ジキルでハイドな男 番外編

夢なかば

 真継(まつぎ)はぐったりとした身体をゆっくりと起こした。
 まだ夜は明けて無くて、暗闇が部屋を包んでいる。気温は朝方とあって少し肌寒い感じがするが、それさえもさっきまでの熱からすれば、まだ気持ちがいい程である。
 隣ではさっきまで抱き合っていた恋人である凪(なぎ)が眠っている。
 昨日、帰ってくるなに、凪は少し酔った様子だった。
 バイト先での送別会に出ていたらしく、かなり酒を飲まされていた。
 その酔った凪は真継を求めてきた。いつもの事ながら、真継は逃げ切れず、断わりも出来ずに受け入れてしまうのである。
 嫌なことではないが、やはり凪が酔っているというのが引っ掛かっている。その勢いで抱かれるのは好きでは無かった。
 酔っている凪は卑猥な言葉を投げ掛けてくるし、容赦はしてくれない。泣いてやめてと頼んでも無駄 なことで、結局真継は流されるままに抱かれてしまうのだった。
 またか……そんな溜息が漏れてしまう。
 用意していた夜食も食べずにまだテーブルに残っているはずである。
 起きたのだから、ついでに片付けておくか、そんな気分でベッドを出ようとした。すると、いきなり腕を掴まれて、またベッドに転がってしまう。
「うわっ!」
 急に上下が動いて、真継は大きな声を出してしまった。
 引っ張ったのは凪しかいない。
 ベッドに引き戻されて、真継はキョトンとしていた。凪はさっきまで寝ていたはずである。
 それがどうしていきなり起きたのだろうかと思ったのである。
 凪は真継の腕を掴んだままで、まだ俯せ状態。
「……凪さん?」
 真継は小さな声で凪を呼んでみる。
 だがすぐに返答はなかった。
 凪は寝惚けているのだろうかと思って、真継は自分を掴んでいる腕を離してみようとした。でも、その力は眠っているとは思えないほど強くて、外れてくれない。
「うーん……」
 これはどういうことなのだろう?
 そんな呟きが漏れてしまう。
 凪はまだ起きてくれない。
 このままの状態でいるのも何だしと思って、真継は凪を起こしてみることにした。
「凪さん、寝惚けてないで、腕離して下さい」
 そう耳元で呼び掛けると、腕がすっと離れた。
 無意識でも聴こえているのだろうと思ったのだが、次の瞬間、凪の目が開いた。
「凪さん、起きました?」
 真継が問うと、凪はもぞっと動いて真継の方を向いた。まだ少し眠そうな顔をしているが、目は覚めているようだ。
「何処へ行く」
 いやにはっきりとした声で凪は真継に聞いた。
「夜食、片付けようと思って……」
 真継が正直に話すと、凪は大欠伸をして起き上がった。
「んなの、明日でいいじゃねえか」
 そんな事を言う。
 明日ってあんた……そう言いたくなる。
「もう日付け変わってます」
「あ? そうか……」
 また大欠伸。
 余程眠いのだろうと真継は思ってクスクス笑ってしまう。
「なんで笑ってる?」
 ふたたびベッドに寝転がった真継に凪は不思議そうな顔をして真継を見下ろした。
「だって、眠いんでしょ。無理して起きなくてもいいのに」
 そう言って、真継はまだクスクス笑っていた。
 凪はそんな真継をみながら、もう一度欠伸をしてからこう言った。
「夜食、朝食べるから、そのままでいい。今は一緒に寝ようぜ」
 真継に覆い被さるようにして、凪は真継を見下ろした。
「目が覚めたんだもん」
 真継はそう言って、凪の下から抜け出そうとした。
 だが、凪は真継を捕らえた腕を緩めようとはしない。
「じゃ、もう一回出来るな」
 ニヤリとして凪が言った。
「もういいってば……腰痛いもん」
「俺はまだ足りない」
 凪は言ってから、真継の頬にキスをした。
「もう……」
 この絶倫男、どういう体力してる訳?
 真継はとほほと情けない顔になる。ついさっきまで散々やっておいて、まだ足りない?
