために、学園長さえ利用したのだ。それに学園長が怒りを覚えるのも当たり前だ。
「その二人を今、探してます。学園から出た様子はないのですが、誰も見かけてなくて」
「視聴覚室は探したんですか?」
「真っ先に探しましたよ。彼らが関係している場所は。でも何処にもいなくて……」
 そう学園長が言い出して、学園中を探しているらしいがそれでも見かけた人間がいないので、学園をこっそり出たのではないかという話になってきているらしい。
 しかし加藤も上沢も自宅には戻っておらず、居場所は不明。朝、学園に来たことだけは分かっているだけに、学園内にいるはずなのだが、それでも見つからない。
 伊計はそこでハッとする。
 指が覚えている番号を伊計は携帯で押した。
 しかし相手は答えない。
「どうしました、伊計先生?」
 学園長が問う。
「加藤たちが最近、興味を持っていると言い出した学生と連絡が取れません。本人は加藤たちを警戒していて、一人で行動することはないのですが、その一緒に行動している学生とも連絡が取れません……何かあったかもしれない!」
 伊計はそう言って慌てて椅子から立つ。
 もし真希たちに何かあったとしたら、学園内ということになる。誰にも気付かれずに誰も入らない。入り込んでも気付かれない場所で、加藤や上沢が普段使っている場所ではないところなど、思いつくのは一つだった。
 伊計はそのまま学園長室を飛び出して、特別棟に向かって走り出した。

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