Hello.Hello-8
「俺も好きだよ。アリス」
そう言って抱きしめてくれた伸哉の手はとても熱かった。熱がどんどん伝わってきてそれが自分の体温と混ざるのだと思うと、更にアリスの体温が上がる。
「少し無茶をしていいか?」
その言葉にアリスは少し顔を赤らめる。伸哉がこれから何をしようとしているのかは、更織の小説の展開から予想は出来ていたからだ。
「……期待してる?」
少し笑ったような伸哉の声にアリスは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「ききき、期待してないです! そんなこと言わないでください!」
パッと顔を上げて伸哉を見たのだけれど、伸哉の熱い目が凄くてすぐに視線をそらしてしまった。期待をしてるのは本当であるし、伸哉もその気になっている。
「なあ、一人暮らししてる場所が隣町だろ? だったら、ずっとこっちで暮らさないか? 俺はアリスが居てくれると落ち着いて仕事が出来るし、心が穏やかになる」
伸哉は本当に口説きにかかっていた。彼が望んだ幸せは掴んだ先から逃げていく。だから何かを求めてはいけないと思う心もある。けれど、これだけは譲れないというものだって中にはあった。
昔誰かを必要としたことだってある。自分を呪っていたから、幸せには出来ないと勝手に諦めていた。でも今度は違う、本当に欲しいのだ。アリスという存在が。
今求めてしまってもいいだろうか。
今心から祈ってもいいだろうか。
どうかどうか、アリスが自分をずっと好きでいてくれるようにと。
「うん」
心の声に重なるように聞こえたのは、さっきの一緒に住む話だ。だけど、それは偶然ではあったが完全に重なって聞こえて、祈ったことが叶ったのだと思えた。
「ん……あ」
キスをするただそれだけがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。
アリスの声とシーツが擦れる音が聞こえてきて、性欲が沸いてくるなんてどうしたものかと伸哉は思ったが、今夜は止められそうもない。求めた相手から求められたなら、ここで逃すべきでないと頭の中でもう一人の自分が言っている。
とにかく目の前の相手を食らうことだけを考えようとする。
服を脱がして、下も全部取ってしまうとアリスは恥ずかしそうにしていたが、そのうちはい回る手に方に意識が向いてしまったのか、息が荒くなっている。
感じてくれている、そう思うと余計に嬉しくなるのは初めてのことだ。今までそんな気持ちになったことはない。
肌を滑らせた手を追って唇が這うとアリスの体が跳ね上がった。
きっと誰もこういう風にしたことはないはずだ。
記憶を無くす前のアリスのことなんて今は考えられない。
「あ、あ、ん……」
唇を噛むようにしたので、そこにキスしてやるとゆっくりと唇を開いてくれた。
受け入れてくれている。それだけが嬉しい。
「んあ……は、ああ、そんなところまで?」
ゆっくりと足を開いてアリス自身をしごいてやって、内ももを噛んでやるとびっくりしたらしい。けれど、マニュアルがよかったのか悪かったのか。あの更織の本のおかげでそういうことをやるのは普通だと思っているらしい。
しかも読まされた本がハードエロ。こんなのは生やさしいのだと分ってしまうが、それでも体がびっくりしてしまうのだろう。
「そう、これも普通するよ」
そう言ってアリス自身を銜えて口でしごく。
「やああああ!!! ああ!!」
跳ね上がる足を押さえて舐めてやると、どんどん息が荒くなり、体が震えている。怖くて震えているのではなく、喜んで震えているのだ。
「ああ――――――!!」
舐めながら指を穴に入れ出し入れし出すと、さすがに溜まらなかったのか、アリスは射精した。一回はイかせてしまうだろうと思ったが意外に耐えた方かもしれない。
「はあ、はあ、ん、あ、ああ……」
