Allegro vivace

6

 春の始まりはまだ早いが、その日は薄らと雪が降っていた。
 天気予報は晴れであるが、一時雪とあったのでそれが降っているのだろう。積もりはしないし、猛吹雪にもならない雪であるが、阿古は道を歩きながら、少しだけ見上げた。
 立ち止まった阿古に振り返ったのは、阿古の父親、春人だった。
「どうした、湊人(みなと)?」
 そう言われて阿古は雪に見とれていたことに気付いた。
「あ、ううん、何でもない。積もると厄介だねって思ったんだ」
 阿古はそう言って父親の側まで歩いていく。
 今日は珍しく父親と出かける。

 阿古は春休みは入り、嗣永との付き合いを本格化させた。
 周りの応援もあったし、嗣永の悪い噂があっという間に消えるほどに、嗣永が阿古に溺れている事実が広まって、付き合いをお試しにする必要がなくなったからだ。
 そのことを嗣永は異常に喜んだ。
「やった! これで本物の恋人同士だ!」
 飛び上がらんばかりに喜んで、阿古はそんな嗣永を見て嬉しくなった。
 自分と付き合うことにここまで喜んでくれる恋人なんて、なかなか出会えないだろう。 だから阿古の心も決まった。
 嗣永とこれからずっと付き合っていこう。
 戸惑っていた心が、そう決まった。
 嗣永を好きだ。彼は強引なところもあったが、それでも阿古が何か言えばちゃんと聞いてくれる人だった。初恋の人と似ているなんて言って悪かったと思うほど、嗣永と初恋の人との印象は全く違った物になった。
 そうなったから、阿古の中で嗣永の存在が大きくなり、初恋を上回ったのだ。そんな瞬間が訪れて、阿古は嗣永の手を取ることにした。
 その阿古たちを応援しているのが、双方の家族だった。

 阿古は嗣永と付き合うことに決めた日に父親にそのことを話した。
「実は、付き合っている人がいる」
 阿古の言葉に、阿古の父親春人は、とうとうこの時が来たかと言わんばかりの態度だった。
 少しは反対の結果になることを望んではいたのだろう。女性を付き合い、女性と結婚する。ゲイだなんて、きっと思春期の気の迷いだったと終わることも期待したはずだ。
 しかし阿古が言っているのが男性との付き合いであることは、阿古の少し困ったような言い方で察してくれた。
 阿古は気の迷いではなく、考えて男と付き合っているのだと春人も分かったのだ。
「そうか……いいヤツか?」
「うん、凄く優しいよ。好きになってもらって良かったって、本当に思うんだ」
「そうか……良かったな」
 春人は心底嬉しそうに、阿古にそう返した。
 母親が不倫をして出て行ってから、阿古は一人で身の回りのことを一人でやってきた。
 父親が働いているから、家のことは阿古がやっていたし、家を出た後でも阿古はたまに戻ってきては父親の世話をする。そうしたいい子に育っている子の未来が、やっと落ち着いてきたのだから、喜ばないはずもない。
 たとえゲイであると言われても、息子の幸せを喜ばないことはあり得ないのだ。
「そ、それで、今度の日曜でいいんだけど、嗣永……相手の家族がお父さんに会いたいって言っているんだ。その家族会みたいな感じで、お食事どうですかって」
 阿古がそう言うと、春人は驚いた。
「あっちもカミングアウト済みなのか!?」
 まさかの展開だ。春人は想像していなかった展開に驚きを見せる。
「あ、うん。俺と付き合う時に、家族にカミングアウトしたって」
 それを聞いた春人は、驚きと共に、相手がちゃんとした人であることが嬉しかった。ちゃんと阿古と付き合うのに、家族に紹介できない相手としてでなく、家族として紹介しても恥ずかしくはないと言ってくれたも同然だ。
「良かったな、湊人(みなと)……本当に良かったな」
 ちゃんとした相手が初めての相手であることは、ものすごく幸運なことである。それは春人もその世界を調べたり噂を聞いたりして、かなり悲惨な話も聞いていたからだ。
 なかなか世間に認められる関係ではないが、昨今の若者はその世界があることを普通に受け入れているモノも多いという。
 だんだんと変わりゆく世界で、ちゃんと阿古達が幸せになれる道が見えた。
「は、恥ずかしいけど、素直に嬉しい。ありがとう。でもこれからいろいろあるかもしれないし、家族同士でも繋がっていこうって、嗣永の両親が食事会の席を設けるって。行ってくれるよね? お父さん」
 そう阿古が言う。
 そのお願い自体が、阿古からされたことはここ数年なかったことだ。
 阿古はこの家を出ることですら、春人が勧めるまでは実家から通う気だったくらいに、自分の時間を持ったことがなかった。お願い事だって、小さい頃から参観日の家族会議くらいなものだ。
 今度はちゃんとした個人的な用事のお願いだ。
 それもとても大事な、結婚式に参加するくらいの用事である。
「も、もちろんだ! 今度の日曜だね。分かった何があっても用事はこれだけにする。あ、大変だ、スーツ、クリーニングに出して綺麗にしないと……あ、お土産は何にすればいいかな……」
 春人が一気にそう言って乗り気の体勢を取ると、阿古は苦笑してその準備を手伝った。
 そんな騒動があって、その日曜日である。

