Hello.Hello

4

「う……わっ」
 ぐるっと周りに景色が回ったと思ったら、五十嵐(いがらし)に抱えられるようにして階段を上っていた。

「い……五十嵐さん!」
 アリスがそう叫ぶと同時に階段を上り終えた。そしてベッドに放り出された。

 一体何なんだ? とアリスが見上げると、五十嵐がアリスの上に乗りかかってくる。
 反射的にアリスが五十嵐の体を押したのだが、一向に空間は開かない。

「や……っ」
 スッと撫でられるように、股間に手を這わせられてアリスの体が強ばる。まさかと思う気持ちと、そんなことはないと思う気持ちがあってどう反応していいのか解らない。

 それにキスをしたからと言って何の意味があるというのだ。全然解らない。

「五十嵐さん……っ」
 五十嵐がいきなりこういうことをしてくることの意味を問おうとして口を開いたのだが、それと同時に五十嵐が服の中に手を入れてきた。
 胸の粒を引っ掻くようにされて腰が跳ね上がる。

「いやっ……」
 電撃が走ったように体が跳ねる。自分で触ったってこんなところは何も感じないのに、五十嵐が引っ掻いて更にこねるように撫でるだけでそこに意識が向いてしまう。

「あっ……」
 思わず甘い声が出て、アリスはびっくりする。

 今の自分の声? なんで?
 また声が出そうになって、パッと口を押さえて声が漏れないようにした。

「んん……っ」
 奥歯を噛んで必死に声を殺すも、無情にも声は漏れてしまう。
 必死で声を抑えるアリスを見て、五十嵐はくっと笑った。

「ま、いいんだけど」
 自分を押させていた手がなくなったことで五十嵐はさっさとアリスのワイシャツを脱がした。
 赤くなっている乳首に吸い付く。
 舌で転がしてやると、アリスの体が浮き上がる。ちゃんと反応している証拠だ。

「ん……んんんっ」
 声を殺しているアリスのズボンも脱がして下着も一緒にはぎ取る。その間も乳首を嘗めて刺激を与えていると、脱がされていることに気づく余裕がないらしい。

 膝を割って体を入れ、膝を閉じれないようにして体勢を整えると、ゆっくりと体をずらして下半身へと進む。
 手で脇腹を撫で、腹にキスを沢山降らせて下へ進むと、アリスの中心が反応している。

「んっん……」
 ここまでは我慢しているようだが、これには耐えられるか?と五十嵐は妙な征服感がわいてくる。

「耐えられるかな?」
 そう呟いて、アリスの中心に手を伸ばし、握って扱いてやる。

「ああっ……やあっ……」
 自分でやった記憶がないから、いきなり与えられた他人の手の感触にアリスの塞いでいた手が離れた。
 その手は下半身を這う五十嵐の頭を掴んで引き離そうとしている。

「やめっ……ああっ……」
 ゆっくりと扱いて、内股にキスをする。これだけでも達しそう
だったが、更に刺激を与えてやった。 

「ああああっ……!」
 ちょっとの刺激で達してしまったアリスは荒い息を吐きながら少し遠くへ視線を飛ばしていた。
 白く吐いた精液を撫でつけ、腹に付いたものを舐め取る。

「はあ……はあ……ん」
 ひくひくとする体はまだ与えられた快感に震えている。
 五十嵐は萎えたアリスの中心をすっとさすってそれを口に咥えた。

「あっ……やっ……ああああ!」
 達してしまって遠くへいっていたアリスの意識が戻ってくる。まさか五十嵐がそうしているとは思いもしなかったらしく、驚愕の顔をしていた。

 だが、それに五十嵐が視線を向けると、さすがに恥ずかしいらしく目を背けた。

「な……なんで?」

 なんでそんなことするの?

