switch101-20 合わせ鏡
透耶が面白い話をしてくれた。
「鏡をね、合わせて。こう、対面させると合わせ鏡って言うんだけど、これやると自分の死に顔が13番目に映るって言われてる」
「他にも、夜中の二時、昔は丑三つ時って言って、丑の刻参りって聞いた事あるでしょ。わら人形を神社とかの樹に釘で打って呪いをするの。その時間が一番霊界に近いんだって。それで、その時刻にやると尚効果 的ってね」
透耶はそう言う話をよくしてくれる。
子供の頃の小さな噂から、嘘くさいゴシップやら。
何故か、日本の子供は、自分が怖くて堪らなくなる話を自分で作って、恐がって、噂にして、それがいつの間にか全国に知れ渡って、本当の話にしてしまう。
透耶は自分でも嘘くさいと笑う。
「大体さ、丑三つ時なのに、なんで死に顔が映るのが13番目なんだろうねえ? 昔からって言うけど、日本じゃ、4とか9とかが縁起悪いって言われてるだけなのに、西洋の13が出てくる時点で、これって現代で誰かが作ったって解るよね」
まあ、確かにそうだ。
他にも色んな話を聞いたが、この合わせ鏡は妙に面白かった。
アメリカでも、合わせ鏡はしてはいけないと言われている。
悪魔を呼ぶ儀式として用いられていたから、悪魔崇拝の話がよく出てくる。
ただ13番目に死に顔が映るというのは、聞いた事はない。
「やった事ある?」
俺がそう聞くと、透耶は「まさか」と笑っていた。
怖くてやれないのかと思っていたら。
「起きてられないんだ。大体、小学生が午前2時まで起きてられると思う? 十二時前には寝ちゃうんだよ。頑張ったって無理だ」
なんて真剣に言うから、俺は笑ってしまった。
確かに透耶は、余程の事がないと深夜は起きていない。
午前2時など、今でも難しいかもしれない。
「合わせ鏡でもさ、三面鏡ってバージョンもあるよ。あれは昼間に見た事あるけど、結局どれが13番目なんだか、よく解らなかった」
三面鏡でどうやって反射させるんだ、と思ったら、日本の三面鏡は蓋みたいに二面 が一面に重なって閉じるのがあるんだとか。
それを顔だけ挟んで閉じると、合わせられるわけだ。
まったく、奇妙な事を考えるものだ。
俺がそう言うと、透耶は苦笑する。
「日本人は基本的に怪談話が好きなんだよ。妙な迷信も多いしね」
だが、合わせ鏡をして、もし死に顔が見えたとしたら。
それでどうなるのだろうか?
怖いと思うだろうか?
それとも、納得するのだろうか?
俺は、そんなものには興味はない。
「ま、別に慌てて死に顔拝まなくてもいいのにな。自分では自分の死に顔なんて見ないもんだし」
俺がそう言うと、透耶がクスクスと笑い出した。
何かおかしな事でも言っただろうか?
俺がそう聞くと、透耶は違うと言った。
「慌てて死に顔拝まなくてもって、確かにそうだし。自分の死に顔なんて見ないんだなって納得しちゃったんだ。誰もそんな簡単な事に気が付かないんだね」
透耶はまだ笑ってる。
そんなに笑える事なのだろうか?
まあ、透耶が楽しいのなら、それでいいんだけどな。