 春人は阿古が準備したスーツに身を包んで、きちんとした。
 春人は阿古に似ておらず、強面の顔であるが、スーツを着るとどこのヤクザだと言われる容姿である。更に今日は緊張をしているので、顔が強張っており、通り道を横切る人間が全員、ヤバイヤツだという恐れおののいた顔をして足早に去って行く。
 阿古はそんな春人の隣で上機嫌に微笑んで座り、電車で待ち合わせのホテルまで行った。
 嗣永の家が用意したホテルは、帝国ホテルに並ぶような格式が高い場所だ。嗣永は普通に食事でいいと言ったのだが、盛り上がった両親とそれに拍車をかける兄という構図で、嗣永の知らないうちに、あれよあれよと会場が決定してしまったのだという。
「こんな立派なところを……」
「なんか、嗣永のお父さんが秘書をしている政治家の人が、話を聞きつけて、祝いだってここを取ってくれたらしいんだ……」
 話が大きくなっているが、嗣永の父親が秘書をしている政治家は、いわゆるいかなる差別も許さない精神があるらしく、こうしたゲイの事情も平等にするべきだと活動をしている人なのだそうだ。だから部下の秘書の話を聞いて、積極的に応援してくれたらしい。
「なんか、話が大事になってないか?」
「うん……だよね」
「まあ、なるようになるだけか」
「ここまできたらね」
 二人はそう言って、そのホテルに入るのに似つかわしい様相をしてから、受付に急いだ。 受付で部屋を聞き、その部屋に案内される。
 見合いの場としても使われる座敷がある場所で、その中を進んでいくと、左の庭は立派な庭園をしている。それに驚いているうちに部屋に着いた。
「失礼します。阿古様がおいでになられました」
 そう案内人が言って襖を開けると、そこに嗣永の家族が揃っていた。
 入り口で一礼してから、対面の席に座った。
 嗣永の父親は痩せ型であるが、貫禄がある顔つきで緊張しているのが分かる。一方、母親の方はリラックスして、阿古に対して胸元で手を小さく振っている。可愛いまま年を重ねた人で、嗣永が言うには、マイペース過ぎて全てにおいてポジティブなのだそうだ。
 芸能人だと言う兄の裕策は、スーツ姿で大人しく座っている。見た目は確かに嗣永に似ているが、派手なオーラの違いが出ている。芸能人パワーとでも言おうか。ここまであからさまな派手さが、もし嗣永にあったら阿古は気後れて付き合ってはいなかったのではないかと思えたほど、世界が違う感じが出ていた。
 嗣永は両親の間に嗣永が座っている。完全に見合いの並びである。
 それに見習って阿古達も席に着いた。阿古の母親がいないことは向こうも承知である。

