ジキルでハイドな男-なんもない

 令夏真継(はるか まつぎ)は、いつも通りの生活を送っていた。
 朝は九頭神凪(くずがみ なぎ)と真奈の為に食事を作って、二人を見送ってから自分も学校へ出かける。
 何でもない日々が真継には嬉しい日々であった。
 最近、凪が密かに行動している事がある事を覗いて。
 凪は最近、大学授業やら忙しいのは解るが、何故か深夜遅く帰ってくる事が多くなった。
 それが真継には心配事であり、気になる事だった。
 だけど、気弱な真継はそれについて聞く事が出来ない。
 朝はいつも通りラブラブだし、セックスも頻繁ではないが、凪が要求してくると真継は断れない状況。
 土日が休みな二人である。
 当然のように、二人は求めあうままに性行為を行う。
 だが、翌朝になると凪はすぐに出かけてしまう。
 もちろん、大学が休みに入ってからもそうなのだ。
 やはり夜は遅い。
 段々と不安になってくる真継。
 ラブラブなのはいい。
 でも凪の謎の行動は気になって仕方ない。
 夜、決まった時間には帰ってきてくれるが、お酒臭い事が多い。
 それを追求すると、コンパに誘われたや友達と飲んでたなどと返される事が殆どで、本当の答えでないのは明らかだが、それ以上は追求出来ない。
 やっと思いが通じた二人だったが、12月に入ってからの凪の奇妙な行動は、真継を不安にさせているのである。
 さすがに誰かに相談するとなると、凪が友達だという鬼柳恭一しかないのだが、彼は今仕事でいなく、どちらかといえば同じ状況である榎木津透耶に相談する羽目になってしまうのであった。
 ちょうど時間があるという事で、榎木津透耶と会う事が出来た。
「お忙しい中、スミマセン」
 と頭を下げたはいいが、透耶に黒服の男が二人も付いているのには驚いた。
 何なのか?となっていると紹介してくれた。
 なんでも事件に巻き込まれる事が多いからという事で護衛なのだそうだ。
 何となくではあるが、凪から透耶にまつわる事件の数々は耳にしていた。
「相談したい事って何?」
 言いにくそうにしている真継に、透耶が優しく問いかけた。
 電話では詳細は話せずにいたので、真継は相談した。
「実は、凪さんの行動がおかしくて……」
「どうおかしいのかな?」
 優しく聞き返されると素直になれる真継。
 ここ最近の凪の行動を説明して、透耶に意見を求めようとした。
 ところが、透耶は話を聞くや否や、クスクスと笑い出したのである。
「あの……」
 どこか笑える所でもあったのかな?
 そう思って不安になる真継。
 透耶は笑いを納めると謝ってきた。
「あ、ごめん、真継君の事を笑ったんじゃないの。凪さんらしい事してるなあと思って笑ったの」
 まったく説明になってない。
 真継は凪の行動が笑える事なのかと余計に不安にある。
「でも、真継君が心配するような事は何もないよ。まあ、暫くしたら詳細は明らかになるから。これは俺が言う事じゃないし」
 何か思い当たる節があるような言い方だった。
 でも透耶が大丈夫だと言う事は、少なからず透耶は何か知っているようである。
「如何わしい事じゃないですよね?」
「じゃないよ。愉しみにして待ってればいいよ」
 透耶はそう言ってくれた。
 こういう事を相談出来る相手がいて、真継は何だか嬉しかった。
 透耶の説明は分かりにくいものだったが、真継が心配している事ではないようだった。
「浮気とかは絶対有り得ないから、いつも通りに真継君はしてればいいんだよ」
 透耶はそんな説明をしてくれる。
 それで相談は終わった。
 更に相談出来る相手と言えば、友人で事情を知っている大岐だけだ。
 大岐にそれを相談すると、大岐もはは~んとニヤつき顔をしている。
 しかも、「あの男が考えそうな事だな」というセリフ付き。
 その言葉を受けて、真継は更に混乱。
 周りは分っているが自分だけが解らない。
 それはとてももどかしいものであった。
 その詳細が分ったのはある日の事。
 真継が終業式を終えた日の事だった。
 部屋に帰ると、まず凪の部屋に直行する。
 夕食を作るのは、いつも凪の部屋だからだ。
 だが、部屋に入るなり、真継は仰天した。
 いつものリビングには、何故か大きなモミの木。
 それにはしっかり飾り付けがされている。
 それに部屋の模様替えもされていた。
 テーブルには、豪勢な食事が並んでいる。
「これは一体」
 と思ったが、すぐに理解出来た。
 そう今日は、クリスマスイブだったのである。
 あああ、そうか、そうだったのか。
 真継は思わず納得してしまう。
 透耶の笑いも、大岐の笑いも、全部クリスマスというイベントの事だったのだ。
「お、真継、帰ってきたか~ どうだ?」
 満面の笑みで寝室から凪が出てきた。
「凪さん、これどうしたの?」
 真継はクリスマスツリーを見上げて聞いた。
「クリスマスだからな。雰囲気だそうと思ってな。綺麗だろう? 食事もオーダーしたんだぜ」
 食事はクリスマスディナーなのだ。
 さっき届いたばかりのようで、湯気が出ている。
「ま、まさか、凪さんが毎晩遅かったのって…」
 真継がそう聞くと同時に、いきなり凪にキスをされてしまう。
「ま、これのレンタルと、ディナーの資金バイト」
 と素直に白状する凪。
 凪はその資金調達の為に、忙しい中、なんとバイトをしていたのである。
 何だか、全身の力が抜けてしまう真継。