 そう問いたかったのに、生暖かい五十嵐の口内に包まれている中心がすぐに反応した。
 ぐちゅぐちゅと音が聞え、舐められている感触がして、とてもじゃないか耐えられない。

「あああ……いやあ……あっあ……」
 いやらしく動いている腰がまるで誘っているように見えるから、五十嵐もどうかしていると自分で思う。
 口の中で張り詰めたアリスが、また達した。

「あああああっ……!」
 口の中で達したものを五十嵐は躊躇なく呑んだ。

「はあ……はあ……」
 アリスの恍惚な顔は非常にそそる。視線がここにはなくて、意識もどこかへいっているのだが、凄く色っぽい。
 普段はストイックな感じなのだが、こうも色っぽく変わってしまうのは意外だった。

 連続で二回もいかされたアリスは、ゆっくりと目を瞑るとそのまま寝てしまった。
 それにおいおいおいおいと思ったのは五十嵐だ。

「こんな時に無防備に寝るか?」
 体をずらしてアリスの顔を覗き込んで、頬を軽く叩いてみるが、見事に寝られた。

 小さな寝息を聞いていると、無理矢理起こしてやる気もそがれて、五十嵐は苦笑する。

「まったく、大物なんだか……なんなんだかな」
 そう呟いて五十嵐は自分も暴走していたことを自覚した。

「意味ねえ。意味……」
 呟いて苦笑する。

 ここまでやっておいて、今更な気がする。そもそも自分は一目惚れをしていたのだから。確かにこういう関係もいいとは思ったが、それを理性で押さえてこその大人だと思う。それでも止まらなかったのは、駅の階段の時と同じ、寝不足で自分の判断がおかしくなっていたということだろう。

 それと同時に、アリスは明日いなくなるんだろうなと思った。
 こんなことをされてまで一緒にいようとは考えないだろうし、黙って出て行くだろう。

 その時に自分はいない方がいい。
 五十嵐はそう判断して、アリスに服を着せると、ゆっくりと仕事部屋に戻った。




 ふと目が覚めたのは、朝だった。
 何か疲れているような気がして起き上がってアリスは部屋を見回した。

「寝てた……」
 ふっと意識が浮上すると、ハッとした。

「昨日っ」
 すぐに五十嵐にされたことを思い出した。 あんな恥ずかしいことをされた。

 でも何故?
 自分は意味を聞いたのだ。何故、唇を撫でたりしたのか。頬を撫でたりしたのか。
 そしたらあんなことをされた。

「ますます意味が分らないよ……」
 アリスは頭を抱えて悩んだ。

 その時だった。
 下で物音がする。五十嵐が起きてきたのかと思い、すぐに寝たふりをした。
 すると足音は階段を上ってくる。今来られても非常に困る。どう反応していいのか解らずに混乱していると。

「しーんや! あんた、家電切るとか、携帯にも出ないとかふざけんじゃ……!」
 と、叫ばれて布団を剥がれた。
 どう考えても今の声は五十嵐ではない。それに相手は女性の声だ。

「……え?」
 アリスが目を開けて見ると、目の前にかっこいい美女が仁王立ちしていた。

 誰だろ? そうアリスがキョトンとしていると、女性は一瞬驚いたらしいが、それからすぐに面白そうな目をしてアリスを上から下までなめ回すように見た。

 そして、顎に手を当てて、うんうんと頷いている。
 何かに納得したらしい態度。

「……あの」
 五十嵐なら仕事部屋にと言おうとしたのだが、女性はそれを手で制してベッドに腰をかけた。

「うんうんうん、いい感じ。こう、なんというかイメージがわくというか。ああ、これをなんと表現したらいいのかしら」

「はい?」

「うんうんうん。いい声してるね。あららら、細い。ちょっと立ってくれない?」

「はあ?」
 女性はベッドに座ったままで、ベッドの横の床を指さして言う。

 訳が分らなくて、一応逆らわない方がいいだろうと判断したアリスは、素直にベッドから降りて立ってみた。

 女性は上から下までアリスを見て、それから立ち上がって、アリスの周りをぐるりと一周した。

「うんうん」
 何か納得している。
 そして急に手が伸びていたと思ったら、顎を掴んでくっとアリスの顔を上向けにした。
 女性はアリスより身長が少し高いくらいで、女性では長身な方だろう。少し体を屈めて下から見てくる。