「今日はご足労願いましてありがとうございます。嗣永裕輔の父の裕二でございます。こちらは妻の真美。長男の裕策、そして裕輔でございます」
「こちらこそ、こんな場を用意していただきましてありがたい限りです。私が父の阿古春人、こちらが息子の湊人でございます。よろしくお願い致します」
 父親同士が家族を紹介したところで、嗣永の母親がうふっと笑った。
「湊人さん、本当に可愛いのね。うちの裕輔はメンクイで可愛い子が好みだったから、湊人さんは理想そのもののようね」
「か、母さん……」
 昔に散々やらかした、可愛い男の子の話を蒸し返されると今は困ると、嗣永が止める。
 そうしていると春人が阿古に耳打ちをする。
「お前もメンクイだな……」
「お父さん……」
 嗣永が相当いい男だったのが意外だったらしい春人が、そういうのだから、メンクイなのは間違いないが、双方共に恥ずかしいことになった。
 そこで父親同士が名刺の交換を始める。
「ほほ、○○商事の取締役ですか……お噂はかねがね」
「ああ、ありがとうございます」
 父親同士はそのままお互いの故郷の話になっていく。元々は二人とも神奈川出身で盛り上がり、さらには割と近い地域に住んでいたことで、更に盛り上がっている。
 そんな父親たちを置いて、嗣永はこんな緊張する席は嫌だと、両親の間から抜け、阿古の隣に座り直す。そして阿古は嗣永の母親と兄に捕まって質問攻めだ。
「合コンで知り合ったって本当なの?」
「あ、や、そうですけど、そういう目的で行ったわけじゃなくて……ですね」
「あら、でも一応カップル成立したわけだから、趣旨とあってるよな」
「本当にいい子を選んだわね。今度はうちにいらっしゃい。私の特性のケーキをごちそうするわ。ケーキが好きなんですってね?」
 そう言われて阿古は頷きながら、嗣永を下で突く。
 どこまで話してるんだというように。
「ほぼ俺が知ってることは親も知ってる。全部吐かされたから」
 嗣永がそう言うので、阿古は天井を見上げた。洗い浚い母親から問い詰められ、知っていることを喋ったばかりか、その後の付き合いで喋ったことまで報告したらしい。
「嬉しくて、話してしまった。悪かった」
 阿古のことを話したくて話したくて抑えが効かなかったので、母親に聞かれるままに惚気たらしい。正直、セックスしている時以外の情報は母親は掴んでいると思った方が心に優しい気がする。
 そのまま食事の流れに形ながらも、段々と双方が打ち解けてきて、食事が終わる頃には和気藹々のままでホテルを出ることになった。
 阿古の父親はお酒を飲んでいたので、タクシーに押し込み、そこで別れた。
「阿古、良かったな、本当にいい人たちに恵まれて……父さんは嬉しいぞ」
「うん、そうだね。だから、ちゃんと帰れる? 送らなくていいの?」
「だーじょーぶ、だーじょーぶ。運転手さん、出して」
 父親はそう言うとタクシーで帰っていった。
 その向こうでも同じように嗣永の家族がタクシーに乗っている。父親は同じく酒を飲んで上機嫌で、母親も同じように飲んでいる。やっとタクシーが出て行き、次のタクシーを待つ間に嗣永の兄が阿古に話しかけてきた。
「阿古ちゃん、この弟、頼むよ。ここまで真面目になってきたの、いい傾向なんだよね。このまま阿古ちゃんに好かれる男である限り、馬鹿はやらないから、見捨てないでやってね」
「あ、はい。こちらこそ」
「兄貴、タクシーが来たぞ! 早く帰れ」
「こいつ、照れてるだけだから。じゃね、またね阿古ちゃん」
 そう言うと、嗣永の兄はタクシーで帰っていった。
 本人達置いてけぼりで、家族だけが楽しんだお食事会であるが、そうした騒動が済んで見送った後に、阿古は実感した。
 幸せなんだなと。こうしたことがどんどん増えていくのが嬉しいことも。
「阿古、タクシーが来たぞ」
 そう言われて阿古も嗣永と一緒にタクシーに乗った。
 この日は嗣永のマンションの方へお泊まりをすることになっている。お泊まり用の荷物は駅に預けてきたので、駅までタクシーを使い、そこから二人で電車に乗ってマンションに行った。

