switch外伝10-2 Beautiful day2
夜になると遠くの街が光って見え、それを見ながら透耶は鬼柳に抱かれる。
外は異国、でも部屋の中はいつもと変わらない。
鬼柳がいて、優しく抱いてくれる。
世界はまだまだ広くて沢山国がある。いけるところは行って、いけないところは諦める。
鬼柳は綺麗な世界を沢山透耶に見せてくれる。
透耶はその全てを見て肌で感じて、世界を知る。
閉じた世界ではなく、こんなにも大きく広いのだと鬼柳が教えてくれる。
そういうものも興味があったし好きだったけれど、時々は二人で閉じた世界にいるのも大好きだった。
肌で感じるほど近くで鬼柳を感じて、肌で触れあって寝る。
どこの世界にも鬼柳がいる。
その鬼柳がいる世界が透耶の生きる世界だった。
その透耶が一年ぶりに二冊目のエッセイ本を出す。
この旅行中に書き溜めた雑記や日記を織り交ぜたエッセイで、旅行に出かける時に手塚にそういう本を作りたいのでと頼まれたのもあって、ずっと日記らしき雑記を書いてきたものを厳選して手塚に送ったところ、一作目はすぐに本の出版にゴーサインが出た。
その一作目はそれなり売れて、長くランキングの上位にいた。
その間に二作目も依頼として受けたのだ。
その二作目の打ち合わせに手塚の方が透耶のところにきた。
「取材でもないけど、打ち合わせで旅行は何だか得した気分です」
手塚はそう言って笑っている。
場所はハワイ。中東から移動してハワイの楽園にいる。
観光客が来る場所ではあるが、高級なコテージで周りの環境も治安もいい場所だ。
「相変わらずですね。元気そうでよかったです」
「こちらこそ、すみません。わざわざ来て貰って」
と透耶が言ったとたんの、さっきの手塚の言葉だった。
「久しぶりの本がまたエッセイなので、まあ、一部はあの事件の告白かみたいな期待もあったみたいですが、二作目の旅行エッセイだと言ったらがっかりされたのが腹が立ちます」
そう手塚が言うので、透耶は苦笑するが、それに鬼柳がツッコム。
「そこまでやりだしたら、いよいよ透耶が金に困った時くらいだろう。そういう暴露本みたいの出すヤツは第一に金だからな。アメリカでも一攫千金狙いだし」
鬼柳がそう言う。アメリカではこういう透耶のような体験をした人は本を出し、それを映画化してもらうまでがセットらしいのだ。
「でも透耶が金に困ることはない。俺がいるし」
鬼柳が自信満々に言うのは、去年に出した写真集の売り上げが想像以上にあったからだ。 それに鬼柳は時々またエドワードの仕事をインターネット経由で手伝っている。基本的に完全休暇ができないのか、写真も沢山撮っているし、また本も出せそうなほど貯まっている。
透耶が管理していた写真は、旅行中になってから全てを鬼柳が所属している事務所に預けてある。あまりに評判になってしまったため、写真の貸し出しの機会が増えて一々透耶を通して手続きするのが面倒ごとになってしまったのだ。
鬼柳は居所を探られるのを嫌って、透耶に写真の管理をプロに任せた方がいいと言って進めた。透耶はあっさりとそれを承諾して、自分が映っている写真以外は全部管理を任せることにした。
元々は鬼柳が管理しないせいで、ぐちゃぐちゃになっていたものを透耶が我慢できずに始めた整理整頓なので、プロは扱ってくれるなら喜んで任せるつもりだったからだ。
「鬼柳さん、また本でも出すんですか?」
手塚がわくわくして尋ねてきたら、鬼柳はムッとして眉を顰めてから頷いた。
「わ、おめでとうございます。前回の二冊も凄かったから、今回も楽しみです。今回は旅行の写真ですか?」
「そうだ」
「って、もしかして不本意なんですか?」
鬼柳の態度が嫌々なので手塚が透耶に聞いた。
「あー、また個展とかやる可能性があるので、それだけが嫌なんです」
「なるほど、それでごねてるんですね……」
手塚も納得した。
鬼柳は人前で自分の写真を自慢するような性格ではない。むしろ写真集も出すのは嫌なのだが、透耶がお願いするので出しているし、今回もそうだ。
だから本を出すだけの約束なのに、何故か派手な個展まで用意してくるスポンサーが付いてきて余計なことをしてくるので機嫌が悪くなる。
