恋愛感染エゴイスト 1

一日の出来事(前)

「あーここ何処だっけ?」

 ぼーっとした頭のままで、羽多野弥斗(はたの やと)は、ベッドに寝たままで今自分が置かれている状況を把握しようとした。
 見上げる天井は、到底自分の家ではないことははっきりとしている。

 自慢ではないが、自分の家は一般家庭とは違って莫迦みたいな洋風の飾りがある灯りがあったりで、手が直ぐに届きそうな距離に天井はない。
 ぶら下がってる電気は見たことないものである。おかしいとは解っていても、すぐに頭が反応してくれるわけでもなかった。

 ぼーっとするのは……あのせいかもしれない。
 思い出しても恥ずかしい出来事。それは……人には言えない甘い時間。

「もう起きたのか?」
 そう声がする方を見ると、相手がにやっと笑っている顔が目に入る。
 弥斗には見覚えがあって、それでいて憎々しい相手でもある三沢慶樹(みさわ けいじゅ)だ。

「……三沢……っ」
 急に弥斗は自分が何をされたのかを思い出し暴れようとするも、蹴り上げた足は押さえられてすぐにあそこに手が添えられた。

「あ……っ」
 びくりと反応する。それはもう完全に身体が覚えてしまったものだ。その手に触れられるともう駄目で、大人しく身体が開いてしまう。

「くっ……あぁ……」
「いい子だね……この身体は、とても甘い」
 三沢はすっと軽い動作で弥斗を押さえ込むのに成功している。抵抗しても無駄だと分かるのはこういう時の三沢の軽い動作であろう。

「あぁ……はあ……んん……だめっ」
 首筋をすっと舐められて、あそこには大きな熱の固まりが入ってくる。

「んん……あ……は……ん……っ」
「呑み込むのが上手くなったな……でも中はまだまだキツイ」

「いっ一々言うなっ!!」
「……っ……叫ぶとまた締め付けてくるな……ほらもっと溺れろ」
 ぐっと腰を突き入れられて弥斗は甘い声を上げる。

「あああっ……!!」
「ほら、中は全然拒んでいない。私を求めている。もっともっと求めろ」

「い……あ……いやっ……いっちゃう……また……いやあぁ……っ」
「もっと達けばいい。何度でもしてやるよ」

「……いい……いい……よ……あ……ん……あん……っ」
 三沢の腰の動きに合わせて弥斗も腰を振る。いっぱい求めて求めて達するととても気持ちいいことを教えられたからだ。

「あ……も……だめ……っ」
 また頭が真っ白になりそうで弥斗が助けを求めるように三沢に手を出すと三沢はしっかりと抱き留めてくれる。そしてそのまま弥斗は意識を飛ばした。


 弥斗(やと)がここへ監禁されたのは、ほんの数日前のこと。
 大学から隣に住む友人でもあり、弥斗が兄と慕っている西巻逸郎(にしまき いつろう)との帰り道の出来事だった。それは日常を壊すには十分過ぎるくらいのことだった。

「んでさ、明日から退屈な日になっちゃうんだよね」
「弥斗、退屈はないだろう。おじいさんの命令だから仕方ないけれどさ」
 明日から弥斗は家から出ることを一切禁じられてしまうという不幸なことになっている。

 弥斗を引き取ってくれた祖父は大変なお金持ちであるが故に、今の時期に体調を崩したことでその後の遺産相続が心配されている。

 西巻久弥(にしまき ひさや)は弥斗の本当の祖父であるが、母親が家出をして作った子供だったためか、少々厳しく弥斗に当たってくる。それが弥斗には我慢出来ずに母親同様に家を抜け出そうと考えていたが、その考えを止めてくれたのがこの兄と慕っている逸郎の存在だった。

 彼は常に弥斗をかばってくれて、優しく接してくれる存在で、泣いている弥斗を何度も慰めてくれたりもしたから、弥斗が逸郎に懐くのはすぐのことだった。それから10年経った。小学生だった弥斗も大学生になり、その間に祖父も身体を崩すようになった。

 やたらと家に弁護士が出入りするようになり、周りはなんだか葬式に向けての準備を始めたかのようになってしまっている。

 西巻の家からも叔父の隆宏(たかひろ)が出てきて仕切ってきたりと、弥斗にはこの祖父と二人で暮らしてきた家が自分のものではなくなる日が近いことを知ってしまった。

「そういえば、また父さんが弥斗のうちの中勝手に模様替えしちゃってるって?」

「あーうん。なんかいろいろ移動させたりしてる。それはいいんだけど、おじいちゃんに怒られるよなと思う。元気になって出てきたらどうするんだろう?」

「それは父さんが怒られて全部元に戻すことになるだけだと思うよ。あの人も困ったもんだ。財産なんて弥斗に全部行くのは当たり前なのに、なんで相続権すらないのにはりきってるんだろうね。不思議だ」

 逸郎はそういってほとほと困り果てたように言う。西巻という名前を持っていて隣に住んではいるが、祖父との血のつながりはなく、祖父の弟からの血筋である西巻隆宏は何故か張り切って遺産をもらうつもりらしい。自分にはその権利があると思いこんでいるようだった。

 祖父からの遺産は直系である弥斗にしか相続権はない。弥斗には父親はいないし母親はすでに亡くなっているし、祖父には弥斗の母親以外に子供がいなかったのだ。
 会社関係はそのまま西巻の分家が手伝うようになっているから、相続した中でも会社関係はそのまま隆宏が受け継ぐとしても、家までもらえるわけではないのは誰にだって理解出来ることだ。

 それなのに家の中まで改装して、もう自分がもらう気になっている隆宏は、弥斗を邪険に扱うようになってきていたのだ。
 弥斗はまったく気にしてない範囲ではあるし、相続したあの家を維持していくのは無理だから、もし自分が相続したら手放して隆宏に売ってもいいとさえ思っていた。

「もういいんだけどさ。家から出るなってこと言われても、俺、夏休みの間ずっとってのは耐えられないんですけど」
 弥斗はそう言ってはあっとため息を吐く。検査入院した祖父はちょっと夏バテを起こして入院することになったのだが、その間家をちゃんと守るように家から出るなと言われてしまった。遊びに行くのも駄目、お金は必要以上に与えられてないから出かけるにしたって先立つものがない状態で、言うとおりにするしかないかもしれないのだ。

 そうして夏休みが始まった今日は見舞いに行ってきて、それを言い渡され、不機嫌なままの帰宅となってしまった。

「暇になったら僕の部屋に遊びにくればいいよ、庭伝いだし、何かあったらすぐに家に戻れるでしょ」

「あ、ありがとう。だから逸郎さん大好きなんだ」
 弥斗が無邪気に微笑むと、逸郎はにこりとして言う。

「僕も弥斗は可愛いから好きだよ」
 そう言っていた時に家の前の道にきた。その時だった。急に車が横付けされたと思ったら、中から出てきた人間がいきなり弥斗を抱え上げて車の中に押し込んだのだ。

「や、弥斗!!」
 逸郎が止めようとして阻むも殴られてしまった。そのままドアが閉まる。

「な、なにをするっ!!」
 弥斗が叫んで抵抗しようとすると相手は弥斗の口に布を当ててきた。それが嫌な匂いがするもので勢いよく吸い込んでしまった弥斗は身体が言うことをきかなくなってしまう。
 ドアの向こうでは逸郎が弥斗と叫んでいるが、それも振り切るように車が走り出してしまう。

 あーこれ誘拐ってやつか?と弥斗が考えた時には意識がなくなってしまったのだった。

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