真希(まき)は学園内で気をつけるように伊計(いけい)に言われた日から、常に濱田や森達と行動を共にしていた。元々は濱田が言い出した言いつけであるから、森はおかしく思っていなかったのだが、濱田の方は真希の意識の違いに何か感じたように問いかけてきた。
「急にどうしたんだ?」
「は? 何が?」
真希はそれに気付いておらず、濱田の問いの意味が分からなかった。
「いや、急に加藤とか警戒する気持ちが強くなってるみたいだけど、何かあったのかってこと」
濱田の鋭い指摘に真希は、どうしようかと悩んだ。
だが、ここまでしてくれている濱田に隠し事をして気分を害しても自分の得には何一つもならないどころか、不利になることを察した。
「あー、この間の休日に、伊計に近くのショッピングセンターを教えてもらって、連れて行ってもらったんだ」
そう真希が言うと、濱田は驚いたようだった。
「え? 伊計と出かけたのか? 休日に? 買い物?」
「そんなに意外?」
真希はそんな反応が返ってくるとは思わずに、聞き返してしまった。
それに濱田が頷いた。
「俺との時もだけど、他の人も学園以外に連れ出すことはなかったはず。外で会う必要がなかったから」
学園内で完結していた関係だから、外でデートをするという感覚はなかったという。そういう恋人的な付き合いをしている気は誰にもなかったのではないかと濱田は言う。
「そもそも恋人関係じゃなかったから……そういうものを望んでなくて、望んだ時が終わりだと思ってたから、俺はそれで離れたわけだから」
濱田がそう言った。
真希はその言葉で気になったので、濱田に尋ねた。
「もし、そうやってデートみたいなことを伊計とやっていたら、濱田は別れることはなかった?」
そう真希が問うと、濱田は即答した。
「いや、多分別れてた。伊計の気持ちが俺にあるとは最初から思ってなかったっていうのもあるし、俺は俺だけを見てほしかったから、伊計が伊計である以上、俺を見ることはないっていう現実も分かってるから、もしもなんて話はない。結局別れたの正解だったし、今の方が楽しいから」
濱田がそう言って笑うので、真希はそれがうらやましいと思えた。
誰かを好きで、その時を楽しんでいる。
真希は二の舞になっている自分の不毛な関係が、本当に不健全だと思えた。
伊計との間に未来はないと分かっているのに、友人がそこを脱却して幸せを掴んでいると知ったら、それがうらやましくてほしいと強請っている自分がいる。
昨日まで、伊計とも関係もそれはそれでいいと思っていたのに、高望みを始める気持ちが沸いてきて、真希は自分の愚かさに吐き気がしそうだった。
自分が望んでその関係を結んだのに、目の前の他人の幸せが欲しいだなんて、すぐに欲しがる性格なのか、都合が良すぎる性格でどうしようもなかった。
「でさ、何があったんだ?」
濱田は真希が濱田のことを羨ましがっていることなんて気付いてはおらず、心配そうに尋ねてきた。何かあったなら知っておかなきゃ対処できないというふうにである。
真希はそんな濱田に休日に起こった出来事を話した。
「加藤に目を付けられた!? お前……」
「僕だって予想外だよ。外で会うなんて想定してなかったから……しかもショッピングセンターの駐車場って」
真希がそう言うと、濱田が言った。
「それって……伊計のせいで目を付けられたってことか……」
「多分。でも伊計もまさか外で声をかけられるとは思ってなかったみたいだったし、ああいうふうに加藤が言ってくるのも予想してなかったみたいだよ」
つまり伊計に予想外であるなら、加藤の行動が最初から予想外の行動していることになる。
「ああーよりにもよって、加藤にそのまま目を付けられた上に宣言かよ……」
「ごめん……まさかの展開で二人が喧嘩を始めて、売り言葉に買い言葉みたいなことになって……」
「伊計も何考えてるんだか……」
「……一応、反省はしてたけどね……でも迷惑を被るの僕なんだけどね」
「だよな。肝心な時に役に立たないんじゃ、意味がない存在だしな」
伊計は迷惑をかけたと一応は謝ってくれたが、肝心な時に助けてくれるかどうかは、正直真希には分からない。伊計を警戒している加藤が伊計の見えるところで真希をどうにかするとは思えないからだ。
「まあ、加藤も伊計が警戒しているのを知ってるわけだから、目立った行動で呼ぶことはないと思いたいが」
濱田がそう言うので真希も頷くのだが、加藤の手口を全て知っているわけではないので、対処がしようがない場合もあるかもしれない。
「何が起こるのか分からないってところが一番怖いことかもしれない」
真希がそう言うと、濱田も頷いた。
「加藤の被害者って全員が退学していて、手口を聞くに聞けないからな。俺はちょっとした知り合いに流れ聞いた話で知ってるだけで、それ以上は分からないし……」