「エドワードさんに何だかんだ言われて、日本とアメリカとフランスとイギリスの四カ所でするらしいです。それでその拘束期間が三ヶ月なので、旅行が楽しめないって怒ってるんです」
「ああ……そこまで展開しちゃったんですか。凄いですね」
「凄いんですよ。前回はアメリカだけで終わったからよかったんですけどね。あの後結構拗ねて凄かったんです。相当ストレスになったみたいで。基本的に人間が嫌いだから」
鬼柳は自分に関わる人間以外の評価を一切気にしない性格になったのは、それ以外の人間が嫌いだからだ。関わるのも嫌だし、関わられるのも嫌だという。
とはいえ、割とフレンドリーで接するのも鬼柳の良いところで、それで好かれて困ったことになるので、本人にとっては不本意なのだ。だから意思疎通ができない人間が嫌いだ。 個展に来るほとんどが商談を持ちかけてきて、エドワードの協賛から出し抜こうとするので個展は更にややこしい。
個展は別にエドワードでなくてもいいのだが、鬼柳の言い分を聞いてくれるのは多分エドワード以外はいないと言って良い業界だ。特にマネージメントあたりがついてくると、鬼柳が一番嫌がる、透耶の排除を真っ先にするだろうから、鬼柳はエドワード以外を信用できないでいるわけだ。
それをいいことにエドワードは鬼柳をこき使うので、鬼柳は納得がいかないと言って拗ねるのだ。
「じゃあ、何で本を出すって」
「さっきの話に繋がるんですけど、旅費が欲しいからなんです。貯めているのを切り崩してるだけじゃ、いろいろと物入りで。俺の方は印税で何とかなるんですが、恭の方はいろいろとエドワードさん頼みの仕事なので、そこを突かれて仕事の幅が広がって身動きができなくなる前に、写真集で当面の旅費を確保しようとしてるって感じですかね」
「へえ、でも鬼柳さんって榎木津くんばりにお金を持ってなかったっけ?」
手塚は二人の懐事情も詳しく知っている人であるから不思議そうに聞いてくる。
「あるけど、お祖父さんの銀行なので、動かすと居場所がバレるからとか何とか……」
「ああ、現金を持ってないといけないところで下ろしたら一発か」
「もちろん、銀行の個人情報なので普通はアレなんですけど、まあいろいろあって旅行中の居所を知られるのはどうしても嫌だと言うので……この旅の間、いろんな仕事をしてスイス銀行に口座作って貯金をし直してるんです」
「はあ、スイスなら手出しできないからねえ」
手塚はそこに感心している。
「まあ、本は榎木津君がまた頼んだんだろうけど」
「最終的にはです。今回は本人が出したい理由があったみたいで。教えてはくれないんですが、俺も写真は一部しか見せて貰ってないので、本が出るまで秘密らしくて。あと本はまた二冊出すらしいです」
透耶がそう言うと、手塚も驚いた。
「二冊? 旅行ものとまた花とか?」
「それが一冊は旅行もので、俺も手伝ったんです。中の文章っていうのかな。ポエムみたいなのをちょこっと書くやつで。でももう一冊が何なのか口を割らないんです。エドワードさんもそれは企業秘密だって言ってるし、協会の人も今回は駄目って言うしで、俺だけ知らないっぽいんです。あと俺に簡単に喋りそうな人も知らない感じです」
「不気味だね」
「はい、不気味です。あの恭とエドワードさんがタッグ組んで俺に黙ってるために協力している図が、今までに無い形です」
「確かにそれも不気味だ……何があるんだろうね本当に」
手塚も鬼柳を見るが、鬼柳はきっと手塚にも喋らないだろう。
とにかく話はそれくらいして二人は透耶の本のことで話し合った。
今回も鬼柳の写真を使う予定で、それは厳選して協会とは別に鬼柳が出版社と契約して用意したものになっている。それも透耶と鬼柳が選んだもので、それも手塚に渡してある。
今日は手塚も見本の本を持ってきて、それを透耶に見せて本の形を決める流れだったが、さすがに実物を見ないと決められないことだった。
透耶が日本に戻るのもありなのだが、今回は手塚の仕事ぶりに感謝した出版社が手塚のために些細な仕事を与えて慰安旅行をして貰う流れだったらしい。
