Blueシリーズ Blue on pink

4

 警察に叔父、久松和宏(ひさまつ かずひろ)の被害を訴え出てから一ヶ月。
 警察からは久松の立ち寄りそうな場所を探したが見つからないと言われた。
 越智千雅(おち ちか)が警察を頼ったことに勘付いて、身を潜めたのではないかとのことで、警察も引き続き捜査はしてくれるが、進展が見込めないと捜査は進まないままだ。
 千雅は就職が決まらなかった。叔父がいつ何をしてくるのか分からず、就職してから何かされるのではないかと思うと、面接にすらいけない。
 千雅は、今年の就職は半分諦めていると緒方に打ち明けた。
「上手くどこかへ潜り込めても、叔父がいる限りは日本中無理だと思ったので、海外にいる先輩に事情を話して面倒を見てもらえるかもしれないんです」
 千雅は二年上の先輩が海外の会社に入っており、その先輩が日本に戻ってきた時に千雅の現状を知って上司に相談してくれ、思い切って海外に出ないか、俺が面倒を見るよと言われていることを話した。
「……千雅くん、海外に行っちゃうんだ……」
 それまで何でも真剣に聞いてくれた緒方が、すごく寂しそうにそう言うのだ。それにはさすがに千雅も驚いた。
「あの、まだ決まったわけじゃなくて、来年になっても決まらなかったらという話なので……」
 千雅が慌ててそう言うと、緒方は千雅の手を取って言うのだ。
「それじゃ日本にちゃんとした就職先があったら、日本にいてくれる?」
 凄く必死に引き留められるようにされて、千雅は驚く。
「……そりゃ、見つかって、叔父さんが邪魔しなければ、日本を出て行く理由はなくなりますけど」
「それじゃ俺が紹介するから、考えてくれる?」
「え? でもそんな簡単には……」
 千雅は嬉しいけれどと前置きした上で言った。
「緒方さんの紹介だと、夜の仕事になりそうで……」
 偏見を持っているわけではないが、できれば昼の普通の仕事がしたい。
「……確かに俺が雇ったら、完璧に夜の仕事しか紹介できないけど、そうじゃなくて俺が人に頼んで昼の仕事を頼むから」
 緒方は自分が紹介できるのは夜の仕事だけなのは認めた上で、友人や知り合いを通して昼間の仕事を紹介できると言っているのである。
「それなら、うちに来ませんか? 事務や雑用なんですが、今いる事務の子が来年結婚して退職するんです。それで誰かを探すことになってしまったので」
 そう言ったのは話し合いに来ていた神(かなえ)だ。
 神(かなえ)は弁護士事務所所属の弁護士である。その始平堂(しへいどう)弁護士事務所はこの繁華街の外れにある。主にこの繁華街の人間から雇われることが多く、もめ事や犯罪など多種多様な事件の担当をしていた。
 現在所属弁護士は五人ほどいる。独立するのが面倒だという人や始平堂弁護士に憧れて入った新人一名と、その雑用をする事務員が二名ほどいる。一人はほぼ始平堂弁護士の雑用で、もう一人は他の弁護士の雑用をする。
 男ばかりの職場であるため、女性よりは男性の方が扱いやすいので男性を募集する予定だったらしい。
「一応面接はしますし、採用されるかは越智君の技量によりますが」
「あ、はい。それなら受けます」
 便利に紹介されて採用されるだけだと、申し訳ない気持ちでいっぱいになるのだが、採用試験をしてもらえるとなると、自分の技量は試せる。
 千雅は文系の法学を学び、行政書士の資格だけは取った。税理士の資格も取るつもりで勉強をしているが、いかんせん今年の司法書士の資格を取る試験を母親の病死や叔父の妨害で受けられなかった。
「そっか千雅くんは、法律を勉強していたわけですか」
「すみません、自分のことになるとテンパった上に、金銭的余裕もなくて」
 千雅が恥ずかしそうにそう言う。だが身内のごたごたで警察が動いてくれるのはやはり弁護士という職業が必要だったことは千雅も十分に分かっていたことだ。
「なるほど、その後のスキルアップを目指しているならば、弁護士事務所もありですね。司法書士の資格も取るわけですし、なるほど。これは始平堂弁護士にさっそく相談をしておきましょう」
 神(かなえ)はすっかり乗り気でそう言って、始平堂(しへいどう)弁護士に話を通してくれるのだという。
「千雅くんが、法律方面勉強しているなら、最終的にはうちの仕事もやってもらえるのかな。税理士とかいい感じだし」
