switch101-7 毀れた弓

 お祖母様が、昔弓道をやっていた。
 俺は、それをやっている姿を見るのが好きで、よく忍び込んでは怒られた。

 立ち姿が美しくて、背筋が伸び、弓を引く姿。
 それは見愡れる程だった。

 でも、危ないからとか、手を傷つけるからとか、色々言われて、それを習う事は出来なかった。
 弓には触れなかったけど、正座と立ち姿を真似て、お祖母様の後ろでやっていた。
 
 ある日、光琉と一緒に道場に忍び込んで、お祖母様の弓を使って遊んでいた。
 二人で引っ張ってたら、弓が折れてしまった。

 さすがに怖くなって、弓を隠して、光琉と知らないふりをした。

 でも、お祖母様は、弓に気が付かなかったらしく、違う弓を新しく買い替えていた。

 よくよく考えれば、気が付かないわけない。
 お祖母様は知ってたはずだ。
 なのに、何も言わなかったのは、何故なのかは解らない。
 お祖母様は、怒る時は怒る人だから、悪戯して壊したのなら、みっちりと怒られているはずなのに、未だに何も言われない。

 お祖父様が亡くなった時、眠れなくて光琉と道場へ行ってみた。

「透耶、あの弓どうなったんだろう?」
「うーん、今思うとバレてない訳ないよね?」

「俺も怒られると思ってた。未だにバレてないんじゃないかって思うくらいだ」
「でも、何処に隠したっけ?」

 二人で昔を思い出して、弓の隠し場所を探した。
 夜明け間近の道場で、怪しい二人だ。

「あ、あった…マジ?」
 光琉が思い出した場所は、道場の板が少し外れている所で、その板を少しだけ寄せると中にあの壊れた弓が入っていた。

「うわ…マジでバレてないし…」
「そりゃ、原物ないと怒れないでしょ?」

「いいや、このまま隠しておこう」
 光琉が言って、板を元に戻した。
「何で?」

「今更、お祖母様の説教聞きたいか?」
 そう言われて、俺は首を横に振った。

「いやだ」
「でしょ? だからお祖母様が見つけるまで、これはここへ隠しておく」
 光琉が言って笑った。
 何が可笑しいのか、クククッ笑っている。

「何?」
「あのなあ、これってお祖母様との勝負な気がしない?」
「勝負って」

「お祖母様が亡くなるまでに、これを見付けて、俺達を説教出来るのか、それとも亡くなる寸前に俺達がバラしてやるか」

「なんつー勝負だよ。縁起でもない」
 俺は呆れた。
 だけど、光琉は楽しそうに笑ってる。

「几帳面なお祖母様の事だ。未だに、この弓が何処へ行ったのか気になっているはずだ。壊しただろうってのは勘付かれているけど、俺達の隠し場所までは見つかってない。一生賭けた宝探しって訳」

「下らないなあ」
 俺はそう言ったけど笑ってしまった。

 だから、今でも壊れた弓の在り処は、俺と光琉しか知らない。
 お祖母様が探し出せるのかは、謎。

 宝探しは、10年経っても、未だ続行中。