本の形を決め、パソコンでそのデザインを決めた。あとは出版社の手塚に任せてしまうので、透耶の仕事は終わる。
基本的に透耶は手塚の決めることに反対はしない。
いつも良い物を手塚が絶対に選んでくれるからだ。今までの本のデザインもずっと手塚がいいデザイナーを紹介してくれて、間違いない本に仕上げてくれていた。
「じゃあ、あとは本社の仕事になるので、任せてください」
「お願いします」
そこで話が終わったので、鬼柳が手塚を食事に誘った。
ハワイで習ったポキ丼や肉が美味しいのでステーキがでてきたりと、手塚はそれを満足するだけ食べて、お土産にも夜食のおにぎりを貰って満足していた。
「いや~ハワイの思い出が、すべて鬼柳さんの料理になりそうなくらい満足しました」
「またこいよ、飯を食わせてやるからな」
「はい! 是非!」
手塚は満足してホテルに帰っていった。
これから仕事を日本に送って、手塚は残りの三日でハワイを観光するらしい。
透耶たちは自宅前でタクシーに乗った手塚を見送った。
「手塚さん、本当に恭の料理が大好きだね」
「あいつは本当に幸せそうに飯を食うから、俺は好きだぞ」
「ふふ、そうだね。確かに」
あれもこれもとどんどん食べる手塚を思い出して透耶は笑う。
二人はすぐに家に戻り、そのままお酒を片手に夜のハワイを楽しんだ。
「ん、んん……はぁっ」
「透耶、期待してたみたいになってるよ」
そう言われて、座ったままの体勢で鬼柳の膝に乗せられ、透耶はズボンを下着ごと脱がせられる。それを脱がされると、半起ちになっている性器がある。
「ひあっ……そんあこと、んっ、あっあぁっん……」
「ああ、こっちも待ちわびてるかのように、開いてるね……お風呂でいじってきただろ?」
そう言われて孔を弄られる。既に指はスッポリ入ってしまい、鬼柳は指を遠慮無く突き入れて内壁を擦りあげる。
「やっ……! ひっあっあぁんっ」
「バレてるよ……ワイン飲んだからちょっと酔ってて気分がいいんだろ? いつもそうだしね。酒飲んだ日はしなきゃ収まらないから」
「あぁっ……ん、はぁっ、あっんあんあんああっんっ」
「あ、いいね。トロトロしてる。やっぱ透耶のここ、エロ過ぎる……指に吸い付いてすごいことになってるよ」
「ああぁんっ恭っ……いっちゃうっ……らめっあっあひっあああっ」
「はぁ、いいよ、イって……」
「ひっああぁっ! やっあっあ゛ぁんっ」
透耶は鬼柳に追い上げられて、孔の中だけを弄られて達した。
ビューッと精液が飛んで床を塗らした。鬼柳はそれを眺めてニヤニヤとしている。
透耶の痴態は家にいる時より遙かに激しく淫らになった。旅をしている開放感と、自分がまったくの一般人で恋人との暮らしを素直に楽しんでいる立場がよほど心地が良いのだ。
だからセックスにも積極的で、鬼柳が無理矢理襲いかからなくても、したいなと鬼柳が思っていると透耶から仕掛けてくる事が増えた。
身体を任せて貰えると言うことは心の底から信用しているという証で、透耶がどんどんセックスを好きになるということは鬼柳のことを信用しているということなのだ。
鬼柳はそれがとても嬉しかった。
そして、セックスは鬼柳の十八番なので、まだまだ透耶が主導権を取れるはずもなかった。
「じゃ、このまま一気にっ遠慮無く……ふっ」
そう言うと鬼柳は自分の性器に透耶の孔を押し当てて、抱きすくめるように透耶の腰を落とした。
「ひ――――――あっ!」
「……くっ……ああ、透耶、挿れただけでイッちゃったな……」
「……ちゃった……んふ……恭……きもちいい……」
透耶は鬼柳を咥えたままで鬼柳に身体を預けて、すっかり蕩けた顔をしている。
「……うん、気持ちいいな……俺も気持ちが良いよ……透耶は?」
「なか……恭がいて……ドクドクしてる……んうふ……きもちいい……でも、もっと突いて……」
そう透耶が鬼柳を誘うように言い、内壁が性器を締め付けてくると鬼柳の理性はブッツリと切れた。
元々透耶とのセックスに置いて理性はほぼない状態なのだが、いつも透耶からして欲しい時は余裕を持って楽しもうとして、全然余裕がなくなるのだ。
「透耶、こうなった責任取れよ……」