「なんか、すごく疲れたな」
「うん、使わなくてもいい気を沢山使ったし、親の口から何が飛び出すのか、ヒヤヒヤしながら過ごしたからね」
「でも、親同士が仲良くなったから良かったな」
「うん、それは本当によかったね」
 マンションに辿り着くと、嗣永は部屋に案内してくれた。
「片付けはしたんだけど、まだ散らかってるから」
 そう言いながら嗣永はリビングに阿古を通した。
「座ってて、コーヒーを淹れるよ。テレビでも見てな」
「ありがとう」
 阿古はそう言ってからラグに座った。ソファもあるが、床に座る癖がついていたので、そこに座ってしまう。
 リモコンを探してテレビを付けると、ちょうど夕方のニュースだった。天気予報がやっていて、明日は雪で荒れると言っている。春は近くまで来ているが、天気は暖かくなったりしながらも雪を降らせては寒さをぶり返させている。
 春休みに入って二週間。三月もまだ入ったばかり。阿古は弁護士事務所の雑用をするバイトを始め、嗣永も父親の知り合いの会社で雑用のバイトをしている。
 それも二人で旅行にいこうと計画を立てたので、その資金集めである。さすがに二人で行く旅行をお小遣いで賄うのは違うだろうと、バイトを始めたのだ。
 とりあえずは春休み限定で、大学が始まれば本業の学問にいそしむのだが、雑用バイトがよかったら、そのまま週三、四日のバイトはしようと阿古は思っている。
 元々学部が違う二人である。平常時にはなかなか時間が合わないので、会えるのは昼休みくらいだ。大学が終われば会えることは会えるが、お互いの家に入り浸って終わってしまうだけだ。
 将来に向けての目標の一つとして、一年後くらいに部屋を借りて一緒に住もうという計画も立てた。その資金集めに平日を使い、土日の休み(会社や弁護士事務所が休みなので)を二人の時間などに使おうというわけだ。
 阿古は誰かと一緒に旅行なんて、修学旅行以外したことはなかったのだが、家族旅行すらしたことがないので、行事以外の旅行はこれが初めての計画になる。
 初めてだからという理由で、ちょっとした記念になるように秘境にある温泉にしてもらった。温泉は好きだったけど、個室で全部できるところで、温泉も個室に付いて、ほぼ部屋から出ないで好きに過ごせる空間らしい。
 そうしたところを嗣永が父親に頼んで探して貰い、予約までねじ込んだらしい。らしいというのは、嗣永は予約が空いたので、そこに入れてもらったと言ったが、そういう雰囲気ではなかった気がしたからだ。
 まあ、楽しく過ごせるなら、どんな環境でも阿古は嬉しいのだが、嗣永が記念の出来事、特に阿古の初めての経験を全部特別にしていきたいと言って、特別仕様にされる流れだ。
 最初のうちはやめさせようとしたのだが、次第に嗣永が楽しそうに計画を話してくるので、とうとう最近は諦めている。でも阿古にとって悪くしようということではないので、ありがたく受けることにしている。
 お返しは、ちゃんと用意して、嗣永が喜ぶようにしている。
 まあ基本的にセックスが好きな嗣永なので、そうした行為の中でということが多くなっているが、それも仕方がない。阿古の嗣永と寝るのは好きだったし、セックスも気持ちよくて怖くなかったから、そのまま流されるままである。
 今日だってそのつもりだったが、さすがに今日は疲れている。
「阿古、コーヒー……」
 嗣永がコーヒーを淹れて戻ってくると、阿古は机に突っ伏して寝ている。
 コーヒーをテーブルに置いてから、嗣永が阿古の頬に触れるが、阿古は身じろぎもしない。
「疲れたもんな、今日は」
 親公認になり、今日からは更に堂々と付き合っていける。そうした嬉しい日であるが、意外に疲れる行事だったなと嗣永も思っていた。
