Fearless
5
緋織の抵抗がなくなると、戌亥はキスをやめ、緋織の顔を見下ろした。
「んぁ……はぁはぁ……」
混ざり合った涎を呑み込んだ緋織は、深呼吸するように息を吸い全身で呼吸をしていた。
戌亥は緋織のスーツを脱がしネクタイを取り、ワイシャツのボタンを外して開かせると、そこに手を伸ばして肌に触れた。
一年前、この体を触った時、予想よりひ弱だった。だがこの一年で体つきは少し変わった。男らしさが出てきて、忙しい大学生活で体力が付き、そして身長も少し伸び、戌亥が理想としている体つきになりつつある。
一年我慢している間に、緋織に好きな人が出来る可能性もあったし、このことに目覚めて誰かに抱かれしまう可能性もあった。
けれど、緋織は綺麗なままだった。戌亥が一年前に触ったままの感触を覚えていたし、妙な癖もついてなかった。
それがどれだけ嬉しかったか緋織は知らないだろう。この体はまだ自分しか知らないという事実が戌亥をどれだけ舞い上がらせたか。
戌亥は覆い被さるようにして緋織の首筋からキスマークを付け、乳首まで執拗に舐めた。
「ん……あっ」
ぴくりと緋織の体が跳ねる。緋織には沢山弱いところがある。そこを突いてやると体が反り返る。
その隙にベルトをとっくに外していたズボンを一気に下着ごとはぎ取った。
開いた脚の間に体を入れて、再度乳首を弄る。柔らかかった乳首は硬くなり感度も増す。口に含んで舌で転がし、押しつぶしたりしていると緋織の甘い声が上がる。
「ん……んっ……あっ……」
放置されていたもう片方の乳首を指で摘んだり転がしたりし、両方攻めてやると緋織の体が快楽で震え始める。
「いやぁ……だめっあっあっ」
戌亥の下にいる緋織が暴れるように体を揺らしているが、密着した体に押し潰れている緋織自身が反応してぬめっとした汁を出し始めている。
わざと体を動かしてやるとそれが擦れて余計に感じるらしい。乳首を緋織自身をじらすようにしながら絶頂へと導いてやると緋織はすぐに達した。
「あぁあ――――――っ!」
相変わらず可愛い声で達く。それに戌亥は満足して笑い、ベッドサイドにある棚からジェルを取り出した。
その間緋織の視線は何処を見ているのか分からない空をさまよっている。
あの記念日にした後、緋織はオナニーすらもしてなかったようだ。普段淡泊なのか、性的なことには興味すら持たない性格らしい。
だが、一度開いた体がどれほど乱れるのかを戌亥は知っている。
ジェルを塗った指を緋織の孔の中へと進入させると緋織の意識が戻ってきた。
「あ……んんん……んっ」
「きついな」
指を一本入れただけで中はきちきちとしている。戌亥はそこを傷つけないように慎重に指で広げていく。
最初は少し痛いが、戌亥のやり方は丁寧だった。緋織を絶対に傷つけるようなことはなく、寧ろ丁寧過ぎてじれったくなるほどだ。
一本で解し、二本入れて解しと、かなり時間をかけて孔を広げていく。三本目まで入れて中を擦ってやると緋織は体を震わせている。
「んぁ……んん……あぁ……いぬい……」
緋織が戌亥の名前を呼んで手を広げて待っている。「どうした?」
戌亥は孔の中から指を抜いて、緋織に覆い被さる。「ん……もういいから……」
緋織はそう言って戌亥に抱きつくと、戌亥の耳元で言った。
「いれて……」
甘い声で緋織が誘ってきて、戌亥はふっと笑った。「了解」
脚を抱え、孔の中に己を突き入れると緋織は耐えるように更に戌亥をキツク抱きしめた。
最初が辛いことは分かっている。だがその後の快楽も知っている。
「あ……ん……あぁっ」
奥まで入れてやると緋織は全部入ったのが分かったのか何度も深呼吸を繰り返していた。
「大丈夫か?」
戌亥が緋織の顔が見たくて少し体をずらすと緋織の笑顔が飛び込んできた。
「へいき……」
にこっと笑い、驚いている戌亥に緋織は自分からキスをした。重ねるだけのキスだったが、戌亥が緋織から誘われたのはこれが初めてだ。
戌亥は貪るように緋織とキスをして、とろけている緋織の体を抱いた。
「今日は、止まらないぞ」
戌亥はそう宣言してから緋織を脚を抱え、挿入を繰り返した。
「あっあん……あぁっんぁ」
ギシギシとベッドが軋む音と緋織の甘い声と孔に出入りするぬめった音が響いていたが、緋織には時々聞こえる戌亥の感じている声しか聞こえてなかった。
自分の体を抱く戌亥が、この体に溺れて、額にうっすらと汗を掻いている。中にいる戌亥自身は大きく、緋織の中を犯すのだが、それが一つになった気がして凄く安堵する。
夢中になってくれる。この時は全部を任せてもいいのだと思うと嬉しくて仕方ない。
こんな酷い男に夢中になってしまっている自分に気付いて緋織は莫迦だなと思った。
最初から戌亥に夢中だったのは明らかだ。
それを今実感するのが莫迦だと思えたのだ。
「んぁっあっあっ……ん、もう……いくっ」
中のいいところを擦り上げられて緋織が言うと、戌亥はより一層強く奥を突いて、緋織を達かせた。
「あぁああ――――――っ」
体を反り返して達すると、その奥に戌亥の温かいものが叩きつけられたのを感じた。
性を吐き出したのだが、戌亥自身の大きさは変わっていない。ドクドクと脈打ち、内部を締め付けていた緋織にはダイレクトに伝わってくる。
「……ん、まだ……」
お願いだから離れないでくれと戌亥を引き寄せると自然と零れた涙を戌亥が唇で拭き取った。
達したばかりの体はどこも敏感になっていて、戌亥が触るところは全て感じてしまう。
「……戌亥……好き」
這い回っている戌亥の手を唇に当ててその手にキスをすると緋織はそう呟いていた。
まだ本人に好きだと言ってなかったことを思い出したからだ。
「緋織……」
「すごい、好き……」
緋織は何度も好きだと繰り返していた。
こんなに胸の中が充実したのは初めてだったし、気持ちが溢れてる今なら、それをよく感じられて言葉にしないではいられなかった。
「お前は、まったく」
戌亥が苦笑して緋織の顔中にキスをした。
「煽るなよ、セーブしてられないだろう」
戌亥がそう呟いたのだが、もうすでに戌亥は復活したモノをまた動かし始めていたので、それに気を取られた緋織には聞こえてなかった。
「お前、単純だな」
緋織に戌亥との告白合戦を聞かされた東依が開口一番にそう呟いていた。
「そういわれたらそうなんだけどな」
好きだということに気付かなかったという緋織の恋愛体験はゼロに近いものだ。だから戌亥に言われてそう気付いて、戌亥を好きだと言うのも単純であるのは分かっていた。
だが、それでもその気持ちが嘘ではないことを自分が一番分かっているからいいのだ。
「結局、俺の言っていたことが当ってたんじゃん。お前ないないとか言ってたけど」
東依が自分の意見をあっさりないと言われたことを突っ込むと、緋織は気まずそうにしていた。
「あーあれは……悪かった」
「素直でよろしい」
東依は素直に謝る緋織の頭を混ぜっ返した。
「そんで、その後はどうなんだ?」
緋織と戌亥が告白合戦をしてから一ヶ月が経っていた。ちょうどその期間春休みに入っていて、東依には報告が遅れたのである。
「どうもこうも、あれから一回も会ってない」
不機嫌になった緋織がムッとして言うと東依は驚いた。
「何だって……?」
「つかよ、あれから戌亥のヤツ、更に仕事が忙しくなってさ。ちょうど新社員とか入ってくる準備やらなんやらで会社泊まり込みしてんだよ」
ちょうどその頃の戌亥はかなり忙しい。社長補佐である以上、戌亥があらゆる決済を出さないといけないし、不動関係は春は客入れ時で、新しく建てたマンション販売から何からと全部を見ないといけないらしい。
そうなると緋織に構っている暇はない。
実際に家に戻っても寝てすぐに会社に戻り、会社で寝泊まりを繰り返している状態だ。
「だったら会社に行けばいいんじゃね?」
「いやだ。会うだけじゃすまないから」
緋織は東依の提案はさっさと却下した。
「へ? どういうことだ?」
東依が尋ねると、緋織は眉間に皺を寄せてから言う。
「会社行くと、絶対寝泊まりしてる部屋に連れ込まれる。あいつは、忙しくて色々おかしくなってるんだ」
緋織は一度も会社には行ってないが、戌亥の状態がおかしいことは知っていた。
「なんで?」
「夜中に電話してきて、あいつなんて言ったと思う?」
「分からん」
東依がそう返すと、緋織はボソッと言った。
「テレホンセックスしようとか言い出した。絶対あいつおかしい!」
緋織がそう言ったものだから東依はぶはっと息を吹き出して笑った。
「笑うなよ! だから怖いじゃないか、会いにいったら何されるのか分かったもんじゃない!」
飢えた獣に肉を与えるようなものだ。
ただでさえタガが外れた戌亥というのを一度経験しているだけに、その怖さが倍になっている。
あの告白合戦になった日、緋織はそれこそ起き上がれないようにされた。戌亥の欲望は果てを知らず、入れなくても散々緋織の体を弄って達かせて、何度緋織は達したのかさえ覚えていない。
翌日は案の定、ベッドの住人になり、その夕方にやっと戌亥の部屋から帰ることが出来た。
あの戌亥を知っているからこそ、会社に行くなんて選択肢は元から存在しない。絶対に離してくれないのがわかりきっている。
そう緋織が文句を言っていると、携帯が鳴った。
「あ!」
緋織は慌てて携帯に出る。
「もしもし」
『緋織、今すぐ校門の外へ来い。じゃなきゃ中まで行くぞ』
相手は戌亥だった。
「へ? ちょっと待て、中には来るな! そっち行くから!」
声が尋常じゃないほど低い。明らかに何かがコントロール出来なくなっているような感じだ。
緋織は慌てて荷物を持つと、携帯に向かってまだ怒鳴っていた。
「やめろって! 来るな! 行くから来るな!」
冗談ではない。あんな凶悪そうな顔をした人間がここに現れたら何事かと大騒ぎになる。それをなんとか回避したいのだが、戌亥はせっぱ詰まっている。
「東依、ごめん。抜けるな」
次も講義はあったが、これでは無理だ。
「はいはい、いってらっしゃい~。まあ、一ヶ月ぶりだったら仕方ないんじゃないか」
東依はクスクスと笑ってそう言う。
緋織が逃げ回って会おうとしないから、向こうの我慢がとうとう出来なくなったのが可笑しかった。
「明日休みだし、まあいいんじゃね?」
東依が明日は緋織が使い物にならないことを揶揄ってみると、緋織は一瞬で顔を赤くした。
珍しい変化だ。セックス事情すら平気で口にする緋織が顔を真っ赤にしている。
「お前、可愛くなってまあ……」
苦笑して東依が言うと、真っ赤になった顔を叩きながら緋織はそそくさと東依の前から去っていった。それも全力疾走だ。
「なんだ、緋織だって会いたかったんじゃないか。あいつ意地っ張りなんだな」
東依はそれを見てクスクスと笑った。
いい意味で緋織は変わってきている。戌亥に恋愛感情を持って接することで、緋織の欠けた部分が埋まっていっているようなものだ。
緋織が校門の外へ出て車を探すと、黒のベンツが止まっていた。周りを通っている学生たちが興味津々とばかりに車を見て会話している。
一体誰を迎えにきたのか、中に乗ってる人はなんだろうかというようなことだ。
いつからそこに居たのか分からないが、かなりの噂は広まるだろう。
緋織は急いでその車に近づいて、後部座席のドアを開けた。
「思いっきり目立つだろうが!」
そう緋織が言うのと同時に車の中に引きずり込まれた。緋織は戌亥の膝の上に乗せられて、ドアが戌亥の手によって閉められた。
「だから……っ!」
緋織は再度怒鳴ろうとしたのだが、緋織を膝に乗せた戌亥は緋織の首筋に唇を落として呟いた。
「やっと本物の緋織だ」
抱きしめてくる腕は緋織を大事そうに包み込むように抱き、首筋にキスする唇は愛おしそうにしてくる。
そうされるとどうにも怒りにくい状況だ。
緋織はゆっくりと戌亥の背中に手を回して、抱きしめ返した。戌亥の使っている香水の匂いがして、すごく気持ちよかったのだ。
一ヶ月会えなかったから忘れていた。この手がとても温かいことを。
だが。
「夢の中で、緋織のこと犯しまくって、散々喘がせてたのに、妄想じゃちっとも足りない」
と戌亥が物騒なことを言い出した。
「戌亥っ!」
戌亥は緋織のワイシャツの前を少し開くと、そこに唇を落として強くキスマークを作る。
「……あっ!」
「そうそう、この声。これを聞かないことにはやってる気分にちっともなれない」
そういう戌亥の手はワイシャツの裾から忍び込んで体中を撫で回している。
その間に車は動き出していて、周りの景色は変わっている。スモークを張っているから中が見えにくいとはいえ、さすがに車の中でやるつもりがありそうな戌亥に緋織は抵抗を始めた。
「戌亥っ! 車の中だぞ! やめろってば! いや、あっ!」
戌亥の手がお尻に回っていて、孔の辺りをさわさわと弄ってくる。
「ここに俺のを入れて、出たり入ったりして、お前に締め付けられて達きたい」
ぞくりとするほどの甘い声で誘われて、緋織はキツク目を瞑った。想像するのは簡単だった。一ヶ月前に戌亥がしてきたことを思い出すのは、ここ最近よくあったことだからだ。
禁欲状態だったのはお互い様で、相手の一挙一動に動揺するのもしかなかった。
だが、やはり車の中だ。
運転する百舌がいる。
緋織はハッとそれに気がついて、戌亥から離れようとしてまた暴れ始めた。
「車の中はいやだって! いい加減にしろ! このエロおやじ!」
緋織の首筋に張り付いている顔をはぎ取ろうとしたり、お尻に回っている手を退けようと引っ張ってみたりと散々やってみたが、戌亥の体は超合金で出来ているのかと疑いたくなるほど、がっちりと緋織を抱いたまま動かない。
「もう! ここでやったらもう絶対に会わないからなっ!」
緋織がそう叫ぶと、吸い付いていた唇がふっと離れた。動いていた手もピタリと止まる。
「それは、すごく困る……お前に触れられないなんて、この世の終わりだ」
戌亥はそう言うと、緋織の肩に頭を預けたまま、すうっと寝てしまった。
「え? 戌亥?」
パタリと戌亥の言動が止まってしまうと、緋織は焦った。いつもならもっと強引に来るはずが、今日はそれほどでもなかったからだ。
「寝た?」
スウスウと息をして動かない戌亥に驚いて、緋織が呟くと、運転をしていた百舌が言った。
「すみません、緋織さん。社長、実は48時間寝てないんです」
驚きの事実を聞かされた緋織はギョッとして戌亥の顔を覗き込んだ。
確かに疲れ切った顔をしている。忙しいと聞いていたが、想像以上だったようだ。
「仕方ないな……お前、頑張り過ぎだぞ」
緋織はそう呟いて戌亥の頭を撫でた。
緋織にもたれかかるように寝ている男は常に忙しい。社員分までも不安だから引き受けて仕事をしているらしく、社長の期待を裏切りたくないからと一生懸命過ぎるのだ。
少しは社員に任せてしまえばいいのに、そうすれば緋織と会う時間だって作れたはずだ。
「まったく……」
そうしないところも気に入ってはいる。
だから文句も言えなかったし、邪魔もしたくなかった。
そんな気持ち、こいつ分かってるのかと思いながら戌亥の顔を撫でる。その戌亥の顔が少し柔らかく微笑んでいるのが分かって、緋織はまた仕方ないと諦めた。
どうせこのまま戌亥のマンションに行ったら、戌亥は寝ることよりも自分を抱くことに夢中になるだろう。そして自分もそれに溺れる。
空白の一ヶ月を埋めるように求め合う。それが予想できるから、今は心の準備だ。
緋織は寝ている戌亥を起こさないように用心しながら戌亥を撫でて、一ヶ月頑張ったなと褒めてやった。
もちろん、マンションに行ってからの戌亥の暴走に後で緋織が東依に文句をたれたのは言うまでもない。
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