switch101-87 コヨーテ
「これって犬?」
透耶は整頓し終わったばかり鬼柳の仕事部屋のソファに寝転がってそう尋ねた。
透耶の手には、野生動物を映した写真の入ったアルバムがあった。
鬼柳は作業が終わったので、お茶を入れている所だったのだが、さっとお茶を入れて、透耶に手渡した。
そして写真を覗き込む。
「いや、コヨーテだな」
「コヨーテ?」
「ああ。コヨーテは、アラスカ東部からニューイングランドにいたる北アメリカの全域とメキシコを南下してパナマにいたる地域のあちこちでその姿が見られるんだ」
「へえ」
いやに詳しい説明に透耶はピンとくるモノがあった。
「もしかして、狙って撮ってたの?」
「そう。ちょうど見られるって聞いたからカメラにおさめられないかと思ってな」
「そうだったんだ。でもなんか生き生きしてて綺麗だね」
透耶はそんな感想を漏らした。
「もとはアメリカ北西部にいた動物だったが、この200年の間、人間の進出によって起きた変化に適応するため、その領域をつぎつぎに広げてきた。現在、よく見られる地域は、フロリダ、ニューイングランド、カナダ東部だってさ」
また詳しい情報が出てきて透耶は目を丸くしてしまった。
こういう事を鬼柳が覚えているのは珍しい。
「もしかして、受け売り?」
透耶がそういうと、鬼柳は苦笑して説明をしてくれた。
「ここにいる時に、やたらとコヨーテについて語るじいさんがいてな。そいつが案内役だったから、酒に酔った拍子に何度も同じ事を繰り返されたんで、いい加減覚えたんだ」
確かにそんな同じ事を繰り返されたら、興味がない人でも覚えてしまうフレーズかもしれない。
そんなので困っている鬼柳を想像すると透耶は可笑しくて仕方なくなってしまった。
そうした生態が知りたいのではなく、ただ純粋に写真を取りたいと思っているだけなのだから、うんちくは必要無いはずである。
それでも鬼柳が覚えてしまうほどだったのは、毎晩繰り返されて、しかも止める暇がなかったのだろう。
ちなみにコヨーテとは。
コヨーテは犬科の動物です。見た目は中くらいの大きさのコリー犬に似ていますが、しっぽはふさふさと丸みをおびていて、お尻の下からまっすぐに伸びています。沙漠の低地や谷間で見られるコヨーテは体重が9キロくらいで、20キロ以上あるものもいる他の山犬種の半分にも満たない重さです。沙漠のコヨーテは明るいグレーかなめし皮色で、しっぽの先が黒くなっています。高地にいるコヨーテは、もっと濃い色をしていて、ふさふさとした毛皮におおわれています。からだの下の方は白っぽく、しっぽの先が白くなっているものも見られるようです。
コヨーテは、人間が鳴き声を耳にすることができる数少ない野生動物です。夜になると、コヨーテは遠ぼえ(高い震えるような鳴き声)とキャンキャンと高音で鳴く声との、両方を発します。最初にコヨーテの鳴き声を聞いた人は、野性の恐怖におそわれるかもしれませんが、野外生活になれた人にとっては、コヨーテの遠ぼえは、アメリカ西部の歌そのものなのです。
「へえ~詳しい~」
受け売りでもそこまで詳しかったら聞いていても楽しいと透耶は思った。
できればもっとこういう話を聞きたいと思ってしまった。
聞けば話してくれるだろうから、透耶はここに収まった全ての写真の状況を聞いていこうと思ったのであった。