 変だ。そうとしか真継は思えない。
 凪は黙っている真継が承諾したのだと思って、唇にキスをしてきた。
 そのキスはだんだんと深くなってきて、その気のなかった真継をその気にさせて行く。
 キスの合間に漏れるのは、さっきまでの熱を持った甘い声だった。
 キスを終えると、凪はゆっくりと真継の胸に顔を伏せて、まだ弄ってもいない突起を口に含み音を立てて吸った。
「ん……っ」
 鼻にかかった声は、耳にも心地いいほど甘い声だった。
 それで抵抗していた真継も身体の力が抜けて全てを凪に預けるようになる。
 冷えかけた肌が熱くなり、少しずつ息が乱れていくのが凪には手に取るようにわかる。
 舌で舐め上げて、歯を軽く当てると過剰に思えるほど身体が跳ね上がった。
 その反応に凪は満足していた。
 こうなるように自分が教えた反応だったからだ。
「あ……あぁ……っ」
 空いた手を身体のラインに沿って滑らせ、腰骨の辺りに触れた時には、また真継の身体が震えた。
 空いた胸の突起に指を這わせて撫で上げる。執拗に攻めると、細い声が救いを求めるように上がってくる。
「や……んっ」
 凪は執拗に胸のあたりを攻めていたが、やがて少しずつ真継の身体に沿って下の方へと移って行った。
 なめらかな肌にキスの痕が残り、それは下腹部に及び始めている。
 真継の中心に辿り着くと凪は躊躇うことなく唇で触れた。
「やっ……あ……」
 温かく湿ったものが敏感な部分に触れて、真継はびくんと大きく背を浮かせ、きつくシーツを握り締めた。
 手で触られるよりもずっと快感は深くて、ねとりと絡み付くように濃かった。
 濡れた音がしている。
 今でもまだ慣れないその行為に、真継はかぶりを振った。
 感じるままに、足先がシーツを掻くように動いた。両手で凪の髪を見出し、背中をシーツから浮かせて嬌声をあげる様は、普段の真継からは考えられない程官能的で凪の目を楽しませる。
 よじれそうになる腰を強引に押し付けた。
「あぁ……」
 もどかしげに首を振り、半泣きになるのが可愛らしい。こうやって一方的な愛撫で執拗に攻める時の方が真継は泣きそうになる。
 口の中で愛おしみながら、濡らした指先で後ろを探った。
 既に解れている孔は、ゆっくりと指先を受け入れて、愛撫に合わせて動かしていく。淫猥な音と、真継の喘ぐ声だけが聴こえてきた。
「あっ……ああ!」
 腰が揺れるのはもう無意識だ。
 執拗に繰り返される愛撫に、真継は涙を流していた。
 指は奥まで入り込んで、中を滅茶苦茶にしていく。真継の感じる場所を何度も指の腹で擦り、奇声を上げさせた。
「ん……もう……」
 凪が欲しい。
 そうとは口に出して言えず、ただ凪の名前だけを呼んだ。
「なぎ……さんっ!」
 愛撫を繰り返していた手が中から抜かれ、熱いモノが押し付けられた。
 それに合わせて真継は深呼吸を繰り返す。
 いくら慣れた行為とはいえ、まだあの圧迫感には慣れて無かった。準備するように息を深く吸い込んだ。
 その真継の息に合わせて、腰を進めてくる。幸い、ほんのさっきまで繋がっていただけあって、あっさりと凪を受け入れることが出来た。
「んんっ……あ……」
「全部入った……やっぱり真継サイコー」
 まだ酔っているのか、卑猥な言葉を発する凪。
「ん、もう……何言って……あ!」
 真継が文句を言おうとすると、凪が腰を二三回動かしたのである。それにさえ感じてしまう真継。
 腰を引くと内部が絡み付いてきて、押し入っていくと抵抗しながらも包み込んでくれる。それは凪にとってはたまらない快感だった。
 細い腰を掴んで揺さぶれば、悲鳴の様な声が上がった。
「やっあ……あ、あぁん……」
 真継は何度も首を振って、その衝撃に耐えようとしている。与えられる快感で、真継は涙を流し続けた。気持ちが良くて流れる涙である。