 それでも阿古に触れたかったので、阿古を抱え、ベッドに運び、順番に服を脱がせていった。
 布団が冷たかったのか、阿古が身じろぎしているが、それを利用して嗣永は阿古の上着とパンツを脱がせて下着姿にした。それから布団の中に入れてやってから、自分も全裸になって布団に潜り込んだ。
 阿古と付き合いだしてから、ベッドをすぐ新調した。
 今までは寝るためにだけ使っていたベッドであるが、阿古が恋人になってからは、一緒に寝るのもそうであるが、セックスもここでしたのでダブルにしたのだ。大人二人でも十分なスペースができたので、寒い日はここで一日過ごしたりもした。
 そんなことを思い出しながら、嗣永は阿古の下着を手繰り、まずは乳首に触れた。
 冷たい指が阿古の乳首をすぐに尖らせ、捏ねやすい固さになる。それを捏ね回していると、阿古の腰が浮く。阿古の乳首は嗣永に開発されて、撫でるだけでもペニスが勃起するほどに敏感になっている。
 首筋を舌で舐め、キスマークを残しながら胸まで降りていく。すぐに乳首に辿り着いて、甘い飴を舐めているように舌で舐った。
「……ふっん……んんっ……あ……ん」
 阿古の躰がビクビクと跳ねて、ペニスが完全に勃起した。
 片方の手でペニスを扱いてやりながら、乳首を吸ったり噛んだりしてやると、阿古はあっという間に達した。
「うう……ふっんっ!!」
 精液が阿古の腹に吐き出されて、阿古はやっとここで異常に気付いて目を覚ました。
「ん……え……なに……んあっ!」
 阿古が気付いたのを知った嗣永は、そのまま乳首をしっかりと噛んで阿古の意識をセックスに向けさせた。
「や……うそ……あっあっあっ! 嗣永ぁ……もうっ!あっん!」
 胸に吸い付いている嗣永を阿古が睨もうとして見ると、嗣永の飢えた目がしっかりと阿古を見上げてきた。その野獣のような目は、阿古をしっかりと捕らえ、欲望をかき乱す。
「あああっ! んっあっやんっ!」
 達したばかりのペニスをまた扱かれて、阿古は躰を跳ね上げた。
 その阿古をしっかりと覆った躰で押さえつけて、嗣永が食らいついてくる。
 嗣永がセックスが好きなのは、抱き合っている時に相手が嘘を吐いているかいないのかが分かるからだという。気持ちがいいと嘘を言う相手の嘘を見抜けるから、阿古がどんな状態なのか手に取るように分かるのだという。
 回り道をした結果、得られた能力のようだが、嗣永は阿古が本当に気持ちよくなっているのかどうか、それを知ることにその能力を使っている。
「あっんっんんふっ……ああっあんっあっあっ!」
 大きな声を出してもマンションの端の部屋で、この寝室の隣はない。だから阿古が大きな声を出して感じることを嗣永は要求する。
 いつの間にか用意していたジェルが孔にどんどん足されて、嗣永の指が入り込んでいる。 阿古は広げた足を自分で掴んで、その気持ちよさに喘いだ。
「あっいいっ……おしり……いいっああっあんっああっん!」
 孔で感じるようになってから、阿古はセックスが好きになった。もちろん嗣永とするセックスが好きなわけであって、誰でも言い訳ではなかった。
 嗣永だから感じる。あの視線でしっかりと見つめられて躰中を触られると、どうしようもなく感じるのだ。それが気持ちがいいということで、好きだからこその感覚だ。
「嗣永……ああっちょうだい……っ! それちょうだいっ!」
 阿古はとうとう我慢ができなくなって、嗣永にペニスを強請った。それで掻き回して欲しい。そして圧倒的な力で駄目にして欲しいと、阿古は強請る。
 嗣永に征服されている時に異様な高揚感を得て、酷くされるほど阿古は甘いのだと思うようになった。
「入って……るっんんはっああっ……きてるっ……あはんっ!」
 もちろん嗣永の好みに作り上げられた躰だから、嗣永はそれに食らいつく。