そう言うと鬼柳は挿入を開始する。ジュクジュクと内壁を押し開いて挿るのは気持ちがいいことだったし、大好きな行為だった。
「ひあぁっいっあっんっいいっ……ああぁーっ! あぁんっあひっ……あっやっああっ」
透耶は身体をくねらせて感じて、鬼柳の膝の上で踊るように悶えている。
「あぁっやっなか、擦れ……あぁんあぁっあっ熱くて硬いの……っあっいいっあぁっ」
「透耶、中がきもちいい……腰が止まんねえ」
鬼柳が腰を下から突き上げてきて、透耶はその反動で飛びそうになる身体を引っ張られてまた腰を押しつけられた。
凶悪なモノが透耶を犯してくるが、透耶はそれがとても好きだった。
この行為に溺れるようになって、ずっと同じモノしか興味が無い。これだけでいいと本当にそう願った。
「あひっあぁっやっ……あっやっあんっあんっ」
「透耶、一回目出すねっくっ」
絶倫である鬼柳であるが、平気で中出しをする。それは透耶の奥まで入り込んで透耶をおかしくさせる。
「あぁっんっ、らめっ……あぁっあたま、おかしくなるっあっああっ」
「中出し好きだもんな……俺も好き。透耶もっと気持ちよくなって……」
「あぁっんっはあっあんあぁっ……」
鬼柳は透耶を抱き上げて、向かい合わせになるとそのまま立ち上がり、下から抉るようにして挿入を開始した。
「あぁっあっあんっいくっいっちゃうっ……ひああっ」
そういうと透耶は絶頂をする。その身体を鬼柳が抱き留めてから、またそのまま挿入を開始した。
「やっ……はぁっ、らめっあっあ゛ああぁっ」
「きもちいいな……はったまんね」
「あひっあ゛っ……ああっんっひあっ……」
「透耶かわいいね……エロくてかわいくて、本当に食べてしまいたいよ」
「ああっあっあんっあんっいいっ……あ゛っあっきもちいいっんっ」
透耶を揺さぶりながら挿入をしていた鬼柳がソファに座り、透耶は鬼柳に跨がったままで上になる。
「このまま、腰振って見せて……透耶」
「あんっあぅっあっひっああんっあぁんっらめっ……あっあひっあんあんっ」
透耶は言われた通りに、鬼柳の上で腰を振って踊った。
時折鬼柳が下から突き上げ、透耶のペースを崩しては挿入を繰り返させる。
そうしながら透耶の上着を脱がせて、乳首を吸った。
「あぁっあっんっちくびっ、乳首すっちゃ……、はぁっあんっ」
「舐めるのやめる?」
「ああっちくび……乳首、なめて……っあっああんっ!」
駄目と言いながらも気持ちがよかったので、透耶は素直に胸を鬼柳に差し出した。
「あひっああっいいっ、あぁんっきもちいっ、あっあんっあんっ」
透耶は激しく腰を振りながら悶えて、鬼柳は透耶の腰を掴んで突き上げながら乳首を吸った。
「ひああっいくっいくっ、あぁっいっちゃうっ! あんあんあんはあんっ!」
「このままイクの見せて……乳首と腰振って自分でいっちゃうところ見せて透耶」
「ああぁっんっはぁっ……らめっいけないっあっあんっあんっ」
「そうか手伝おうか、やっぱり」
そう言って鬼柳は腰を下から突き上げて完全に自分のペースにした。
「ひあぁっあんっはげしっ……あっああっあっあんっあんっあひっあっやっああっ」
「透耶、やらしすぎ……っ 中に精液出すよ」
「らめっ……あっあひっい゛っあっあんっ!」
「中出し嫌なの?」
「ううんっあんっらして……ああんっらしてっ……あっあんあんああっ」
「じゃ、種付けするよ……」
「あっああぁああひっあんっああーっ」
「はぁっ、くっ」
「あっああぁんっ! んっ、んぁっあぁっ」
鬼柳は透耶の中に射精をして精液を出し、透耶は絶頂して射精をした。
それは鬼柳の腹を汚し、まだダラダラと漏れている。
「は、イキっぱなしか……やらしく育ってくれて、嬉しいよ透耶」
鬼柳はそう言ってまた性器を勃起させている。
「やっあっやめっ……あっあぅん……」
それを感じて透耶は身体をくねらせる。鬼柳はそれで完全に勃起してまた挿入を開始した。
「あぁっ……も、らめっんあっ、んっ……ふぁっ」
「透耶から誘ったんだから、朝までコースな?」
「はぁっもっいっかいで、いいの……やらぁ……ぁあ、んっ、ああんっ!」