濱田も流れ聞いた先輩や知り合いなどから、加藤がヤバイという話は聞いていた。実際に目の前で拉致される学生も見たが、ああいった強引な連れ去りは難しい方だ。
今回は伊計と対立している以上、あの手は使えないと濱田は言っている。
同じ特別棟の同じ階。怪しい行動をしていれば、お互いが察することができる距離だ。
今まではお互いに興味がなかったから問題は起きなかったが、今回は違う。
伊計が現在興味を持っている相手に対して、興味があるので奪いたいと加藤に宣言されたわけだ。
「とにかく気をつけよう。帰りも危なそうだしな」
濱田がそう言ったが街中で拉致の方がリスクが高いし、学園内で完結しないので犯罪の証明がしやすくなる。学生が連れ去られたら、さすがに警察だって動かざるを得ない状況になるので、真希はそこは心配をしていない。
真希の通る道はとにかく人が多く、マンション近くまで大通りだ。だからマンションの中の方が案外誰にも会わなくて危ない感じであるが、防犯カメラがあるこのご時世に、マンション内で誘拐など、加藤という教職がやる仕事ではないと思う。
「卒業するまで続くと思うと、ちょっとうんざりするかな」
どっちも引く気がないのは意地になっているのだろうが、真希を巻き込んでの騒動が真希が加藤に何かされるまで続くとなると、少々面倒くさくなってくる。
教師とセックスをするということも十分問題なのに、そこに対抗相手が出てくるなど、ここに転入するまで真希だって想像してもいなかったことだ。
「気をつけるよ」
あの加藤のニヤリとした笑みを思い出して、真希は心底気持ちが悪いと思う。
あの人だけはどうしても精神的に受け付けられないのだ。何故そこまで嫌うのか分からないが、駄目な人は駄目なのだと初めて思ったほど、苦手どころか嫌いだ。
加藤がどんなにいい人だとしても、あのニヤリとした笑みが受け入れられないままだっただろう。
真希にはそう思うほど、加藤が苦手であった。
それから一ヶ月ほど、真希の周りでは何も起きなかった。
加藤からの追撃もなく、恐ろしい目にはあってはいない。ああいうふうな宣言をした割には大人しく沈黙している。
伊計とは学園内では一切の行為をしなくなった。
伊計も警戒をしているようで、音楽室に呼び込むこともなくなった。しかし、自宅に帰ると別になる。
電話で呼び出され、伊計に部屋に行くと朝食込みで伊計に相手をさせられる。真希も堪っているものを吐き出す勢いで付き合ってしまうので、週一回ほどの関係になっているが、たまに伊計がアナルセックス以外もしてくるようになった。
部屋に上がってきては、真希の躰中を触りまくったり、特に乳首を異様に吸いたがるのだ。
「ちょっと……もっんっああ」
ソファに座っているだけで、押し倒されて上着をたくし上げられて、乳首を露わにすると伊計はその乳首を吸い舌で転がしてくる。
「あっ……んっ……も、なんでそこばっか……ああっん」
「これだけで、イケるようになっただろ?」
「んふっ……あっん……ちくび……いやんっあっああっ」
舌で嬲るように乳首を転がされて、真希は伊計に胸を差し出すように躰を逸らした。
チュチュッと音を立てて真希の乳首を吸う伊計。夢中で追い立てて、さらには空いた手でもう片方の乳首を弄る。
「ひうっあっん……ああっちくび……いいっああっん」
すっかり真希の股間は勃起してるほどで、伊計が膝をそこに入れて足で股間を押してくる。それが微妙に擦れてしまい、真希はそこに股間を腰を動かして擦りつけた。
「ああん……はっんああっいいっああ……んあっいいっ……ちくびぁひああっ」
段々と淫語を話してくる真希は、これも伊計に調教された結果だと思っている。卑猥な言葉を口から出して言うことに、伊計は異様な興奮を感じるらしく、真希に現状のことを口に出して言うように言ってくる。
そうしている間に、真希も自然とそれを口にするようになった。
「いいっ……ちくびっもっと……ああっん吸って、もっと噛んで……ああっあ゛あ゛っ!」
ジュルジュルと音を立てて乳首を吸われ、痛いくらいに噛みつかれた。
「んふっああ――――――っん!」
乳首を吸われ噛みつかれたままで、股間を擦りつけながら達した。
散々弄られた乳首は痛みを感じるほどであるが、それでも真希はいいと思うほど、開発されてしまった。
「ちょっとやり過ぎたか? 痛みはないか?」
乳首を噛みすぎて、少し血が滲んでいる。思いっきり噛んでほしいと言ったので、そうしたのだろうが、やり過ぎれば傷も付く。終わってみて初めて分かることで、いつも暴走する伊計は気にしたように、優しく乳首に触れる。
「あ……ん……大丈夫……二、三日したら治ってるから……」
躰を痙攣させたままで、真希がそう言うと、伊計はそうなのかと不思議そうな顔をしている。自分が乳首を怪我したことがないので、分からないのだろう。
「擦れると痛いだろ?」
「だから……こうやって……」