「受かればですけど」
「弁護士にはならないの?」
 単純に妙味が沸いた緒方が聞くと千雅は苦笑して答えた。
「ちょっとそこまでの余裕はなくて……」
 精神的な余裕の話だ。千雅は最初こそ目指したが、叔父のことで心が折れたところもあるのだという。
「でも簡単なところから取っていって、最終的に欲しくなったら取るかも知れません」
 千雅がそう言うと、緒方が思い出したように言った。
「それじゃ海外に行くっていうのは、そういうの全部諦めるってこと?」
「……はい、だって法律に従ってあれこれ言う人の叔父が、詐欺や犯罪に荷担していて売人までやってるなんて、説得力もないですから」
 千雅はそう言った。
 確かにそうであるのだが、千雅がこういう職業を目指したのは、その叔父を追い払うためだったのかもしれないと緒方は思った。
「もしかして、お母さんのためだった?」
「ええ、そうです。俺が弁護士になれば叔父の行動に紐を付けられると思ったんですけど、もうそこまでの力は必要ではなくなって、それで試験は受けなかったんです」
 母親が死に茫然自失となった千雅は試験を受けにいかなかった。だがその後やはり就職には必要だと思い、ぎりぎり受けられる司法書士の資格を取ろうとしたが、それを叔父のせいで試験会場に行くことができなかった。
 さまざまな叔父の妨害は、千雅のやる気を削ぐものだった。
「なら、君はとりあえず弁護士事務所でできる仕事をしてみて、どういうことなのか向き合ってみるのがいい」
 千雅に神(かなえ)がそう言う。
「弁護士といっても、そこまで綺麗な仕事でもないから、君は向き合ってみることも必要だ」
 神(かなえ)はそう言ってから、始平堂弁護士に話を通しておくと言った。そして税理士になる勉強は続けるようにと助言していった。
 その言葉に緒方は舌打ちをしそうになった。
 緒方の商売は、そこまで綺麗な職業ではない。それを神(かなえ)は知っている。緒方と付き合っていくなら、それを千雅も知っていかないといけないわけだ。
 つまり自分の都合で相手を引き留めるなら、自分の裏の顔を知られても構わないという覚悟を決めろという話である。
 千雅は真面目な顔をしている緒方を見る。
 確実に最後の言葉は緒方に向けた嫌みであることは気付いた。
「あの……緒方さん。失礼を承知で聞くんですが」
「何?」
 急に千雅が真っ赤な顔をして緒方に尋ねた。
「緒方さんは恋人とかいますか?」
「え?」
 意外なことを聞かれた。
 基本的に千雅は緒方のことを知ろうとはしていない。話の中で流れで緒方が喋ることだけは聞くのだが、こういう風に積極的に尋ねたことはない。
「……すみません……なんかこんな時に」
 せっかく就職の話で真剣に相談に乗ってもらっているというのに、いきなり恋人がどうとか言い出したら大抵の人は驚くだろう。
「いや、俺に恋人がいるかいないか興味ある?」
 緒方は嫌なことを聞かれたのに笑っている。
「…………はい」
 顔も上げられずに答えると、緒方は千雅の隣に座り、手を取って言った。
「いないよ、もう二年になるかな」
「そ、そうですか……あの……」
「何?」
 千雅が手を振りほどこうとしたところ、緒方はその手を握りしめて緒方の口元へ運ぶ。
「俺の行動に下心があるって気付いてたでしょ?」
 緒方は握った千雅の手の甲にキスを一つ落とし、上目遣いで千雅を見る。
 千雅は緒方の視線に背筋がゾクリとした。
心臓が有り得ないほど高鳴り、自分の心臓の音がうるさいほどに聞こえた。これでは緒方にも聞こえているのではないだろうかと思えた。
「……っ」
 ビクリと体が震えたが、不快ではなかった。
 緒方と知り合って一ヶ月、毎日のようにデートみたいに会っていた。それから緒方の人の良さも見えてきたが、緒方の黒い部分も見えてきた。
 最初は緒方が下心があるのは分かっていなかった。けれど段々とそんな気になった。緒方が千雅に好かれようとしていることなど、見ていれば分かる。決定的だったのは、さっきの海外へ行く話だ。緒方が必死で止めてくる様子は、千雅のことを思っていなければ言えないことだ。
 更に就職を世話して千雅の何もかもを自分で決めたがった。
 そんなことは独占欲がなければしないだろう。
