switch101-42 メモリーカード
 恭の記憶力は俺の事に関してはまさにコンピューター並み。
 メモリーカードでも入ってるんじゃないかって思う程、俺が言った言葉や行動、仕事の事とか色んな事が入っている。
 喧嘩したりしたら、一言一句間違えずに言い返すし。
 それを他で使えればいいのに。
 あ~でも、料理とかは見よう見まねで覚えたと言っていたし、一度作ったモノは本とかいらなくても大丈夫だし。
「透耶、そっちの棚にメモ帳入ってるからな」
 いきなりそう言われて俺は振り返った。
 恭が掃除機を持って居間へ入って来ていた。
 いつの間に…。
 それもどうしてメモ帳探してたの分ったんだろう?
 俺が不思議顔でいたからなのか、恭が掃除機を置いて近付いて来た。
「悪いな、掃除するのにちょっと退けといたんだ」
 恭は言って、棚からメモ帳を取ってくれた。
「ありがとう」
 俺が礼を言うと、すっと盗むように唇にキスしていく恭。
 んもう、何でそうなるの?  さっぱりだよ。
 朝の挨拶キスはしたのに。
「…いきなり、何?」
 俺が戸惑って聞くとニコリとして言われた。
「可愛かったからキスしたかったんだ」
「何それ?」
「だって、透耶と約束したぞ。いつでも何処でもキスするって」  
 解釈は違うけど、この間、恭が怪我した時の事を言っているのだ。  
 確かにキスくらいいくらでもするって言ったけど、そういう意味じゃなくって…。  
 とは通じないよね。  
 でも恭のメモリーカードは少し故障してると思う。  
 だって、記憶の仕方を間違ってるんだもん。