真希はダルイ躰を起こしてから、テーブルに置きっぱなしにしている籠の中から絆創膏の箱を取りだし、その中から二つ絆創膏を取り出した。
「これを貼って……って」
中身を取り出していざ貼るためにシールを剥ごうとしたら、伊計に絆創膏を取り上げられた。
「貼る」
そう言いながらテープを剥がしている。
「えー……もう……なんで人に貼って貰わないといけないんですか?」
「いいから、胸出せ」
文句を言う真希に伊計は絆創膏を準備して待っている。
「……はい」
むすっとしたまま真希が胸を出すと、伊計は絆創膏を貼ってくる。ペタリと両方に貼ってしまうと、真希が服を着ようとするのだが、その腕を伊計に掴まれた。
「え、ちょっと……何ですか?」
「よくこういう乳首に絆創膏とかエロ漫画で見るんだけど、本当に貼ってるの見るといやらしい気分になるな」
「何言ってるんですか……本当に」
ニコニコとしてその眺めをよしとしている伊計に、真希が本気が呆れた声を出した。
だが、伊計はそのまま興奮したように、達したままで濡れている真希の下着とズボンを一緒に剥ぎ取ってしまう。
「あ……ちょっと今日はしないって……」
「つもりだったけど、お前がこんな姿を見せるから、興奮して収まらなくなった」
伊計がそう言い切り、また真希が呆れるも、伊計が取り出した性器が、完全に勃起した形になっているのを見て、真希はゴクリと喉を鳴らした。
伊計はその性器を真希の孔に押しつけ、入れようとはせずに擦りつけた。
「しないってことは、こういうこと?」
そう言うと、伊計は真希の両足を閉じてその股の間に自分の性器を挟んだ。
いわゆる素股だ。
「え……あっ……んっあっうそっ」
内股に性器を挿入するようにして擦りつけられて、真希は変な感じに思ったが、真希はだんだんと興奮してきた。
中には一切入ってはいないのに、何故か感じる。
そうしていると、伊計が真希の性器を手で掴んで扱き始めた。
「あ……だめっ……あっああっ!」
ただでさえ感じていたのに、そこで性器を弄られれば、もう伊計の思い通りになるしかない。
「あっ……んああっ……はあっ……ああっ……んっんんっふああっ」
絆創膏を貼った乳首さえも痛みが微妙な快感に変わってしまい、真希は全身をくねらせて感じた。伊計はそれに満足しているようで、素股で射精をした。
真希の腹の上に精液を吐き出すようにして射精をすると、真希も同時に射精をしていた。真希の腹の上で二人の精液が絡み合うように垂れる。
それに真希は手を伸ばして、腹にかかった精液を撫でるようにして混ざらせた。
「……ああ……ん」
それで何かなるわけではないのだが、この瞬間が一番心が近い気がして真希は好きだった。でもそれは一瞬のことで、一瞬の幸福で、一瞬で冷めるものでもあった。
「……お風呂……入らなきゃ……」
躰がベタベタになったので、精液をティッシュで拭いて起き上がる。
雰囲気も壊すようにそう言うと、伊計が起き上がった真希にキスをした。
噛みつくようにキスをされて、真希は驚くが、キスをした伊計はニヤリと笑って離れていった。
「じゃ、おやすみ、真希」
伊計はそう言うと返事を聞かずにベランダから部屋を出て行った。
真希はそれを呆気に取られて見送りながら、伊計がいなくなったベランダに向かって言うのだった。
「……おやすみなさい、先生」
特に感情ない言葉で返すそれは、決して報われることはない気持ちを押し殺すものだった。
真希は自分の心が完全に伊計に傾く前に、早く学園を卒業してしまいたかった。
前と違って期待をしていない分、終わりはあっさりと終わるだろうに、心が引き摺られてしまうのは、きっと前とは違って伊計が優しいからだ。
黙らせるためにキスはしない。ただキスをしたかったからするという単純な行動が、愛情に溢れている気がしてならないのだ。
前が心がついて行っていたから終わりが辛かった。
だから心をないようにしてきたのに、伊計の優しさが時折勘違いをさせる。
きっと優しいから、終わる時にも迷惑をかけたくなくて誰もが黙って伊計と別れるのだ。思い出には十分に優しく、終わったらそうなのかと納得できるから。
泣くのだろう。終わったらきっと泣いてしまうくらいに悲しいだろう。
それでも終わるのだ。
後一年で学園も卒業で終わる。その前にきっと伊計とは終わるだろう。
その時に見苦しくないように終えようと真希は思ってた。
教師相手に期待はしない。前で懲りたことだ。
でも、そのことも思い出になって、ああそういうこともあったんだという落ち着いた気持ちでいられるようになることを、伊計が教えてくれた。
「もう、前のことも仕方ないって諦められたんだ。今度も大丈夫」
環境が変われば、きっと心も変わる。
そう思って真希は気持ちを切り替えて、風呂に向かった。
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