「……あの」
 見下ろす形になるのは仕方ないが、これは何なのかを問うとすると、女性はニッとして笑う。
 その笑い方が妙に五十嵐に似ている。

 それが恥ずかしくて、更に昨日のこともあって顔が赤くなっていたと思う。
 そういう反応のアリスを見ると、女性ははあっと溜息を吐いてアリスを解放してくれた。

「あのー」
 いい加減誰なのかを聞こうとするのだが、今度は女性は何か思案するような顔をして、喋らなくなった。

 ああ、なんか五十嵐が二人いる。
 思わずアリスはそんな感想を持ってしまった。

 この集中ぶりといい、いきなりな行動といい似ているとしか思えない。
 どうしよう、とアリスが溜息を吐くと、女性は意識がこちらに戻ってきたらしく、アリスを見て言った。

「で、君は誰?」
 それを聞いたアリスは脱力した。

 さっきからそれをアリスが聞きたいと思っていたというのに。なんだこのマイペース。
 ふうっと溜息を吐いて、女性がベッドに座るようにベッドを叩いて席を勧めるので、アリスは素直に座った。

 そこでアリスは自分の記憶喪失のことや、五十嵐との関係を話すことになった。

 それを聞いた女性は、ぽかーんと聞いていたが、急に立ち上がってドタドタと猛スピードで五十嵐に仕事部屋に突撃していった。
 唖然とするアリスを置いて、女性はドアをノックすることもせずに。

「しーんや! あんた、こんな大変な時に何ぐーすか寝てるのよ!バカ!」
 と、どうやら寝ている五十嵐をたたき起こしているらしい。

「うわ! お前、いきなりなにするんだよ! 大体どっから入ってきた!」

「玄関から堂々と入ってきたに決まってるでしょ! あたしに忍者のように壁を這い上がってベランダにたどり着いて、ガラス窓取り外して入ってこられるわけないじゃない!」

「お前ならやりかねん! つーか鍵!」

「それは、あんたが解雇にしたハウスキーパーから預かったに決まってるでしょ! カードキーが不正にコピー出来るわけないじゃない!」

「お前のキャラならやりかねん! 裏組織とか若旦那とか!」

「ネタをごっちゃにして言わないでくれる! それならあんたのキャラだって十分じゃないのよ! なにあれ、あのイメージの子、しかも記憶喪失とか、思いっきりあんたのストライクじゃないの!」

「お前! また二階のベッドに襲撃かよ! つか、アリス!」
 なんだかとっても壮絶だ。

 ぽかんとしながらもアリスは様子を伺おうとリビングに降りていた。

 そこに仕事部屋から五十嵐が飛び出てくる。そしてアリスに近づくと肩をぐっと掴まれて真剣に言われた。

「大丈夫か? あいつに何かされなかったか?」
 そういうのである。

 というか、したのは貴方じゃないですか。とは言えず、アリスは正直に答えた。

「いえ、別に何も……」
 アリスが拍子抜けした声で答えると、五十嵐は本当にホッとした息を漏らした。

「何かされたとか失礼ね! ネタの参考にイメージを貰っただけよ!」
 女性がそう叫んで部屋から出てくる。

「お前のネタは下品だからなおさら心配するに決まってるだろ!」
 五十嵐はそう言いながら女性に向かって怒鳴る。

「あんただって十分だと思うわよ!」

「お前の方が!」
「あんたの方が!」
 そう怒鳴り合ってにらみ合っている。

 これを止める術はないものかと、アリスは少し考えたが、大人しくコーヒーを入れることにした。その間も二人の口論は止まることはなく、どうやらこれは毎回のことなのだろうなと納得しながら、リビングにコーヒーを運んだ。

 頭の上で続く口論をアリスは。

「コーヒー入りましたよ。どうぞ」
 と言う一言でピタリと止めてしまった。

 ヒートアップしていた二人は、その言葉に一瞬唖然として、そして顔を見合わせて苦笑した。

 まさか、コーヒー一杯で止められるとは思わなかったのだ。

 仕方なく二人は向かい合わせでソファに座り、アリスが入れたコーヒーで喉を潤した。

 とりあえず口論が止まったので、アリスはよしとして、一応この女性を紹介してもらうことにした。

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