carry off

4

 湊谷峻が目を覚ました時、外は明るかった。
「……はっ……」
 慌てて起き上がったが身体が思ったよりも疲れていたので、身体中の力が入らなかった。
「……あ、」
 すぐに峻は昨日のことを思い出す。
 もはや朝と言ってもいいくらいの時間の出来事であるが、峻は自分が夢でも見ていたのかと思うも、身体中の痛みが本当の意味を教えてくれる。
「……うそ……そんな……」
 真中泰孝という恋人である阿達の先輩である人に騙されて犯された。
 そんな事実は起き抜けの頭に突き刺さり、峻は言葉を失う。
 そして間違いがなければ、今いるのは真中の家にいるはずだ。
 遠くの部屋からテレビの音が聞こえ、誰かの話し声が聞こえた。
 峻は慌てて起きようとするも、そこに真中が現れる。
「ああ、まだ寝てる。起こすから先に食べてろよ」
 そう真中は起きている峻を見つけてからニヤリと笑って部屋に入ってきた。ドアは閉めてくれたので、話し声は一気に消える。
 真中が近づいてくるので、後退る峻であるが、真中は構わずにベッドに腰を掛けてから言った。
「夢じゃないことは覚えているな?」
「……なんてことしたんです」
 すぐに批判の言葉を返すと、真中はスマホを取り出し、それを峻に向けた。
 そこにはハメ撮りをした写真が写っている。
「……ひっ……」
 大きく足を開いた峻が、誰かに犯されている写真だった。
 誰かのペニスは映っているけれど、犯しているのが誰なのかは分からない写真だ。
「他にも見ておくか?」
 そう言いながら真中がスマホを操作して今度は動画を見せてくる。
『おちんぽっきもちいいっああ……いいっおちんぽっ……おちんぽっああんっきもちいいっああんっあっあ゛っ激しぃっ……ん゛ああんっあ゛っあっあひっ……あ゛っあっあんあんあんっ』
 その動画は犯されながら喜んで腰を振る峻の姿を写したハメ撮りだった。
 いつの間にそんなものを撮ったのか、それは朦朧としていた峻が覚えていないだけで、目の前で撮っていたのは明らかな映像だった。
「……やっ、やめてくださいっ」
そう峻が慌てて動画を止めようと近づくと、そのまま伸ばした峻の腕を真中が捕らえて引き寄せてからベッドに峻を押しつけ、批判する口が開く前に言った。
「これ、あっちにいる阿達に見せる?」
「……!」
 そう言われて峻は一瞬で抗う力を失う。
 それを狙っていたであろう真中はそのまま峻に顔を近づいてからキスをしてくる。
 これを受けたくはない峻であるが、きっと断ったらさっきの動画を阿達に見せるというのは嘘ではないだろうと考えた。
 真中に失うものはないし、たとえ阿達にバレたとして困るのはきっと峻だけなのだ。
 真中が嘘を吐けばいい。合意だったという峻が喜んでいる動画もある、さらには真中は峻と阿達が付き合っていた事実を昨日まで知らなかった。
 峻と阿達が付き合っていることは誰にも言ってないし、言ってはいけない関係であるから、まずそこをオープンにして真中を批判することはできない。
 何もかもが真中の融通が利く状態にされているのだと峻は気付いてしまい、身体の力を抜いた。
 あっちの部屋には阿達がいる。なんとかバレないようにこの部屋をでなければならない。
 それだけは峻の使命だった。
 真中は峻にキスをすると、深いキスを繰り返ししてくる。
 それは昨日のセックスの余韻を思い出させるには十分で、峻の身体はすぐに高められてしまった。
「時間がない、しゃぶれ」
 真中はそう言うと、勃起したペニスを出し、驚いている峻の口にそれを押し込んでくる。
「んんぅ……っ、んん、んんぅ……っ!」
「バレたくないんだろ? そのまま口をしっかり萎めてろ」
 そう真中が言うと、そのままイラマチオを始める。
「ん゛ん゛ん゛!? んん゛ぅ……っ! んんんーっ!!」
「そうだ、そのまま……ああいいっお前、口もいけるんだな」
 抵抗もできないまま峻は頭を押さえられて喉まで真中に犯された。
「んん゛ぅ……ん、ぐぅうぅ……」
 真中は先走りを峻の口内に擦り付けながら激しく性急に腰を振った。
「ん゛ん゛ぅ……っ、ん、ふ……っ、ぅ、うぅ……っ」
「よし、出すぞ、しっかり飲めっ」
「んっんんっ……! ん、んんん……っ」
真中は腰を強く振り、峻の頭を押さえ込んでから喉の奥で射精をした。
 喉まで届いたペニスが精液を大量に吐き出し、それを問答無用で峻は飲み込む羽目になった。
 真中は峻の口の中でたっぷりと精液を吐き出してからペニスを抜き言った。
「綺麗に舐めろよ。バレたくなければな」
 そう峻を脅し、峻はもうその通りにするしかなかった。
 すぐにフェラチオをして真中のペニスを綺麗にしてしまうと、真中は満足したようにベッドから出て行ってくれた。
 そしてそのままドアを開けてから言うのだ。
「ああ、その奥のドアがバスルームだから使って、寝ぼけた頭を起こしてきな、湊谷」
 そう言う顔はニヤニヤとして意地が悪い顔をしていたが、峻はすぐにベッドから起き上がってバスルームに飛び込んでいった。
 真っ先に洗面所で口を洗い、流れ出る水に涙も流した。
 身体中に染みついた真中の匂いが、ベッドに寝ていたから移ったのか、それがとても嫌で、風呂を借りて洗い流した。
 それから風呂を出て着替えようとすると、真中が入ってきた。
「溺れてないよな~って、ああ、着替え持ってきたから」
 そう言いながら脱衣所に入ってきた。
 ドアが閉まり、峻が怯えているのにも構わずに真中は手に持っているおもちゃを取り出した。
「これ、付けてもらうからな」
「……なんで……」
 取り出されたのはローターだ。
真中は大した説明もせずに遠隔操作ができる卵形のローター部分だけをコンドームに入れてすぐに峻のアナルに挿入した。
 さっきまで峻が身体を洗いながらアナルも洗ったであろうことは真中にも想像できたらしく、緩くなっているアナルはそれを簡単に受け入れてしまった。ローターは二個も入れられて中で蠢いている
「やっ……なんで……こんな」
「早く着替えろよ、飯もうできてるから。ほらほら急ぐ」
 ドアを開けた真中がそう言い出し、ベッドルームの入り口に阿達が姿を見せる。
「おーい、峻、早くこいよ。飯冷めちゃうぞ」
 その阿達ののんきな様子に峻は慌てて服を着た。
 その様子を面白そうに真中が眺めており、とてもじゃないがそんな二人の視線をかいくぐってアナルからローターを出す時間はなかった。
「さあ、飯飯」
 バスルームから渋々出てくる峻の肩を押して真中がダイニングに峻を連れ出す。
 その様子に阿達は少しだけ苛立ちを見せたが、真中がいる手前嫉妬もできなかったようだった。
「じゃ、食べますか」
 そう言って席に座った。
 定番のトーストと目玉焼きとフルーツであるが、峻の複雑な思いとは裏腹に、真中に飯を作って貰えたといい喜んでいる阿達の機嫌を損ねたくなく、峻は健気に会話に応じた。
 しかし時折、真中がローターを操作してくるので、そのたびに峻は会話に困ってしまっていた。
「どうした、湊谷?」
 びくりと身体が震えてしまうと、真中が心配そうに尋ねてきた。しかしその心はほくそ笑んでいるであろう。
「あ、え、な、何でもない……です。大丈夫、です」
 そう言ってもローターの振動は止まってはくれない。
 音が漏れるのではと思っていても、真中が音楽を大きくしたりしていて、その振動は阿達の耳には届いてはいなかった。
 それは阿達が不審がるくらいには峻の動向は不自然に映っていた。
「本当に大丈夫か?」
 そう何度も聞いてくる真中に大丈夫だと返しながらも、峻は真中を何度も睨み付けた。
「だい、じょうぶ、です」
 本当に見つかっても真中は何も困らないのだと峻は察して耐えた。
この中で一番信用されないのは峻なのだろう。それが分かってしまったからだ。
 それから一時間でやっと二人は真中の部屋から帰ることになった。
 電波の届かないところまでいけば、きっと大丈夫だと峻はホッとしかけていた。
「じゃあ、真中先輩、お世話になりました」
 玄関先で真中に世話になったと阿達がいい、それに峻も合わせてお礼を言う。
「気にしないで、元気ならよかったよ。トラブルがあった方が面倒ごとだしな」
 真中はさわやかな声でそう言い、玄関を閉めた。
 そして阿達と峻は二人でエレベーターに乗った。