 今までの心配は何だったんだ?と言いたく状態だ。
「まさかと思ったけど、凪さん、浮気してるのかと思って……」
 真継は思わず正直に話してしまう。
 今までの不安が大きかっただけにストレートにモノを言ってしまう。
 それを聞いた凪の方が仰天していた。
「俺が浮気? 真継がやっと手に入ったってのに、ラブラブなのに、どうして浮気なんかするんだ?」
 少し怒った口調だった。
 それに少し怯える真継。
「だって……毎晩遅いし、そのお酒臭いから……そうなんじゃないかって思ってしまって」
 これまた正直に話してしまう。
 すると凪の形相が変わる。
 さっきまでの笑みから、一変。
「真継、一から愛の仕込みしなきゃならないお仕置きだな」
 低い声で言われて、真継はドキっとしてしまう。
 だが逃げようにも、もう既に壁際まで追い詰められている。
「な、凪さんが、不審な行動するから誤解しただけで…」
 言い訳してももう無駄。
 このモードに入った凪が収まるわけはない。
「ダメだ。真継」
 グッと顎を掴まれて、いきなり強烈なキスをされてしまう。
「……んん!!」
 最近疲れ気味だった凪とのセックスは控えめだったが、真継が明日から冬休みで、凪もバイトが終わって冬休みとなる。
 そうなったら止まる訳はない。
「な、凪さん、食事、冷める……」
 なんとか抵抗してみるが一笑されてしまう。
「そんなの後であっため直せばいい」
 そんな言葉でまた唇を封じられてしまった。
 舌を絡ませ、いつも以上に濃厚なキス。
 それだけで、真継は立ってられない程の衝撃を受けてしまう。
「あん……」
 既に制服のズボンを器用に脱がしていく凪。
 こうなれば止まらない。
 凪のこういうテクニックに抵抗は無駄。
 下半身だけを剥き出しにされて、真継は戸惑う。
 それでも凪は先を進める。
 真継の前にしゃがみ込んでいきなりフェラを始めてしまう。
「ちょ……ちょっと待って……あっ!」
 強く扱かれて真継は一瞬で快楽を味わってしまう。
 真継の先走りが凪の指を滑らかに滑らせて行く。
「ちゃんと感じてるな」
「な!凪さん!!」
 恥ずかしい!
 真継は自分の顔を両手で被った。
 セックスには慣れてきたのは確かだ。
 凪に触られるだけで、何処も感じてしまうのだから。
 凪は真継の片足を自分の肩にかけるようにして、そのままフェラを続けながら、穴の方にも指を入れてくる。
「あっっ!! や……んんっ!」
「嫌だじゃないだろ。気持ちいいだろ」
 人格が変わったみたいに、卑猥な言葉を言いながら、凪は穴に指を増やして行く。
 真継から漏れるのは快楽から出る甘い喘ぎ。
 それに満足しながら、凪はいきそうになる真継をいかせないようにして、立ち上がった。
 そして両足を持ち上げて、真継を壁に押し付けてそのままゆっくりと自分自身を中へと進めてくる。
「んんっあ!」
 十分には解してないのだが、凪の暴走は止まらず、その場で真継は犯される。
 グッと入って来る感覚に真継は凪に教えられたように呼吸を繰り返す。
 ここまで来て凪が止めるわけはないからだ。
 それなら合わせた方が楽に決まっている。
 全部を押し込んだ凪が甘い息を吐いた。
「やっぱ、真継、最高」
 こんな場所でやっといて更に卑猥な言葉に羞恥のある真継は恥ずかしいばかりだ。
 それでも漏れるのは、喘ぎだけ。
「動くぞ」
 凪にも余裕がなかったのが分ったのは後の事。
 急激な動きに真継は甘い喘ぎを漏らすだけ。
「あっ! んんっ…あ!」
 真継の体中の事を知っている凪には、真継の何処を攻めれば真継を気持ちよくさせてやる事が出来るのかは分っている。
痛みのないようにと気を使いながらでも激しい突きにただただ真継は喘ぎを漏らすだけであった。
「もう、クリスマスイブなのに~」
 ぐったりしたままベッドに横になっている真継に、凪は申し訳ないと、暖め直した食事を運んでくる。
 結局、あれ一回で済む訳はなく、3ラウンドはしてしまったのである。
「ごめんごめん。順序が逆になった」
 対して悪びれている様子でない凪は満面の笑みである。
 これで凪の機嫌は直ったわけである。
 でも真継の方の機嫌は悪くなっている。
「どっちみちやるんだし、仕方ないじゃないか。ほら、チキン旨いぞ」
 そう言って凪は真継に食べさせる。
 まあ、これも悪くはないなあと、真継は自分が誤解した事が原因なので、事の起こりはあれでもこれは仕方ないと諦めて苦笑した。
「酒臭かったのは、バーテンのバイトで酒扱ってたからだ。それに飲まされもしたしな。忘年会も本当。付き合いも色々あるんだよ」
 凪はそう言って真継が疑問に感じていた不安を全て話してくれた。
 ……なんだ、そうだったんだ。
 思わず納得してしまう。
 このクリスマスパーティーの為に凪は自分の稼いだ金でしたかったらしい。
 親の金を当てにするのではなく。
 ただそれだけの為に忙しい中、バイトをしていたのだ。
 その真継の首には、チェーンにかかった指輪がある。
 これもプレゼントだったらしい。
「僕、何も用意してなかった……」
 真継がそう呟くと。
「また一ラウンドするんだから、腹いっぱいにしておかないとな。プレゼントは一晩中セックスで十分。おもい存分やろうぜ」
 そう、凪は言い放った。
 この言葉を聞いて、真継はちょっと目眩を覚えた。
 まだするの、この絶倫男め……。
 けれとそれを拒めない真継であった。