「千雅は、分かってて尋ねてるよね。俺に恋人がいないことも、こうやって下心があるかどうかも」
 緒方が千雅をソファに押し倒し、上に乗るようにして、千雅の顔をのぞき込んで言う。こうなると千雅から逃げることはできない。
「……す、すみません」
 真っ赤な顔を横に振って、千雅は緒方の顔をのぞき込まないようにしていたが、その横顔に緒方がキスをした。そして耳に息を吹きかけ、その耳も舐める。
「……あ……んっ」
「可愛いね、千雅」
 緒方は千雅の名前を呼び捨てにして、千雅を追い詰めるのだが、千雅はただただ照れてしまっていた。
「千雅、好きだよ」
 緒方がそう言うと、千雅はやっと緒方を見た。
「それは、俺も!」
 千雅は慌ててそう言った。好きだという言葉を緒方から引き出せるとは思わなかったが、そうでなければ告白しようと思っていた。
「もしかして、就職で海外に行くって言って俺が止めなかったら、そのまま千雅の気持ちなかったことにしようとしていた?」
「だって……俺なんか相手してくるけど、本当はどうか分からなかったから、逃げ道は残しておこうとおもって……」
 千雅は馬鹿正直にそう言った。
 もし告白して上手くいかなかったら、本当に海外へ逃げたと言うのだ。だからそのための準備をしていた。きっと海外行きは期限が迫っているのだろう。だから話が出た今日、こういうことになった。
「でも一度だけでも抱いてほしかった……だから」
「だから恋人がいないかどうか聞いた」
「うん……恋人がいたら、さすがに一度だけでもって言えないから……」
 随分と大胆に千雅が考えていたことが分かり、緒方は嬉しくて仕方がなかった。
「欲してくれるのは、嬉しい。千雅、ホテルにいこう」
「えっ! ……あっ」
 緒方はそう言って、千雅の股に股間を押しつける。股間同士をすりつけるようにして、緒方が腰を使ってくる。
「あ……そんな……」
 興奮したような緒方の腰使いに、千雅は顔を真っ赤にしながらもしっかりとそれを見ていた。おしてゆっくりと手を伸ばし、緒方の性器を布越しに触れる。
「……ああ……緒方さん……」
興奮したように触れてくる千雅の唇に緒方の唇が重なる。
「ん……っ、んふ」
 ちゅっと最初は啄むようにしていたが、次第に緒方のキスは食らいつくようになってくる。千雅が口を開くと緒方の舌が侵入してきて口腔(こうこう)をくまなく舐めていくのだ。
「んう……んっん……」
 千雅はキスを堪能しながらも緒方の膨らみからは手を離さない。早くこれが欲しいとばかりに何度も扱くように撫で回した。
 緒方はキスをしたままで、千雅のズボンのファスナーを開け、性器を取り出すと自身の性器も晒した。
「んっ! んっ!んふっ!」
 だめっと言うように千雅が腰を動かすのだが、それでも緒方は千雅の手を掴んで自身の性器と千雅の性器を強制的に握らせた。
「千雅、好き、千雅」
 熱に浮かされるように、緒方が何でも言って、千雅の手ごと、性器を扱き始めた。
「んぁあっ!」
 すっかり先走りが出ているそれらは、扱けば扱くほど滑り合って、ぬちゃちぬちゃりと音を立てている。いやらしい音が聞こえてきて、千雅も興奮してきたのか、緒方にキスを強請りだした。
「緒方さん……キス……んぅっ」
 気持ちがいいと言うように、キスをすると千雅の性器が一層大きくなり、腰がガクガクと震えている。最初は握る程度の力もなかった千雅の手はしっかりと緒方と自身の性器を掴んで必死に扱いている。
 絶頂は思ったよりも早かった。
 絶頂を迎えるとなると、緒方が二つの性器にハンカチをかぶせた。
「んふぅ――――――っ!」
 緒方と千雅は同時にハンカチの中に射精をした。
 イク声をキスで消し、完全に達してから唇を離すと、千雅はぐったりとして体が痙攣をしていた。
「ふ……あ……」
「千雅……よかったけど、もっと先がしたい」
 千雅の痙攣している姿を見て、緒方は更に興奮をかき立てられたように熱く誘ってくる。
「緒方さん……はぁ……俺もしたいです」
 千雅が真っ赤な顔をしながらでも、潤んだ瞳で緒方を見てからそう誘った。
 真っ昼間だけれども、それでもそんなことは二人にはどうでもよかった。

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