 とりあえずこの場所には詳しいので峻が軽く説明をしてやると、阿達は初めての場所に興奮しながらもマンションから出てしまうと、峻に言った。
「お前さ、真中先輩に世話になっておいて、自分の兄に似てるからか知らないけど、ずっと真中先輩を睨んでたろ? あれやめた方が身のためだぞ」
 そう阿達が言い出して峻は唖然とする。
「え、そ、そんなこと、してないけど……」
 確かにローターを動かされた時には渋い顔はしたかもしれないし、にらみ返したかもしれないが、まさかそれを阿達がそう解釈するとは思いもせずに峻にはどう説明して良いのか分からなかった。
 まさかローターを入れられていて、それが動いたので操作している真中を睨み付けたとは言えない。
 おどおどとし始める峻に阿達はふうっと息を吐いてから言った。
「してたし、睨んでたし、態度も悪い」
「……してないし……ただ、苦手なだけで……」
「悪い人じゃないだろ? 俺のことわざわざ看病してくれて医者にまで診せてくれたんだぞ?」
「分かってるし、でも世話になったのは阿達で、それを俺にまで……」
 そうなのだ。元はといえば阿達が世話になっているだけなのだ。
 なのに、峻はそのせいで真中に目を付けられてあんな目に遭ってしまった。
 それが思わず言葉に出かかってしまい、慌てて峻は自分の口を塞いだ。
「……へえ、俺のせいだから仕方ないってか」
 急に阿達の機嫌を損ねた気配がして峻はハッとする。
「ないわ、お前。完全に冷めたわ。確かにお前の兄とかはやなやつだったけど、真中先輩まで同じように思われた挙げ句、俺のせいでお前が不機嫌なの直せって態度。なんか腹立つし、苛ついた。俺、一人で帰るから、お前、時間置いて」
 駅には同じ方向になってしまうので、時間をおいてから帰れと言われて、峻はどうやら阿達の地雷を踏んだことを知る。
「じゃあな」
「……ま、まっ……」
 言い訳をしたい、正直にバラして真中がいい人ではないことを暴露してやろうと峻は真実を口に仕掛けた。
 その時だった。
 アナルに入れられているローターが振動を始めた。
 その振動は最大にしたようで、ローター同士がぶつかり合って、今まで当たっては居なかった場所まで抉るようにして蠢き始めた。
 そのせいで峻は踵を返して駅に去って行く阿達を追うことができなかった。
「……はっくっ……あっ」
 道の端に座り込み、身動きが取れない峻を振り返った阿達だったが、峻が反省をして泣いている程度にしか見えなかったのか、そのまま置いて帰ってしまった。
 それが目に映ってしまい、峻は阿達から優しさを与えられていないことを指摘した真中の言葉が脳裏に過ぎる。
 それに被さるように声が降ってきた。
「阿達って釣った魚に餌をやらないどころか、毒ぶち込んで喜ぶタイプだったんだな」
 普通、泣いている人を放ってまで機嫌が悪いことを優先する恋人はあまりいない。冷めているか完全にそういう関係でない者同士でしかないと真中は言っている。
「……あなたの……せいで、こうなって……」
 峻はローターの振動に耐えながら真中を睨み上げた。
 その先で真中は満面の笑みを浮かべている。
 この人にとって、峻と阿達の仲違いなど、嬉しいこと以外の何物でもないことなのだ。「お前が言おうとした通り、阿達のせいだよな。あいつが酔い潰れなきゃ、お前が俺の家に来ることはなかっただろうし、あいつが眠りこけてなきゃ、お前が俺に犯されることだってなかったよ」
 そう言う真中はにこやかに笑っていて、峻を抱え上げて起こしてくれる。
 その妙な優しさと、阿達を評価する態度は普通だ。
「まあ、あれじゃお前から謝りにいかないとどうにもならない感じ。けど、お前は何も悪くはない」
 真中の言う通り、阿達の機嫌が悪いときに峻から謝らないと収まらないのはいつものことである。しかし今回だけは峻も自分が悪いと思えないだけに、阿達の今の態度には愛情も少し冷めかけていたのは事実だ。
 けれどその冷める愛情よりも真中に対する憎しみは一層深くなっていた。

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