達した後は少し力がゆるんでいるので、穴を広げることに集中する。
乳首を抓ったり摘んだりして、快楽を誘うと、またアリス自身が復活した。
「ああ! やああ!」
「まただね。いっぱい感じて」
「あん、ああんっ」
「いいよ、凄く。息吐いて、うんそう」
ゆっくりと伸哉自身をアリスの穴に入れていく。なかなか難しいものだが、先が入ってしまえばあとはアリス自身をしごいてするっと入ってしまう。
間に合わせではあったが、軟膏が滑りをなめらかにしてくれる。
「あ、う」
入るとき苦しそうにしていたアリスの顔をのぞき込んで伸哉は顔中にキスをした。
「大丈夫?」
「あ、うん……思ったよりは痛くなくて」
アリスが焦点の合わない目を向けていて、思わず伸哉はぞくりとした。
ゆっくりと焦点があってくると、アリスの顔が赤くなった。
「恥ずかしい……」
「ん、大丈夫、全部可愛い」
伸哉はそう言って動き出した。
「はっ……ん、はっ……ああ」
こすれる感じが気持ちいいのだと教えて上げられるのが嬉しい。
これは怖くない、しているのは五十嵐伸哉だと教えてやると、アリスは快楽を追うことに躊躇はなくなるのか、一緒になって盛り上がってくれる。
「あ……は……んんん……ああ」
こっちも思ったより早く終わりそうだ。そう思った時、アリスもイキそうになっている。これもう一緒にいくということを目指した方がいいのだろう。
「はっ……アリス、一緒に」
「ん、伸哉……さん」
一緒にいこうと言うとアリスがギュッと伸哉に抱きついてきた。
背中に回した手が少し伸哉の背中を引っ掻いたがそんな痛みは感じなかった。
とにかく気持ちいいことに集中することに必死で傷があることに気づくのは、後で風呂に入った時だったくらいだ。
「ク……っ」
「ああぁぁ――――――!!!」
伸哉とアリスは同時に達した。
こういうのは難しいのだと聞いていたが、意外に簡単にできてしまった。
終わった後は、案の定、アリスがすとんと寝てしまった。
さすがに疲れるだろうとは思ったが、よくよく考えたら今日はいろんな作業もしたので、これくらいでも寝てしまうのは仕方ない。
後始末を全部して風呂はさすがに二階から降りるのに階段で落としそうで怖いのでやめて拭いて着替えをさせた。
アリスのパジャマは彼が好きな緑色のものだ。安物なのだが、デザインが気に入っていたらしく、彼はこれを好んで着ていた。
元々緑系や青系が好きなのだろう、服にはそんな痕跡が見られる。白い服を買ったのは伸哉の好みで買ったものであるが、よく似合っている。
昼間も思ったが、彼はとても綺麗である。
誰に似ているのかは知らないが、こんな風にアリスを産んでくれた人に伸哉は感謝している。アリスをこの世に産み落としてくれたことに神に感謝したいくらいだ。
自分の中にこれほどの情熱があるとは思ってなかったし、こんなに誰かを欲しいと思ったこともなかった。半ば諦めていたのもあったが、その中ででもアリスという存在は別格だった。
何もかもが好みで、何もかもがよかった。どうやら体の相性までも良かったらしい。
記憶のないアリスが記憶を取り戻して自分を忘れたら、その時自分はどうするのだろうか。アリスは本当に覚えていてくれるのだろうか。
噂に聞くように、その間のことは全部忘れてしまうのか。
それはもう賭みたいなようなものだ。
忘れてしまったら、また伸哉は大事なものを失うことになる。
でも、アリスが居なくなるわけじゃないのだ。アリスは死んだりするわけじゃない。
伸哉はアリスの隣に滑り込み、抱きしめていた。
この存在だけは何があっても守りたい。
するとアリスも伸哉の存在を感じたのか、少し寝ぼけたような目を一度開けて、にっこりとすると伸哉に抱きついて眠ってしまった。
こういうのを愛おしいと言うのだろうか。
本当に大事にしたい、そんな存在に出逢えた。それが嬉しくて仕方なかった。