switch101-84 鼻緒
庭で元気にクロトと遊んでいた透耶が転んだ。
それも前のめりで。
鬼柳が気が付いた時は、もう地面につっぷしていた。
鬼柳は慌てて透耶の側に駆け寄った。
透耶はなかなか起き上がらない。
何処か怪我でもしたんだろうかと気になってしまった。
鬼柳が透耶の側にいくと、透耶はゆっくりと起き上がった。
「はあ、びっくりした」
「怪我してないか?」
「うん…大丈夫だけど」
「だけど?」
「これの鼻緒が切れた」
芝生に座った状態で、透耶は自分が吐いていたサンダルを鬼柳に見せた。
それは透耶が沖縄で気に入って購入してもらったもので、軽めのビーチサンダルだ。
その鼻緒が綺麗に切れていた。
「こりゃ駄目だな…」
鬼柳がそういうと透耶は目に見えてがっかりとした。
「どうした透耶?」
透耶は肩の力を落として呟いた。
「それ、気に入ってたのに。沖縄でしか買えないのに…」
相当気に入っていたらしく、この落胆ぶりは透耶には珍しい。
物にあまり執着がない透耶がいうのだから、余程ショックを受けてしまったようであった。
「じゃ、沖縄の知念にでも送ってもらえるようにしようか?」
鬼柳がそう透耶に伝えると、とたんに透耶の顔が明るくなった。
「ホント?!」
「ああ。すぐ送ってくれると思うぞ」
「よかったー」
透耶は同じサンダルが手に入ると解ると本当に喜んだ。
あれは履き易くて、歩き心地もいい。
数百円くらいしかしないんだけど、それでも透耶が気に入っているものだった。
高級なサンダルを好まず、安くても履き心地を優先するところなど、透耶らしいのである。
「ほら」
鬼柳は立ち上がって透耶を抱き上げた。
透耶は抵抗はせず、そのまま鬼柳の腕に抱かれて部屋に戻ったのであった。
数日後。
沖縄の知念からの贈り物が届いた。
透耶のビーチサンダルが3個。そして沖縄土産などがびっしりと入っていた。
「やった!」
透耶はさっそく取り出して、今まで履いていた靴を脱ぎ捨てた。
「知念さんに贈り物返ししなきゃね」
サンダルを履いてぴょんぴょんしている透耶を見て鬼柳は微笑んでいるだけであった。