透耶が拒んでも拒みきれない快楽に溺れてしまい、透耶は結局朝まで鬼柳とのセックスを楽しんだ。
「……ごめんな、また飛ばした」
透耶が気絶をしてしまって、鬼柳は反省をする。
最近は透耶も体力が付いてきたので少しの無茶もできるようになったが、それでも朝までコースはまだまだ難しいことである。
透耶は鬼柳の精液まみれで横たわっている。
「やるだけやったって感じで、嫌いじゃないけど……さて、お風呂に入れるか」
そう言うと風呂を貯めながら、透耶を風呂に入れた。
体中を洗って綺麗にしてから、孔の中の精液も掻き出す。眠っている透耶はさすがに突かれているのか無反応で鬼柳はちょっと残念だと思う。
反応がないのが一番つまらないので、透耶が起きている時が一番やる気が出る。
ベッドは使えないので別の部屋のベッドを使う。
いつでも使えるように整えておいたので先に透耶を寝かせてから、使ったベッドのシーツなどを?がして洗濯機に放り込んでおく。全自動だから乾燥までそのままだ。
ベッドルームに戻ると朝の光が海を照らして、その照り返しが部屋の天井に波を作っている。
それを見た鬼柳はすぐにカメラを掴んで戻り、ベッドで寝ている透耶と天井の波を入れて一緒に撮影をした。
その題名を鬼柳はすぐに思いついた。
「You are my angel」
まさに鬼柳がずっと思っている通りの、輝くばかりの透耶の眠る姿がカメラに残った。
それは、鬼柳が発売する二冊のうちの謎の一冊の表紙を飾り、巧みに顔を映さないで恋人を撮影した愛ある一冊になって世の中に発売された。
しかし個展は風景の写真のみで、恋人の写真は対象外となったが、恋人が謎の方がとてもいい写真だったので、鬼柳恭一の恋人を追い回す週刊誌も出たが、その頃の鬼柳たちは北極近くでオーロラを見るツアーなどに参加していたので、とてもじゃないが追いかけるのは無理だった。
もちろん榎木津透耶が恋人であることは知られるも本人の写真が出ても、鬼柳の写真とは結びつかないほど、鬼柳が全神経を込めて撮った芸術として昇華してしまっていたので、恋人の本当の姿は謎のままでいいとすぐに透耶たちを追うマスコミは消えた。
鬼柳恭一の写真集はその二冊の発売も相まって、前回の二冊の評判がよかったこともあり、今回で知った人が買い求めたので、またランキングの写真集のトップ四を独占するという奇跡を起こした。
その本人は。
「ごめん、もうしない」
透耶の許可無く本を出したことで透耶に怒られて大反省をしていた。
「俺が駄目って言うから黙ってしたんでしょ」
「うん。言っても絶対うんって言わないから。でも出てしまえばこっちのもんだって、エドが言ったから乗った」
「何でこういうときだけ結託してんの、いつも反発してるのに」
「いい意見を反対したことはないだけだ」
「もう馬鹿!」
言い合いは鬼柳のエドが言ったからが炸裂して、透耶の怒りの矛先があちこちして透耶も何でここまで怒ってるのか訳が分からないほどだった。
しかし鬼柳の写真の透耶は何度もいろんなところで使われるのだが、どこの国でも透耶と写真の人物を同一視する人は存在しなかったので、暫く怒っていた透耶であったが、そのうちその怒りは収まったのだった。
「どうせ顔が分かっても分からなくても写真の印象の問題だ、顔が映ってない写真がいいわけだから、写真と透耶の同一視を人はしない。そのうちそれに気付いて透耶の怒りも解けるだろう」
そうエドワードは鬼柳に言った通り、透耶の怒りは一週間も持たなかったのである。
「あいつ、やっぱりやなやつだな」
エドワードに乗せられて透耶の写真を出した心を利用されたわけだが、それが一週間くらいの喧嘩になって、透耶が口をなかなか利いてくれなかったのは痛かった鬼柳である。
「自業自得」
それが鬼柳が愚痴った時に友人たちが言う一言であった。
それでも表紙にした写真は透耶が気に入って、自宅の寝室の壁に掛けておいてある。
個展で唯一スペシャルで用意した、もう一冊の写真集への誘導をするものとしてパネルにしたものを返して貰ったものだった。
「これは好き」
透耶がそう言うので、鬼柳もその写真だけは他の写真よりも本当に大事にしたのだった。