switch101-47 ジャックナイフ

 初めて透耶を俺が住んでいる家に連れて行った。

 過去の事を話そうと思って、それには説明するモノが必要だったから自分の家に透耶を連れて行った。

 今まで進んで誰かを家に連れて来た事はなかった。でも透耶は連れて行かないといけない気がしたんだ。

 ボロマンション、それも事務所だった後を改造したモノだったし、周りは繁華街に近くて治安もよくないから、透耶は連れてきてはいけないと思った。
 でも一緒なら大丈夫だと思えた。

 まずおやっさんに鍵を返して貰う為に、おやっさんこと各務平治の部屋を訪ねた。

 俺が透耶を連れてきたことにおやっさんは驚いていた。
 誰も連れてきた事なかったからな。驚かれても仕方ない。

 だが説明するまでもなく、おやっさんは透耶が俺にとってどういう存在なのか解ってしまったようだ。

 ニヤニヤしてる顔を見れば解る。

 俺は透耶の事は説明しなかった。
 する必要はないと思ったからだ。

 透耶は自分で自己紹介をして、おやっさんを平治さんと呼んでいた。おやっさんは驚いてたけど、俺からすれば透耶がおやっさんに好印象を持った証拠だと思った。

 おやっさんの方も透耶とは話が会うみたいで、嬉しそうな顔をしていた。

 するとおやっさんが俺を呼び寄せた。
 なんだろうと思っていると、何だかやっかいな事が待っていた。

 前はよくあった事なんだけど。

「小僧が部屋の前にいる。透耶と会わせるのはよくない」
 おやっさんはそう言っていた。

 確かに、透耶を見せる訳にはいかなかった。

 なので俺は一人でそいつを追い払う事になってしまった。おやっさんの忠告も聞かないような危ない奴だから気をつけなきゃいけない。


 上の階に部屋があるから階段を上がって部屋の前を確かめた。すると小僧が一人立っていた。

 いつからそこにいるのか解らない。
 見た事も話した事もないだろう若い小僧だ。

「何やってる」
 俺がそう声をかけると、小僧はこっちを向いて、いきなり笑顔になった。

 気味が悪い。

「おかえりなさい。待ってたんだ」
 小僧はそう言った。

「お前、誰だ?」

 俺はそこから確かめようとしたんだけど駄目だ話を聞かない輩だと瞬時に判断出来た。

「どうして僕を覚えて無いの?」
 小僧はいきなり泣きそうな顔になった。

「知らない」
 俺はそう答えた。

 本当に知らなかったからだ。

 もともと人の顔やら名前やら覚えたく無かったら覚えないタチだからな。

 すると、小僧はナイフをポケットから出して俺に襲いかかって来たんだ。

「どうしてだよ!」
 そう叫ばれて俺も混乱した。

 はっきり言って見覚えも無いし、俺は透耶くらいの歳の奴に手を出したこともない。

 自慢じゃないが、襲ったのは透耶だけなんだ。

 だから、こんな事される覚えは無い。

 だが、どんなに説明した所で、こいつは聞かないんだろうなと解った。

 素早くナイフを取り上げて、腹を殴って気絶させた。
 そこまでは良かったがこれからどうすればいいのか解らなかった。

 こんな危険人物、放っておくに限るが、今は透耶がいる。
 放っておくわけにはいかず、おやっさんに相談する事にした。

 おやっさんは、俺が説得に失敗したのをすぐに見破った。
 あれだけ思い詰めた奴なんか、俺だって訳解らないのに説得出来ないに決まってる。

 透耶はキョトンとしていた。
 透耶には知られてはいけないのでおやっさんを呼び出してどうするか相談した。

 なのに…。

「へえ、恭の事刺そうとしたんだ」

 といつの間にか透耶が…。

 しかも怒ってる。
 笑って怒ってる。

 こういう透耶は恐い。
 何をするのか解らないから。

 おやっさんも透耶の変貌に驚いていた。
 それからは透耶が小僧を説得していた。

 おやっさんは悪魔の囁きだとか言ってたけど、俺には透耶が俺の事をちゃんと自分のモノだと言ってくれているだけにしか聴こえない。
 それがどれだけ嬉しかったか。

 おやっさんは透耶の事を恐ろしいとまで思ったらしい。

 透耶の何処が恐ろしいものか。
 どれだけ可愛いか解ってない。

 でも、透耶が怒っているとナイフで斬り付けるようなモノなのかもしれないと思った。