 凪はそんな涙をキスで吸い取って舐めていく。
 自分が与えるモノで真継はこうなっているのだから、嬉しくなってしまう。
 深いところまで押し込んで、更に一気に引き抜く。そうした行為を何度も繰り返すと、真継の身体はただ快楽に溺れて行くだけの身体になっている。
「も……だめ……」
 真継は凪をぎゅっと抱き締めて、耳元で甘い声を上げた。
 限界が近い証拠だ。
 凪は真継の絶頂に合わせて一緒に達した。
「あああ!!」
「っ!」
 二人は同時に達した。
 凪はすぐに抜いてくれたが、真継はまだ空ろな表情で荒い息を繰り返し酸素を取り入れていた。
 今度は気絶せずに済んだようだった。
 いつも性急な凪に流されると、真継は慣れた今でも気絶してしまっていた。それだけ快楽を与えられている証拠ではあるが、いつもでは凪が物足りないのではないかと真継は思っていた。
 だから起きるたびに凪にセックスの続きをされてしまうというパターンが続いていた。
 今日だって、性急な凪のセックスに流されてそのまま気絶していたのだから。
 凪の腕の中でグッタリしていた真継が、ほうっと吐息を洩らした。まだ息は整ってないが、絶頂の余韻は少しずつ引いてきたようだった。
「あー気持ちイイ」
 ひんやりとした空気が心地イイほど、二人は薄らと汗を掻いていた。まだ仰向けで何も言えない真継は天井を見つめたままで身動き一つしない。
 凪は真継を引き寄せて抱き締めた。
「凪さん」
「なんだ?」
「まだお酒抜けてないでしょ……」
 少し眠くなってきたのか、真継は目を瞑ったままだった。声でもなんだか舌ったらずな感じである。
「そうだな、もうちょっとで抜けそうだ」
「も……やだよ」
 酒に酔ったまま流されてしてしまうのには、やはり真継には抵抗があることだったらしい。ぷいっとそっぽを向かれてしまって凪は苦笑する。
「真継……ごめんな。昨日飛ばし過ぎた」
 凪はそう言って真継の頭を撫でる。ついでに髪を梳いてやると真継は心地いいのか何も言わなくなってしまった。
 こうした情事の後に優しくされると、真継は嬉しくてたまらなくなるらしい。
 恋人が機嫌を損ねた時の和らげ方など凪はちゃんと心得ているから大丈夫である。
「真継、寝た?」
「……ん、起きてるよ」
「風呂入らなきゃ」
「うん……でも、もう少しこのままで……」
 真継は、この余韻に浸っていたい気分だった。この微睡んだ感覚がとても心地いいから好きなのだ。
「そうか」
 凪は少し笑って、また真継の頭を撫でてやった。
 そうしているうちに、真継の方が眠ってしまったのである。
 一緒に風呂に入ろうと思っていたが、それは無理になってしまった。
 仕方ないので、凪は起き上がって、風呂の湯をタオルに浸して真継の身体を拭いてやった。
 中出ししなくて正解だったようだ。
 裸のままでは風邪を引いてしまうので、パジャマを掻き集めてそれを着せてからちゃんと寝かせた。
 その間、真継が起きる事は無かった。
 凪は軽くシャワーを浴びてパジャマに着替えると真継の作った夜食を食べた。
 相変わらず凝った料理を作る真継の食事は美味しかった。
 後片付けは朝に回して、さっさと寝室に戻る。
 ぐっすりと眠っている真継の横に滑り込むようにしてベッドに入る。そして真継を抱き寄せる。真継は無意識ながらも、凪に抱きついて寄ってくる。
 自分はここで寝るのだと決めているのか。いつもと同じ場所に収まって穏やかな息をつき始める。
 それを確かめてから凪も眠りについた。
 明日は休みである。
 このまま昼までのんびりと寝るというのもいいだろう。
 凪はそんな事を思いながら眠った。
 でも翌日。
 起きた瞬間から真継に文句を言われたのは言うまでも無い。

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