switch101-29 デルタ

 なんでかなあ?

 いつもこういう状況になっちゃうんだろう?

 というのも、エドワードさんに食事に誘われて、恭も一緒だからって出てきたんだけどさ。恭は早く家に帰りたいらしく、俺を見付けた瞬間、腕を掴んで帰ろうとするわけ。

 で、それを見たエドワードさんが、俺がせっかくきたんだから食事しようと言うんだよね。

 でも恭はさっさと断わって帰ろうとするんだけど、エドワードさんまで俺の腕を掴んで引っ張るんだよね。

 両方とも離す気はなくて、俺は痛くて仕方ない訳。

 それで痛いんだけどって言ったったら、恭はエドワードさんに腕を離せと怒鳴っているんだけど、エドワードさんも恭に腕を離してやれなどと言って譲らないんだよね。

 そしたら二人で口論になって、俺の腕は掴まれたままで捕まった宇宙人状態でその口論を聞いているんだ。

 口論はいつもの事なので気にしても仕方ないとは思うんだけどさ。腕離してくれないかな?
 
 レストランの入り口でこんな口論もはた迷惑な訳だし。
 とは言っても止まらないし。
 
 俺の入る隙間はないわけで…。

 最後には俺に同意を求めてくるエドワードさん。

「透耶、私と食事をしよう。こんな奴は勝手に帰って貰うとして」
 こんな事を言い出すエドワードさんだけど、それを恭が許す訳ないんだ。

「ふざけんな! 透耶は俺と帰るんだ」
 と言い出してる恭。

 どっちでもいいけど腕が痛いよ…。
 そろそろどうにかしないと。

「あの、腕痛いんだけど…」
 俺がぽつりと呟いたら、驚いたことに、恭もエドワードさんも両方が同時に腕を離してくれたんだ。

「悪い透耶」

「すまん、痛かったのか。大丈夫か?」

 エドワードさんは素直に謝りはしないけど、申し訳ないという顔をしていて、恭は腕を摩ってくれてる。

 こういう優しさは同じなのに。
 結構似た者だと思うけどなあと思ってしまう。

 でもね。

「お前が離さないから透耶が痛がったんだ」

「何を言う。お前こそそうだろう」
 とまあ、また口論が始まってしまう訳で。

「もういいから、恭、食事して帰ろうよ」

 エドワードさんにはお世話になってるし、SPの事でもやっぱりお世話になってるから、食事くらい付き合うならいいじゃないのかなあと思って、俺は妥協する事にした。

 本当は、こっちが奢ってあげないといけないんだろうけど、エドワードさんがそれを承知する訳ないってのも解ってしまってて。

 ここ、エドワードさんの経営するホテルのレストランなんだもんな…。

「ほら、透耶は聞き分けがいいぞ」

「透耶~」

 勝ち誇ったエドワードさんに嫌がる恭。

 恭には悪いけど、仕方ないよね。
 じゃないと、エドワードさん、家まで押し掛けそうなんだもん。

 さすがにそれだと恭が困ると思っての選択なんだけどな。

 俺が恭を見ると、恭は少し情けない顔をしてる。
 本当にエドワードさんと食事するのが嫌なんだと思ってしまった。

 そこまで嫌がらなくてもと思ってしまう。

 エドワードさんは喜んで俺の肩をさっと持って誘導すると、また恭が怒って俺を奪い返すようにする。

 今度はエドワードさんもすんなり。
 もう俺が決めてしまった事だから、恭は帰ろうとはしない。

 なんだか、食事する為の運動だったんじゃないかと思ってしまうよ。

 食事中も恭は一言も話さないで、俺がエドワードさんの相手をする事になってしまったけど。

 これはこれで楽しかったんだよね。