switch101-89 マニキュア
「透耶って指大事にするよな」
爪の手入れをしていた透耶は、ん?っとなって顔を上げた。
俺は新聞から顔を上げて、床で爪の手入れをしている透耶を見ていた。
透耶は女の子のように爪の手入れをしていた。
ネイルペーパーとバッファーを使って丁寧に仕上げている。
「あ、うん。ピアノを弾いていると力入って爪割れるし、普段でもいつ爪が割れるか解らないからマニキュアもかかせない」
透耶はそう言って、透明なマニキュアを塗り始めた。
「それ、貸して」
俺は立ち上がって透耶の前に座った。
「え? 恭が塗るの?」
透耶はキョトンとしている。
「違う、俺が透耶のを塗ってやるの」
俺はそう言って、透耶からマニキュアを取り上げた。
透耶は不思議そうな顔をしていたけど、さっと指を差し出した。
「ネイルサロンみたい」
「そう、即席ネイルサロン鬼柳」
俺がそんな冗談をいうと、透耶はクスクス笑い出した。
どうやらツボに入ったらしい。
でも、これが結構難しくて、俺は真剣に爪にマニキュアを塗っていた。
透耶もじっと俺の手許を見ている。
緊張したが、なんとか全部塗り終えられた。
「すごーい、恭、上手いよ」
透耶は自分の指を見て、感動しているようだった。
「そうか?」
何処が上手いんだろうと思ったから聞いた。
「はみださないし、歪みもないし。仕事、ネイルサロンでもやったら?」
透耶は冗談まじりにそんな事を言い出した。
「じゃ、客は透耶だけな」
俺もその冗談ののっかった。
透耶は両手を広げたままで爆笑していた。
これほど手間がかかるものを女は始終してるんだと思うと感心してしまう。
透耶も然りだ。
「今度からそれ俺の仕事な」
俺は透耶が綺麗になるのは好きなので、こう言い出したわけで、透耶がそこまで喜んでくれるとは思わなかった。
「やった!」
透耶は指を乾かしながら、本当に嬉しそうにしていた。
どうやらネイルは苦手なようだった。