 美味しそうに阿古の躰を貫いて、腰を打ち付けてくる。
 嗣永のペニスが入ってくる感覚や、抜けていくのを惜しく感じるのが普通になってきていた。
「んあっ! あっあああっ! いいっ……あっ……んああっ!」
 ゆるりと腰を打ち付けるのを阿古は全身で感じて受け止めた。嗣永は腰を段々と速く動かして、ローションが粘っている音がパチュパチュと部屋中に響きだした。
「あっあはっんっ! あっ……いいっきもちっいい……ああっん!」
 疲れているのに、抱き合っているのが楽しかった。嬉しかったからもっとと強請った。
「んんんっ中っちょうだいっ……ああっなか……だしてっ精液っちょうだい……っああっっんああっあああっ!!」
 絶頂を迎える瞬間に阿古が嗣永に中に出して欲しいと強請った。阿古は中出しがとても好きで、打ち付けられる精液の感覚で幸せを感じるのだという。それは嗣永の好みに仕上げられているだけなのだが、阿古がそれをいいと感じているのだから、間違いはないと言い切るほどだ。
「阿古っ……愛してるっ」
「んっ好き、大好き……っ!」
 阿古はキスを求め、それに嗣永が応える。
 中に打ち付けられる精液に阿古は躰を痙攣させて絶頂を迎える。
「んああ――――――っっ!!」
 嗣永は阿古の中で達した。
 だがその嗣永の腰が止まらない。そして達したはずなのに嗣永のペニスは萎えた様子がない。
「あっんっ……まだ……するのっあああっんっ達ってるのにぃ……っ!」
 更に腰が跳ねて、阿古はすぐに二度目の絶頂を迎える。絶頂をしている最中に更に突かれると阿古はすぐに絶頂をしてしまう。それも空イキになるので、絶頂時間が長い。それなのに絶頂をしながらも更に嗣永に攻められて、阿古は達き狂う羽目になる。
「あっ……あああっつぐながっすきっ……もっとして……もっといっぱい……」
 絶頂しながらでも阿古は嗣永を求めるようになってくると、完全に狂ったセックスの始まりだった。
「いっぱいしような、明日は寝たきりでも大丈夫だしなっ」
 嗣永の絶倫は朝までコースのそれで、疲れているがランナーズハイのように狂ったように阿古を求めた。阿古もそれに答えられるほど絶倫ではないが、気を失うほどの弱さは段々となくなっていった。
 最近は気を失った方が楽なケースが増えているが、阿古は疲れた躰で対応できなくっても、嗣永が求めてくれるのが嬉しかった。どんな状態でも嗣永が愛してくれるという確信が持てるからだ。
 二人は疲れて動けなくなるまでセックスをして、明け方近くには降り始めて街に交通渋滞をもたらすであろう、大粒の雪が降っているのを窓から眺めてから、眠る羽目になった。

 案の定二人はそのまま眠り続け、起きた時は散々な部屋の中を「なんでこうなるんだ」と文句をいいながら片付ける羽目になった。
 ベッドから降りて床でもしたし、風呂に向かう途中でもしていたし、風呂でもやっていたくらいに性欲旺盛だ。
「そろそろ場所限定にした方がいいかも……」
 廊下に滴る精液の乾いた物を拭き取りながら、阿古は呟く。
「だな……」
 ちょっとは反省して嗣永は言うのだが、いつもその約束だけは守られたことはない。
 嗣永曰く。
「阿古が拒否しないからいいかなって思って」
 という理由を述べるのだが、阿古もそれを責任の擦り付けとは言い返せない。
 だって嗣永は毎回確認をしているのだ。
「阿古、どうする?」
 そう言っているのを、阿古がそのまま。
「ここでして!」
 と答えているのである。
 それを覚えているから、阿古の責任になってしまうわけであるが、それでも阿古が断れないことを知っていて聞いている嗣永も確信犯である。

感想



選択式


メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで