Complicated
8
佐伯に言われた事を考えていた杞紗(きさ)。
貴緒(きお)からの告白はされていた。
だけど兄弟という足枷が何故か杞紗からの告白を止めてしまう。
ちゃんとしなきゃ。
そうは思っても、中々口に出して言えない。
その間も、貴緒はいつもと変わらない態度で杞紗に接していた。
相変わらず貴緒にはラブレターが届けられ、呼び出されたりしている。
それに嫉妬してないとは言えない。
「お、また貰ったのか?」
教室に入って来た貴緒が封筒を持っているのを見て、堤が突っ込んだ。
「最近、やたら多いな」
「貰っても付き合う気はないんだが、受け取るだけでいいとか言われたら邪険には出来ない。第一杞紗が怒るから」
貴緒は最初貰っていたラブレターをその場で捨ててしまっていた。それを杞紗が怒って、読むだけでも読んであげないと可哀想だと言ったからだ。
そうした事を杞紗から言われると素直に応じる貴緒。
本当に杞紗の一言だけでちゃんとした態度を取るようになっていた。
でも最近、あまりに貰い過ぎている気がしていた。
杞紗もその辺が気になっていた。
そのうち誰かいい人が現れたら、貴緒は杞紗を置き去りにしてしまうだろう。
それを考えると胸が痛い。
だから、佐伯から言われたように、自分から気持ちを伝えた方がいいのではないかと思い始めていたのである。
でもいざとなると告白が出来なかった。
恥ずかしいのもあるが、その先のどんでん返しが怖かったのもあった。
「杞紗~どうしたんだ。難しい顔をして」
貴緒が杞紗の背中から抱きついて、そう言って来た。
それで杞紗もハッと我に返る。
「あ……うん。いろいろ考えてて」
「そんなに悩む事?」
貴緒は心配そうに杞紗を見つめた。
杞紗の事なら何でも気になる貴緒だから、心配した顔をしていた。
「次の授業、体育だよね。やっぱ俺休む」
杞紗はそう言い出した。
「体調悪いのか?」
「うん……まあそんな感じかな……」
「何で早く言わないんだ!」
杞紗の体調が悪いと聞くと、貴緒はいきなり立ち上がって、杞紗を抱えて保健室へ歩き出した。
その姿を全員ぽかんと見送った。
保健室に着くと、相変わらず保健医不在。
貴緒は杞紗をベッドに座らせると、ブレザーを脱がし、ネクタイを外して、ワイシャツのボタンを二つ開けた。
靴を脱いだ杞紗はベッドに横たわった。
全身の力が抜けるのが解った。
「具合が悪くなるほど、何を考えていたんだ?」
椅子に座った貴緒がそう言い出した。
それでも杞紗は黙ったままだった。
目を瞑って、深く溜息を吐いた。
それから暫く黙っていたが、杞紗が切り出した。
「俺っておかしいんだ」
「何が」
「貴緒の事、好きなんだ」
杞紗はそう言った。
貴緒はそれを聞いたとたん、目を見開いて驚いた。
「杞紗が俺の事を好きなのか?」
「うん。他の誰よりも好きなんだ。変だろ。兄弟なのに」
杞紗はそう言った。自分は凄く変なんだとばかりに。
でも貴緒は少し笑って答えた。
「変じゃない。俺も杞紗の事が好きだよ」
優しい声で貴緒は言っていた。
前にも告白したが、杞紗の反応はいまいちだった。
それがいきなりそんな事を言い出すのは何かあったからだ。
「その好きってどういう好き?」
杞紗は目を開けて貴緒を見上げていた。
それは真剣な顔をしていた。
本当の事が聞きたいと言う顔だった。
貴緒は優しく笑って、杞紗の言葉に答えた。
「恋愛感情で好き。杞紗が欲しい」
ゆっくりと頬を撫でていた。愛おしそうにして。
「俺も貴緒が欲しい」
杞紗は思いきってそう言っていた。
「俺は最初から杞紗のモノだよ。杞紗も俺のモノだからな」
自信満々に貴緒が言い切った。
「でも本当に抱き合いたい」
貴緒はゆっくりと杞紗にキスをした。
「もっと先もしたい」
キスだけではもう足りない。
抱きたい。杞紗を抱きたい。
そう思っていた。
「いいよ」
杞紗はそう言って手を伸ばした。
貴緒をギュッと抱き締めた。
杞紗から貴緒にキスをする。
もう兄弟だとかそんな事は関係なかった。
ただ貴緒が欲しかった。
「なんで俺が下なわけ?」
貴緒に覆い被されて杞紗がそんな事を言い出した。
貴緒はニヤリとして言い切る。
「ガタイで言えば、俺の方が杞紗を抱く事になるんだけどな」
「そ、それってずるい」
杞紗はふてくされた顔になる。
「ずるい?」
「だって俺が貴緒を抱きたいんだ」
むすーっとして杞紗はそう言い張る。
「今日は俺に譲れ」
貴緒はそう言って、杞紗の服を脱がし始めた。
ワイシャツのボタンを全部外して、ゆっくりと肌に触れた。
「綺麗……」
「こんな貧弱なのに?」
「綺麗だよ、杞紗」
貴緒はそう言って、昨日付けたキスマークにまたキスマークをつけた。
「ん……」
何かピリピリした感覚が体中を駆け巡る。
こんなのは杞紗には初めてだった。
唇はどんどんキスマークをつけていく。
沢山の印を残しながら、ズボンを脱がしていく。
そこら辺は器用な貴緒。
慣れた手付きでどんどん先を進めていく。
キスマークを付けた後は、また唇にキスをする。
それも深く、力を抜いた杞紗の口の中に貴緒の舌が忍んでくる。濃厚なキス。杞紗は翻弄されっぱなし。
「……ん……はぁ……」
そのキスのせいで、身体の力が抜けていく。
キスだけでこれだけ感じてしまう杞紗。
「ん……あ……」
唇の向きを返る度に杞紗から漏れるのは快楽の声。
その間にも貴緒は自分の服を脱いでいた。
暑い胸板に杞紗はそっと触れてみる。
自分とは違う逞しい身体。
キスは顔中に降ってきて、くすぐったさに杞紗は笑ってしまう。
それが段々下へと降りてくる。
胸の突起に指が触れ、こねられてしまうと杞紗は身体を捻ってしまう。
下半身にズクッとした感覚が持ち上がる。
反応した己が立っているのだ。
そこへ貴緒の手が触れた。
「あ! 貴緒っ!」
優しく杞紗自身を包んでゆっくりと扱きはじめる。
「っあ……あん……あぁ……」
「杞紗……」
「だめ……いっちゃう……」
「いっていいよ」
貴緒はそう言って、扱く速度を上げた。
「あ!いやっ!」
急激に与えられた快楽に杞紗は喘ぎ声しかあげられなかった。
もうすぐでいきそうとなった時、生暖かい感触がやってきた。
「や!貴緒っ!きたないって!」
そう抵抗しようにも、貴緒は杞紗自身を口に含んでいた。
舌と口とで奉仕されると杞紗はあっという間に達してしまった。
「ああ!」
「なかなかいい声で喘ぐな、杞紗」
興奮しきった貴緒がそんな事を言った。
「そんな……なにやって!」
ギュッとしまった孔に貴緒の指が這っている。
「男同士はここでやるから、馴染ませないとな」
貴緒は冷静にそう言って、さっき吐き出した精液を孔へと流し込んだ。
「うそ!」
杞紗が驚いている間に、貴緒の指が一本中へと侵入してきたのである。
「んんっ!」
無理矢理押し入るようにしてきた指だったが、貴緒が慎重にやっていたのか痛くはなかった。
貴緒は、指を一本入れて、ゆっくりと出し入れを始めた。
「やぁ!あん……っ!」
中に入った指は、杞紗の快楽の場所を探し当てる。
身体を反転させられて、貴緒に尻を突き出すようにされてしまう。
「は、恥ずかしい……」
「念入りにやらないと傷が付くから、傷つけたくないんだ」
貴緒はそう言って、中に入れた指を二本三本と増やしていく。杞紗は枕に顔を押し付けたまま、ただ喘いでいた。
こいつ手慣れてる……くそー。
そう思いながらも、貴緒の手で言い様にされてしまっている杞紗である。
確かに傷つけたくないと思っているのであろう貴緒は慎重だった。
その指はすぐに杞紗の前立腺を探し当てる。
「ああ!んんっ!」
「見つけた、ここ気持ちいいんだ」
卑猥な事言わないでよ!
そう抗議したいが口を開けば喘ぎ声しか出ない。
前に男達に言い様にされてた時の気持ち悪さはまったく感じない。貴緒だから自分も気持ちがいいのだと杞紗は自分を納得させていた。
「……あん……あぁ……っ」
後ろを触られているだけで、杞紗はもう一度達してしまう。
「はぁ……ん、はぁ……」
「杞紗」
貴緒は杞紗を仰向けにして、その顔を覗き込んだ。
「大丈夫か杞紗」
「う、うん……」
「痛かったら俺にしっかりしがみついていろよ」
「うん……」
貴緒は杞紗の腕を自分の肩に回して準備をしていた。
ゆっくりと、孔の中へ己を入り込ませる。
「い……いたっ!」
「杞紗、力抜いて」
「で、出来ない、痛い……」
力が抜けない杞紗に、貴緒は杞紗自身を掴んで扱いた。
「あ! んんんっ!」
それで一気に力が抜けて、杞紗の孔は貴緒自身を受け入れた。
「全部入ったよ」
なんで卑猥な事言うんだ!と怒鳴りたい杞紗だが、貴緒が二三回腰を動かしたので、非難の声は喘ぎに変わってしまった。
「はっ!あ……っ!」
さっき杞紗の快感の場所を探り当てていた貴緒はそこを攻めて来たのである。
「んっ!」
全部収まったところで、貴緒は杞紗にキスをした。
「はぁ……ん……」
「杞紗……もう我慢出来ない」
貴緒はそういうと同時に一気に腰を動かしたのである。
「あぁ!」
杞紗は貴緒の肩に回した腕をギュッと締め付けた。
そうしないと堪えられないからだ。
「ん……はぁ……あぁ……」
貴緒はそんな杞紗の声を聞きながら、夢中で腰を動かした。
こんなに気持ちがいいセックスは初めてだった。
もちろん、噂通りに男を抱いた事もある。
だが、それでも自分は冷めていた。
だから杞紗が帰って来てからは、誰かを杞紗の代わりに抱こうとは思えなかった。
全てを精算して、杞紗だけを見つめて来た。
その杞紗が自分を受け入れてくれる。
その嬉しさが今、自分にも快楽を与えてくれている。
尚一層、杞紗が愛おしくて仕方なかった。
「杞紗……杞紗……」
「ぁあっ……はっ……き、お……」
与えられる快楽で、杞紗は涙を流していた。それを唇で貴緒は拭っていく。
杞紗も感じてくれている、それが嬉しかった。
「あ、もう……だめ……っ!」
杞紗がそう喘ぎを上げたところで、杞紗は三度目に達した。
その締め付けで貴緒も一緒に達した。
「はぁはぁ……」
「ん」
二人はぐったりと覆い被さった状態で暫く荒い息を吐いていた。
「杞紗……可愛い」
貴緒は自身を抜いた後、杞紗の顔中にキスをした。
杞紗は力なくベッドに横たわったままである。
貴緒はもう少し余韻を楽しみたかったが、ここは学校の保健室である。それほどゆっくりしてられなかった。
ゆっくりと起き上がって、服を着る。それから汚れた杞紗の身体を拭いてやって服を着せてやった。
杞紗はまだ呆然としていた。
「大丈夫か、杞紗」
髪を梳いてやり、心配そうに貴緒は杞紗を見た。
杞紗は荒い息をしながらも答えた。
「びっくりした……」
そう言われて貴緒は首を傾げる。
「あんなに痛いとは思わなかったから……」
確かに孔は使う目的が違うのだから痛いのは当たり前だ。
「ごめん、もう少し余裕があったら…」
貴緒は素直に謝って、頭を下げた。
杞紗を抱けると思った瞬間から貴緒には余裕はなかった。
やっと思い人を抱ける喜びがいっぱいで、前座が短過ぎたのである。
もっと優しくするつもりだったのに、これほど余裕がないとは思わなかったのである。
「ううん、貴緒のせいじゃないけど」
「そうか?」
杞紗は貴緒の顔を見て真っ赤な顔をして言った。
「痛いだけじゃなかったし……」
そう言って、布団に潜り込んでしまった。
は、恥ずかしい……。
「杞紗……可愛い!」
貴緒は布団の上から杞紗を抱き締めた。
本当に嬉しかった。
受け入れられるとは思っていなかった思いが、何故か杞紗が受け入れてくれるようになったからだ。
「なんの心境の変化?」
「だって、貴緒の事、好きになったんだもん。仕方ないじゃないか」
杞紗はそう答える。
二人ともお互いの事ばかり考えていて、いつの間にか両思いになっている事に気が付いてなかったのである。
ハッキリ言って間抜けな所は似ている二人。
だがこうして思いが叶ったのだから言う事はないだろう。
「杞紗、顔見せて」
「やだ恥ずかしい……」
「どうせ顔会わせるだろ」
「でも……今はダメ」
杞紗ははずかしさから顔を出す事が出来なかった。
貴緒は仕方ないと諦めて、立ち上がると、保健医が使っているコーヒーを勝手に作って飲んでいた。
「あ、コーヒーずるい」
「杞紗はダメだぞ、刺激物はよくない」
ニヤニヤしながら貴緒がそう言った。
「え?」
杞紗にはさっぱり解らないが、貴緒がダメだというのならダメなんだろうと思い、コーヒーは諦めた。
その代わりと用意してくれたココアで我慢することにしたのであった。
杞紗は保健室で午前中を過ごし、午後から授業に出た。
その時、堤に言われた。
「おまえら、できたな」
その一言に杞紗は真っ赤な顔をし、貴緒は上機嫌で頷いたのである。
「あつーいなあ」
堤はわざとらしく下敷きで自分をあおってみせるのだった。
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